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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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447 地上と地下の訓練

「さて……他に何か事前に対策を立てたり、決めておくべきことはあるかな?」
「ええと。仮にタームウィルズが魔人率いる魔物の集団に攻められた場合の想定についての補足になりますが――」
「ふむ。聞こう」

 色々と有事についての話し合いを続けていく。その中で少し思いついたことがあるので提案しておくことにした。

 ヴェルドガルは他国との関係も良好。長いこと平和が続いているが、だからと言って備えをしないというわけではない。
 首都近辺での戦いとなるとどうしても他国との戦よりも反乱などを想定しているところはあるが……有事の際、敵に包囲された場合などには、城下町の民を王城セオレムの中に避難させるということも視野に入れているそうだ。この方針は迷宮――クラウディアとヴェルドガル王家との約定があるので、という背景もあるだろう。

 王城セオレムは外壁とはまた違う魔人に対しての結界が張られているので、そういう意味では住人を避難させるのには向いている。
 それらを前提として、提案しておきたいことがあるのだ。

「前もって、住人を王城に避難させる予行演習――訓練といったことはできますか?」
「ほう」

 俺の言葉に、メルヴィン王が興味がありそうな素振りを見せた。
 要するに避難訓練だ。有事に住人を王城に収容する方針ならば、その流れをスムーズにするために予行演習をしておけば、問題点の洗い出しや改善点が分かって安心というわけである。
 そういった内容を伝えるとメルヴィン王は腕組みして思案しながら言う。

「――ふむ。事前の気構えができていれば住人達も混乱しなくて済むか。良い手よな」
「老人や子供、傷病者の所在も把握すれば兵士達も誘導もしやすくなるでしょうな」

 イグナシウスが静かに頷く。メルヴィン王は顔を上げて口を開いた。

「あい分かった。避難訓練については近日中に告知し、騎士団達に具体的なところを計画させ、早い内に実行させるとしよう。騎士や兵士達も守るべき者の顔を見ることができるし、市街地で戦闘が行われる場合も行動がしやすくなる。様々な面で良い訓練となるであろう」

 ああ。騎士や兵士達にとっては士気高揚の意味合いや、戦闘が行われる場合の地の利を見直すことにも繋がるわけか。

「もしもの場合に王城に籠城するとして……食料の備蓄は今はどれほどあるのですか?」

 フォルセトが尋ねる。地下都市の主導役を担っていた彼女らしい視点の疑問ではあるな。

「それなりの備蓄はされているが……有事に開放される独立した迷宮の区画を王城は有するゆえに、迷宮の物資を調達することも可能となっている。故に、セオレムは兵糧攻めに強い。これは食料だけ限った話ではなく、武器や防具も同様と考えてもらって良いぞ」
「それは……お見逸れしました」
「いや。備えは重要故に、有意義な視点だ」

 付け加えるなら……セオレム自体が結構な要塞だしな。
 飛竜部隊が存在しているので制空権を握っている上に、地上から攻め込めば高い塔に囲まれ、四方八方から矢を射掛けられ放題、石を落とされ放題というわけで。
 外周から攻略しないと中央にある王の塔へ攻め込むのも非常に難しくなっているという構造だ。籠城するとなれば心強いだろう。

 しかし……そんな独立した区画があるのか。BFOでは王城の地下が迷宮に繋がっているのでは、などという噂話も聞いたことがあるが……そもそも王城自体が迷宮の一部だから今更と言えば今更か。
 まあ、緊急時の物資調達という用途から考えると、その特殊区画自体の攻略難度は高くなさそうな気がするけれど。
 と、そんな話をしながら、温室での会議は終了となったのであった。



「では――設営開始!」

 エリオットの号令一下、地面を覆う氷を四角く砕き、凍った木を切り倒して、手早く拠点を作っていく討魔騎士団達。
 土魔法の使い手であるライオネルは防壁を築き、あっという間に樹氷の森の一角に拠点を構築していく。

 エリオットなどは飛竜や地竜達を収容する施設を、氷のドームを作り出して建造していく。広さも十分。凍り付いた木をそのまま柱として使い、凍り付いた足場だけは綺麗になっているという……水魔法を専門にしていて、元々シルヴァトリアの魔法騎士団に所属していただけあって、このあたりの手際は流石というべきだろう。

