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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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453 番人の矜持

「――ガーディアンは出てきていないわね」

 と、目を閉じながらこめかみのあたりに手をやってクラウディアが言う。
 ふむ……。討伐した魔物の規模から言うと、多少は落ち着いて行動する時間もあるだろうか。まずは皆の状態を確認して、それから剥ぎ取りなどに移るとしよう。

「みんなの怪我は?」
「私達は大丈夫です。軽い怪我だけで、治癒も済ませました。テオドール様は?」
「ケルベロスの咆哮で、少し耳が痺れてるかな。後は……軽い火傷ぐらいか」

 風のフィールドも用いていたが、このあたりはやはりテフラの祝福のお陰と言えよう。近接で格闘戦までやってこの程度の火傷で済んでいるなら安いものだ。
 掌底を叩き込んだ時の火傷をアシュレイに回復魔法をかけてもらうと、ひりひりとした痛みがすぐに引いていく。耳は……まあ少々時間を置けば自然に元に戻るか。循環錬気で調子を整えておけば後々に響くこともあるまい。

「イグニスが少し外部装甲に傷をつけられたわ。内部の構造体は一先ず大丈夫ね」

 と、ローズマリー。イグニスはぐるぐると肩を回したりと、可動域がスムーズに動くかどうかをチェックしているようだ。

「小さい傷なら塞げるかなと思うけど」

 そう言うと、ローズマリーは羽扇で表情を隠しながらも目を細める。

「それは嬉しいけれど、装甲を外して総点検するから、今のところは攻撃を受けた箇所を分かりやすくしておいたほうが良いかも知れないわね」

 なるほど。それなら、修復は工房に戻ってからが良いか。金属疲労などはビオラやエルハーム姫のほうが専門だしな。

 では……剥ぎ取りを始めるとしよう。

「カボチャはどこを持ち帰りましょうか」

 グレイスが尋ねてくる。

「んー。頭部と剪定バサミと……後は魔石も良さそうだな」

 パンプキンヘッドに関しては、みんなとの戦いを見ている限りだと大量に出てくる戦闘員の割に個々がかなり強いように思えた。
 ……スノーゴーレムの核に相当する部分もあったりするのだろうか? とりあえず内部構造も見ておくとしよう。

 カボチャの中身は空洞になっているが……ああ、あった。炎を模した、メダルのような物体が嵌っている。
 取り外して魔力を込めてみると――メダルがぼんやりと発熱した。これはスノーゴーレムと同様のパーツの炎版ということで……なかなか使えそうだ。
 何体かを魔石抽出してみるが……これもかなり質が良い。

「魔石と、パンプキンヘッドそのものを纏めて持ち帰ればシグリッタの絵にもなりそうだな。とりあえず、抽出するものとそのまま転送するものに分けるのが良さそうだ」
「分かりました」

 ヒュージパンプキンもそのまま転送して持ち帰るか。パンプキンヘッドを加工しながら使い道を考えるとしよう。分割できる大バサミは結構な業物に見える。ビオラとエルハーム姫のところに持っていくのが正解だろう。

「あの大きいのは?」

 シーラが首を傾げる。
 アンフィスバエナか……。さて、これはどうしたものか。竜の一種だと見れば余すところなく使える。しかし尾の特殊性からすると食用というには忌避感がある。
 牙、爪、鱗に魔石と、回収できる部分は多そうに思える。血液だとか髪の毛なども触媒になるか。

「一通り解体して、残った部分から魔石を抽出しても、それなりのものが取れるのではないかしら?」

 クラウディアが言った。

「……となると、これも持ち帰りか」
「転移させる場所を選べばどうにかなるわね」

 未知のエリアということで剥ぎ取り経験のない魔物ばかりだからな。こういう場合はじっくり解体して素材の良し悪しを見ていくというのがセオリーだ。

 続いて――グリムリーパーは……どうやら倒した後なら普通に触れるようだな。
 デュラハンに敗北したからかどうかは分からないが、骨の部分が崩れて砂のようになっていた。しかし砂――骨粉からはかなり強い魔力を感じる。金属素材に混ぜて使ったりだとか……何か面白い使い道があるかも知れない。
 襤褸切れは……あー。本当にただの襤褸切れのようだ。片眼鏡で見ても特に魔力を感じないが、骨粉を持ち帰る包み代わりにはなるか……?
 大鎌も回収しておこう。これもかなりの業物のようだし。

