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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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488 無音の強襲

「行け――」

 甲板から海上目掛けて、たっぷりと魔力を充填したバロールを打ち上げる。
 海の上に飛び出したバロールはそのまま海上から北目掛けて飛んでいく。目的は斥候である。おおよその布陣と敵の規模を上方から見るためだ。

 時刻は夜明け前。東の空が白み始めるよりも前の時間。将兵達にカドケウスを付けて、俺達は伏兵部隊を潰すための別行動を始めたのが数刻前のこと。
 ウォルドムはハイブラ率いる偵察隊が戻って来るにせよ来ないにせよ、南の海にいると思われるエルドレーネ女王に対する侵攻と迎撃を兼ねて、伏兵を置ける平地に兵を展開して、戦闘準備をしていると予想される。

 これを、夜討ちと朝駆けにて叩く。言わば海の都グランティオス攻略の前哨戦である。
 ウォルドム達の視点で見るのなら兵を展開しやすく伏兵も置けるという、迎撃に適した場所だ。活用しない手はない。

 将兵本隊にカドケウスを付けたのは、シリウス号の動きとタイミングを合わせるためである。
 シリウス号はこのまま姿を隠して本隊とは別方向から進行する。生命感知と暗視によるモニターでの索敵を行い、伏兵部隊への奇襲を仕掛ける、というわけだ。
 敵方としても奇襲に対する備えぐらいはしているものと予想される。俺自身も船の外に出て……例えばこちらの探知を誤魔化す結界の類が張られていないかどうかを片眼鏡で見ていかなければならないだろう。

「グレイス、こっちに」
「はい」

 グレイスの手を取り、呪具の封印を解除しておく。封印を解くとグレイスの青い瞳が赤へと変わった。感覚の変化にグレイスが身体を慣らすように、軽く手を握ったり開いたりしていた。

「何か見つけたら通信機で連絡を送るから」
「気をつけてね、テオドール」
「こちらも何か発見したら通信機で連絡します」
「ん。わかった。じゃあ、少し行ってくる」

 クラウディアとアシュレイの言葉に頷く。甲板に見送りに来てくれたみんなにも頷いて、船底側に移動した。
 俺自身も光魔法のフィールドを纏い、船と共に進んでいく。

 海底は窪地になっているが……その底からごつごつとした岩が槍のようにいくつも迫り出していて、見通しがかなり悪い。岩でできた森とでも呼ぶべき地形だ。
 エルドレーネ女王の話によれば、昔の女王の代に水を操って海底の岩を削り、伏兵の配置に適した地形を作り出した……ということらしい。目的は勿論、有事の際に海の都の南に広がる平地での迎撃を有利に運ぶためだ。

 当然ながら、ウォルドムらも海の都周辺を探索すれば、南の平地やこの場所などには気付くだろう。この場所に伏兵を置くとしたら……エルドレーネ女王達も知っているものと仮定し、発見されないような仕掛けを施す可能性が高い。例えば、俺達が野営を行う時に使ったような隠蔽の結界であるとか。

 いずれにせよ、ある程度の規模の別動隊がいるのなら、ここから平地に進軍してきた敵の側面へ直接攻撃を仕掛けてもいいし、後背に回り込んで攻撃を仕掛けても良い。伏兵があると分かっていても備えのために人員を割かなければならないから、平地に展開する本隊の有利に働く。だから、ここへの兵は必ず配置される。

 シリウス号の高度を高めに取ることで視野を広げ、より多くの範囲を探索していく。
 伏兵を忍ばせるのなら、どの位置が最適か。平地側から見つかりにくく、攻撃を仕掛けやすいような場所となれば、自ずと絞られてくるだろう。

 そして――そいつらを岩場の陰に発見したのと、俺の通信機に連絡が来たのはほとんど同時だった。

 前方に平地側を窺う見張り3名を発見した、とのこと。俺もライフディテクションで、その見張り達を発見している。反応は海王の眷属のそれだ。しかし、規模から言って伏兵部隊そのものではあるまい。

 恐らく……交代での見張り兼伝令といったところか。夜襲への備えも一応はしているらしい。敵の襲来を平地にいる本隊や、窪地の底にいるであろう伏兵部隊に知らせて連携して動く連中。こいつらがいた、ということは近くに部隊も潜んでいるはずだ。
 シリウス号には一旦動きを停めさせて、周囲を捜索する。
 ……あった。片眼鏡越しに周囲を捜索していると、窪地の底に僅かな魔力の揺らぎを見出す。隠蔽結界の反応。どうやら、ハルバロニスの隠蔽結界ほどの精度はないらしいな。あの結界の内側に伏兵部隊が潜んでいるのだろう。

