挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
466/1203

450 星球庭園

「では――準備は良いかしら?」

 クラウディアは迷宮入口の石碑の前に立ち、振り返って言う。その言葉に俺も含めて皆が頷いた。
 向かう先は満月の迷宮。大回廊の奥にある扉の、更に先だ。討魔騎士団の訓練は順調なので、俺達は予定通り迷宮の更に奥へと進ませてもらうことにした。ドリスコル公爵の帰還まで、まだ日数があるしな。
 光に包まれてそれが収まると――そこは新たな区画だった。BFOでも進んだことのない、俺にとっても未知の区画。

「ここは――」

 満月の迷宮の――壮麗な装飾が施された大回廊とは、また違う。
 背後には壁と巨大な門。これは大回廊に続く扉だろう。今いる場所は少し開けた空間で、近くに東屋がある。月光神殿だけでなく、クラウディアの居城にも通じているということを考えると……大回廊を抜けて中庭に出たといったところか。

 足元には真っ白な砂が敷き詰められていて、飛び石が埋め込まれて道になっていた。あちこちに白い擦り硝子のような質感の庭石が見えている。擦り硝子の庭石は、所々内側からぼんやりと緑色や紫色に発光していたりして……なんというか幻想的な雰囲気だ。

 広場からは飛び石の道が奥へと続いている。道以外の場所には木々が生えていたり植え込みや水路があって美しい声の鳥がどこかで鳴いていたり……迷宮内部とは思えないような美しい場所だった。

 そこそこ明るいので見通しは利くが……天井は黒色である。星々の瞬きを再現するように小さな輝きが煌めいていた。煌々と輝く月まで見える。
 そして、星空とは別に、あちこちでぼんやりとした色とりどりの光も漂っている。

「あの星空や月は、やはり迷宮村と同じような仕組みなのですか?」

 アシュレイが尋ねるとクラウディアが頷く。

「ええ。空は映し出された偽物ね。この星球庭園は私が散策して気晴らしをできるようにと作られたものよ。珍しい魔物も生息しているけれど……大半は敵ではないわ。それとは別に庭を警備する者がいて、侵入者を見つけると攻撃を加えるからそちらに注意は必要ね。基本的に見た目が厳ついのは敵だと思ってくれていいわ」
「では……あの生き物は……?」

 やや困惑したようなグレイスが森の一角を指差すと――そこには何やら奇妙な生き物が空を悠々と飛んでいくのが見えた。
 顔から海老の尻尾のような器官を生やし、ゆっくりとヒレを動かして宙を泳ぎながら、庭園の奥へと消えていく。
 あれは……アノマロカリスか……? だが、アノマロカリスは海に棲んでいる生物ではなかっただろうか。空を飛んでいたところを見ると、魔物かも知れないが……。

「変な生き物……」
「うん……。虫でもないし魚でもないし……」

 シーラが呟くように言うとイルムヒルトが答える。マルレーンも怪訝そうな面持ちでこくこくと頷いた。

「動きからすると敵……ではなさそうね。迷宮は魔力を集めてくる際に情報を集積しているみたいで……この区画では特に、私も見たことのない魔物や動植物を生成することがあるわ」

 なるほど。珍獣も確かに鑑賞用としては適している……か?

「今の時代には絶滅してしまって、いないのかもね。古い地層から石になった生物の残骸とかが出てくることもあるし……迷宮はそこからでも情報収集できるんじゃないかな」

 と、景久の持つアノマロカリスの情報から推測を口にしてみる。地球では5億年以上前とかいう、カンブリア紀の生き物だったと思う。
 少なくともBFO内では空飛ぶアノマロカリスは知らないな。この世界ではどこかに生き残っている可能性はあるけれど……。

「ここの動植物は気になるわね。まあ、鑑賞用というのなら無闇に持ち帰るのもどうかと思うけれど。特にさっきの生き物は……あまり近くに置いておきたい造型ではないし」

 ローズマリーはしばらくアノマロカリスの消えた方向を見ていたが、やがて気を取り直すようにかぶりを振った。

「……綺麗なところだけど、深層だから慎重に行こう」

 そういうと皆は神妙な面持ちで頷く。アノマロカリスが常識外れだったせいか逆に警戒感が増した気がする。集中力が途切れないというのはいいことだ。では、庭園の攻略を進めていくとしよう。


