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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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456 高位精霊と王族と

「確かに、テフラは強い精霊でいらっしゃるようですね。それにここに集まって来る清浄な力……人々から慕われているのですね」

 馬車から降りたところで、マールは少し驚いたような表情を浮かべた。

「うん。テフラは優しくて好き」

 と、飛んできたセラフィナを肩に乗せて、楽しそうに笑みを向け合っている。
 マールに対しては冒険者ギルドでの査定待ちの時間やここまでの移動時間を利用し、テフラと儀式場について、ある程度のことを説明してある。

 精霊を招待するなら儀式場が良いのだが、高位精霊同士で反発しあったりすることはないのだろうかと頭を(よぎ)ったので、一応事前に互いの了承を取り付けておくのが無難だろうと思ったわけである。
 マールによると、互いに無礼な態度を取らなければ問題無いだろうとのこと。テフラにも通信機で尋ねてみたが「問題無い。歓迎する」との返答を貰っている。

 そもそも普通の精霊同士では強く反発するということは滅多にないようなので、俺の心配も杞憂だったのかも知れない。そもそもテフラは火山の精霊ということで、火と土の2つの性質を持つ。水との親和性も悪くないはずだ。
 まあ、月光神殿の周囲に集まっていた精霊達にしても居心地良さようにしていたしな。

 ……と、儀式場の奥にある祭壇からテフラが顔を覗かせて相好を崩した。

「おお、来たか」

 そう言ってこちらに向かってくる。マールはテフラを見て笑みを浮かべた。

「初めまして、テフラ」
「ああ、マール。テオドールから話は聞いている」

 マールが握手を求めて手を前に出すと、テフラは目を瞬かせた後で楽しそうに笑みを浮かべてその手を取った。

「人と同じように友好を深めるというのも中々楽しいものです」
「確かに。最近はテオドール達とよく一緒にいるが、同じことをすると楽しいな」

 と、親しげに笑みを向け合う2人の高位精霊。

「いやはや。ここにいるだけで力が増してくるのを感じますな」

 ピエトロは上機嫌そうな様子だ。
 セラフィナとピエトロを片眼鏡で見ると、何やら魔力が充実しているようで。テフラとマールの近くにいる影響か。周囲の精霊や妖精の動きも活発になっている。

 かたや精霊王ではあるが、身分の違いというものはあまり存在していないのか。セラフィナもテフラやマールと気安く付き合っているように見えるし、向こうも気にしていない風である。まあ……精霊王という区分は人間が作った線引きだろうしな。
 元々が猫であるピエトロは少し普通の精霊とも違うようで、猫達の王を目指しているようだけれど。

 テフラとマールの挨拶が無事済んだところで、儀式場に馬車がやってきた。

「おお、テオドール」
「怪我がなくて何よりだわ」
「はい。ただいま迷宮から戻りました」

 馬車から降りてきたジークムント老とヴァレンティナに挨拶をする。 

「お帰りなさい先生」

 と、シャルロッテ。

「ああ。ただいま」

 ジークムント老達はバハルザードより戻ってからこっち、俺の家と工房を行き来する形で主に対魔人の研究に勤しんでいる。フォルセト達からのハルバロニスの魔法技術や盟主の情報などを元に色々と研究を進めているというわけだ。
 シャルロッテは現封印の巫女なので、霊樹の話をしっかりと聞いてもらう必要がある。

 後は……ああ、来た。騎士団の護衛を連れた王城の竜籠だ。
 竜籠が地上に降りて、中からメルヴィン王とジョサイア王子が姿を現す。

「大儀であった、テオドール。無事で戻ってきたようで何よりだ」
「ありがとうございます」

 月光神殿の再封印には王家も密接に関係してくる。精霊王が姿を現したとなるとメルヴィン王自ら赴かないといけない、ということらしい。

 そしてメルヴィン王を護衛しているのは騎士団だけではない。コルリスも護衛を兼ねて同行してきたらしい。当然ステファニア姫とアドリアーナ姫、それから……エルハーム姫も一緒である。シルヴァトリアとバハルザード、それぞれの国王の名代というわけだ。

「こんにちは、テオドール」
「はい、ステファニア殿下」

 やってきた王族の面々を出迎える。
 エルハーム姫はマールのところに行って、膝を折って挨拶をしていた。

「お初にお目にかかります、マール様。エルハーム=バハルザードと申します。南方の平原と砂漠に住まう民として、マール様のお恵みに日々感謝を捧げております」
「ふふ、ありがとう、エルハーム」

 マールはエルハーム姫に屈託のない笑みを見せる。精霊王のフレンドリーさに、エルハーム姫は少し驚いたようだ。精霊達は明るい性格の者が多いが、マールも例外ではない、というわけである。