 伏兵はここで奇襲をかけて壊滅させるが……まずは見張りを排除してからだ。一旦船内に戻り、みんなと連携して動くとしよう。



「――ん。準備できた」

 と、シーラが軽く屈伸をしながら言う。

「気を付けてね、シーラちゃん」
「任せてイルムヒルト」

 見張りへの奇襲は俺とシーラ、セラフィナ、フォルセト、シオンとマルセスカという顔触れだ。それに加えてアウリアが後方から支援を行う。

「シオン、マルセスカ。準備は良いですか?」
「はい、フォルセト様」
「うん。大丈夫」

 フォルセトの問いにシオンとマルセスカが頷く。

「それじゃあ、行こう」

 同行者を光魔法のフィールドで包み、甲板から泳いで見張り達のところへ向かう。
 セラフィナが音を消し、アウリアの使役する水の精霊がちょっとした水の流れの変化であるとか、匂いが伝わるのを防ぐというわけだ。
 これにより視覚、聴覚、嗅覚による探知が不可能な状態にして見張りに接近し、奇襲で叩き潰す。

「……はあ。逃げた連中はほんとに来るのかねえ」
「確かに……。静かなもんだ。だが、ルグルスの野郎が南への偵察から帰ってこなかったって話だろ?」
「気を抜くな。ウォルドム陛下は、人魚共が南に逃げたのがその証拠と仰っていた」
「あの都に最も攻め入りやすいのが南側からだからな」
「ハッ、女王も反撃する気満々ってわけだ。俺達に恐れを成して戦いもせずに逃げたくせによ」
「大方、ガキ共への影響を嫌ったんだろう」

 眷属達は気付いた様子もない。見張りの単調さを紛らわすためか、そんな会話を交わしている。その内容を、セラフィナが少し離れた位置から拾ってきている。
 まあ……連中の見立ては間違ってはいない。なるべく連中の視界に入らない位置取りをしてから、ギリギリまで接近――つまりは、真上からだ。遠方に注意を払っている連中は、接近に気付かない。特に、真上には注意を払っていない。それぞれ位置についたところで、事前に打ち合わせた通りにハンドシグナルで仕掛けるタイミングを取る。

 5、4、3、2、1――今ッ!
 魔力を増幅させつつ、立てた5本指を1本ずつ折っていき、ゼロのタイミングで見張りの内の1人の頭に、直上から魔力衝撃波を叩き込んだ。

「かっ……」

 会話の続きをしようとしていたのか、何か言いかけようとしたそいつが、白目を剥いた。

「うん?」

 音はしない。それでも隣の者が気絶すれば異常ぐらいは察知するものだ。真ん中にいた見張りに左右の2人が視線を向けたその時――回り込んだシーラとシオンが残りの2人の後頭部に、闘気を込めた剣の峰を叩き下ろしていた。

 かなりの衝撃だっただろうが、やはりセラフィナの能力のお陰で全くの無音だ。頭を殴られて身体が揺らいだところを、駄目押しとばかりにフォルセトが投げ技を見舞い、マルセスカが膂力に任せて岩壁に頭部を叩き付ける。

 完全に意識を失ったそいつらに封印術を放てばそれで終わりだ。頑強な身体を誇ると言っても、それは闘気で強化すればこそである。臨戦態勢をとっていなければこんなものだろう。
 一連の流れが完全に無音。隠蔽結界の中にいる伏兵達は……眠っているのか異常を察知していないようだな。小さく息を吐く。
 土魔法で連中の精巧な模型を作り上げて代わりにその場に立たせ、本物は捕虜として船側へと引き上げる。

 まずは3体。呪具を身に着けさせて土魔法で固めることで完全に無力化する。後は船倉にでも叩き込んでおけばいい。 帰ってきた俺達をマルレーンが嬉しそうな笑みを浮かべ、拍手で迎えてくれた。
 梱包が終わるとピエトロの分身達が連中を船の中へと運んでいった。

「いやはや。手際の良い……。惚れ惚れするような鮮やかさよな」
「全く音が聞こえないのにテオドール様達のあの動きですからね……」

 ピエトロの分身達が運んでいく眷属達を見送って、エルドレーネ女王とロヴィーサが目を瞬かせている。生命感知で成り行きを見ていたようだ。
「では続いて……まずは連中の隠蔽結界の上から封印結界で覆ってしまいましょう」
「うむ。任せておくがよい」
「頑張ります」

 頷いたのはジークムント老とシャルロッテだ。ヴァレンティナは気合を入れているシャルロッテを見て微笑ましいものを見るように表情を綻ばせた。
 敵に気付かれない限りは先程と同様の、無音の奇襲で端から虱潰しにしていく。いや、眠っているのなら直接封印術を叩き込んでも良いか。

「さて……。腕が鳴るわね」

 と、ローズマリーが薄く笑みを浮かべ、魔法の練習でもするように指先にマジックサークルを浮かべていた。
 闇魔法第4階級――ナイトメアラビリンス。眠っている相手を強烈な悪夢の中に閉じ込めるというものだ。一度術に落ちてしまえば効果時間が過ぎ去るか、術を外から解除するまで目覚めることはない。眠っている相手を、当分の間無力化する魔法としてはぴったりかも知れない。

 マルレーンも召喚魔法のマジックサークルを展開して、契約している闇の精霊を召喚する。襲撃中は視界を悪くするので味方の様子を見ることもできないという寸法だ。ともかく、敵には態勢を整えさせないし、連携もさせない。

 では……このまま寝静まっている伏兵部隊を叩き潰していくとしよう。隠蔽結界など用いているところを見るに、ハイブラと同様の魔術師がいるはずだ。これを事前に排除してしまえるというのも大きいだろう。
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