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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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473 セイレーンとの語らい

 エルドレーネ女王がシリウス号の中を見たいということなので、セイレーン達が広場まで来るのを待つ間、ロヴィーサ達共々船内を案内することにした。
 船内は空気が満ちていて泳げないので人魚達には向かないが、そこは流石に女王と水守りと言うか。水の絨毯のようなものを浮かべ、その上に乗って移動することで陸上でも問題なく活動可能なようだ。

「まあ、人化の術も使えるのだが……。この衣服はあまりそれには向いてはおらんのでな」

 と、エルドレーネ女王は言っていた。
 女王は水蜘蛛の糸で作ったドレスを着ているが……今の服装のままで人化の術を使うと、足をかなりの部分露出してしまうことになりそうだし、靴も用意していないからな。
 宮殿に戻れば用意もあるのだろうが、普段は海中で暮らしているだけにシリウス号見学というのが想定外なのだ。広場までの外出程度では持ってこなかったということだろう。
 まあ、2人とも活動には支障がないようなので、そのままシリウス号の設備などを案内していく。

「この船にある設備は、セイレーン達と相性が良さそうに見えるが」
「そうですね。恐らくはそうした狙いでも使えるかなと」

 女王が興味を示したのは音響砲と伝声管である。音響砲はその性質が固定なのでともかくとして、伝声管ならばセイレーンの呪歌を船の外部に届かせるのに効果的だろう。
 音響砲に組み込まれた技術の根幹にあるのはセラフィナの能力だ。セラフィナとセイレーンの能力を併せれば色々と面白いことができそうだとは思う。後で少しばかり連携を試してみるのも良いだろう。

 ある程度船内設備を案内して回り、艦橋で話をしていると、広場へウェルテス達が戻ってくるのがモニターの遠景に見えた。後ろに人魚達の団体を連れているが……あれはマーメイドではなくセイレーンの集団だろうか。

「どうやら連れて来たようだな」

 では、外に出て話を聞いてみるとしようか。



「あらあら。この子は石を食べるのね。面白いわ」
「陸の生き物……面白い。毛がふわふわしたり、光ってたり……」
「こっちの子は身体が硬くて鮫みたいよ」
「この子も……石みたいだわ」

 外に出ると広場では動物組が人魚や半魚人達に囲まれているところだった。
 アイアノスの住人達が興味津々といった様子だったのでエルドレーネ女王を案内している間に交流もと考えたのだが、中々好評なようだ。
 大人もいるが、子供も多いな。内訳としては大人も子供も混ざっているのが人魚達。子供が多いのが半魚人達といったところか。大人の半魚人は人魚と子供達の交流の様子を、一歩離れたところから微笑ましい物を見るように眺めている印象であった。

 シリウス号の脇に腰かけて、人魚から鉱石を食べさせてもらっているコルリス。
 ラヴィーネとアルファ、それにピエトロとフラミアは子供に抱き着かれてたり撫でられたりしている。
 手に乗せられて撫でられているラムリヤに、興味深そうに鱗に触れられているリンドブルム。それに、エクレールの金属の身体も興味の的らしい。
 カドケウスは女王の近辺の護衛中で交流には不参加ではあるが……バロールはステファニア姫の肩で人魚達の注目を集めている。

「この子の背中は大丈夫?」
「ええ。コルリスは大丈夫よ」

 ステファニア姫が笑みを浮かべて答えると、人魚の子供達がコルリスの背中に乗る……というよりは抱き着いていた。話の流れからするとリンドブルムの背中に乗るのは遠慮してもらっているというところだろう。
 セラフィナは人魚の子供達と広場を楽しそうに泳ぎ回っているようだ。シオン達、オスカーとヴァネッサ、レスリー達も海底都市を興味深そうに見たり、人魚や半魚人達と和やかに言葉を交わしている。

「ふむ。海王からの避難生活で暗い表情をしている者が多かったが……良い気分転換になっているようだな」

 それを見たエルドレーネ女王が目を細めて言った。……そういった住民達の心情は、纏め役としては気になるところだろうしな。

「あ、陛下!」

 人魚の子供がエルドレーネ女王を見て笑みを浮かべると、他の者達もこちらに視線を向けてくる。エルドレーネ女王は「うむ」と頷いて甲板から小さく手を振る。
 と、丁度そこにウェルテス達と共にセイレーンの一団も到着したらしい。

「ユスティア殿の親族や友人をお連れしました」

 ウェルテスとソルギオルも頭を下げてくる。

「うむ。ご苦労であった」
「これは陛下。その……地上からいらっしゃった方が、ユスティアの居場所を知っていると伺ったのですが」

 そう言ってきたのは、セイレーンの一団の中の1人であった。セイレーン達は広場に到着してもユスティアのことが気になるのか、少し所在なさげにしていた。
 代表して話しかけてきたのは髪の毛をアップに纏めた、落ち着いた雰囲気のあるセイレーンだが……容姿などがユスティアに似ているようにも思うのは気のせいというわけでもあるまい。

「うむ。現在はタームウィルズにいるそうだ。ヴェルドガル王国の異界大使、テオドール殿が、魔人を含む悪党共に囚われていたユスティア嬢を助け出したということらしい」
「ご紹介に与りました、テオドール=ガートナーと申します。結論から言いますとユスティア嬢には怪我もなく、今はタームウィルズで元気にしています」