 さてさて。顔触れも揃ったことだし……まずは初対面の面々を紹介して、月光神殿内部の霊樹についてなど、分かったことやそこからの推測を話させてもらうこととしよう。 



「……なるほどな。霊樹とは」

 儀式場横の滞在施設に移動し、そこで茶を飲みながら先程マールと話した内容を話して聞かせると、メルヴィン王は静かに頷いた。

「つまり、先生はベリオンドーラにも同じような植物が植えられている、というお考えなのですね」

 シャルロッテが言う。

「うん。魔人達の手に落ちてからどうなっているかは分からないけど……仮に破壊されているにしても、元通りにする算段は付いたかも知れない」

 そう答えると、シャルロッテは自分の手を胸のあたりにやって、目を閉じて頷いていた。
 そう。霊樹がベリオンドーラにも植えられているという推測が正しければという前提ではあるが……その場所を契約魔法で守護するのが封印の巫女の役割となる。
 代々の巫女はその儀式の本来の意味を失ってしまっていたが、儀式を用いて守るという点だけは変わらなかった。封印の巫女を継いだ、シャルロッテの目指すものはつまるところそこにある。

「しかし、それはヴァルロスらを退けてから、ということになるのかのう」
「そうですね。精霊王達の封印が一時的に解けるのを狙って向こうも仕掛けてくるでしょうし……戦力をベリオンドーラに温存しているのであれば、それを削れるだけ削ってから直接叩くというのが良いのではないかと」

 攻めるより守るほうが楽とはよく聞く話だが……相手の戦力が分からない内は迎撃に徹する方が有利ではある。ローズマリーとも前にそんな話をしたが、メルヴィン王やエベルバート王もそれには同意見なようだ。
 ヴァルロスらはこちらに攻めてくるのだろうが、同時に俺達にとっても相手側の戦力を見積り、それを削るチャンスでもあるのだし。

「ふむ。魔人対策というのは進んでおるのかな?」

 メルヴィン王が尋ねると、ジークムント老が渋面を浮かべる。

「月女神の祝福を利用した魔道具の用意はできますが、魔道具だけでは高位の魔人の力を抑え込むことはできますまい。また、盟主の持つ特性が判明したことにより、封印が解かれた場合を想定した魔道具を開発中ではありますが……盟主に効果があるかどうかはぶっつけ本番になってしまうでしょうな。それを用いるにしても、前提として盟主との戦闘に打ち勝てるだけの戦力が必要となるでしょう」

 盟主と戦闘になった場合を想定した魔道具。つまりは……デュラハンと同じ魔力の性質を持たせた魔石に、契約魔法と封印術を組み込んだものだ。決闘で盟主を打ち破れば魂の特性を封印して討ち滅ぼす……ことができるかも知れない。

 しかし決闘に負けた場合、使用者にも同様の効果が及んでしまう副作用があるので、些かリスキーな魔道具ではあるな。契約魔法としてリスクを背負うことで術式を強化しているわけである。
 まあ……高位魔人相手に決闘して敗北した場合は大抵死んでいるであろうし、リスクは同じと言えばそうかも知れない。
 諸々含めてあくまでも次善の策であり、基本的には封印を解かせないことを念頭に置いて動くべきであろう。

 だが、いざという時の保険があるというのは心強い話ではある。
 メルヴィン王やジョサイア王子、ジークムント老を始め、あまり優れない表情だが……考えていることは分かる。俺を矢面に立たせるのが心苦しいのだろう。

「では、高位魔人については引き続き対応をお任せ頂ければと存じます」
「……すまぬな。余らも来たるべき決戦の時に至るまで、そなたを全力で支援をさせてもらう」
「私もだ。王太子でありながら力が及ばないというのは我ながら不甲斐ないとは思うが……私に協力できそうなことがあれば何でも言って欲しい」
「ありがとうございます」

 俺の返答にメルヴィン王とジョサイア王子は静かに頷く。ジークムント老やヴァレンティナにしろ……気にしているのは明らかなので、少し話題を変えることにした。

「そう言えば、ドリスコル公爵がそろそろ領地にお戻りになるということですね」
「うむ。公爵を領地に送って来る、という話であったな。西の海は風光明媚なところだぞ」
「そうですね。割と楽しみです。島の下見もしてこようかと」

 そう言って笑みを浮かべると、メルヴィン王は少し寂しそうではあるものの、俺に合わせるように小さく笑みを浮かべて頷く。

「んー。私もそれに同行させてもらっても良いでしょうか? 今の状況をもう少し詳しく知って、他の3人にも話をしておかなければならないし……重要なのはテオドールのようですから」

 と、そう言ったのはマールであった。

「僕は構いませんよ」

 メルヴィン王と一瞬顔を見合わせ……それからマールに向き直って頷くと、彼女は屈託のない笑みを浮かべるのであった。
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