 さて……。問題はケルベロスだ。
 クラウディアの話によると深層のガーディアンや準ガーディアンは、そもそもの目的と作りが迷宮魔物や上層のガーディアン等と比べて根本から違うらしい。
 作りが高級で強い力を持つ分、魂に一個体としての性質が定着してしまうことがある……ということだそうである。恐らくは、シオン達も同様の理屈で自我を持ったのだろう。

 深層のガーディアンらについては個々に性格の違いはあれど、基本的にはラストガーディアンの影響下にあり、迷宮の防衛と侵入者の排除を第一義としているそうだ。クラウディアに対する態度はラストガーディアンの影響の度合いによる、とのことだそうで。
 そして一度停止させれば、そのあたりがフラットになる。アルファが積極的に力を貸してくれるのはクラウディアがこちらにいることだけでなく、俺がアルファから気に入られた、という部分も絡んでいるようだが。

 さて……。そこでケルベロスに話を戻すと――準ガーディアンなので放っておけば時を置いてまた番人として復活するだろう。やはりこちら側に引き込んでおくべきだと思う。そうでなければ倒した意味がない。
 迷宮深層のガーディアン達はクラウディアの護衛であり、深層の守りに近い。ラストガーディアンのせいで暴走しているようなものだ。加えて個性や自我まであるとなると、単なる敵や魔物だと断じてしまうわけにもいかない。

「方法は……前と同じで良いかな?」

 つまり、丸ごと魔石として変換するような。あれはアルファが俺の術に自ら乗っかってきたからだが……さて、今度はどうなるか。

「そうね。アルファの時より引き込むことを意識できる分、条件は良くなっていると思うわ。祝福も使ったほうが良いかも知れないわね」

 クラウディアの言葉にマルレーンが頷き、祈るような仕草を見せる。
 月女神の祝福に包まれたところで、ケルベロスの肉体に触れて循環錬気に組み込む。
 こちらに引き込む……ね。オリハルコンとはこういう形で随分対話したものだが。

 目を閉じて、工房でそうしたようにケルベロスに語り掛ける。
 何を話すべきか。そう。例えば……迷宮が本来の役割を既に果たし終えていることだとか。ラストガーディアンが暴走しているということからだろうか。
 月の内紛。クラウディアの、永遠とも思える時間。その孤独と苦悩。魔力資質ゆえに村を離れざるを得なかったイルムヒルトについて。迷宮を攻略し、女神を解放して……それから俺達が望むもの――。

 そして――先程の戦いについても。
 ケルベロスがああいう戦い方をしてのけた理由は、何となく分かる。番人としての自負があるから、後ろに通さないためにそうした。自分の立場に自負があるからこそ任務を全うするためなら捨て身でも戦えるのだ。

 だとするなら、俺はケルベロスの矜持に対して問いたいことがある。つまり、深層の番人であるというのなら、自分が一体、何のために戦い、何を守っているのかということを。

 循環錬気の波長の中に、鼓動のような波が広がる。俺の問い掛けに、一度だけ頷いて応じるかのような反応だった。分かっている――ということか。

 そのままマジックサークルを展開すれば、ケルベロスとしてそこにあったものの全てが結晶化していくのが分かる。そう。アルファの時と同様、ケルベロスが俺の術式に乗っかったのだ。肉体から魂に至るまで、余すところなく――光となって溶ける。
 そして――そこに黒い結晶が鎮座していた。内側に炎のような揺らめきを秘めている。

「ケルベロスの魔石ね――」
「アルファの時と同じかな。向こうから、術式に乗った」

 ぼんやりと熱を帯びるそれを手に取ってクラウディアに渡すと、内側の炎が生物のように瞬いた。クラウディアがその反応に僅かに微笑む。

 結晶化しても、番人は番人というわけだ。
 ケルベロスに言わせるとあくまでもクラウディアを守るためにこちら側にきた、ということなのかも知れない。
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