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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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479 セイレーン達の歓迎

 基本的な作戦を立てたところで……こちらの持つ戦力と、エルドレーネ女王達の持つ戦力を踏まえつつ、具体的にどう動くべきかを話し合ったり、こちらの立てた作戦の前提を覆してしまうような、発生しうる可能性の話を詰めていく。
 作戦会議は結構な長時間に渡ったが……まあ、作戦の基本的なラインがある程度纏まっているだけに有意義な話し合いになったのではないかと思う。

 そうして話し合いの内容も大分纏まってきたかなというところで、バロールとラムリヤを連れたエルハーム姫が槍の穂先をいくつか持って、宮殿へとやって来たのであった。

「おお、良く参られた、エルハーム殿下」
「はい。槍の穂先が幾つか出来上がったものですから、試していただきたく」

 エルドレーネ女王に迎えられて、エルハーム姫が笑みを浮かべる。槍を作ったはいいが効果がないようでは困り物だからな。これから更に数を作る前に実戦投入可能なものかどうかを実地試験してみようというわけだ。

「槍の試用に関しては実験に協力させて下さい」
「ふむ。では……早速試してみるとしよう」

 俺が言うと、エルドレーネ女王は頷くのであった。



 エルハーム姫の持ってきた槍の穂先は、ウェルテスらの使っていたトライデントの穂先と基本的には同じような作りをしている。エルドレーネ女王からグランティオスで使っている槍を借りて、構造を見ながら穂先を作ったからだ。これで穂先を交換すれば、すぐにでも使えるというわけである。
 宮殿の中庭に移動し……新しい槍が優先的に支給されるであろう腕利きの武官達に集まってもらう。ウェルテスもその中の1人に入っているようだ。

「さて……。皆さんには、新しい槍の穂先を使ってもらい、闘気を込めた状態で用意した的を攻撃してもらおうかと」
「ふむ。的……と申しますと……」

 武官達はやや怪訝げな面持ちだ。槍はあっても的らしきものが用意されていない、ということだろう。

「今から出します。調整しますので、少々お待ちを」

 そう言って――ウロボロスから凝縮した魔力を展開して固めて壁状に作り上げると、武官達が目を見張った。
 問題は強度調整だな。魔力壁に打撃等を叩き込み、感触や強度などが鮫男に近くなるよう微調節を加えていく。拳足に魔力を込めて魔力壁に攻撃を加えると、スパーク光が弾けた。

 奴と戦った際に打撃や魔力衝撃波などを叩き込んでいるし、捕虜にした後で循環錬気でも調べている。そこから得られた情報を元に「この程度の強度の魔力壁が抜ければ海王の眷属達に通用するだろう」というラインを見出していくわけだ。
 まあ……あの鮫男の全体での実力が掴めない以上は、奴の強度よりは若干上回る程度というのが望ましいだろう。

「お待たせしました。どうぞ」
「は、はい」

 納得のいくところまで調整を加えてから、武官達に譲る。

「調整はしましたが……実戦だと思って、しっかりと闘気を込めた一撃をお願いします。半端な攻撃だと槍が壊れるかも知れませんよ」
「む」

 少し戸惑っていた武官達であったが、俺の言葉に表情に気合が入る。

「では――まずは我から行こう」

 他の武官達に言ってウェルテスが一歩前に出た。少し離れた位置で槍を構える。
 全身から立ち昇る闘気がそのまま、手にした槍へと及んでいく。
 鮫男は体表に闘気を纏うことで防御能力を強化していたわけだが……それに武器を叩き付けて攻撃を通そうと考えるのならば、攻撃側にも相応の闘気の質なり、武器なり、勢いなりが求められてくるというわけだ。

 互いに闘気で身体能力や武器を補強することで初めて、闘気をぶつけ合うような攻防が可能となる。半端な攻撃を繰り出すと、押し負けてしまって武器に負荷が集中し、破損してしまう結果になる、ということが考えられる。

 その点で言えばウェルテスは――気合十分と言った様子である。研ぎ澄まされた闘気が槍の穂先に集中。踏み込んで一気に槍を魔力壁へと叩き込めば――。

 軋むような音を響かせて、魔力壁の向こう側へと槍の穂先が飛び出していた。
 しかし、槍を叩き込んだウェルテスのほうが、少し驚いたような表情を浮かべている。

「お見事です。どうかなさいましたか?」
「いえ……。この魔力の壁の感触に、少し驚きました。もう一度、武器を変えて試してみても?」
「どうぞ」

 ウェルテスはまだ穂先の交換が終わっていない槍に持ち替えると、先程同様に闘気を集中させて一撃を打ち込む。
 今度は――魔力壁に阻まれて槍は通らなかった。だが、ウェルテスは確信を得た、というように頷いている。

「やはり……。海王の眷属に槍を叩き込んだ時と、手応えが非常にそっくりなのです」
「だとすれば、こちらとしても狙い通りではあるのですが」

 戦闘や循環錬気で得た情報をオリハルコン側が記憶していて、俺の意図をくみ取って補助をしているというのもある。その分、実験用としては強度も近いものになれば良いとは思っていたが……海王の眷属と戦闘経験のあるウェルテスの印象や、槍の交換での結果の違いで、色々と裏付けになったと言えよう。

 これ以上を望むのならばアイアノスの牢に捕えられているあの鮫男本人を引っ張り出してきて、封印術を解除した上で実験台にでもなってもらわなければならないが……それは流石に寝覚めが悪いし、必要な情報も既に奴からは絞り出しているからな。
 では、このままウェルテス以外の面々にも槍の使用感を試してもらうとしよう。
 そうして……しばらく試験運用を続けたところで、その結果を見たエルドレーネ女王が静かに頷く。

