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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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452裏 庭園の激闘

 イルムヒルトの鏑矢と皆の放つ弾幕とでパンプキンヘッド達を撃ち落としていく。火球の応射、ハサミでの迎撃で対応しているが、着実に数が減っている。射撃戦では防御陣地を構築するこちらに分がある。
 かと言って弾幕の中に飛び込むように特攻を仕掛けた者はディフェンスフィールドで阻まれてピエトロの分身達に叩き落とされるという具合だ。

 だが――もう少しでカボチャ達のそのほとんどを排除できるというタイミングで、地上に落ちて動かなくなった者達の目や口から炎が噴き上がると、それが中空に魔法陣を描いた。
 召喚魔法。炎の陣の中から、一際巨大なパンプキンヘッド――ヒュージパンプキンがのっそりと姿を現す。クラウディアによれば庭師頭と呼ばれる個体だ。カボチャ達を短時間に一定数倒すと契約魔法によって召喚されるということらしい。

「行きなさい――!」

 即座にそれに向かっていったのがローズマリーの命令を受けたイグニスだ。シールドを蹴ってエアブラストで加速してくるイグニスを、巨大カボチャは大バサミを分割するとそれを両手に握って応戦した。
 突っ込んできたイグニスの戦鎚を受け止め、空いた手の大ハサミで応戦。イグニスは鉤爪でそれを跳ね返し、そのままお互いが猛烈な勢いで両手の武器を縦横に振るう。

 大柄でバランスの悪そうな見た目からは想像もつかないような俊敏な動き。ゲタゲタと笑い声を上げながら、剣戟の金属音を響かせる。

 口から業火を吐き出すが、イグニスにはその手の攻撃は通用しない。業火を突き破ってカボチャに向かって戦鎚による横薙ぎの一撃を見舞えば、巨大カボチャは上へ飛び上がりながらイグニスの後頭部にハサミの一撃を見舞った。

 そちらに顔を向けさえせずにイグニスは鉤爪でハサミを受け止める。上半身が腰ごと回転。掬い上げるように旋回してきた戦鎚の一撃を回転しながら避ける。イグニスの生物には有り得ない動きをあるがままに受け止め、流れのままに対処したような印象だ。一切躊躇することもなくそのまま互いの武器をぶつけあう。

 腰から下が上半身についていくように回転。全身でカボチャ側に向き直って、何事も無かったかのように切り結ぶイグニス。

 イグニスは機械的なギミックが不意打ちとして機能せず、ヒュージパンプキンは火炎が通用しない。となれば続く手はイグニス側はローズマリーとの連携により均衡を崩す、となるわけだが――。カボチャは手にしたハサミに闘気を込めている。

 装甲ごと叩き斬ろうという構えか、それとも装甲を貫けずとも衝撃で内部構造を破壊しようというのか。可能か不可能かはさておき、いずれにせよ手札がパワー頼りなのは間違いない。
 そして――射撃によって取り巻きのパンプキン達はほぼ壊滅し、全滅も時間の問題。ローズマリーが打って出る頃合いでもあった。

「行くわ」

 即断即決。そう言って、みんなを見て頷くと、ディフェンスフィールドを飛び出すローズマリー。生き残っていたカボチャ達から待っていましたとばかりに火球が放たれたが、それらはローズマリーには届かなかった。マルレーンのソーサーがローズマリーの身を守るようにその周囲を舞っていたからだ。

 イルムヒルトの援護射撃。それらさえも縫ってローズマリーに躍り掛かったパンプキンヘッドは、セラフィナの操る笛の守護獣に咬み付かれ、動きを封じられてから光の矢で打ち落とされた。
 ローズマリーは一瞬だけ口元に笑みを浮かべ――そのまま周囲を気にすることなく戦闘を続けるイグニスの後方まで到達する。

 ローズマリーの加勢を見て取ったヒュージパンプキンは、両腕の武器を交差させるような軌道でイグニスに叩き付ける。互いに弾かれて距離が開くと、ヒュージパンプキンは他のカボチャ達を引き寄せる。その数3体。小さなカボチャ達の目に宿る炎が激しく燃え上がり、ヒュージパンプキンの周囲を旋回し始めた。

