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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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460 冬の旅路

 それぞれの馬車に分乗し、公爵家別邸から西区にある造船所へ向かう。

「近くで見ても綺麗な船ですわね」

 造船所に着いて馬車から降りたところで……ヴァネッサがシリウス号を見上げて、目を細め、呟くように言った。

「まさか、飛行船に乗って帰れるとは思わなかったね」

 オスカーが言うと、ヴァネッサは嬉しそうに笑みを浮かべて頷く。
 コルリスのための鉱石だとかリンドブルム用の食料といった物も既にシリウス号の中に積み込んであるので、後は俺達の持ってきた手荷物を運び込むだけという状態だ。

 今回の旅は要人が多いが、大公家と公爵家の使用人も一緒に帰途に就くために、操船以外に俺達がすることはほとんどないと言っても良い。両家の使用人は合わせて8人。まあ、不足ということはあるまい。

 というわけで、馬車から荷物を降ろしてシリウス号に積み込んでいると、アルファがいつの間にか甲板の上に姿を現していた。
 クラウディアが隣に浮かばせているケルベロスの黒い魔石を見ていたが、ゆっくりと回転している魔石が静かに明滅すると、アルファは静かに頷くような動作を見せて、艦橋の中へと戻っていった。

「意思の確認は済んだというところかしら?」

 と、アルファの背を見送って、少し首を傾げながらクラウディアが言った。

「アルファとしては、ケルベロスがこっち側にいることが確認できればそれでいいってことかな」
「かもね。多少はお互い意識しているようにも見えたけれど」

 殊更馴れ合うわけではないが、仲間意識もそれなりにあるようにも見えた。まあ、元々同僚で、また近い立場になったわけだしな。
 とりあえず、敵意を向け合うというわけでもないし、俺としてもそれで構わないということにしておこう。

 甲板で待機していたリンドブルムのところまで行き、首のあたりを撫でてやるとリンドブルムも軽く喉を鳴らして頷き、コルリスと共にシリウス号の中へと入っていった。

「ではエリオット兄様。行って参ります」
「ああ。気を付けて行ってくるんだよ」
「はい」

 造船所にはメルヴィン王と共に、エリオット以下、討魔騎士団の者達数名が見送りに来てくれている。アシュレイと言葉を交わすと、エリオットは俺のほうへとやってきた。

「留守中の討魔騎士団と、タームウィルズの守りはお任せ下さい。道中お気をつけて」
「はい。エリオット卿も無理はなさらずに。何かあったら通信機で連絡を下さい」
「分かりました」
「まあ、シリウス号なら移動にもそれほど日数もかかるまい。少しは羽を伸ばしてくるというのも良いのではないかな」

 と、メルヴィン王が楽しそうに笑う。

「ありがとうございます。そうですね。多少は、ということで」
「うむ」

 笑みを浮かべるメルヴィン王に頷いて、一通りの挨拶を済ませたところで出航の準備を進めていく。手荷物の積み込み忘れや、物資に不備がないかの点検。

「両家の使用人達の船室への案内や、諸注意はアンブラムに任せてもらっても良いかしら?」
「分かった。それじゃあ、手荷物はそっちに運んでもらうということで」
「ええ」

 ローズマリーは頷くと、使用人の姿をさせたアンブラムを制御して、両家の使用人達に船室への案内を開始した。
 要人の船室へ案内は……俺の仕事という感じかな。では、大公と公爵一家を船室へと案内してしまうことにしよう。



「この船室をお使いください。手荷物を置きましたら、艦橋までどうぞ」

 まずは大公や公爵の貴賓室への案内から。ステファニア姫、アドリアーナ姫、エルハーム姫は3人同室で良い、ということだそうで。

「内装も凝っておりますな」

 大公が船室を見て感心したように言う。公爵も真剣な表情で見回して頷いていた。

「私は……みんなと同じ部屋でも良いかしら?」

 部屋の設備などを伝えているとマールが言った。
 マールの言うみんな、というのは、つまり俺達と同室ということだろう。

「構いませんよ。僕達と一緒ということなら、基本的には就寝時以外は艦橋で過ごすことになるかと思いますが」
「ええ」

 マールは笑みを浮かべて頷く。
 さて。案内と必要事項を伝え終わったところでいよいよ出航だ。みんなと共に艦橋へ戻り、最終確認として乗り忘れがいないかの点呼を済ませ、操船席についてシリウス号を起動させる。

「おお……。これが……」

 艦橋内部の各種モニターが外の景色を映し出すと、公爵が感嘆の声を漏らした。
 みんなが椅子に座っていることを確認し、ゆっくりとシリウス号を浮上させると、それに合わせて周囲の景色も動いていく。
 オスカーやヴァネッサは歳の割に落ち着きがあるが、この時は目を輝かせてモニターからの風景に見入っていた。そんな2人を穏やかな笑顔で見守るのはレスリーである。

