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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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490 海都グランティオス

「感謝します。これでまた戦えます」
「治癒魔法で傷は塞ぎましたが、無理はしないようにして下さいね」
「はい。気を付けます」

 手傷を負った将兵達がシリウス号の甲板でアシュレイの治癒魔法を受けて、一礼するとまた飛び出していく。
 アシュレイは少し複雑そうな面持ちでその背を見送る。治療した者がまた戦いの場に赴くというのには色々思うところがあるのだろう。俺が高位魔人と戦った後もアシュレイは心配してくれていたしな。

「アシュレイ、大丈夫?」
「はい。大丈夫です」

 声をかけるとアシュレイは自分の胸の辺りに手をやって、嬉しそうに微笑みを返してくる。こちらも笑みを返すとアシュレイは頷き、また怪我人の治療に戻っていく。マルレーンが少し心配そうにアシュレイのところに駆けていき……2人は微笑みを向け合っている。

 うむ……。俺は俺の仕事をするか。投降してきた連中に封印を施していく。梱包までがセットになるが、連中も心が折れているからか、意識があっても普通に封印術が通るような状況だ。逆に言うなら、レジストしてくるような相手はまだ注意が必要ということになる。

 戦闘が一段落したところでやることと言えば、被害状況を確認しつつ怪我人の治療や、投降した者、制圧した者への封印を施して梱包、後方に控えている兵士達に引き渡していくという作業になる。しかし、一方で、なるべく敵には対策を考える時間は与えたくない。

 そこでジークムント老達に甲板の上に結界を築いてもらい、そこに捕虜を収容して順繰りに処置を施していくというわけだ。シリウス号は追撃の後方から付いていきながら同時進行で治療と封印、梱包を進めていく、というわけである。

 結界の周囲を結晶の鎧を纏ったコルリスや、高速で光弾となって飛び回るアルファやらが固めているお陰もあってか、捕虜達は大人しくしている。

「うおおっ!」
「畜生ッ!」

 と、前方から追撃を受けている海王の眷属達の怒号も聞こえてくる。そちらの様子もカドケウスで確認しているが、追撃戦は順調だ。
 しかし油断してはならない。追撃というのは、相手に大打撃を与えるチャンスではあるが、敵方も伏兵を配置したり罠を仕掛けたりと、被害を減らすための対策を講じるから注意が必要なのである。

 追撃する側としては有利な立場であるため、より多くを求めすぎると、普段なら引っかからないような策に嵌ったり、引き際を見誤ってしまう可能性がある。
 海の都にどれだけの戦力が残っているのかは分からないが、少なくともまだ海王は控えている。その側近もいるかも知れない。グランティオスまで不用意に近付き過ぎると、態勢が整わないところで迎撃を受けてしまう可能性もある。

 というわけで……バロールで引き続き上からの監視をしつつ、逃げる者や殿の細かな動きをリアルタイムで指揮官に伝えて、大きな被害を受けないラインを見極めつつ攻撃を加えていくというわけだ。

「良いか。緒戦は既に大勝である。突出し過ぎに注意し、引き際を見誤るな」
「はっ!」

 と、カドケウスと共にいる指揮官が将兵達に伝えているのが五感リンクで見えた。
 士気も冷静さも、問題ないようだ。連中の身体能力の高さに対する警戒感も十分にある。俺も気付いたことがあればバロールとカドケウスを通して早め早めに知らせるとしよう。

「グレイスは、大丈夫? 血の臭いとか」

 戦地なので呪具を解放状態にしたままだが……グレイスはどうだろうか。水の中なのでどうしても血に関しては影響を受けてしまうところもありそうだが。尋ねると、グレイスは静かに頷いた。

「問題ありません。エルドレーネ陛下やロヴィーサ様が近くにいるので、血の臭いも薄れるようです」

 なるほど。水の浄化か。海中の戦地はグレイスにとってどうなのかと思ったが、吸血衝動の軽減になっているなら何よりだ。
 僅かに微笑むグレイスは赤い瞳。いつもより若干妖艶な印象なのは封印を解放しているからその影響はあるのだろうが。

「お、おのれ……ッ!」

 と、そうこうしている内に新たに捕らえられた眷属も連行されてくる。既に戦える状態ではないが、心は折れていないといったところか。
 あれこれと喚いていたが、結界に放り込まれる際に、そいつは気になることを口走った。

「か、海王陛下さえ身動きが取れれば貴様らなどに……!」
「……ふうん?」

 俺が反応すると奴はしまった、というような表情を浮かべる。

「過去の女王が施した封印は……どうやら海溝の蓋だけじゃないらしいな。察するに、外側の結界は解除されても、ウォルドム個人への封印はまだ生きているってことかな?」

 こちらが軽く探りを入れると、そいつはぎり、と牙を剥き出しにしてこちらを睨んで来た。
 しかし……失言をしたことを悟って開き直ったのか、そいつは怒気を漲らせたままで壊れたように笑い、そして言った。