 その動きは機械的で――今までのカボチャ達の動きとは異なる。加勢させたと言うより、従属させることで砲台を装備したと言ったほうが正しいのかも知れない。

 一方でローズマリーの手から放たれた魔力糸もイグニスの手足に接続されていた。イグニスへの魔力供給。更に1つ、2つ、3つと、イグニスとローズマリーの周囲にマジックスレイブまで浮かぶ。

「……迷宮による強化が実感できるわね。さて――」

 ローズマリーが呟き、数秒の間を置いてから――どちらからともなく突貫した。火球を放ちながら迫るヒュージパンプキンに、周囲にマジックシールドを浮かばせて防御を行いながらイグニスが突っ込む。激突。魔力と闘気が干渉し合ってスパークが弾ける。斬撃と弾幕の応酬。その間を縫うようにローズマリーの手にしたワンドから光弾が放たれる。ヒュージパンプキンの頭に直撃するが――堪えた様子はない。闘気で強化しているのだ。爆風の下から燃え盛る瞳を覗かせる。

 ワンドによる爆発は決め手にならない。結局は力対力。猛烈な勢いで武器を叩きつけ合って金属音を響かせる。闘気と魔力。互いに消耗しながらも虚空に残光を残しながら空を舞う。ぶつかり合っては弾け飛び、即座に反転してまた己の武器を叩きつけていく。

 ヒュージパンプキンが切り結びながら強引に間合いを詰めてくる。分離させたハサミを交差させたまま、体当たりをするようにイグニスを押さえ込むと、その動きに連動するように従属していたパンプキンヘッド達が遠くへと飛んだ。
 遠くまで展開して一瞬静止すると、イグニスの後ろに控えるローズマリーへと炎上しながら猛烈な速度で突っ込んでくる。それは暴走とも呼べるような特攻。しかも突っ込む角度をそれぞれ変えている。到底回避できる速度、タイミングでは、無い――。

 だが――炎上するパンプキンヘッド達は虚空を貫き、行き過ぎる。イグニスの背後に控えるローズマリーは幻影。ピエトロの分身にローズマリーの皮を被せたものでしかない。
 ピエトロの分身、ミラージュボディの魔道具。そしてマルレーンのランタンを組み合わせることにより、ローズマリーがいる位置そのものを誤認させている。

 滞空するソーサーの1つから操り糸が伸びて、特攻してきたパンプキンヘッドの内一体を絡め取る。従属しているパンプキンヘッドは自由意志を持たないがゆえに、直接制御を受けることであっさりとローズマリーに支配を奪われた。

 大きく弧を描き、特攻をけし掛けたヒュージパンプキン目掛けて横合いから突っ込む。激突した瞬間、パンプキンヘッドが爆ぜた。自爆攻撃。衝撃波にヒュージパンプキンの身体が大きく吹っ飛ばされる。
 もつれ合うように押さえ込まれていたイグニスも爆風に煽られ、操り糸で繋がるローズマリーも諸共に引っ張られるが――そこまでだった。

「――さようなら」

 渦に呑まれる木切れのように引っ張られながらも、意にも介さず薄く笑うローズマリー。操り糸が強い輝きを放つ。
 爆風に煽られながらも、お構いなしに装甲の隙間を抉じ開けるようにハサミを突き立てていたヒュージパンプキンであったが――間合いは密着。それはイグニスの距離でもある。装甲に傷を付けられながらも、こちらもお構いなしに下顎へと鉤爪が引っ掛けられ、隠されていた武器が解放された。

 爆ぜるような音と共に射出される金属杭。イグニスの後方へと噴射される爆風。
 一点、一瞬に集約された力が、闘気で強化していたはずの頭部をあっさりと貫通し、その内部で膨張するように四方へ氷の槍を放つ。

 燃え盛っていたはずの内部――目や口、後頭部などから氷の槍を飛び出させた巨大カボチャの身体から力が失われ、ゆっくりと落下していった。

 そして――パイルバンカーを放った時点でローズマリーは操り糸を自ら切り離し、体勢を立て直している。

「……やれやれ。相当なものだとは聞いていたけれど……イグニスの装甲に傷をつけて来るとはね。これから先、大物を相手にすると深層の戦闘は修復が面倒になりそうだわ」



 ――疾走。猛烈な勢いで直線的な通路を疾走しながらデュラハンとグリムリーパーは大剣と大鎌をぶつけ合う。
 回り込んで後衛へと向かおうとするグリムリーパーを遮るようにデュラハンが馬を駆り――結果として並走しながら切り結ぶ形となるのだ。グリムリーパーは思うように後衛達に斬りかかっていけないことに苛立ったように、デュラハン目掛けて大鎌を叩き付ける。と、思った瞬間には渦を巻くように襤褸切れが一点に集まり、小さくなって高速移動。デュラハンの背後で再び顕現するグリムリーパー。
 振り返るより早く大剣が振るわれ、デュラハンの背中側で互いの得物が激突。重い金属音を響かせた。

