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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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461 白い港町

 さて……。ゴーレム達の放つ水の弾幕を回避する訓練、ということで、甲板に出て訓練を行いながら南西部への旅を続けているが……シオン達は流石だな。
 十字砲火や偏差射撃。それらを反射神経と持ち前の運動能力で回避することが可能な様子だ。結構な難易度の弾幕を突破してゴーレム達に肉薄してくる。

 3人がそれぞれ別々の軌道を描き、ピンボールのように迫って来る。基本的スペックの高さに物を言わせた力技による回避とでも言えばいいのか。更に互いの動きを見てから自分の動きを変えている。その動きは動物的というか直感的ではあるが動きの早さから幻惑効果も高く、相対する側は弾幕を張るのが中々難しくなる。普段から3人で狩りをしていたから、呼吸がぴったりだ。だが――。

「っと!」

 シオンが途中から拡散した水弾に驚きつつも、正面に来たものを魔力を纏った剣で切り散らして突破する。後続のシグリッタへの弾丸も同時に斬り払っているのはアドリブとしては上出来ではあるな。
 シオン達に必要なのは――搦め手への対処や相手の攻撃のちょっとした変化の見切りだ。
 こちらも軌道を予測して偏差射撃や先行する弾丸の陰にブラインドの弾丸や、眼前で爆ぜるスプレッド――散弾を混ぜることで、訓練の難易度を上げていく。

 スプレッド弾は普通の水弾と少しサイズが違うという特徴をつけてある。実際、瘴気弾であれ魔力弾であれ、質量が無いと拡散しても威力が弱まるからだ。
 搦め手への対処を学び、敵の攻撃の中からちょっとした違和感を見出して警戒ができれば、反応速度を逆手に取られたり、スペックの高さから来る動きの甘えも無くしていくことができる、というわけである。これらは恐らく迷いの森にいた魔物達相手では学べなかった部分だろう。

 一方で――ステファニア姫とアドリアーナ姫に関して言うのなら、弾幕に対応はしていてもシオン達とはまた異なる方向性である。
 つまり、弾幕に対して魔法で応射して撃ち落とすことで突破口を見出したり、離れた位置に多重シールドを展開して勢いを殺し、着弾を遅らせることで回避する、という方法になるわけだ。

 元々王族でありながら魔法が使えるということで、レビテーションを用いた大跳躍などの回避方法は学んでいたようだし、体術として護身術の類も身に付けている。
 ステファニア姫とアドリアーナ姫ではそれぞれ技術体系が違うようにも見えるが、動きが画一的でないというのは相手側も対処しにくくなる部分もあるし、或いは齟齬から突破口を見出されてしまうこともあるだろう。訓練を通してそういう部分の穴埋めをしていければ上々と言える。

「アドリアーナ!」
「ええっ!」

 正面から迫る弾幕に対してマジックスレイブからシールドを複数展開して防御。ステファニア姫の合図と共に、マジックサークルを展開していたアドリアーナ姫がゴーレムに向かって火線を放つ。
 当然、距離を置いての射撃戦なのでゴーレム側も回避可能ではあるが――直線的な火線を回避したその瞬間に、火線がアドリアーナ姫の制御に従い、爆発を起こす。
 刹那の時間差。展開していたステファニア姫のマジックスレイブから多数の石の弾丸が一斉に放たれて、爆風を浴びたゴーレムを撃ち抜く。

 中々良い連携だ。それに、アドリアーナ姫は展開していたマジックサークルとは違う魔法を放った。展開したマジックサークルは見せるためだけ。実際に行使したのは無詠唱の火魔法というわけだ。行使する魔法の偽装1つとってもなかなか手が込んでいる。
 ステファニア姫が防御役、アドリアーナ姫が攻撃役と役割分担することで集中を要する行動も取れるというわけだな。

 これで実戦では騎士達が前衛になったり、使い魔達が援護役として加わるわけだから、突破は難しくなるが……今回の訓練ではそれが望めない状況を想定している。
 相対するアクアゴーレム達の中に水の剣と盾を装備する者が現れる。突撃役と支援役に分かれたことに気付いた2人は、表情を険しくしてマジックサークルを展開した。
 大きめのマジックサークル。威力の高い魔法をこれ見よがしに用意することで突撃役の動きを抑止させるというわけだ。実際に突っ込まれても事態を打開しうる。
 だが恐らく、2人の内どちらかは別の役割を負う形なのだろう。ステファニア姫とアドリアーナ姫は戦略的に動く印象があるな。

 さて。こちらとしてもシオン達とステファニア姫達がぎりぎり対応可能なラインを見極めつつ難易度を上げていくとしよう。

「……いやはや。こうして高度な体術と魔法が飛び交う訓練風景というのは見ているだけでも刺激というか勉強になりますな」
「空中戦装備は今後は標準になってくるでしょうからな。旧来通りの戦術というのは通用しなくなる時が来るでしょう」

