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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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44 地下修練場にて

 騎士の塔の地下修練場で、チェスターと向かい合う。
 前置き無しで本題に切り込んでいく。

「噂話で耳にしましたが」
「どんな噂かな?」
「竜騎士隊が飛行術の今後の発展に危機感を抱いている、と。チェスター卿――竜騎士隊でも良いのですが、それで僕に何か言いたい事があるのでは? 或いはグレッグ卿の方針ですか?」

 と言うと、チェスターの眉根が少し寄った。それも一瞬の事で、すぐ取り繕うような笑みが浮かぶ。

「さあ、何の事やら」
「どうせ他に人はいませんし、チェスター卿が僕に良い印象を持っていない事は解っています。本音を聞かせていただきたい所なんですが」
「本音、ね」

 チェスターは瞑目すると、肩を竦めた。

「いいだろう。確かに僕は、君の事が気に入らない。薄汚い魔術師が我が物顔でこちらの領分に乗り込んでこようとしている。陛下も君に興味を抱いている。団長殿も君を呼ばなければ宴が成り立たないと思っているようだ。気に入ると、思うか?」

 魔術師と騎士団の仲は良くないと聞いているが。その辺よく解らないんだよな。

「何故魔術師をそこまで嫌うんです?」
「何故? 君の戦い方は聞いたぞ。魔人を相手にした時、最初に大きな魔法で不意打ちを仕掛け、次は空を飛べない事を装って騙し討ち同然の動きをしたそうだな。魔術師というのは何時でもそうだ。誇りある者のする戦い方ではないね。今の内に改めたまえ」
「……本気で言ってます?」
「無論だとも。君が冒険者ギルドや迷宮から出てこないのならそれでもいい。だが君のような人間が、栄光ある王国に関わってくる事を僕は好まない。これは僕だけでなく、グレッグ卿も同意見だ」

 ……騎士道という奴だろうか。魔人を相手に騎士道も何もないだろうという気はするが。
 挑発の仕方がやけに温いのも、グレッグの意向があったとしても彼の人格による所が大きいのだろう。要するに、チェスターは今語った――普通は建前とされる所を本気で思っている節があると言う事だ。

 迷宮があるから強者は重視されるが、王国は長い事、大規模な戦争がない。直接迷宮と関わらず、王城や首都の鎮護を担う騎士団の考え方としては……名誉を重んじるという方向に発展するのは仕方が無いのかも知れないが。王城直属の騎士団はエリート意識もあるだろうし……魔術師とは水と油なのも納得が行く。
 そこに騎士団が誘拐事件と魔人の潜入に気付かず、討伐も間に合わずに解決も蚊帳の外となったというのは確かに失点で、業腹なんだろうけどな。

「その考えで魔人と戦うような事になったら、あなたは死にますよ?」
「ほう。言ってくれるね。生憎だが、魔人とは戦った事がないものでね」
「……冗談や馬鹿にして言っているつもりはありませんが」
「魔人など正面からねじ伏せればいいだけの話だ。守護を受けた竜騎士なら瘴気など問題にならない」

 瘴気に対する対抗手段はある。確かに。
 騎士団ならその辺の後方支援を受ける事は可能だろう。竜騎士なら空中戦の不利も補えるに違いないとは思うが。

「それとも――それが増上慢だと言うのなら、君が僕に教えてくれるというのかな」

 苛立った口調でチェスターは言ってくるが。リネットと杖術で渡り合った俺を近接戦の技術で圧倒出来るなら、魔人を正面から打ち破るのも容易いと……理屈の上ではそうなるだろうか。

「一向に構いませんよ。お互いの技量で証明して見せる方が早いでしょう。模擬戦一つで、今のこの場で話にケリがついてしまうと言うのなら、お付き合いしましょう」
「今、その格好でか? 君には武器もないだろう」

 ……だから。
 それが考え違いだと言っている。
 地下修練場には練習用の、穂先のない槍が立てかけてある。柄まで鉄拵えの槍だ。模擬戦で……魔法主体の戦いをするのでもないなら、杖の代わりなんてこれで十分だ。適当な練習用の槍を手にして、チェスターに言う。

「魔人が服装や武器の状態で、遠慮してくれるとでも?」
「……面白い。僕が勝ったら君には王城には関わらない事を誓ってもらうぞ?」

 それは飛行術の話を含めての物だろう。少なくとも、今のままで行けばしばらくの間は竜騎士に比肩する者も出てこないだろうが……そこに俺が自身を売り込む為に関わってくると、どうなるか解らない。

「良いですよ。今の時点で冒険者稼業を辞めるつもりは元々無かったですし。僕が勝ったらあれこれと僕に関わって来ないでもらえると助かります」
「よかろう」



 チェスターも練習用の槍を手にして――お互い向かい合う。チェスターは竜騎士だからな。地上戦であっても長柄の武器を使うのは解っていたが。
 さて。チェスターは魔法による搦め手を嫌っているようだし、魔人の飛行と瘴気を何とか出来れば自分の技量が通用すると思っているようだが。

