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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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511 番犬の器

10月11日1:10頃、「510 陸と海の行き先は」の内容について
エルドレーネ女王は一旦テオドール邸に寄ってから城に戻るということで修正しました。
話の大きな流れには変化はありません。
 ――というわけで、エルドレーネ女王達を家まで案内する。

「お帰りなさいませ、旦那様」
「ご無事で何よりです」
「お帰りなさい、テオドール」

 セシリアとミハエラ、それにフローリアとハーベスタが玄関前で俺の帰りを待っていたらしい。

「ただいま」

 と、返してからエルドレーネ女王達と、セシリア達を互いに紹介する。エルドレーネ女王達は……のっけから木の精霊であるとか浮遊するノーブルリーフの出迎えに目を丸くしている様子だ。

「初めまして」
「よろしくお願いします」

 互いの自己紹介が終わったところで、セシリア達に声をかけた。

「留守の間に変わったことは?」
「こちらはいつも通りでした」
「稲苗も順調よ」

 フローリアが浮遊するハーベスタの頭を軽く撫でる。

「ん。留守番ありがとう」
「勿体ないお言葉です」

 そのまま家の中に通す。玄関ホールに入ったところで、エルドレーネ女王達は周囲を見回して感心したような表情になった。

「ふうむ。聞いていた通り、魔法建築ではあるのだろうが……。うむ。興味深い」
「あの灯りは綺麗ですね」
「本当、光珊瑚とはまた違った美しさですね」

 海中の建築様式とでは色々違いがあるのだろう。玄関ホールの天井から下がるシャンデリアを見て、3人は楽しそうにしている。
 シャンデリアといっても蝋燭を立てるためのものではなく、魔石を組み込んで光らせる類の、れっきとした魔道具である。
 魔力を補充した魔石をセットしてやれば光るので、形状は複雑だが案外管理に手間はかからない。硝子の粒を周囲に飾り付けて光を拡散させているので割合豪華に見えるが、実際は珪砂から合成しているので元手はほとんど掛かっていないというわけだ。

 その他、細かな装飾などを見ながら家の中を少し案内しつつ、遊戯室に通す。

「お帰りなさい、テオ」
「ただいま」

 グレイス達も遊戯室で待っていたらしい。シーラ達も既に帰って来ているようだな。

「おお……。遊戯室か。月光島にもあったが、こういう部屋があるというのは賑やかで良いな」

 部屋の中の様子を見てエルドレーネ女王は小さく頷く。
 休憩中の使用人達や、カーバンクル達にもエルドレーネ女王達を紹介しておく。

「よろしく頼むぞ」
「皆様は、こちらにご逗留なさるのですか?」

 セシリアが尋ねる。

「いや。妾は王城へ戻る。迷宮入口に用があったので案内してもらったのだが、そのままテオドール殿の屋敷も一緒に案内してもらったというわけでな。馬車を待たせている」
「お帰りの際は言って頂ければ、カドケウスを護衛につけますので」
「それは助かる。またいずれ遊びに来ても良いだろうか?」
「勿論です。いつでもどうぞ」

 そう答えると、エルドレーネ女王は相好を崩すのであった。



 エルドレーネ女王は、それから少ししてカドケウスを連れて王城へと戻っていった。
 使用人にマーメイドやセイレーン達がいることに気付いたようだが、過去にクラウディアが迷宮の奥に村を作って保護した者達の末裔と伝えるとかなり驚いていた様子であった。
 まあ……グランティオス建国以前に枝分かれしたということになるからな。
 歴史的経緯はさておき、使用人達はロヴィーサやマリオンとも仲良くなっていたようだが。

 夕食の席はタームウィルズ特有の、迷宮産の食材が並ぶ食卓となった。ウィスパーマッシュのソテーなどは相変わらず良い風味だ。食べ応えもあって良い。

「では、明日は朝から工房へお出かけになるのですね」
「ああ。ケルベロスを待たせているところがあるし」

 食事をしながらその中で明日の予定についての話題が出る。
 セシリアに説明すると彼女は静かに頷いた。



 ――そして明くる日。朝食を済ませて、予定通りに工房へ出かけた。
 体調は万全といったところだ。魔法制御にもそれなりの集中が必要と予想されるので、気合を入れていきたい。

