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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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503 人魚達の切り札

 噴水の真ん中に柱を立て、それに寄りかかるようにして穏やかに微笑むマーメイドを作る。柱を挟んで、竪琴を奏でるセイレーンと、槍を立てかけて休息する半魚人の戦士。
 技法的には学舎で借りた彫像関係の本であるとか、慈母像に使われていた表現方法を参考にしたものなので特に目新しいところはない。
 技法にしたところで、自分の手で掘る技術があるから価値があるのだろうし。なので芸術的にどうかとか、表現力はどうかと言われると、やはり微妙なところだろうとは思うのだ。と、彫像などについては前に公爵や大公には話をしたような気がする。

「やはり良い物は良いですな。確かに、魔法で作り出す彫像は彫刻家の持つ技術とは違うのかも知れません。しかし、魔法建築でこのように継ぎ目のない彫像を生み出すというのは、卓越した魔法の実力があってこそですから」
「私も公爵と同意見ですな。大使殿は技法についてもきちんと学んでおいでだし、まるで生きているかのような写実さを持つというのは、やはりそれだけでも価値のあるものでしょう」

 と、公爵と大公は、その話を踏まえてか、出来上がった彫像を見てそんなふうに品評していた。

「私としては……他ならないテオドール様が、こう言った平穏を感じさせる像を作って下さったということに価値があると思います」
「うむ。戦士が休息しているというのは、逆に平穏を感じさせて実に良い」

 ロヴィーサの言葉にエルドレーネ女王が頷いた。
 うん……。作った物を目の前で評価されると些か気恥ずかしいので、作業に戻ろう。

 本館の隣に作ったコンサートホールは、劇場というよりはディナーショーの会場的なイメージで作っている。
 舞台があり、それを増幅する壁や天井の形状ではあるが、客席は広々とさせて、そこにテーブルなどを置いて舞台の歌に耳を傾けられるような形だ。
 より舞台と客席が近くに感じられる作りだろう。客席のテーブルなどを片付ければダンスホールとしても利用できる。
 入り江の広場と、本館のコンサートホールに関しては、舞台演出の魔道具を組み込める余地も残している。これについてはまたいずれ設置に来ればいいだろう。とりあえずセイレーン達が思う存分歌えて、それを聞くための環境が整っていれば良い。

 洋館周りが完成したところで、港を作るために島の南側へ移動する。港と釣り場については地形を改造するだけなので割と手っ取り早い。
 南側は東側同様に岩場になっているので平らに(なら)し、海に迫り出すように桟橋を伸ばしてやる。海底は座礁などが起きないよう船が入る場所は削り……削った分のロックゴーレム達を、建材に用いて防波堤であるとか、港に運ばれてくる物資を保管できるような倉庫を作る。

「ふむ。割合広々としておりますな。宿屋や交易所などを置いても良いのかも知れません」

 公爵が港を見回して言う。

「それも……作りますか?」
「希望する者に来て貰うという形のほうが良いかも知れませんな。商人達に話を通せば、ここに店を構えたがる者もいると思いますので」
「分かりました。では、そちらの話についてはお任せします」



 更に――南側には岸壁と呼んで良いような急斜面があるので、ここも利用させてもらおう。斜面が崩れないように角度を若干緩やかにして構造強化で補強。一気に上まで登れるような階段と、高所に広場と手摺を作る。

「これは……津波対策というわけですね」
「そうですね。港は人が集まる場所なので」

 オスカーの言葉に頷く。このあたりは流石にドリスコル公爵家の後嗣だな。
 港の防災というところにも意識が向いているらしく、高台に階段を繋げた意味が分かっているらしかった。

 津波に関してはなるべく短時間に高所に逃げるのが鉄則なので、階段を登ればすぐに高台の広場へ避難できる、というわけだ。
 高台の広場は予定した通りのものだ。よって、既に道が敷かれている。島一番の高所へと、余ったロックゴーレム達を引き連れていき――洋館を立てた時と同じように土地を補強改造してから灯台を形成していく。

 身体を宙に浮かせ、両手を横に広げてマジックサークルを展開する。足元に集まっていたゴーレム達が融合して変形していく。灯台中心部に支柱。灯台の外壁と螺旋階段が下から伸びるように形成されていく。灯台の形成に合わせて俺も浮上すれば、螺旋階段を登ってゴーレム達が付いてくる。
 同時にバロールを動かして、出来上がったところから構造強化で補強していこう。

「セラフィナ、どうかな?」
「うん。大丈夫みたい」

 よし。後は……。最上階手前に職員が待機できるような小部屋を作り、その上は全方位を見渡せる東屋のような構造物を形成、中央に篝火を置く台を設置すれば完成だ。炎を焚くだけでも灯台の役割は果たすのだろうが、魔道具を設置してもいいだろう。
 望遠鏡の魔道具も実用化は出来ているが……あれをここに設置するというのは些かやり過ぎか。現時点では軍事的に利用価値の高いものだからな。

 灯台に保存食や毛布を貯蓄しておけば……それはそれで、有事の際に便利な気もするな。
 灯台が出来上がったところで、下からみんなが上がって来る。周囲を見渡してシオン達が目を輝かせた。