「良い気になるなよ! もうすぐ……! そう、もうすぐだ……! すぐにでも海王陛下は自由になられるだろう! そうなれば貴様らなど!」

 それはウォルドムへの信頼か、それとも虚勢か。あの戦闘の後でもそう言えるのだから、ウォルドムはそれだけの力を持っているのだろう。
 ウォルドムの封印の維持に関しては……嘘か本当か微妙なラインだな。こいつらへの連絡が遅れているだけで、既に自由になっている可能性もあるし、ただの負け惜しみとも取れる。それとも、他の意図があるのか。
 もう少し状況が落ち着いたら、みんなと相談してみるか。



「どうしたものかしらね。封印が解ける前に突入して、対処ができるのかどうか。すぐというのがどれ程の猶予があるのか不透明だわ」

 艦橋でみんなに先程の話を聞かせると、クラウディアは眉を顰めた。

「確かに……。難しいところね。不確定な情報で予定を変えて強行突破をすると被害が大きくなるかも知れないわ」

 ローズマリーも慎重策の支持か。
 まあ、敵が自分から言い出したことだからな。何時もの情報収集とは少し違うし、魔法審問をしている時間も人員もない。

「何か備えがあって、我々を焦らせることで陣地深くまで招き入れるという、窮余の策かも知れませんぞ」

 と、大公が言うと、ヘルフリートはその言葉に感心したような面持ちで目を見開く。
 なるほど。奴が機転を利かせて即興で罠への誘導を狙ったという可能性もあるか。

「妾も同意見だな。把握していた状況から好転することはあれど、悪化することはないと思えば」

 エルドレーネ女王も慎重に行くべきとの意見。
 確かに。元よりウォルドムとは一戦交える予定であったということを考えるなら、こちらは想定していた範囲内では迅速に行動するのはともかく、慎重さを捨てるべきではないだろう。
 封印が維持されているのなら状況を幸運と捉え、そのまま多重に封印を施すだけだし、そうでないなら予定通りに。だが思わず口走ってしまったということも考慮し、念頭には置いておく。こんなところで良いだろう。
 仮にまだ封印されているとしても、眷属達を石化させることで状況を凌いだりと、色々行動を起こしているのは事実だ。油断ならない。

「テオドール。見えて来た」

 シーラが覗き込んでいたモニターを差して言った。
 話し合いの時間を取っている間に――海の都が近付いて来たらしい。まだモニターで拡大しなければ確認できないぐらいの距離があるが……。

「酷い……」

 ロヴィーサがその光景に眉を顰める。
 海の都グランティオス。アイアノスよりも、さらに規模が大きい。
 白い建材で作られた都。しかし地震でも起きたかのようにあちこちで柱や建物が崩れ、街の中央には大きな亀裂が走っている。亀裂周辺の道も家も、暗黒の淵へと崩れ落ちていた。

 ……海の裂け目。そこから漏れ出しているドス黒い邪気が、都市全体に広がって蟠っているような有様だ。特に――聳え立つ王城には封印されていた連中の恨みを象徴するかのように、邪気が生物のように絡みついている。
 破壊の痕さえなければ……そしてあの邪気さえなければ。本来なら壮麗な都、美しい城であったというのは想像に難くないのだが……。

「これが……あのグランティオスか。これが……」

 俺達は初めて見る都。しかしエルドレーネ女王にとってはそうではない。目を閉じて、辛そうにかぶりを振った。しかし、すぐに気合を入れ直すように正面のモニターに向き直る。
 エルドレーネ女王と水守り達には、この都市を浄化するという大仕事もあるからだ。まず、そのためには残ったウォルドム一派を叩き潰して脅威を排除しなければならない。

 平地に集結していた連中を壊滅させたことで、連中の戦力の大半を削ることができたはずだ。王城の守りは大魔法で粉砕して突入するわけだが……戦力的な脅威が残っているとすれば、まずはウォルドム。そして、その側近達という可能性が残っている。軍勢同士の戦いから精鋭の戦いへのシフトしていくだろう。俺も……気合を入れて海都の攻略戦に望むとしよう。
いつも拙作をお読み頂きありがとうございます。

書籍版「境界迷宮と異界の魔術師」2巻に関しての続報ですが、
場所によっては店舗に並ぶところも出てきているようです。

店舗特典の情報に関しても公開となりました。
内容については活動報告にて告知をしておりますので
詳細はそちらでご確認頂けたらと思います。

二巻も無事出版の運びということになるようで、
作者としても一安心といったところです。
偏に読者の皆様の応援のお陰です。改めてお礼申し上げます。
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