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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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485 船着き場の戦い

 ハイブラと相対する。しかし――奴はにやりと笑うと俺では無く、壁の上にいる兵士に向かって水の槍を放った。咄嗟にそちらに飛んで水の槍を叩き落とす。

「お前……」
「ククッ。なるほど。有能な魔術師というわけか。どうも陸上では感知能力が鈍ってしまってな」

 つまり、俺の実力を見るためと、距離を取るためにということか。小賢しい。

「ラルゴ!」

 ハイブラが後ろに飛んで――その側近の名を呼べば、1人の海王の眷属が応じた。
 他の連中と装備の違う、騎士と分類した海王の眷属だ。水晶で作られた珊瑚を槍にしたような武器を手にしている。相当な量の闘気を纏って、こちらに突っ込んで来る。
 それに合わせるようにグレイスが後方の馬車の辺りから砲弾のような速度で踏み込んで来た。俺はラルゴを無視してハイブラ目掛けて突っ込み――その足元をグレイスが横切っていく。

 正面から水の槍がこちらに向かって叩き込まれるが、身体を捻ることで回避しながら最短距離を突き進む。下を行くグレイスの赤い瞳と、一瞬視線が交差した。
 ハイブラ目掛けて身体ごと飛び込み、奴の手にする金色の錫杖にウロボロスを前に出してぶつかっていく。

「ちッ!」

 ハイブラが忌々しげに舌打ちする。海王の眷属ということであっさりと押されないだけの膂力は持っているらしいな。
 ほぼ同時に――後方でグレイスの斧と、ラルゴの槍が激突、互いに弾かれた。
 俺との間に割って入るように立ったグレイスを見て、ラルゴは驚愕に目を丸くする。グレイスは両手に斧を持ったまま佇み、静かに口を開く。

「あなたの相手は私です」
「なるほどな……。凄まじい闘気だ」

 ラルゴはグレイスを見て、牙を剥いて笑った。全身から闘気と邪気を漲らせて槍を真横に伸ばし、後方に控える眷属達に向かって声を張り上げる。

「こいつは俺の獲物だ! 貴様らはハイブラ様の援護に回れ!」
「はっ!」

 と、威勢よく答えた海王の眷属であったが、その肩口が裂けて、血液が飛び散った。

「がっ!?」

 浅い。しかし思わぬ一撃にそいつは切り裂かれた肩を押さえて唸る。
 船着き場を囲む城壁の上からシーラが音も姿も無く飛び込んで来たのだ。闘気の煌めきだけを空中に残すような不意打ち。一撃を与えて左右に複雑な挙動で反射するようにシールドを蹴って離脱していく。

「こ、こいつ!?」

 シーラに続くように、デュラハンとイグニスが船着き場に飛び出し、眷属達目掛けて切り込んだ。力自慢であるためにデュラハンとイグニスの一撃を闘気でどうにか受け止めるが、膂力ではこちらが勝る。巨体同士の激突に、競り負けて眷属達の身体が弾き飛ばされる。

「こいつら……一体、どこから!」
「み、見ろ! 水門が――!」

 ギシギシと軋むような音を立てて、船着き場から出るための水門が、周囲の海水ごと凍り付いて閉ざされていく。凍り付いた海面の上にアシュレイが立ち、ディフェンスフィールドを用いて防御陣地を築いた。
 それだけではない。城壁の上にはクラウディア、ジークムント老、ヴァレンティナとシャルロッテ。一斉に4人の間に魔力の輝きが走り、仮に空を飛んでも逃げられないように船着き場の封鎖が完了した。これで――。

「これで――閉じ込めたつもりか?」

 至近で互いの魔力で押しあうように鍔迫り合いをしながら、ハイブラが俺を見て口元を歪めた。
 水を纏うハイブラ。魔法で水を生産しているのだろう。あちこちに水球が浮かぶ。水辺であるなら有利、と踏んでいるわけだ。

 そして、呼応するように船着き場に残された大量の海水が水位を増していく。水門は封鎖されて、水の流入は閉ざされているというのに。連中から立ち昇る邪気に呼応させているようだ。ハイブラが何らかの術で海水に干渉しているのだろう。

