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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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458 ケルベロスの行先

「――そうですね。さっきお風呂で少しシーラさんとも話をしていました」
「ん。みんなに防具が行き渡るといいなって」

 グレイスとシーラは顔を見合わせて頷く。
 火精温泉の休憩所にみんなで集まり、装備品についての話をしているわけだが……俺達のパーティーは水竜の鱗を使った装備が行き渡っているので、皆が希望する防具を作ったとしてもアンフィスバエナの素材は殆ど減らないだろう。

 そうなると素材の使い道は……討魔騎士団の主だった者、フォルセトやシオン達、それからメルヴィン王始め要人達の防具を、という話になるわけだ。

「けれど、僕達は迷宮深層で戦える力はないのに、それを受け取るというのは……」
「そうね。シオンの言うことも確かにその通りだわ。私達が命を懸けたわけではないのに、結果だけ受け取るというのは筋が通らないもの」

 と、シオンが言うとステファニア姫が頷く。アドリアーナ姫も同様の意見のようだ。
 義理堅いだけにこういうところで素直に受け取るのには抵抗があるらしい。
 まあ……それはそれで真っ当な反応かなと思うが。これが冒険者同士の配分ならそういう話で落ち着くのが普通だろうとは思う。
 アンフィスバエナを仕留めた当事者であるグレイスとシーラの意見は……言うべきことは言ったとばかりに、それでも変わらないようだが。ふむ。

 ステファニア姫とアドリアーナ姫が使い魔を連れて迷宮に降りるのを許可されていることからも、メルヴィン王には魔人との決戦を見越したところがあるようだ。
 実際、ジョサイア王子も樹氷の森に降りて訓練に加わる予定が立っているし。

 通常要人が前線に出る状況は避けるべきであるが、だからと言って備えをしなくても良いというわけではない。要するに、今やっていることはそれなのだ。
 だから、その観点に立って俺の意見を言うと――。

「決戦に備えて、迷宮で更に力を付けていくというのは重要かと。そのためにも不必要な怪我を避けるというのは重要ではないでしょうか。樹氷の森を拠点に修行をするのであれば、深層の魔物を素材にした防具を持ってくることで、大きな怪我を避けられるでしょう。結果と言うのなら、受け取った装備でより強くなってもらうことで返していただく、というのはどうでしょうか」

 素材が足りなくなるなら、更に星球庭園の迷路で戦闘を行って確保するつもりではあるし、全体的な戦力が増強されるのならこちらとしても楽になる。
 俺の言葉に、ステファニア姫やアドリアーナ姫は思案していたようだが、やがて頷いた。

「……分かったわ。テオドール達の力になれるように、頑張らせてもらうわね」
「そう、ね。上役に何かあった時に士気が落ちてしまうのは事実だし」

 と、2人は真面目な表情で言った。

「強くなることでお返しを、ですか。それなら確かに筋が通りますね」

 フォルセトは静かに言うと目を閉じる。シオンとマルセスカはその言葉に気合が入ったらしく、神妙な表情で居住まいを正す。シグリッタの表情はいつも通りだが、静かに頷いていた。

「もう少し空中戦装備に慣れてきたら、ゴーレムを使った訓練に加わりますか?」
「それは……良いわね。うん。楽しみが増えたわ」

 ステファニア姫が明るい笑みを見せる。
 まあ、アンフィスバエナの素材についてはこれで使い道が決まったな。亜竜ではあれど竜。その素材は軽く強固で、動きの邪魔にはならないと、防具として考えるなら最高の素材なのは間違いない。

 水竜にまた鱗を分けてもらうという方法もあるかも知れないが……あの水竜親子は基本的に隠遁生活しているからな。
 俺達を信じて鱗を分けてくれたところがあるように思えるので、あまり頻繁に鱗を貰いに行って鱗を広く流通させてしまうというのもな。善意を頼りにし過ぎてしまうから、迷惑になりかねない。ある程度の線引きというか、距離感は必要だろう。

