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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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483 戦いの前に

 日暮れと共に海域の監視を終えてアイアノスへ戻る。夕食を済ませてから、アイアノスの広場へと向かい、グランティオスの武官達を交えて早速訓練などを開始することにした。
 槍を支給される予定の武官達と、水守り達だ。武官達が腕利きであることは間違いないだろう。

「では――行きます」

 ウロボロスから凝縮された魔力が展開し、その形を変える。

「これは……」

 エルドレーネ女王がその光景に目を丸くした。
 出現したのは首筋から有線でウロボロスと繋がる、青白く輝く魔力の人形である。直接制御している間だけの操り人形ではあるが、その分ゴーレムよりも更に細やかな動きをさせることが可能だろう。

「これと模擬戦を行って頂こうかと。捕虜となっている海王の眷属の動きならば、僕が見た範囲内である程度は再現できると思います」

 あの鮫男の動きを模して魔力人形を泳がせると、武官達や水守り達が驚愕の表情を浮かべた。だが、やがて武官達のその口元に笑みが浮かぶ。
 これからの訓練への期待だな、これは。どうやら武官達の戦意は非常に高いらしい。

 魔力人形ということで訓練相手としてどうなのか想像が付かなかったが、実際にこうして動かしてみることで訓練の内容が濃くなりそうなので喜んでいるというわけだ。
 半魚人達は勇猛な戦士と聞いているが、この反応を見る限り情報は確かなようだな。

「まずは……1対1に拘らず、実戦形式で行きましょう。武器は訓練用の物で足りると思います」
「彼我の能力差の見積もりから、ということですな」
「はい。まずは作戦会議で決まった通りにということで」

 ウェルテスの言葉に頷く。
 まずは半魚人達の武官達と、海王の眷属の戦力比をこれで計る。それぞれが模擬戦を行って対策なりを考えるのはそれからだ。

 武器が通用するようになった以上は、身体能力の差があると言っても、1対1で勝機が無いとは言わないが。
 技量や知略、機転で勝り、防御を貫くことができるのならば、勝ちの目は常にあるだろう。だが人的な損失を可能な限り避けるに越したことはない。訓練により、敗北の目を可能な限り減らせるようにする。

 さて。では並行して水魔法対策の訓練も行っていくとしよう。
 アクアゴーレム達を作り出し、一部は土魔法で着色、一部は透明なままにする。着色したゴーレムを前衛に。透明なゴーレムを後衛にし、着色したゴーレムとの訓練の中で、後方から透明なゴーレムが水弾を放つというわけだ。
 射撃の際は前衛に予備動作をさせたりと、ある程度遠距離攻撃が飛んでくるのが予測可能な状態にする。水を操る術といっても色々あるが、そのへんの訓練をやっておけば近距離戦においても不自然さを察知した時は離脱するなど、搦め手にも対応しやすくなるだろう。

「こっちの訓練は、誰から始める?」
「それじゃ、私から」

 と、シーラが一歩前に出る。よし。では訓練を進めていくとしよう。

「では、始めましょう。まずは……3人からでしょうか」
「ならば我々が」

 魔力人形を操り、対峙する武官達に突撃させる。その動きの早さをウェルテスが正面から。他の2人が左右に展開して迎え撃った。突き出される槍の穂先をマジックシールドで受け止め、即座に反撃を繰り出す。槍に闘気を集中させて受けた武官が後ろに弾かれた。
 その攻撃の重さに、武官は少し驚いたような表情を浮かべたが――戦意を漲らせ、すぐさま前に突っ込んで来る。

「マジックシールドは闘気防御の代わりです」
「つまりは――これを掻い潜って一撃を当てろということですな?」
「はい。虚実を織り交ぜ、意識配分を散らして防御を抜いて下さい」
「承知!」

 高速で泳ぎ回りながらの模擬戦となった。
 武官達の動きを見ていると、彼らの水中戦の動きも見えてきて中々面白い。人数で勝るのを活かし、有利な位置を取ろうとする武官達。それをさせじと、速度と膂力で攪乱する魔力人形。

 半魚人の武官達は立体的な戦闘に慣れているからだろう。
 何となく戦闘機のドッグファイトにおける位置の取り合いにも似ているような展開になるが、生身なのでもっと小回りが利く。更にそこに近接戦闘も加わってくる感じだ。

 転身してしまえば位置取りが有利になるとは限らない。身体を入れ替え。位置を入れ替え。交差しながら槍と、背骨風の武器をぶつけ合う。拳で。蹴りで。頭突きで。体当たりで。魔力人形の全身余すところなく武器とし、武官達と渡り合う。