 シオン、マルセスカ、シグリッタの3人も、モニターからの眺めが好きなようで、既にお気に入りの場所に固まってモニターを操作したりしているようだ。
 ステファニア姫とアドリアーナ姫は――ピエトロに、モニターの操作を実演して見せている。その後ろからマールが興味深そうに覗き込んでいた。

「このような大きな船が空を飛ぶとは……凄いものですなあ」
「私も、最初に見た時は驚きました」

 ピエトロの言葉に、エルハーム姫が笑みを浮かべた。

「では、参りましょうか」

 そう言ってシリウス号を動かしていく。高度が安定したところでステファニア姫やアシュレイが甲板に移動。見送りに手を振りながら造船所を離れ、ゆっくりとした船速でタームウィルズを出発する。
 手を振り返す見送りの面々と共に、王城セオレムとタームウィルズの街並みも段々と小さくなっていくのであった。



 光を受けて輝く海原。海岸近くの陸地を続く街道。
 冬ではあるが良く晴れた日で、高所から見る海岸沿いの景色はとても綺麗だ。イルムヒルトが艦橋で音楽を奏で、その音色に大公は静かに聞き入っている様子であった。
 艦橋ではアシュレイやマルレーンが楽しそうにラヴィーネやフラミアをブラッシングしていたりと、外の景色の良さも相まって実にのんびりとした雰囲気である。
 モニターを見れば……シオン達はコルリスに鉱石を食べさせに行っているようだ。

「お茶が入りました」

 と、操船席へグレイスが木製のカップに注いだ飲み物を持って来てくれた。昨日の内に用意してくれていたらしい焼き菓子も一緒だ。

「ありがとう」
「はい」

 受け取って笑みを返すとグレイスは嬉しそうに頷いた。
 お茶請けに焼き菓子を齧る。香ばしい風味と程良い甘味が口の中に広がる。紅茶の風味と相まって、中々優雅な気分である。

「このまま海岸沿いを進む?」

 と、シーラが尋ねてくる。

「そうだね。航路としては――南西方向へ進んでから、西の海へと出る予定かな」

 つまり、このまましばらくは海岸沿いの街道を飛行する形になる。

「ふむ。公爵家の海岸沿いの領内で、一番大きな港町から、ということになりますな」

 公爵が地図を見て言った。
 その理由は……まあ、ヴェルドガル各地で大公家、公爵家の和解をアピールするという狙いがあったりするわけだ。大きな拠点の月神殿に立ち寄るという目的もあるが。

「そうですね。街や村の近くを通過する時は、速度と高度を落とす予定です」
「存じております。陛下とも打ち合わせておりますゆえ」

 公爵が頷く。甲板に出て軽く挨拶をしながら進むというわけだ。

「普段の飛行中は甲板に出ても大丈夫なのですか?」

 やはり外が気になるのか、モニターを眺めていたヴァネッサが尋ねてくる。

「比較的低速で揺れないように飛行していますが……甲板に出る際はレビテーションの魔道具を身に着けていって下さい」
「分かりました」
「外は寒いんじゃないかな? 船室から上着を取って来ようか?」

 と、ヴァネッサにオスカーが言う。

「ああ。風は防いでいるのでそれほどでもありませんよ。どちらにしても、もう少ししたら甲板で訓練を始めようかと思っていたところです。その際、転落防止のために全面をマジックシールドで覆いますので……甲板に出るのは、それからのほうが良いかも知れませんね」
「分かりました。では、その時に。訓練の邪魔にはならないように致します」

 ヴァネッサは俺の言葉に頷いた。まあ、ゴーレムの射撃は訓練用なので当たっても痛くもなんともないが……流れ弾がぶつかるのは気分も良くないだろうし、訓練用のスペースもマジックシールドで覆ってしまうのが良いのかも知れない。

「それじゃあ……少しアルファに任せてもいいかな。海岸沿いをこの速度を維持して飛んで欲しいんだけど」

 艦橋の一角に鎮座しているアルファに言うと、俺の目を見ながら静かに頷いてくる。

 シリウス号は出力制御で高度や姿勢、進行方向の決定や速度の維持をしているので、そのあたりをアルファ自身に制御してもらえば、乗組員がいなくとも飛行は可能である。

 だが、そのためにはまず、通常飛行の出力制御に慣れてもらう必要があった。アルファにとってもシリウス号というのは新しい器であるので、どこをどのようにすれば船がどう反応するのかの学習をしてもらう期間が必要だった、と言い換えても良い。

 何度かの航行を経た後で、アルファによる操船の実験も済ませている。安定飛行に不安はないし、カドケウスを操船席に残して補助してやるだけでも不測の事態には対応可能だ。
 まあ、元々空を飛べたことを考えれば、操船に向いていないはずがない。特にアルファ自身の反応速度であるとか平衡感覚だとかは折り紙付きだ。狼であることを考えれば方向感覚も鋭いはずである。

 進行方向についても海岸沿いを進んでいるので外れればすぐに分かるし、アルファが迷うということもないだろう。
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