挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
509/1203

492 海底城の深奥にて

 破壊した個所は溶岩が高熱を発しているので、すぐには近付きにくい状態である。その間に、次の行動を行っていく。
 つまり――結界によって分断することで、連中を逃さないようにする。その上で浄化と突入を敢行するというわけだ。
 俺は俺で一旦甲板へと戻り、マジックポーションを飲んで次の行動に備える。その間に、ジークムント老、ヴァレンティナ、シャルロッテ、フォルセト、ステファニア姫とアドリアーナ姫、そしてアウリアが配置に着いた。
 亀裂と城を囲む形で結界が広がっていき、戦場が外界から閉ざされる。

 仮に……敵が逃げるのであれば、また亀裂の底へということになる。亀裂の先は袋小路ではあるが、一応の逃げ道を残しておくのは重要である。後が無いとなれば必要以上の抵抗を試み、こちらの被害を増やしてしまうことに繋がる。
 投降すれば命は助けると呼びかけているのも、そういった状況を作らないためでもある。従って、敵側としてはその場にとどまって戦うか、城門を開けて袋小路の亀裂へと撤退するか、それとも投降するかの3択になる、というわけである。

「それじゃあ始めましょうか」

 クラウディアが言うと、マルレーンがこくんと頷く。
 マルレーンが祈りの仕草を見せると、俺を含め、突入班の身体が月女神の祝福に包まれた。邪気が渦巻く城の中に突入するには必要な措置だ。
 テフラの加護、マールの加護と合わせれば、ウォルドムやその側近などとの戦いで充分な効果を発揮してくれるだろう。

「では、行って参ります」
「うむ。妾達の魔法も、そなた達の戦いにおいて力となれるよう、全力を尽くすとしよう」
「御武運を」

 エルドレーネ女王とロヴィーサ、そして水守り達の展開しているマジックサークルの輝きが増す。
 強風に煽られるように城に纏わりつく邪気が揺らぐ。

「私達も、一生懸命歌うから」
「だから……怪我をしないで帰って来てね」
「テオドール様、お気をつけて」

 ユスティアとドミニク、シリル。そしてマリオンを始めとするセイレーン達も出撃前の見送りに来てくれる。

「ああ。行ってくる」

 彼女達に返答を返して、それからグレイス達を見る。

「私達も準備はできています」
「お供します、テオドール様」
「そうね。終わらせて来ましょう」

 グレイス、アシュレイ、ローズマリーの言葉に頷く。
 水の泡を作り出し、突入口付近の高温対策を施す。

「じゃあ、行く」

 シーラが甲板から飛び立ち、それに続く。
 突入班はパーティーメンバーとシオン、マルセスカ、シグリッタだ。残りの面々は外での動きに対応する後詰めの戦力として残ってもらう。シリウス号に陣取る女王達、結界の維持と防御、そして状況に応じて将兵達の援護であるとか城内への突入を手伝ってもらうというわけだ。

 結晶鎧を身に纏ったまま、ステファニア姫と共に手を振って見送ってくるコルリス。コルリスは結界班の護衛組だ。こちらも笑って結界班に手を振って、そのまま城へと突っ込む。
 砕かれた大穴から邪気の渦巻く城内……謁見の間へと飛び込めば――そこには何やら、巨大な魔法陣が床に描かれていた。描かれている内容から察するに、邪気を増幅するためのものだろう。

 城内に漂う邪気はまだまだ濃いが……ヴォルカノンハンマーを叩き込んだ時点で増幅は止まっている。魔法陣も床ごと砕かれ、一部を溶岩に呑み込まれて、機能停止しているようだ。

 敵の姿はない。――が、謁見の間から城の奥へと続く通路から、強い邪気が流れてきているのが見えた。

「どうやら、その奥の通路のようだな」

 みんなでその通路を奥へと進む。壮麗な回廊に、数人の眷属が白目を剥いて漂っていた。
どうやら気絶しているようだ。その足を掴んで、軽く循環錬気で状態を見てみる。……聴覚に大きなダメージを受けているようだ。まあ、外からでも凄まじい爆発音だったから、城内であれば尚更だろう。ともあれ、この連中は戦える状態ではあるまい。将兵達が城内に残った残党と戦う際にもことを有利に運べるはずだ。

 そこまではいい。大魔法の余波だけでこうやって気絶してしまうような連中は最初から物の数ではないのだ。問題は……さっきの一撃に対応をすることができた者達。
 こいつらは相応の実力を持っているだろう。そして……邪気の源でもあるウォルドム。こいつを倒さないことには戦闘は終わらない。

 居場所は、分かる。強い魔力を感じる方向へ方向へと進んでいけば、自ずと辿り着く。待ち伏せに警戒しながら回廊を抜けていくと、かなり大きな広間に出た。

 謁見の間よりも広い。建物の作りからは神殿のような……そうだ。ここはエルドレーネ女王に聞いていた、慈母の霊廟だろう。祭壇まである。
 霊廟の奥、祭壇の向こうには慈母の像があったようだが……胴体の半ばから無残に砕かれていた。そして砕かれた慈母の像を台座にするように、何やら紫色に煌めく巨大な結晶が鎮座されている。

 そして、その結晶を守るように祭壇の上から眷属達や、一匹の魔物がこちらを睥睨してくる。
 城に満ちる邪気の源。そして、亀裂の入った結晶から僅かに漏れ出しているのは……邪気などという生易しい物では無い。

 それは――瘴気だ。そして亀裂から瘴気を放つ結晶の、その内側に人型のシルエットが蠢いていた。あの中にはウォルドムがいて……それを閉じ込めている結晶こそが慈母の施した封印というわけだ。