「おはよう、テオ君。無事に帰ってきたようで何よりだ」
「おはよう、アル。まあ、この通り」

 工房には、朝早くからアルフレッドがやって来ていた。笑みを浮かべて挨拶してきたので、こちらも挨拶を返す。

「ああ。これ、お土産。島で作ったんだけどね」

 と、アルフレッドにもチェス一式を渡す。
 アルフレッドは駒を手に取ったり、紙に書かれたルールなどに目を通して感心したように頷いた。

「んー、駒を動かして取り合う遊びか。これは面白そうだね。駒の装飾が凝っているから、商会に持っていったらドワーフ達も気合が入るような気がする」
「廉価版なら、あまり凝らなくても良い気がするけどね」
「なるほど。普及させるなら、それもありか」

 アルフレッドは俺の言葉に頷いた。
 まあ、チェスの話は後でミリアムにも伝えるとして、今日の用事を進めていくとしよう。

「こちらです、先生」

 シャルロッテの案内で通された大部屋には中央に魔法陣が描かれており、端に資材の山が積んであるという状態であった。

「シルヴァトリアの黒ゴーレムを応用するって言ってたけど」

 と、アルフレッドが尋ねてくる。

「うん。骨格はミスリルを使う。それを覆う形で筋肉を作るわけだけど……そこに黒ゴーレムに使われていた素材を応用していこうと思ってる」

 シルヴァトリアで戦った2体のゴーレム達の内、白いほうに使われていた魔力変換装甲は、現在シリウス号の船体として使われている。
 黒いほうのゴーレムの特性はと言えば――常識外れの弾性や収縮性であったが……あれを使って、筋肉組織と同じようなものを作っていこうというわけだ。
 糸状にして束ね、組み合わせることで身体を動かせるようにしていく、というわけである。完成すれば、相当な膂力と柔軟性のある体になるだろう。
 黒ゴーレムはグレイスが魔力を吸収することで突破したが、同じ方法で攻略できないように体表を別の素材で覆い、それから装甲を装着させることで体表素材の防御も固めようと考えている。

「あの黒ゴーレムは、かなり大きな塊でしたね」

 グレイスが黒ゴーレムを思い返しながら言う。

「そうだな。でも、今度はシリウス号の時とは逆に、細かな部品の集合体っていうことになるのかな。筋肉って言うのは、伸縮することでその機能を果たしているから……黒ゴーレムのあの特性は、筋肉として使うなら割とぴったりなんだよね」
「まあ……普通はそんな細やかな合成はできんのじゃがな」

 ジークムント老が目を閉じて遠くを見るような表情を浮かべた。
 後は……参考になるものを見ながら、合成していくということになるわけだが。

「ラヴィーネ、ちょっと来てくれるかな?」

 と、ラヴィーネに声を掛ける。ラヴィーネは頷いて俺の隣まで来る。その身体に触れて循環錬気で骨格と筋肉の流れ、腱の接合部などをつぶさに見て行く。
 ラヴィーネやアルファを参考にケルベロスの器を作っていくというわけだ。
 この器に魔力を充足させ、制御して動かすには――やはり、常識外れの魔石が必要になる。魂を宿しているケルベロスの魔石でもなければ動力足り得ないだろう。

「んー……。まあ、まずは……ミスリルの骨格からかな」

 ケルベロスの魔石は胸骨の奥に収納されることになるわけだ。そのあたりをまず、立体模型や普通のゴーレムとして作って、最適化してからミスリルの骨格として落とし込んでいくわけだ。

「首回りはどうするのかしら?」

 ローズマリーが尋ねてくる。ああ。ケルベロスの頭部は3つだからな。そのあたりも再現していかなければならない。

「学舎から借りて来た本や、迷宮から上がってきた多頭の魔物の身体を参考にさせてもらう。後はカドケウスを変形させたり、骨格だけのゴーレムを作って、最適な形になるよう実験していく」
「なるほどね」

 ローズマリーは静かに頷いた。
 学舎の本には、多頭の魔物の骨格などを挿絵入りで示した物もあったりして……それらは充分に参考資料として使えるだろう。

「そこまでやって、あくまでゴーレムというのが凄いですね。ホムンクルスの技術としても通用してしまいそうな気がしますが……」

 フォルセトが顎に手をやって思案しているような様子を見せる。
 ホムンクルスが生命体の培養のようなものだとすると、こちらはサイボーグの手足を作る感じだろうか。

「音の魔石や、炎の魔石も用意したけれど。これも組み込むのかしら?」

 ヴァレンティナが首を傾げる。

「ああ。それはケルベロスが使っていた技の再現用ですね」

 咆哮共鳴弾と、炎の熱線と。それらを放てるように――或いは威力を増強できるように、補助的な役割として組み込んでいく。

「……というところなのだけれど。どうかしらね?」

 クラウディアが尋ねると、彼女の隣に浮かんでいる魔石がその言葉に反応するようにゆっくりと明滅するのであった。
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