「時を置かずしてこの広場は水に埋まる! 逃げ場がないのは貴様らのほうだ!」
「それは無理だな」

 一気に抑えていた魔力を噴出させてウロボロスを振り抜けば、呆気なく均衡が破れてハイブラの身体が後ろに弾き飛ばされた。

「な――!?」

 循環した魔力で強化した膂力。ウロボロスが増幅していく魔力の量に、体勢を立て直しながらハイブラが目を見開く。

「お前らに、そんな時間が残されていると思うのか?」
「お、おのれ……! 貴様ら、何をやっているか! あの水門を塞いでいる雌を捕らえろ! 私を援護するのだ!」
「は、はっ!」

 ハイブラが喚くと、状況の変化に呆気に取られていた眷属達が弾かれたように動く。
 俺に向かってくる眷属の戦士が3人。ハイブラを含めれば4人だ。
 グレイスが騎士階級を抑えて1人。シーラ達前衛の相手が5人の戦士。そして後衛の防御陣地に向かったのが同じく、戦士階級が5人。まあ……割り当てとしてはこんなところだろうか。では――戦闘開始と行こう。



「おおおおっ!」

 雄叫びを上げて、アシュレイのいる水門目掛けて眷属達が突っ込んでいく。水門付近は海底まで凍り付いているので――間に海水があってもどうしても氷上で戦って構築された防御陣地を突破しなければならない。攻めていくか残された水の中に引き篭もるかの選択に、連中はその好戦的な性格から前者を選択したようだ。

 いずれにせよ――引き篭もったところで全て凍らせてしまうだけなので、結局は攻め入らねばならないのだが。

 眷属の突撃の足を止めるように、氷弾と雷撃、光の矢と音の弾丸が防御陣地側と、頭上から降り注ぐ。

「ぐっ!?」

 弾幕に晒され、闘気での防御を行うが、物量による弾幕だ。全ては受け切れない。
 幾つかの攻撃が体表を切り裂き、焼き焦す。それでも生来の頑強さを前面に押し出し連中はお構いなしに前進した。海から水を引き寄せて、それぞれが水の盾を作り上げると左腕に纏い、弾幕を突っ切ろうとする。

 先頭の者がディフェンスフィールドに触れて――強行突破しようと意識がそちらに向いたその瞬間――頭上から魔力の糸がその四肢に降り注ぐ。

「残念ね」

 涼やかな声。
 身体の動きを乗っ取られた眷属が、後ろにいる仲間の脇腹目掛けて、手にしているその背骨のような鈍器を思い切り振り抜いていた。

「がはっ!?」

 容赦のない一撃。完璧な不意打ちだ。ランタンによる幻影で外壁の出っ張りにカモフラージュされていたローズマリーが、頭上から操り糸で眷属の動きを奪い、同士討ちをさせたのだ。
 それも一時的なものでローズマリーは薄笑みを浮かべながら操り糸を切り離すと、脇腹に一撃を受けて悶絶している眷属の四肢目掛けて魔力糸を絡みつかせる。
 その全てが、降り注ぐ弾幕の中で行われた。眷属達は自分達の身に起きたことを理解できたかどうか。
 殴られた眷属は、動揺と痛みからあっさりと術中に落ち、ローズマリーに操られるままに、己を殴った眷属の肩口に牙を突き立てていた。

「ぐおおっ!? な、何をする!」
「き、貴様こそ!」
「違う! 身体が勝手に!」

 最後の弁明の声だけは届かなかった。ローズマリーの肩に乗るセラフィナが音を奪ったからだ。
 仲間が裏切った。同士討ちを始めた。その光景に残りの者達も思考と動きが止まる。そこに――アシュレイの周囲で、氷柱の幻影の中に姿を隠していたピエトロの分身達が切り込んだ。
 一斉に頭に張り付き、顔面を爪で掻き毟る。どこからか現れた大量の増援。目を切り裂こうと爪を立てる分身達。

「こ、こいつら!」

 振り解こうと悶える連中に、ピエトロの本体が風のように切り込んで闘気を纏った斬撃を繰り出した。狙い澄ましたように、闘気の防御が疎かになっていた眷属の踵のあたりを切り裂く。ほぼ同時に、イルムヒルトの巨大矢がもう1体の足を串刺しにする。

 足に攻撃を食らって氷の上に崩れ落ちた眷属達は、アシュレイの作り出した氷のフィールドに呑み込まれ、張り付けられて身動きを取れなくされた。その上で容赦なく弾幕を浴びせられていた。闘気の防御も間に合わない。なまじ頑強なだけにしばらくそれに耐えていたが、やがて意識のほうが途切れたようだ。これでまず2人が沈黙する。