「それぞれの装備品については後で工房まで採寸に来てもらえればと」

 と、アルフレッドが言うと一同頷いた。

「次は……シャドーソルジャーかな?」

 シャドーソルジャーについては倒した後の残骸として、黒い液状となったシャドーソルジャーそのものと、そこから抽出した魔石と、両方を回収してきている。

「あの黒い液体については良い触媒になりそうじゃの」
「抽出した魔石もかなり良質だわ」

 ジークムント老とヴァレンティナが言う。ふむ。そのあたりは流石深層の魔物という気がするな。

「では……シャドーソルジャーの素材については、工房に使い方を一任するということで」
「分かった。では、こちらで預からせてもらおうかの」

 パンプキンヘッドの素材と同じく、工房での魔道具作成に役立ててもらう、と言う方向で。
 続いてヒュージパンプキン。あれは……なにやら巨大な核が嵌っていたからな。そのままもう一度魔法生物化して、戦力として組み込むというのもありかも知れない。何せ、標準で空を飛べるわけだし、近接戦闘でイグニスと渡り合ったわけだからポテンシャルは充分だ。
 そう言った考えを伝えるとみんなも頷いた。

「スノーゴーレムとパンプキンヘッドを永続型のゴーレムにするということなら……巨大カボチャを改造する土台としては丁度良いかも知れないわね」

 ローズマリーが言う。

「それじゃあ、あれはこっちで預かるってことで良いかな」
「テオドールなら庭師頭も元以上に強くできるのではないかしらね」

 クラウディアが楽しそうに笑うと、マルレーンも明るい笑みを浮かべてこくこくと頷く。まあ……預かった以上は頑張らせてもらうが。

「では、大バサミはそのまま武器として残した方が良いかも知れませんね」

 と、アシュレイが言った。

「そうだな。ヒュージパンプキンを再起動させて、武器として使えそうならそのまま継続して使ってもらうということで」

 ということで……ヒュージパンプキンについても使い道は決定。グリムリーパーの大鎌はどうしたものか。鋳潰して、完全に素材にしてしまってもいいが……グリムリーパーのような特殊な魔物が持っていたものだけに、何かしら特殊な効果があるかも知れない。それを調べてからでもいいかな。

「後は……ケルベロスの魔石かのう」
「あれだけの魔石。しかもアルファと同じとなると……」

 確かに何にでも使えるポテンシャルだろうな。

「ケルベロスの魔石については本人の意思を尊重してやりたいと思うのですが」

 俺がそう言うと、ジークムント老が尋ねてくる。

「ほう。というと?」
「つまり、クラウディアの護衛役ですね。その約束で連れてきました」
「ふうむ。なるほどのう」

 ジークムント老は腕を組んで、納得したという感じに首を縦に振る。

「つまり直接護衛になれるように、魔石を動力とした魔法生物の器を作るのがいいのかなと」

 ゴーレムなり人形なり、魔法生物の人工的な器を作り、その動力として魔石を組み込むわけだ。三つ首の犬型人形というのもかなり特殊な気がするが、イグニスとは違って魔石自体に魂が宿っているので完全な自律型となるだろう。

「私も……それには賛成ね。深層のガーディアン達も、何時かは迷宮の強制する役目から解き放たれて良いはずだわ。そのために自由になる器があればとも思うわね。アルファは元々精霊に近いから……今は割合自由に過ごしているようだけど」

 クラウディアの言葉に応えるように、その手の中にある黒い魔石がゆっくりと明滅した。フォルセトも今のクラウディアの言葉をシオン達に重ねるところがあるのか、静かに目を閉じている。
 いずれにせよ、ケルベロスとしても異存はない、というところか。では、これで決定だな。

「それじゃあ、僕達も明日から早速防具作りに動くよ」

 大体の素材の行き先が決まったところで、アルフレッドが笑みを浮かべて言った。となると……工房はまた忙しくなりそうだな。

 討魔騎士団の武器や鎧もビオラとエルハーム姫が新しく打ち直している最中だ。アンフィスバエナの装備は俺達の着ている水竜装備と同じく、鎧の下に着る服のような防具なので、それらの装備と併せて順次バージョンアップが整っていくだろう。
 ゴーレムなどの類については……準備を進めておいて、西の海から戻ってきたら動き出すという形が良いかな。
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