「では――行きますよ?」
「来たまえ」

 向こうの了解を取り付けた所で――修練場の床を蹴って、一息に間合いを詰めた。目を見開いたチェスターが槍で迎撃して来るが、反応が遅い。打ち払いながら身体ごと叩き付けるように、柄を盾に、膝で支えて体当たりして行く。木の槍ではないから、魔力を通さずとも少々乱暴に扱っても壊れはしないだろう。

「な、に!?」

 それを受けたチェスターがたたらを踏んで目を見開く。子供に圧力だけで退かされるとは思っていなかったと言う反応だな。
 今のは――小手調べであり手札の開示でもある。模擬戦故に殺傷力の高い魔法は使えないし、武器に魔力を通す事も出来ないが、循環による身体機能強化はさせてもらう。俺の戦闘術の根幹を成すものだからだ。

 そのまま踏み込んで槍の中ほどを握り、オールを漕ぐかのように左右から攻撃を繰り出す。俺とチェスターの鉄槍がぶつかって金属音を響かせた。間合いは俺の距離。同じ得物を手にしているとは言え、俺の場合、使い方が最初から異なる。チェスターの突きを巻き込んで払う。輪舞曲を踊るように俺とチェスターの位置が目まぐるしく入れ替わる。
 十分に横からの攻撃に目を慣れさせた所で不意に軌道を変えて、横から下に。掬い上げるような一撃に変化させた。

「くっ!」

 捌き切れずに左の手甲で受けるが、チェスターは余った右手の槍で大きく薙ぎ払ってきた。その一撃を跳び退って避ける。

「最早子供とは、思わんぞ!」

 間合いが空いた所でチェスターが槍を腰だめに構え、その身体と槍が青い闘気を纏った。
 武技、流星突――。槍を突き出す仕草と共に、チェスターが身体全体で猛烈な勢いのまま突っ込んでくる。

「甘い」

 密着されると防戦一方だと、焦れて勝負に出たのだろうが。
 流星突は確かに速度はあるが、そういう大技は相手の体勢を崩してからがセオリーだ。でないと――手痛い目に遭う。
 武技に対して武技で対応する。杖術武技、霞払い。
 槍の穂先同士が触れ合った瞬間、力の向きを逸らして払う。闘気と魔力の混合で作ったレールに乗せて滑らせるような感覚。同時に体勢を入れ替えて向き直る。

「何っ!?」

 チェスターの身体が突撃の進行方向ごと変えられて、修練場の壁に向かって突撃する羽目になった。

「ぐっ!」

 壁に激突する直前、寸での所で踏みとどまる。無造作に近寄り、チェスターの身体の正面側から槍で打ち払う。
 ぎりぎりの所で槍を受けたが、チェスターは大きく体勢を崩された。中腰になって構え、真っ直ぐに。脇腹に向かって捻りを乗せた一撃を繰り出す。
 螺旋状の力を集約された一撃を受け、捻りを加えた方向にチェスターの身体が流れる。槍を一旦引いて、足元を払い、転がった所で首の高さに突きを放つ。

「――」

 チェスターの喉笛に槍の先端を突き付けた所で――問う。

「負けを認めますか?」
「……ああ」

 悔しそうな表情であるものの、チェスターは頷いた。

「こうまで――良いようにあしらわれたのは、団長やオズワルド殿に指南を頂いた時以来……だ」

 それはそうだ。はっきり言えば、場数が違う。
 俺の修練はBFOのPvPで練り上げた物であるとは言っても――膨大な数のトライアンドエラーの上に積み重ねられている。
 通常は訓練ではそこまで出来ない、限界以上の所でせめぎ合える。それも連日連夜、気の済むだけ。どんな技をどこで繰り出し、それをどう捌くか。互いの動きの次手、最善手が何か。

 武技も魔法もアイテムも。何でも有りの戦いをこなしてきたわけだし、ハメ技、詰みの状況をどう攻略してどう跳ね返すかに腐心したものだ。
 そういう膨大な経験と知識があり、循環によってそれらの情報に身体が追い付いてくる以上、そう簡単に負けるわけがない。

「僕は――確かに負けた。だが間違っているとは思っていない。魔法一つ使わずにそれだけの事が出来るなら……魔人相手と言えど小細工をする必要など無かっただろう? 君ならば」

 そう思っているなら買い被りだ。俺の魔法は近距離でこそ威力を発揮するものだし、瘴気弾は生身で受けられる物ではない。まともに食らえばやはり死ぬのだから、それが出来ないような状況を作りつつ接近する必要がある。

「……チェスター卿が騎士道を貫くのは立派だと思います。ですが、僕には僕の戦い方や、戦いに対する考え方という物がある。押し付けないでいただきたい」
「……それは?」
「こちらがこう動いたから相手はこうしたい。その立場や思考を読んで潰していくのが僕の考える実戦(・・)です。だからこういう試合や模擬戦でもなければ相手に対して地力で勝っていようが劣っていようが、それを変えるつもりはありません。特に魔人相手では。あいつらはもっと――えげつない」
「君は魔人に……何を、されたんだ?」

 俺の表情を見て何か思う所でもあったのか、チェスターは眉を顰める。

「……良くある話ですよ。立合人はいませんが、約束が守られる事を信じています」

 俺はそう言い残して、呆然とした面持ちのチェスターを尻目に地下練兵場を後にした。 
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