「魔人……」

 ローズマリーが呟く。結晶の中にいる魔人もだが、気になる奴がいる。

「テオ、あの魔物は……」

 グレイスが眉を顰めた。
 眷属達と行動を共にしている魔物。それは前半分こそシャチに似た姿をしているが、後ろ半分は蛸や烏賊のような、無数の触腕になっている。その横で――1人の男が立っていた。シャチの魔物と共に結晶に触れて、何かの術式を用いながら魔力を送り込んでいるのが見える。

 ああ。グレイスの言いたいことは分かる。その魔物の背鰭には、見覚えがあるのだ。
 そう……。炎熱のゼヴィオンと戦った時のことだ。取り逃した魔人達の連絡役を担っていた魔物と、似た姿。

 しかし、驚くには値しない。可能性の1つとして予期し、話し合っていたことではあるのだ。ウォルドム一派が、魔人達と繋がっている場合というのは。つまり、眷属達の裏に、魔人が控えている可能性があった。
 まず言えることとしては、ウォルドム自身は海洋に特化した魔人だろう。それは状況として間違いないらしい。そして、もう1人。結晶の封印に術を用いているあの男……。

「全く……予想外だな。陸上の魔術師がこの水底でここまでの力を発揮するとは」

 結晶に魔力を送り込んでいた男が言った。その姿は、人間に似ているが……瘴気を身に纏っていた。
 そしてそいつには、あのシャチの魔物と魔力的な繋がりが見られる。それはつまり、主人と使い魔の関係であるということだ。こいつ。こいつこそが元連絡係か。

 魔人であるウォルドムは……自分の戒めを解放してもらう見返りに、ヴァルロスらに協力を約束している……だとかだろうか。
 後は海洋を制圧し、タームウィルズの決戦の時期に海からも呼応して攻め込んで来るというわけだ。

「お前は……魔人か」
「そう。その通りだ」

 そう言って、男は目を閉じた。
 仮にこいつにリネットとの繋がりがあったとするならば、ああいった使い魔を手に入れることも可能だろうし、封印を弱めるような術式を伝えられている可能性も高い。リネットの実験としては、海王の封印は本番前のサンプルとしては丁度良いものだっただろうから。

 ともかく、この男はヴァルロスらの仲間だ。ゼヴィオンの一件で海洋での連絡という手口が発覚して、警戒されたから別の手立てに出たのだろう。
 連中の狙いとしては……海洋に封印された眷属達の封印を弱め、これを解放するといったところか。
 見る限り、あの使い魔も封印解除に関わっているようだ。だから、海王の封印を解くまでは偵察役として派遣できなかったということか。人魚の捜索より、海王の封印解除を優先したというのは、まあ分かるが。

「……我が名はオーベルク。我が推測が正しければ、貴様ら……いや、貴様は魔人殺しだな?」

 オーベルクは薄く目を開き、俺を見てくる。使い魔は……騎士団側が追い掛けていたからな。結局あの時は取り逃してしまったが、魔人殺しの情報は魔人達側には伝わっていないようだ。

「時期からすると……封印を弱めたのもお前か?」

 オーベルクは答えない。薄く笑っただけだ。

「左様。我等は古よりウォルドム陛下に仕える者。オーベルク殿の助力を得て、深き底より蘇ったのだ」

 ウォルドムの眷属――側近達の1人が口を開く。竜にも似ているが……背中の甲羅は自前だろう。元は亀の魔物のようだ。

「まさか、魔人殺しが斯様な子供だとは思わなんだが……あれほどの大魔法を見せられてはな」

 その隣の眷属は……例えて言うなら鯨を人型にし、額から長大な一本角を生やしたようなフォルムだ。こちらは巨躯に見合った巨大な槍を持っている。

 竜亀も鯨も……海王の眷属達は瘴気ではなく、邪気を立ち昇らせていた。
 半魔人とは違う。魔人に仕える、魔に堕ちた魔物達の、成れの果てか。
 ともかく背景は分かった。後はこいつらを叩き潰すだけだ。
 ウロボロスを構えて魔力を高めていくと、オーベルクが表情を歪める。

「魔人殺し……か。確かに、次元の違う力を持っているようだ。流石に我等では戦えぬが――その仲間達はどうかな。ウォルドム殿の露払いぐらいはしてみせよう」

 そう言って、オーベルクが大剣を作り出す。

「そう。そして――積年の恨みを晴らすのだ。惰弱な眷属共には失望させられたが……何、直接人魚の女王を縊り殺し、その魔石を抉り出せば余の溜飲も下ろうというもの。却って好都合だ。邪魔をするのなら――魔人殺し。貴様も殺すまでよ」

 霊廟に冷たい声が響いた。結晶の亀裂が大きくなっていく。内側から卵の殻を砕くように拳が飛び出し、膨大な量の瘴気が溢れ出して来る。
 海王ウォルドム。砕けた結晶の向こうから、ゆっくりと魔人が姿を見せる。青い髪の、怜悧な男。
 深海にそぐわぬ、人間に似た姿――。かと思えばその腕から鰭が飛び出し――肉体が海での活動に適したものに変貌していく。オーベルクもだ。

 ……そう。そうだろうさ。海王などと言っているが、その正体が魔人であるなら、元の姿は人と同じものであるはずだ。海王は所詮自称でしかない。

「思えば……ゼヴィオンと戦った時にやり残した仕事です。今度は逃がしません」

 そう言って――闘気を纏ったグレイスが双斧を構えた。
 そう。その通りだ。ウォルドムが魔人であれど、ヴァルロス達が糸を引いていようと、することは何も変わらない。きっちり叩き潰して、前に進む。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