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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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505 デボニス大公の帰還

 シーラがドラムセットを持ち出してくると、セイレーン達の注目が集まった。
 元々が気楽な席ということもあって、イルムヒルトとシーラ、ユスティア、ドミニク、シリルの5人で、普段劇場で公演しているものと同じ内容をグランティオスの民の前で披露するとかなり好評であったようだ。
 俺も、魔道具代わりとして舞台演出の手伝いをさせてもらった。光や泡の演出を行い、彼女達の演奏が終わると大きな拍手が起こった。

「マリオンが言っていたのは、これ?」
「はい。タームウィルズの劇場で見たのと同じです。テオドール様の魔法を元にしていたんですね」

 公爵領の宴では、水守りの魔法を演出としても用いていたからな。やはり、マリオン経由での話がヒントになっていたようで。

「入り江と洋館の舞台にも同じ物を設置するつもりですよ」
「それは……楽しみです」

 セイレーン達は俺の言葉に沸いている様子である。

「シーラさんの楽器も、素材を変えれば同じようなものが作れるかも知れませんね」
「大きさの違う筒に皮を張る感じですよね」
「帰ったら幾つかの素材で試してみましょう」

 と、ドラムセットの話などでも盛り上がっている様子だ。素材の適性は実験してみないと分からないところはあるが……実用化すれば水中用ドラムセット、ということになるのだろうか。
「あの打楽器は良いな。我等でも扱えそうだ」

 と、ドラムセットに対しては半魚人達も若干の興味を示していたりする。うん。確かに似合いそうな気もするが。

「実験結果をこちらにも教えて頂けると助かります。迷宮にも色々水に強そうな素材がありますので必要なら開発に協力します」
「ありがとうございます」

 俺の言葉にマリオン達が頭を下げる。

「そう言えば、クラウディア様が色々歌を教えてくれたという話ですが」

 と、話題が少し変わる。
 セイレーン達はイルムヒルトやユスティア達から聞いたのかも知れない。クラウディアに視線が集まると、クラウディアは少し気恥ずかしそうに咳払いを1つしてから頷いた。

「そうね。私の知っている曲も、元はと言えばラミアやセイレーン達に教わったものもあるけれど」

 迷宮村の住人達の伝えて来た曲だな。

「クラウディアさまのお歌、ききたいなあ」
「うん」

 と、人魚の子供達にせがまれて、クラウディアは目を細めて頷く。

「そう? 貴女達に比べると、大したことはないのだけれど、少しぐらいなら」
「それでしたら……私のリュートを使って下さい」

 イルムヒルトがクラウディアに自分の使っていたリュートを渡すと、クラウディアはそれを受け取ると、一瞬間を置いてから、目を閉じて音色を奏で、歌声を響かせる。
 クラウディアの奏でる音楽は――何というか穏やかなものだったり、楽しい雰囲気の曲が多い気がする。子守歌であるとか収穫の喜びを歌ったものであるとか。クラウディアは謙遜していたが……歌声も澄んでいて、聴いていて心地良いものだ。
 何曲か歌って、クラウディアはリュートをイルムヒルトに返す。周囲から拍手が起こったが、クラウディアは少し照れている様子だ。
 宴の夜はそうして、和やかな雰囲気の中でゆっくりと過ぎていくのだった。



 さて。その日の夜は、みんな島に宿泊する、ということになった。
 入り江の設備と洋館の客室に一泊していくというわけだ。寝具に関しては一応それぞれ持参してきているらしい。人化の術を使える者は洋館とツリーハウスへ。そうでない者は入り江に泊まる形だ。入り江側の宿泊設備には、連絡と警備役としてカドケウスに待機してもらっておくとしよう。

 洋館側に泊まる人化の術を使える面子としては……マーメイドとセイレーンが多いな、やはり。

「真水は割と自由に使えますので、必要でしたらどうぞ。大浴場もお湯が使えますが魔道具を動かす魔力が必要になります」
「分かりました。ありがとうございます」

 ロヴィーサが頷く。宿泊に当たって、各種設備について説明をしておく。ツリーハウス側にも水は通っているが、風呂用の魔道具が無い。必要であるなら洋館側の風呂に入ってもらえばいいだろう。

「本館横の舞台についてもとりあえず完成しています。普通に歌うだけなら問題ありませんよ」
「ありがとうございます。今日は流石に遅いので、明日少し日が高くなったら覗かせて下さい」

 と、セイレーンの族長が笑みを浮かべた。うん。セイレーン達は割合普段の歌の練習やらについては周囲に配慮をしてくれているようだからな。そのあたりは心配しなくても大丈夫なようだ。



 翌日――。
 のんびりとした時間に起きてから、洋館の屋上のテラスで少し遅めの朝食を取る。グランティオスから持ってきてくれた食材の余りがまだあるので、中々豪勢な朝食になった。
 眺めも――ここから海が見えるので、悪くない。その日も良く晴れて、青い海原が実に綺麗だった。

「いやはや。ここ数日はすっかり楽しませてもらいました。これで心置きなく領地に帰れるというものです」

 と、朝食が一段落したところでデボニス大公が言った。

「あまり僕から歓待したという印象はないのが申し訳ないのですが」
「何の。魔法建築は聞きしに勝るというところで、十分に大使殿には楽しませてもらっておりますよ。しかし、あまり長く領地を空けておくわけにも参りません」