「遠くまで見えて、良い眺めですね」
「このあたりの海ってすごく綺麗だもんね」
「……後で絵にするわ」

 と、手摺から身を乗り出し、景色を見渡して楽しそうな様子だ。フォルセトが3人を見て微笑みを浮かべる。
 確かに。陽光を受けた海が全方位に見えるというのは中々の見物である。港と灯台も完成。

「さて……。後は西側に釣り場を形成しようと思います」
「期待してる」

 案の定というか、釣り場という言葉に反応したのはシーラであった。シーラに苦笑を返してから西に移動し、岩場から伸ばすように、突堤となる足場を作る。
 突堤は波を被らない程度には高さがある。俺達は空中戦装備があるので必要ないが、転落した場合のことを考え、壁面にある程度の間隔で梯子代わりに使える溝を掘っておくのが良さそうだ。ふむ……。小舟から陸に上がる際にも使えるかな。

 ポイントを変えられるように、幾つか同じような足場を作っておくか。後は急な雨が降って来た時などのために石作りの小屋を作る。避難用に斜面を利用しての階段と、そこから続く高台の広場を作れば……釣り場も完成だ。

「こんなところでどうかな?」
「ん。最高。でも、テオドールの作業が全部終わるまでは釣りは我慢する」

 と、シーラは出来上がった釣り場を見て言った。まあ、俺としては気にしなくてもいいのだが。

 ともあれ、これで一通りの設備が出来上がった。真水を作る魔道具は灯台の近くに設置するのが良いか。そこまでは導水管で水を引き上げ、水道橋で島内の各所に水を通す、という寸法だ。高所から水を供給するので、導水管の節約にもなるだろう。



 そうやって各所の設備を作り、魔道具を設置して、水道橋を引いてと。休憩を挟みながらあれこれと作業を続けて、全ての作業と魔道具の動作確認が終わるころには夕暮れが迫っていた。

「あー……。よく働いた」

 導水管を埋め込んで噴水の中心部から水を出したところで……大きく伸びをする。これで一先ず、俺の作業は全て終了というところだ。一仕事終えたという解放感からか、中々気分が良い。
 後はエルドレーネ女王や公爵に引き継いで、海中設備に塗料を塗ってもらったり、灯台守や屋敷の管理人、庭師、警備などの人員を手配してもらえば島に関しては形になるだろう。

 公爵領の離島同士における航路の中継地点としても使いやすく、グランティオスからも利便性が良いという立地なので、整備されている以上は港なども使われるだろうしな。

「いやはや。良い物を見せてもらった」

 エルドレーネ女王が静かに言って近付いてくる。

「楽しんで頂けたなら良いのですが」
「いやいや。どちらが歓待しているのか分からぬではないか。これから我等の宴もあるというのに」

 俺が答えると、エルドレーネ女王が苦笑する。そして――何か、握り拳程の大きな真珠のようなものを俺に差し出してきた。んー。どこかで見たことがあるような。
 ……ああ。エルドレーネ女王が戦場に持っていた黄金の杖の先端に付いていたものか?

「これを……受け取ってはくれぬか」
「これは……?」
「そなたに渡すべきかどうか迷ったのだが……。慈母がウォルドムを封印するのに用いたものと同じ宝珠だ。長い年月をかけて我等グランティオスの、水守り達の祈りを集めたものとなる」
「つまり――これを用いれば慈母が作ったのと同じような封印の結界を作ることができると?」
「そう。妾はこれを、ウォルドムに対して用いようと思っていたが……そなたのお陰で必要が無くなったからな。展開される結界の強さは使い手の込める魔力に依り、そしてその限界も相当なものということだ。慈母は己の命まで、持てる全てを賭すことで、遥か昔から今に至るまでの大結界を作り上げたが……。そなたであるなら、そこまでせずとも十分な力を発揮するであろう。実際、グランティオスでは歴代の女王が何度か用いておる」

 ……なるほど。命を掛けなければ発動しないというわけではなく、限界値であるとか込められる魔力の許容量が極端に大きいということか。それでも渡すべきかどうか迷ったというのは、慈母や自分の覚悟といった経緯を考えてのものだろう。
 しかも作るのに長い年月がかかるとなれば……切り札も切り札だな。

「分かりました。では、お預かりします。これを使うにしても、陛下を悲しませるようなことはしませんのでご心配なく」

 そう答えると、エルドレーネ女王は目を丸くした後で、穏やかに微笑んだ。

「うむ。妾が渡したことで犠牲が出てしまっては、寝覚めが悪いからな」

 そうだな。それは、俺がエルドレーネ女王に対して言ったことでもあるし。自分でエルドレーネ女王にかけた言葉を違えるようなことはすまい。そうやって命まで掛けられてしまうと、遺されたほうにも傷が大きいし、な。
 しかし、結界か。込められている魔力の大きさから見ても、相当強力なアイテムであるのは間違いない。魔人との戦いを控えているわけだから、心強いな。代わりがないから使い所をよく見極める必要があるが。

「さて。では、宴と行こうか。皆心待ちにしておるぞ」

 エルドレーネ女王は――そう言って笑みを浮かべるのであった。
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