 同士討ちの衝撃と混乱から立ち直れていない2人を差し置き、もう1体を高速回転するマルレーンのソーサーが四方八方から飛来して攻撃を加える。
 体表ごと削り取るように激突して回転を続けるソーサーを捕らえようとするが、マルレーンの制御は巧みだ。幻影と本物を見分けることもできずに眷属は1人で空回りしているような有様だ。

 そこに――クラウディアの隣に浮かぶケルベロスの魔石から真っ赤な火線が放たれた。 
 溜めに溜めた一撃だ。魔石の状態で十全に力を発揮できないといっても、凄まじい熱量と火力であった。
 肩を易々と撃ち抜き、そこから右腕を炎上させる。激痛に悶えて氷の上を転げまわる眷属目掛けてアシュレイの振り上げた氷の塊が振り下ろされた。

 ガラスの砕けるような音と共に、炎も消える。氷塊と氷のフィールドに挟まれた眷属が氷の欠片に埋もれるようにして、大の字になったまま白目を剥いていた。これで3人。
 残った2人は――周囲を見回して驚愕の表情を浮かべた。その周囲を――マルレーンの作り出した幻影が舞う。進むも引くもできずに、そのまま十字砲火に呑み込まれた。



「こっち――」
「お、おのれ!!」

 シーラの声が聞こえたかと思えば斬撃を繰り出して遠ざかる。瞬くように姿が現れたり消えたり。闘気の煌めきだけが空中に幾つも刻まれる。
 陸上に留まって戦おうとしたのは失策だ。シーラの立体的な動きにまるでついていけない。闘気の防御もままならず、身体を浅く切り裂かれていく。

 だからと言って、シーラを深追いすることはできない。そちらに気を取られた瞬間に相対しているデュラハンやイグニスに叩き潰されるからだ。
 眷属達は力負けしていると見るや否や、デュラハンとイグニスに対して2対1の状況を作り出した。一方が防御に集中、一方が攻撃。それで何とか抑えられるかといった状況。

 シーラに対しては膂力で勝っていると見たのだろう。1人で抑えようとした。それが悪手だ。シーラに相対する眷属はまるでシーラの動きについていけない。動きを追うことができていない。

 攻撃と離脱の出入り。そのついでに――行きがけの駄賃とばかりにデュラハンとイグニスと戦っている眷属達をすれ違いざまに切り裂いていくのだ。風車のように武器を振り回すが、完全に見切られている。

 浅く軽い――が確実に一撃一撃を刻み、それはデュラハン達の戦いにおいて致命的な動きの遅れを呼び込んでいく。状況は分かっている。しかし打つ手がない。
 シーラに対して意識を向けた分だけデュラハンとイグニスが圧力を増してくるから。
 デュラハンが大上段から大剣を叩き込む。闘気を集中させた得物でそれを受けるが、いつの間に移動してきたのか、馬の下から飛び出したシーラがすれ違いざまに脇腹を切り裂いていった。斜め上方へと飛びながら姿を消し、シールドを蹴って明後日の方向へ飛ぶ。

「貴様っ!」

 シーラに切り裂かれた眷属は――我慢の限界だったのだろう。苛立たしげな声を上げてその姿を追おうとしたが――次の瞬間にはデュラハンの駆る馬の蹄鉄に踏み潰されていた。船着き場の地面に罅が入る程の威力。骨の折れる音と苦悶の声。
 一旦均衡が崩れてしまえばそれは加速する。仲間が負けたことに気を取られた瞬間、イグニスの戦鎚であばらをへし折られていた。2対1という構図が破れればあっという間だ。デュラハンの大剣に吹き飛ばされて、イグニスに殴り飛ばされ、前衛達に立ち向かった5人は白目を剥いて地面に転がることになった。



「かああっ!」

 ラルゴの槍が闘気の輝きを幾つも空中に残しながら、グレイス目掛けて高速で突き込まれる。残像を残す程の高速の槍捌きを、グレイスは表情1つ変えずに斧で迎撃した。
 空中に幾つもの火花を弾けさせる。しかしグレイスは二刀流。もう一方の腕から胴薙ぎの一撃が迫ると、ラルゴは後ろに大きく飛ぶ。飛んだ分だけグレイスも踏み込む。