 先程見たアノマロカリスはやはり星球庭園でも特異な生き物なのだろう。時折庭園で見かける動植物は基本的に小鳥であるとか兎であるとか、可愛らしいものや綺麗なもののほうが多いような気がする。
 まあ……やはり珍獣もいるのだが。庭木の葉を食べているメガテリウムだとか……。これはナマケモノの先祖で、草食動物である。図体はかなりでかいが大人しいものだ。

 そういった鑑賞用の生物を横目に見ながらも庭園の奥へと続く通路を深層に向かって進んでいくと――左右の植え込みの高さが段々と上がって来て、いつしかそれを壁として利用した迷路になっていた。やはり庭園でありながら迷宮ということか。植え込みにバラが咲いていたり、幻想的な光球が漂っていたりと色々綺麗ではあるのだが。

「植え込みの上から行くわけにはいかない?」

 と、シーラ。植え込みの高さはかなりのものではあるが、確かに魔道具を使えば空から行くことはできそうに見える。ただ、深層であることを考えると迷路を無視させないような構造になっている可能性は高い。
 案の定、クラウディアはシーラの問いに首を横に振った。

「植え込みの高さギリギリに結界が張られているわ。壁を突き破るのもお勧めできないわね。結界は選択的に侵入者を捕縛するから」
「……地道に迷路を突破するしかないわけか」

 もっとも、迷路の幅も広く上までも十分な高さがあるので、戦闘をするには差し支えの無い広さではある。やはり、罠を仕掛けるのではなく、逃げ場を無くした上で戦力をぶつけて押し潰す類の作りだな。

 さて……。隊列はシーラとイルムヒルト。イルムヒルトの肩に乗ったセラフィナ。そして俺――と。探知能力を持ったメンバーが前を進むというのはいつも通りだ。
 隊列中央はアシュレイ、マルレーン、ローズマリー、クラウディア。基本的に近接戦闘が苦手な面々を配置。中央の者達をイグニスとデュラハンが守る。
 殿は――グレイスと、嗅覚での探知能力に優れたラヴィーネだ。そしてラヴィーネの背に乗ったエクレールが常時後方を監視する形となる。

 そして、長い直線の左右に逃げ場のない通路を進んでいると、曲がり角が見えてきたところでシーラとイルムヒルトが同時に足を止めた。

「……何か来る。大きな生物が二匹。両方とも四足歩行」
「熱源も沢山。正面に見える、あの曲がり角からよ」
「……来るか」

 明らかに今までの鑑賞用の生物とは違う動き。警戒しながらこちらが足を止めると、まず植え込みの陰から浮遊するカボチャが続々と出てくる。
 カボチャには目や口を模した切れ込みが入っていて――双眸に炎を宿していた。首から下は暗い色合いのマント。両手に不釣合いな大きさの庭木バサミを持っていた。
 俺達の姿を認めるなり、庭木バサミを激しく動かしてこちらに向かってくる。

「カボチャの庭師だわ。侵入者には攻撃を仕掛けて来るわよ」

 ……パンプキンヘッドの亜種か。魔法生物の類のようだな。
 続いて――女の上半身が顔を覗かせる。しかし、その上半身の出てくる高さがおかしい。植え込みのかなり上のほうから俺達を見下ろすとにやりと笑う。そのまま女が前に出ると、そいつの全容が明らかになる。腰から下が竜に似た四足の化物の尾に繋がっているのだ。

「……アンフィスバエナか」

 そしてもう1匹。巨大な体躯を誇るアンフィスバエナに比べるとまだ小さいが――それでもかなりの体格を誇っている。三つの首を持つ黒い犬だった。口の奥に炎が瞬いている。
 ケルベロスだ。地獄の番犬。言うまでもなく警戒が必要な相手である。
 俺達を見るなり、三つの首の口の端が笑みを浮かべるように歪む。

 カボチャの庭師に二頭の魔獣……。向こうは戦う気満々のようだ。戦闘が始まると他の魔物も集まって来る可能性はあるな。特に、ガーディアンの乱入には警戒しなければならないが……まずは目の前の連中を片付けることから始めるとしよう。では――戦闘開始だ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