 こちらが訓練をしている傍らで、甲板には大公と公爵一家も足を運んでいて、それを真剣な表情で見学している。
 2人にとっても今後を占う上で他人事ではないのだろう。空中戦装備が普及すればそれに合わせて用兵も変わるし、それに対応する方法も考える必要がある。

 見学している面々は、更に俺達のパーティーに加えて、コルリスやフラミアもだ。甲板のスペースが足りないから全員一度にというわけにはいかないが、もう少し続けたら休憩を入れて交代という形にするとしよう。

 と、そのまま訓練を続けているとエルハーム姫が甲板に上がって来た。鍛冶仕事用のゴーレム達も一緒だが、その手には二揃いの金属鎧が抱えられている。

「ああ、それはステファニア殿下とアドリアーナ殿下のお2人に?」
「そうですね。以前から作っていたお2人の鎧が仕上がりました」

 声をかけると、そう言ってエルハーム姫は笑みを浮かべる。金属鎧はエルハーム姫の担当。一方、タームウィルズの工房ではアンフィスバエナの素材を使って、鎧の下に着る軽量な防護服を作っていくというわけである。

 ゴーレムの手にしている鎧は首、胸部、腰周りなどを要所要所の防御力を高めながら、動きの邪魔にならないように考えて作られている印象だ。防護服とセットで運用することで堅牢さと可動性を両立させているのだろう。
 素材は軽量なミスリル銀を元にしているが、何やら金属の表面に複雑な波紋模様が浮かんでいる。エルハーム姫の持つバハルザードの技術もしっかり取り入れられているというわけだ。

 胸部や手甲、脚甲に魔石が組み込んであるのは……アルフレッドの手によるものだ。魔道具一体型だ。
 ふむ。良い頃合いだし休憩と行くか。



 早速ステファニア姫達は鎧を試着してみることにしたようだ。ドレスの上から着られるようにデザインされているらしい。ステファニア姫とアドリアーナ姫の装備はそれぞれ細かな意匠が異なるが、全体としては対になっていることが分かる。
 実用的で人目を惹きつつもヴェルドガルとシルヴァトリアの結びつきを意味している。それを作ったのがバハルザードのエルハーム姫なので、3国の友好の意味合いもあるだろう。
 鎧一式を装備したステファニア姫とアドリアーナ姫を見て、マルレーンが嬉しそうな表情を浮かべて小さな手で拍手する。2人はそんなマルレーンを見て相好を崩した。

「動きにくい部分などはありませんか?」

 エルハーム姫に問われ、肩を回したり腰を捻ったりして鎧の可動域を確かめてから答える。

「大きさもぴったりね。軽くて動きやすいわ」
「不意打ちを防いでくれる、という話だったかしら?」
「はい。マルレーン様とクラウディア様のお力によるものですね」
「見た目にも良い鎧ね。すごいわ」
「ありがとうございます」

 月女神の守護が組み込んであり、意識の外から飛んでくる攻撃に対してオートでマジックシールドを展開する……と。素材や構造以上に防御能力は高い。後衛用の鎧としてはかなり理想的だろう。ステファニア姫達も気に入ったようだ。

「この分なら将兵の士気も上がりそうね」
「ありがとう、マリー。そうだと良いけれど」

 羽扇で口元を隠しながらローズマリーが言うと、ステファニア姫が嬉しそうに頷く。

「さて……。一休みしたら次はシオンさん達の鎧でしょうか」

 エルハーム姫はその反応に満足したのか、上機嫌な様子である。

「いや、楽しみです」
「……エルハーム殿下の作る鎧……好きだわ」
「うんっ。格好いい!」
「ふふ。頑張らせていただきます」

 シオン達もテンションが上がっているようだ。

「ところで、船内の作業場の使い勝手はどうですか?」
「良いですね。船が傾いても道具は転がらないようになっていますし、私の定位置も周囲にマジックシールドを張れるようになっていますので、安心しながら作業に集中できます」
「まあ……移動しながらというのは次善の策と考えていますが」

 基本的には船を止めて現地で修復、という運用方法を想定している。通常飛行はまだしも、戦闘機動を行いながら作業というのは流石に無理があるし。
 とりあえず船内の施設に不備はないようなので、またアルフレッドやビオラにも使ってもらって改良点を見出して行けば良いだろう。

「あ。港町が見えてきました」

 と、グレイスが言う。
 グレイスの指差す方向を追って甲板から遠くを見やれば――海岸線に真っ白な建材で作られた街が見えた。

「綺麗な街……」
「ありがとうございます、アシュレイ様」

 アシュレイが呟くとヴァネッサが嬉しそうな表情を浮かべた。
 地形を活かし、陽光をたっぷり受けられるような立地に作られた港町だ。
 タームウィルズからもそれなりに南下しているので、植生も南国に近いものに変わってきている印象があるな。暖かい地方の港町か。海の青と相まって、とても爽やかで開放的な印象を受けた。
 シリウス号は速度と高度を緩やかに落としながら白い港町へと向かって進んでいくのであった。
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