 槍の柄で一撃を受け、石突きを跳ね上げグレイスへの反撃を見舞った。腕に巻きつけた鎖を叩き付けるように迎撃。
 空中では身動きが取れないかと思ったが、ラルゴは海水を呼び込み、足に纏うとそれで空中に踏みとどまった。滑るように空中を飛びながら、槍の間合いを保ってグレイスと攻撃を応酬する。

「やるな娘! いつの間にか貴様らも空を飛んで戦うようになったか!」

 楽しげなラルゴの言葉に、グレイスは目を細める。

「なるほど。陸上ではこのぐらいですか」
「……何?」

 グレイスの呟いた言葉の意味を、ラルゴは理解できなかったらしい。次の瞬間グレイスが踏み込んで来る。斧の一撃を受け流し、身体を泳がせたグレイスの身体目掛けて槍を突き込むが――まともに入ったかに思われたそれは、闘気の集中で弾かれる。ラルゴの目が驚愕に見開かれた。
 集中。いや、それは闘気の障壁だ。グレイスの全身を覆うほどの闘気の鎧。それは海王の眷属達の比ではない。

 転身するグレイスの闘気が、その手に集まる。槍の間合いを保とうとしていたラルゴ目掛けて闘気の弾丸が放たれていた。
 予想外の飛び道具。避け損ねたラルゴが槍で受け止める。そこに――シールドを蹴ったグレイスが猛烈な勢いで踏み込んできた。
 その位置は――槍の間合いの完全に内側。それは斧の威力を活かす間合いよりも更に近距離。グレイスは迷うことなく、ラルゴの肩口に闘気を纏った拳を叩き込んだ。

「ぐっ!?」

 止まらない。ラルゴの纏う鎧を砕き散らしながらグレイスの双拳が雨あられと降り注ぐ。シールドで身体を固定できるということは、空中であろうと十分に体重を乗せた一撃を放てるということだ。加えて、グレイスは護身術をということでロゼッタに格闘術の指南まで頼んでいる。高速で放たれる一撃一撃が、お手本のような綺麗な武術の動きであった。

 上空から地面へと向かって、拳の弾幕に身を晒しながらラルゴが落ちていく。槍を手放し、腕を交差させて闘気を集中させることで防ごうとする。だがそれは無駄だ。鎧を砕き手甲を砕き――地面に亀裂を走らせ、一切合財を無視して降り注ぐグレイスの拳がラルゴの防御ごと叩き潰していく。

 一際重い一撃が更に大きな亀裂を走らせ、静かになった。
 瓦礫の中からグレイスが姿を現す。片手で掴まれたラルゴが放り投げられ、地面に転がる。鎧も手足もひしゃげた状態でびくびくと痙攣していた。



 足元を水浸しにした時点で下方から水の槍などを放ってくるのは予期できる。
 連中はそれで間合いを取り、俺を遠ざけてから、海中に浸りでもして戦いたかったのだろうが――それは無駄なことだ。
 弾幕弾幕。水の弾丸がこちらを撃ち落とそうと飛来する。それを、縫うように飛行し、回り込んで前衛に打ち掛かる。

「こ、こいつ!」

 ミラージュボディの分身と共に高さを変えて突っ込んでいって、お構いなしにウロボロスを振り抜く。読み違えた海王の眷属のあばらをへし折って吹き飛ばす。

 足元に凝縮させた魔力を展開し足場を作る。サーフボードにでも乗るようにその上に乗って飛行する形を取った。これならば下からの攻撃は無視できる。
 レビテーションで身体を浮かせ、魔力板に組み込んだバロールで推進。ネメアとカペラの膂力でシールドを蹴って軌道に変化を加える、というわけだ。身体はバロールに乗るだけよりも安定するし、高速飛行しながら両手両足を使っての格闘戦も可能だ。
 なかなか悪くないな。水の中でも十分に通用するだろう。

 そのままハイブラを守る別の前衛目掛けて突撃を敢行する。魔力板は武器にも防具にもなる。
 眷属は闘気を集中させて魔力の板による突撃を受け止める。が、次の瞬間後頭部にウロボロスの打擲ちょうちゃくを見舞われて俺の後方へと吹き飛ばされていた。
 呆気に取られて目を見開いているもう一体目掛けて、至近から雷撃を放つと、よそ見をしていたそいつは反応もできずに吹き飛ばされる。これで3人。