 島の改造を見たら帰る、という話ではあったか。
 デボニス大公としては公爵領の人々からも好印象を受けたようだし、得る物の多い旅だったのかも知れない。

「分かりました。では、準備ができましたら声を掛けて頂ければ、領地へお送りします」

 そう言うと、デボニス大公は相好を崩して頷いた。
 転移魔法で送っていくと、公爵領のどこかの月神殿か、グランティオスの石碑に転移して戻って来るということになるだろうか。
 シリウス号で迎えに来て貰うか、或いはリンドブルムを一緒に連れて行くか。それほど手間ではないが。
 普段そこまでこの島に人がいるわけじゃないからな。警備の面でも石碑をこの島に設置するというのは少し考えてしまう部分があるが。んー……。

「えっと。シリウス号を転移の拠点にするっていうのはできる?」

 クラウディアに尋ねると、少し目を丸くしたが、思案してから頷いた。

「そう、ね。アルファが元々は迷宮のガーディアンで、精霊に近いものであることを考えれば可能だわ。船を飛び地と考えれば、迷宮の区画――或いは土地を司る精霊のアルファがいて、その領地を治める領主のテオドールがいると見立てられるわ。契約魔法を結んで条件を整えてやれば、私にとっては迷宮の一部に転移するのと変わらないものね」

 ふむ。それならシリウス号の利便性も更に増すかな。帰りはシリウス号に直接戻ってくればいいというわけだ。



「では、今度は私達がそちらにお伺いします」
「おお。それは楽しみですな」
「僕達も、その時はご一緒します」

 オスカーとヴァネッサ、夫人とレスリーが一礼すると、デボニス大公は穏やかな笑みを浮かべて応じる。
 デボニス大公はドリスコル公爵一家への挨拶を終えると、エルドレーネ女王やステファニア姫達にも、それぞれ挨拶をして回る。

「旦那様。帰り支度が整いました」

 デボニス大公家の使用人達も、諸々の確認を終えたようだ。デボニス大公は頷くと、最後にマルレーンに別れの挨拶をして、それから俺達に向き直った。

「お手数をおかけします」
「分かりました。では、参りましょう」

 クラウディアを見て頷く。
 デボニス大公は見送りの面々に静かに一礼する。
 そして転移魔法の輝きに包まれて――光が収まると、そこはバルトウィッスルの月神殿であった。島の空気とはまた違う、南方の内陸部特有の暖かさがある。

「おお……」

 と、使用人達が目を丸くして周囲を見回す。

「凄いものですな、転移魔法というのは」
「条件を整えないと魔力をかなり消耗してしまうところはありますが。ともあれ、城までお送りします」
「ありがとうございます」

 歩いて送っていくと言うのも何なので、クリエイトゴーレムを用いて、ゴーレムの馬と馬車を作り出す。
 タームウィルズだと普通に馬車を持っていたりするし、空も飛べるしであまり出番もないが。

「これはまた……馬車を作り出すとは。実に便利なものですな」
「即席ゴーレムなので一時的なものではありますが」
「いやいや。土の馬というのも面白いものです」

 デボニス大公は楽しそうに。使用人達は少しおっかなびっくりといった様子で馬車に乗り込み、バルトウィッスルの城に向かって進む。
 とりあえずは御者役を務めさせてもらおう。御者席にクラウディアと共に座って、道を行く。

「これは異界大使殿」

 城門に近付くと、兵士が俺の顔を見て驚いたような表情で敬礼する。どうやら、俺の顔を覚えていてくれたらしい。

「こんにちは。今日はデボニス大公のお見送りでお城まで同道させて頂きました」
「そ、そうでしたか。お帰りなさいませ。お出迎えが遅れて申し訳ありません」

 馬車の小窓からデボニス大公も顔を見せると、兵士達は恐縮した様子で頭を下げる。

「いや。正門を通ってきたわけではないのでな。お前達に落ち度はないから、気にする必要はない」

 そう言って、デボニス大公は首を横に振った。
 兵士達は少し安堵した様子だが、すぐに留守を預かっている大公家の後嗣であるフィリップのところへ連絡に走っていった。
 そして、馬車ごと城の中に通されると、フィリップが出迎えにやってくる。

「おお。お帰りなさいませ。大使殿、クラウディア様、ご無沙汰しております」

 フィリップは顔を合わせると、相好を崩して一礼した。フィリップは転移魔法絡みのことは知っているからな。驚きより歓待の気持ちの方が強いようで、戸惑っているような様子もない。

「ご無沙汰しております、フィリップ様」

 こちらもフィリップへの挨拶を返す。

「此度の西方への旅。実に得る物の多い旅であった」

 積もる話は色々あるのだろうが、大公はフィリップにまず西の旅で得られた物についての話をすることにしたようだ。

「それは……喜ばしいことです。タームウィルズでの和解については耳にしておりますよ」
「うむ。公爵家との友好への道筋はついた。これからの信頼は、お前が築いていくのだ」
「慎んでお受けします。父上のご英断を引き継ぎ、両家の関係が末永く良好なものとなるように不断の努力して参りましょう」

 フィリップは膝を折り、デボニス大公に跪く格好で言った。
 信頼、か。そうだな。デボニス大公はすぐに引退というわけでもないのだろうが、今後はフィリップが公爵家と付き合っていくわけだし。道筋をデボニス大公が付けて、フィリップが信頼を確固たるものにしていくというのは、確かにそうなのだろう。
 公爵家側を見てもオスカーもしっかりしているし、この分なら次代も安泰ではあるかな。
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