「これはまた……模擬戦とは思えない程の内容よな」

 それを見たエルドレーネ女王が感心したように頷いていた。

 一方で、シーラの動きは中々快調だ。
 アクアゴーレムの前衛の動きに連動して水弾が飛んでくることを早々に見切ると、初動を察知して突撃用のシールドを展開して、離脱したり踏み込んできたりと、自分の戦法の中に上手く組み込んでいる。
 この分ならもっと訓練のレベルを上げても良いな。近接戦においての水の鞭のような術や、術者を中心にした全方位攻撃などもぼちぼち見せていくとしよう。



 といった調子で模擬戦を終えて――再びエルドレーネ女王との話し合いの時間を取る。

「戦力比としては海王の眷属1体に対し、3人から5人で対応するということになりそうですね」

 武官達の力量を見た上でと言ったところだ。鮫男相手ならばウェルテス達3人でも十分に打倒しうる。眷属の強さが全員同じであるはずもないのでより確実を期すために5人とは言っているが、どちらにせよ一度に戦える人数はそう多くはできない。
 前衛がスイッチすることで集中力の低下や体力の消費を抑え、敵には休息を与えない、ということは可能だろう。その人数に適しているのが5人ぐらいという見積もりだ。

「なるほどな。はっきりとしたことは言えぬが、報告にあった眷属達の石像の数はそこまで多くはない。しかし、こちらとて連中と戦える手練れとなると数は限られてしまう」

 エルドレーネ女王は腕を組んで思案するような様子を見せた。

「やはり、人数はそこまで有利となりませぬか」
「残念ながら。闘気を使えることが最低条件だろう」

 槍の穂先は兵士全員に行き渡るというわけではないが、眷属と戦うには女王の言う通り、闘気を使えることが最低条件になってくる。
 確かに兵力の上では勝るが、実際戦闘可能な人数となると結構絞られてくる。

「数が頼みにできず……相手の数が多くないのであればこちらも少数精鋭で相手をする以外にないでしょうな」
「うむ。敵わないと分かっている兵を、相手の消耗だけを狙って繰り出しても、士気が下がるし治療にも手を取られてしまいます。何より、徳のある者の行いではありますまい」

 公爵と大公が言うとエルドレーネ女王も頷いた。

「うむ。妾もそのような作戦は取りたくないな」

 というわけで……海王の眷属達との戦いで矢面に立つのは精鋭ということになる。シリウス号があるから可能になったとも言えるが。

「ですが……海王の眷属に通用する武器がこちらにあると、向こうに理解させた上でならば、数で勝るという事実ははったりとして十分に機能するかと」
「はったりか。面白いな」

 俺の言葉にエルドレーネ女王が肩を震わせる。

「そうさな。奴らは1つ所に集めて逃げられないようにしたいところではある。恐らくはその場合、グランティオスの城を攻略することになろう」
「テオドール殿は、攻城戦に使えるような術をお持ちかな?」

 武官から問われ、少し思案をしてから答える。

「城門や城壁を破る程度ならば問題はないかと思います」
「当たり前のように言うのだな。それ以上のことが出来そうに思えるのだが」
「目的は奪還でもありますから。海王が城の下敷きになった程度で倒せるとも思えませんし」
「なるほどな」

 と、エルドレーネ女王が愉快そうに笑う。公爵は何か得心顔で頷いているが……まあ気にしないようにしよう。
 目的はあくまで海王一派の討伐と、海の都の奪還だ。城ごと叩き潰すとか吹き飛ばすとかは再建が大変になるだけで良いことはないだろう。従って、破壊するとしたら効果的な場所を見定めて、ということになる。

 現地での戦況を見て、あれこれと判断を聞きながらというのは手間になってしまうし、今のうちにエルドレーネ女王に城の構造を聞いて、攻撃するべき場所に見当を付けておくというのがいいだろう。

 監視と訓練、武器の供給に様々な想定。やれることはやったという気がする。後は……動きを待つばかりだな。
いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます。

気が付いてみれば早いもので、お陰様で500話に到達できました。
ここまで長きに渡って続けることができたのも皆様の応援のお陰です。改めてお礼申し上げます。

50話ごとの節目ということでいつも通り401話から450話までの
初出の登場人物を活動報告にて纏めております。

また、活動報告の登場人物紹介記事もかなり増えて来たので、
(1)~(9)までの紹介内容をまとめた記事も用意しました。

人物紹介まとめは先々の登場人物もある程度分かってしまうので、
最新話付近まで読み進めている方向けかとは思います。
文字列検索などでご活用頂けましたら幸いです。
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