 互いの武器が弾かれた瞬間にはデュラハンは馬ごと身体を反転させて、地面を抉るように蹄の跡を土に残しながらグリムリーパーへ向き直る。即座に地面を蹴って突撃。グリムリーパーも応じるようにデュラハンへと突っ込む。

 地面と水平に剣を構えるデュラハンと、下から大鎌で掬い上げるような動きを見せるグリムリーパー。しかし本来実体を持たないグリムリーパーは地面に半身を沈めて斬撃をやり過ごし、馬の腹部を切り裂くような軌道で掬い上げるような一撃を見舞ってきた。

 跳躍。馬ごと飛び上がって、有り得ない軌道による斬撃をぎりぎりで回避。グリムリーパーは正面が空いたとばかりに後衛へと向かおうとするが、すぐさま反転したデュラハンが馬ごと横向きになりながら疾走し、地面目掛けてグリムリーパーに斬りつける。
 土の中から飛び出す大鎌の斬撃。大剣が地面を物ともせずに抉り飛ばし、土砂を撒き散らしながら剣戟の音を響かせる。

 地面の奥深くまでは潜っていけないのか。そのまま再び並走する形で幾度となく斬撃を応酬する。

 一瞬後ろに引いての大剣の刺突。大剣の先端が地面を深く貫くと、肩口を切り裂かれたグリムリーパーが地面から飛び出してきた。風車のように大鎌を回転させながら、地面に深々と剣を突き刺したデュラハン目掛けて迫る。剣を手放し、騎馬からも離れてデュラハンがグリムリーパーへ向かって飛んだ。大鎌の刃の内側に潜り込むように踏み込み、グリムリーパーに掴みかかる。グリムリーパーの手首を掴んだ瞬間、異常が起きた。デュラハンからグリムリーパーに向かって、燐光が吸い上げられていく。

 エナジードレイン。カタカタと楽しそうにグリムリーパーは肩を震わせた。先程デュラハンに受けた傷も修復されていくが――デュラハンはお構いなしといった調子でグリムリーパーを押さえつける。そこに――。

 鈍い音が響いた。騎馬の後ろ足が、グリムリーパーの後頭部を捉えたのだ。それでもグリムリーパーはエナジードレインを途切れさせはしなかったが、その身体が揺らぐ。腕を掴まれたままでは先程のように小さくなって逃げることもできないらしい。

 怯んだ隙をそのまま力任せに振り回された。その先にあるのは――先程地面に突き立てたままの大剣だ。肉厚の刃に向かって叩き込まれる形で、グリムリーパーは上半身と下半身を泣き別れにされる。

 そして――手首を掴んでいたデュラハンは、グリムリーパーから何かを引き抜くような仕草を見せた。デュラハンの手の中で赤く煌めくそれは……グリムリーパーの魂だろうか。
 だが、デュラハンに連れ去られるまでもなく、灰が風に散るようにいずこかへと消滅した。その消え方は迷宮魔物故――かも知れない。迷宮で散り、迷宮に還る。後に残るのは切り裂かれた襤褸布に包まれた死神の身体と大鎌だけだ。



「シャアアッ!」

 蛇の威嚇音を鳴らしながらアンフィスバエナの上半身が爪を振りかぶってシーラ目掛けて旋回してくる。闘気の煌めきが大きな弧を描いて振り回された。シーラは上体を逸らして爪の一撃を回避。すれ違いざまに斬撃を見舞うも、もう片方の爪で受け止められ、行き過ぎていく。シーラは即座にそれを追う。追って切り結ぶ。

 シーラの相手をしている上半分の女は、そもそもがアンフィスバエナの一部分ということもあり、体重と体全体の膂力という点ではシーラを遥かに上回る。尾を振り回すように文字通りの全身の力で爪による斬撃を加えてくるのだ。尾全体を用いての薙ぎ払いを見舞われれば切り結ぶこと自体が難しい。