「――ふむ。槍の穂先に関しては良いようだな。長期的に騎士達の装備としての運用を考えるなら海水による腐食を防ぐため、塗料を塗らねばなるまいが……いずれにせよ作戦には支障あるまい」

 武官達でも腕利きが使っているからというのもあるが、エルハーム姫の作った槍の穂先は概ね満足の行く結果を上げている。実戦では個体差や駆け引きなどもあるからそう単純なものでもないが、少なくとも攻撃が通用しないために一方的な展開になるということは無くなるだろう。

「では、この調子で槍の穂先を量産したいと思います」

 と、女王の言葉を受けて、エルハーム姫は笑みを浮かべるのであった。



 さて。武器に関しては概ね満足の行く結果となった。後は作戦開始まで準備を進めつつ、海王の派遣してくる偵察隊などに注意を払っていくという形になるだろう。
 狩りや交易によって食料や物資の調達が必要になるため、エルドレーネ女王達としてもその時が来るまでアイアノスに篭っているというわけにもいかなかったそうだが……ロヴィーサ達はそういった理由で外に出ている時に海王の眷属に見つかってしまったというわけだ。
 ウェルテスら武官と水守りであるロヴィーサが調達隊に同行していたというのも安全のためではあるのだが……初めに兵士達が蹴散らされてロヴィーサが手傷を負ってしまったために、水守りが攻撃を行うまでの時間稼ぎという形に持ち込めなかったらしい。

 市場も開いているように思えたが、あれはアイアノスに潜伏しているので配給という形を取っているそうだし。
 まあ、そんなわけで。食料や物資の調達を行いたいならば、明日以降はシリウス号を使って公爵領と行き来をすれば安全な交易が可能となるわけだ。
 その際、影響が予想され得る海路への注意喚起の通達であるとか、ロヴィーサ達が敵に捕捉された海域近辺の確認であるとかを行ってくれば一石二鳥というわけである。

 偵察の鮫男が帰ってこないことが向こうに伝わり、その次の手駒が派遣されてくるまでの間隔で、連中の情報伝達速度と移動速度にも見当が付く。その連中を潰したところで、準備のための猶予期間を見極めて反攻に出るというわけだ。

 作戦会議や槍の試験運用も終わり、明日からの予定が決まったところで、シリウス号を停泊させている広場まで戻ってくると、何やら人だかりができていた。集まっているのはマーメイド……ではなく、セイレーン達か。
 アイアノスに来て色々見せてもらったおかげで、片眼鏡に見える魔力の波長で人魚の種族に見分けが付くようになってきた。

「ああ。ユスティアさんのお知り合いのようですね」

 と、グレイスがそう言って笑みを浮かべた。
 人だかりの中心にはユスティアとマリオン、それにドミニクにシリルがいて、何やら和気藹々とした様子である。

「ご家族やお友達でしょうか?」
「かも知れないわね」

 アシュレイがその光景に目を細め、クラウディアが口元に笑みを浮かべて頷く。
 見れば、ユスティアは色々なセイレーンと手を取り合ったり抱擁し合ったりしている。家族や親戚、友人達との再会といった雰囲気だ。

「あっ。テオドール様達です」

 こちらに気付いたマリオンが、笑みを浮かべて手を振って来る。セイレーン達もその言葉に、こちらへ振り返った。

「ユスティアを助けていただいたそうで……」
「ありがとね!」

 と、広場に到着するとセイレーン達から笑顔で感謝の言葉やら挨拶やらの歓迎を受けてしまう。
 握手を求められたり、その喜び方はかなりのものだ。マルレーンと子供のセイレーンが笑顔で握手を交わしたりしている横では、ローズマリーが些か対処に困っている様子が窺える。結局羽扇で口元を隠しながらも握手に応じたりしていたが。

「アウリア様も、ありがとうございました」
「儂は……あまり大したことをしておらんがのう。職員達が優秀じゃからじゃな」
「いえ。早くから冒険者ギルドの方針を明確にして下さったとお聞きしています」

 アウリアもセイレーン達に囲まれてお礼を言われているようだ。
 まあ、トップがアウリアだからこそ、という部分はあるだろうな。確かに。

「今ね。明日から呪曲の練習を一緒にしようって話をしてたんだ」

 少し落ち着いて来たところで、ドミニクが嬉しそうに言った。

「それはいいかもね。こっちは気にせず行ってくると良いよ。何なら移動中の護衛もつけるし」
「うんっ。ありがとう」

 俺の返答にドミニクは明るい笑みで頷く。
 昼間もセイレーン達の歌声が聞こえて来たしな。アイアノスの街のどこかで歌を練習していたのだろう。とはいえ、町中での練習であるため、歌に魔力は込めていないのだろうが。

「シーラとイルムとセラフィナも練習を見てくる?」
「ん。それじゃあ。でも、作戦の時はみんなと前に出る」
「ありがと、テオドール君。そうね。私もシーラちゃんと一緒かな。作戦の時は普通に戦うわ」
「私も。船の外で音を操ったほうが役に立てそうだもん」

 尋ねると、3人とも頷きつつもそう言った。

「テオドール様達もお時間があるようでしたらご一緒に如何ですか? 町の外れに、他の集落のみんなも集まっているのです」

 と、マリオンが言う。

「練習のお邪魔にならなければ」
「勿論、邪魔になんてなるはずもありません。是非お越し下さい。お忙しいのは承知していますが、もっときちんとお礼も言いたいですから」

 ふむ。では……明日は、みんなで少し顔を出してみるか。
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