 ユスティアについて一番知りたがっているであろう情報をまず伝えると、そのセイレーンは安堵したような表情を浮かべ、目を閉じて胸を撫で下ろしていた。後ろに控えていたセイレーン達も顔を見合わせて明るい表情になる。

「……ユスティアさん、良かったです」

 そう言って、グレイスが目を細め、アシュレイとマルレーンも嬉しそうな笑みを向けあう。そんな2人を見てクラウディアも穏やかに笑った。
 ローズマリーは羽扇で口元を覆っているが……機嫌は良さそうだ。
 うむ。では、もう少し詳しくセイレーン達に話をするとしよう。

「さて。詳しく話をしたいのですが……」

 内容が内容なので落ち着いた場所が良かろうと思うのだが。悪い知らせというものではないのでここでも構わないような気もするが。

「もう少し落ち着いた場所でというのなら、甲板でというのはどうかな。セイレーン達も作戦に加わる故、シリウス号については知っておいてもらいたい」
「分かりました」



 というわけで、セイレーン達も甲板に移動してもらって簡単な自己紹介をしてから話の続きをすることになった。
 セイレーンの代表はマリオンという名前だそうだ。ユスティアの、歳の離れた一番上の姉だそうで、現在はセイレーンの一部族を纏める立場にあるそうである。

 互いに自己紹介が終わったところで、詳しい経緯を聞かせる。誘拐事件のことや、その後冒険者ギルドで保護されたこと。今はイルムヒルトやドミニクと仲良くなり、ギルドのオフィスで治療班の手伝いをしていること等々。基本的に安全なところで仕事をしているので怪我等の心配はないことを伝えていく。

「ヴェルドガルでは、そういうのは禁止されているから……テオドール君が助けてくれなかったら、危うくどこかの外国に売られてしまうところだったのかも知れないわ」

 イルムヒルトが当時のことを思い出しながら言う。

「連中は捕まえて来た人達を商品として見ていたので、傷付けたりだとか手荒な扱いはしなかったようです。このあたりは魔法審問で得られた情報なので間違いないでしょう。事件に絡んでいた魔人にとっては……召喚魔法や転移魔法の実験のついでだったのかなと思いますが」
「良かった、ユスティア……」

 マリオンは安心したという様子で目に涙を浮かべながらも微笑んでいた。シーラも当時のことを思い出したのか、マリオンの反応に目を閉じて頷いている。
 事件解決後に誘拐犯達から魔法審問で絞られた情報によれば、規律が乱れていると事態が発覚しやすくなるとリネットが考えていたそうで。
 方針に逆らった者はリネット自身の手で容赦のない制裁をされたそうだ。まあ……奴が魔人であることを考えると、それで部下達からも効率良く恐怖の感情を集めていた側面はあるのだろう。あいつ自身正体を隠して潜伏していたので、事態の発覚を避けるためというのは建前でもあり本音でもあったのだろうが。
 ともかく、魔法実験の副産物であれど、商品は商品としてきっちり線引きをさせていたらしい。

「それで……今はギルドの仕事を手伝う他、シーラやイルムヒルト、ドミニク達と共に劇場で歌を聴かせたりしています。呪歌や呪曲でなく、普通のものですが」

 と、話すとマリオンを始め、セイレーン達の目が丸くなった。

「それは……少し羨ましいかも知れません」

 と、マリオンは顔を見合わせている仲間達を少しだけ振り返って、苦笑しながらそんなことを言った。これは自分達の性質を自覚した上での発言なのだろう。

「その、私達の種族的な部分なので理解しにくいかも知れませんが……一緒に歌を歌える友達がいて、歌を聞いてくれる人もいるというのは、理想的な生活ですから」
「そうらしいですね」

 と答えると、マリオンは些か恥ずかしそうに恐縮している様子であった。

「これから、ドリスコル公爵の領地に向かい、転移魔法の拠点を増やしてしまおうと考えています。その際……ユスティアに引き合わせることもできるかなと」
「本当ですか?」

 マリオンが表情を明るくする。
 この後は本来の予定通り、公爵の本拠地に飛んでそれからタームウィルズと連携して海王対策の準備を進めていきたい。

「もし良ければ……私も連れて行ってもらうことはできますか?」

 と、マリオンが言う。今の時期、ユスティアにこっちに来てもらうというのは……心配なのかも知れない。今までの話を自分の目で確かめたいというのもあるだろう。セイレーンに話をして貰って安心してもらうためにも、マリオンには同行してもらうのが良いのかも知れないが。

「どうでしょうか、陛下」
「許可しよう。妾は今、ここを離れるわけにはいかぬが」

 エルドレーネ女王の意見を伺うと、頷いた。

「では、なるべく急いで動かねばなりませんな。本来なら領地を挙げて盛大に歓迎と行きたかったところですが……」

 公爵が腕組みをしながら唸る。

「ではそれは……海王絡みの事件が解決してからでしょうか」
「ふむ。その時は盛大に陸と海とで祝宴を開くとしましょう」
「それは良いな。楽しみにしている」

 と、エルドレーネ女王は笑みを浮かべるのであった。
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