 それを――シーラは持ち前の体術で上手く凌ぎながらも積極的に切り込んでいく。アンフィスバエナの上半分を攻略すれば、その巨体故に魔獣側はグレイスの攻撃を凌ぐことができず、斧による一撃を受け切ることができないからだ。

 だから――アンフィスバエナも止まらない。シーラもまた攻め込み続ける。距離を取ってしまえばシーラに対しても魔法行使をしてくるからだ。
 斬撃を交差させる瞬間に雷撃を流し込んで一瞬の行動の自由を奪う。すぐさま魔獣側が、尾を振り回し、離脱していく。次に旋回してきた時には魔獣ゆえのタフネスで立ち直り、すぐさま切り返してくる。蜘蛛の糸も――下手に貼りつければ身体ごと振り回されるだろう。

「やる」

 アンフィスバエナの動きに、シーラが小さくつぶやく。

 そして下半分。魔獣アンフィスバエナは後足で立ち上がり、前足と大顎でグレイスに攻撃を加えていく。双方共に闘気の煌めき。しかしその闘気の質、量共にグレイスのほうが勝る。魔獣の巨体による重量を合わせることで、ようやく拮抗する。
 斧とぶつかり合って互いに弾かれ、それを補うように氷の弾幕が張られる。転身転身。グレイスのいる空間を氷の弾丸が貫き、魔獣の炎の吐息が薙ぐ。空中を回りながら、避けきれない氷弾は斧で砕き散らして魔獣に突っ込む。
 魔獣側はとにかく一発当てて均衡を崩そうという構えらしい。グレイスを追い払うような一撃を放つことで距離を取り、弾丸をばらまく構えだ。
 何度か打ち込み、互いに弾かれ、弾丸を回避する。グレイスの一撃一撃はアンフィスバエナの頭部や前足に傷を残しているが――それも見る間に再生していく。タフネスを自認するがゆえの持久戦。

「これは――埒が明きませんね」

 空中で静止し、グレイスが僅かに呼吸を整えながら闘気を高めていく。アンフィスバエナも応じるように咆哮すると、その身体に闘気を漲らせた。

 そして一瞬――シーラとグレイスの視線が交差する。呼吸を合わせるように突っ込み、アンフィスバエナが受けて立つ。
 グレイスの斧と魔獣の爪が激突。闘気同士の押し合いで火花が散る。火炎のブレス。扇で散らすように斧で扇いで突っ切り、続く大顎の一撃を斜め上に飛んで避ける。

 射撃と爪牙の間隙を縫うように。グレイスの斧が投擲された。目標は魔獣ではなく上半身側の女へと。その軌道上に魔獣が身体を割り込ませて斧を弾く。その瞬間――巨大な音響と眩い閃光が弾けて、1つ所に交差したアンフィスバエナ双方の視覚と聴覚を同時に焼いていた。

 攻撃を仕掛けたのはシーラだ。アルフレッド謹製の、セラフィナの魔石を用いた改良型スタングレネード――。

 アンフィスバエナは四方八方に氷の弾幕をばら撒きながら、火炎を吐き散らして暴れ回る。グレイスとシーラが飛び退る。
 嗅覚はまだ生きているらしく、魔獣がグレイスを追って大顎を開いた、その瞬間だった。

「これなら――!」

 グレイスの右手に膨大な闘気の塊が膨れ上がり、密集するように手の中に押し込められる。大口を開けて迫ってきた魔獣アンフィスバエナのその口腔内に、拳を突き出すように叩き込んだ。闘気弾――ならぬ闘気砲。眩い閃光がアンフィスバエナの口から飛び込み、後頭部を突き抜ける。

「ギッ――!?」

 悲鳴を上げる暇も有らばこそ。こちらも闘気と真珠剣の煌めきを残し、シーラの一撃がすれ違いざまに女の首を薙いでいく。
 それでも――アンフィスバエナは動いた。魔獣はグレイスを探すように首を巡らしたが――もう遅い。

 アンフィスバエナの直上――。グレイスは闘気による紫色の放電を放ちながら、両手で握った斧を大上段に構え、アンフィスバエナの胴体目掛けて真っ直ぐに落ちていく。

「はあああッ!」

 裂帛の気合と共に振り抜く。闘気によって巨大な斬撃と化した一撃が、アンフィスバエナの胴体を両断し、星球庭園の床に巨大な亀裂を刻んだ。
+注意+
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