「何なのだ! これは!」

 ハイブラの纏う水が竜の大顎のように変化して迫って来る。だが、軌道が甘い。仲間を護衛に呼び寄せたのは失敗だな。巻き込まないようにするには、射線が限定されてしまうから動きを読みやすい。
 顎をすり抜け、首を切り裂くようにウロボロスを跳ね上げた。水の竜を切り裂き、勢いのままに魔力板だけを突撃させて、俺本体は別方向へと飛ぶ。

「う、おおおっ!」

 眷属は迫って来る魔力板を受け止めようと闘気を集中させるが――所詮魔力板は魔力の塊に過ぎない。変形して巨大な手になるとその動きを奪い、分離したバロールが鳩尾にめり込んでいた。
 崩れ落ちる眷属を視界の端に捉えながら、護衛の最後の1人に突っ込む。ネメアの爪とカペラの頭突き、掌底を各々別の角度から叩き込めば、防御もままならずに眷属は悶絶した。

「……陸上ならこんなものだろうな」

 やはり、水中のほうが調子が出る連中らしいな。技量や生命力の点でそれほど差がないのにも関わらず、あの鮫男よりも闘気の集中が甘くなっているような気がする。実力の程を計るには参考にはならないだろう。
 逆に言うなら……陸上でこいつらに後れを取るようでは人魚達の加勢などおこがましいということだ。

「お、おのれ……おのれ! 水の中でならば貴様らなどに!」

 ハイブラが高めていた魔力を一気に解放する。それに応じるように、船着き場の海水が盛り上がった。俺の後方から、多量の水が高波となって迫って来る。攻撃と同時に有利なフィールドを構築しようというわけだ。本来なら、それは俺に大技を当てるための魔力だったはずだ。護衛と戦わせて時間を稼ごうとしていたのだろうが。
 しかし、前衛を失っては近接戦で対抗しようがないと思ったのか、戦法を修正したというわけだ。
 波頭が砕けて、大波が俺の背中から覆いかぶさって来る。

「くはははっ! はは……? は!?」

 ハイブラがその光景に笑う。しかし、異変に気付いて表情が凍り付いた。大波が途中で動きを変えて、俺の周囲を包むような竜巻に変わったからだ。
 それはハイブラの制御によるものではない。周囲に迫ってきた大波を、こちらの魔力で押し潰して水の動きの制御を奪ったのだ。循環した魔力は、通常の魔力よりも近距離では上回る。故に可能な芸当。

「馬鹿な!?」
「穿てッ!」

 俺の術式に従って竜巻と化した多量の水を制御する。ウロボロスを振り抜けば、その動きに応じるように竜巻が螺旋状に回転する水の砲弾となってハイブラに迫る。

「ぐおおっ!」

 咄嗟に展開したマジックシールドでハイブラは受けた。そこに――。

「ぐはっ!?」

 水の砲弾を放つと同時に手元に魔力板を引き戻し、それに乗って突撃を敢行していた。水の砲弾を防御しているハイブラの脇腹目掛けて魔力板で突っ込み、そのままの勢いで外壁に激突する。
 外壁表面を砕くほどの衝撃であったが――しぶとい。まだシールドで防いでいる。魔力板から力を供給されてバロールが火花を散らす。ウロボロスがその先を予測し楽しげに唸り声を上げた。

「ま、待て! 貴様……!? な、何をする気だ!?」
「飛べ」

 バロールが高速飛行を開始する。無論、魔力板でハイブラを壁に押し付けたままでだ。

「ぎいいいっ!」

 軋むような音を立て、外壁と魔力板の間でハイブラが悲鳴を上げる。壁面で削られるのをシールドで耐えながら反撃するための魔力を高めているようだが――そうはいくものか。
 足元に広がる魔力板に向かって魔力衝撃波を叩き込むと、あっさりと奴の防御を貫通した。制御が乱されてシールドが崩れれば一瞬。壁ごと削りながらハイブラの身体が外壁にめり込む。

「ぐぎゃがおごごがッ!」

 と、言うような悲鳴が上がる。瓦礫の中から飛び出しているハイブラの四肢から力が抜けた。
 動かなくなったハイブラ目掛けて封印術を叩き込むと、光の鎖がその全身に巻きついたのであった。
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