 温室で行われた会議で色々と話し合い、明くる日から早速その方針に従って訓練が始まった。今頃は地上――タームウィルズでも大規模な魔物や魔人の襲撃に備えての避難訓練の告知が行われているはずだ。

 討魔騎士団に、コルリスとフラミアを連れてステファニア姫、アドリアーナ姫、それにフォルセト達を加えて迷宮に降り……樹氷の森で野営を行ったり、凍った足場の上での戦闘訓練や魔物との集団戦といった訓練を行うわけだ。

 部隊は班ごとに分かれ、それぞれの班には魔法が使える者が最低一人は配属されているという状態だ。
 仮に作戦行動中に吹雪などに見舞われ、シリウス号を中心とした本隊からはぐれてしまった場合でも生存率を上げる、というのを目標に掲げている。

 例えば火魔法が使える者がいれば比較的簡単に暖を取れるし、水魔法ならば飲み水を確保したり雪洞やかまくらを迅速に作ることができるだろう。
 風魔法に秀でた者なら吹雪を防げるし、ライオネルのように土魔法を使えれば防風壁を作れるので便利さは言うに及ばず。とにかく風を避け、体温を奪われるような状況を避けなければいけない。

 魔法を用いることが可能な人員の配分と、その種類を見極め、足りない分を魔道具で補う、というわけだ。
 付近の魔物は拠点設営の前にある程度掃討してしまったので――次の魔物の群れが湧いてこちらを察知し、攻めて来るまでには少し余裕があるだろうか。

「こうやって真っ直ぐに足を降ろして、そこに重心をおくと良いわ」
「なるほど……」

 状況が落ち着いているのでフォルセトとシオン達はアイスバーンの上で歩く方法などをアドリアーナ姫から教わっているようだ。
 重心の置き方であるとか、足の降ろし方といった内容である。マルレーンやシーラも一緒に頷きながら歩き方を学んでいた。

「戦闘中の場合は……極力地面を足場として使わず、地表付近でもシールドを蹴って飛び上がったりしたほうが良いかも知れませんね」

 と、シオン。
 ……さて。俺としても――特にヴェルドガルやバハルザード出身の者に対して、今の内にレクチャーしておきたいことがある。
 各班の拠点設営が終わったところで、エリオットに討魔騎士団を整列させてもらって、俺から話をすることにした。

「えー……まず、北国の雪についていくつか注意をしておこうかと。ヴェルドガルでも雪は降りますが、北国のそれとは危険性が違うということで。まずは……地吹雪ですね」

 地吹雪と聞いてエリオットを始めとするシルヴァトリア出身の者達はどこか納得したような表情を浮かべた。

「これは一度地面に積もった細かな雪が風に飛ばされることで、目線の高さでの視界が著しく悪くなる状態です。当然ながら、行軍などは困難な状態になります。遭遇したら互いに声を掛け合うだとか、前にいる者の背中を見失わないようにするなどの対策が必要でしょう。空中戦装備があれば、一旦上空に出ることで視界の悪くなっている空間から逃れることもできるかも知れませんが……天候によってはそれもあまり意味がありませんし、対応は場合によりけりでしょうか」

 ふむ……。百聞は一見に如かずという言葉もあるし……。

「これについては実際に体験してもらうほうが早いかなと思いますので……今から魔法で再現してみましょう。防寒具をしっかりと着用して下さい。また、新しい雪が積もった後の氷の上は滑りやすいです。併せて注意をお願いします」

 そう言うと、討魔騎士団達の表情が些か引き攣ったような気がする。まあ……殺傷力のあるものではないので。
 カドケウスとバロールを高所に放って、魔物が来ないか索敵を行いながら全員の準備が終わるのを待つ。

「お2人はどうなさいますか?」
「私達も問題ないわ。攻撃を目的とした魔法ではないのだし、訓練だものね」
「ええ。いつでもどうぞ」

 と、ステファニア姫とアドリアーナ姫。では遠慮なく。
 討魔騎士団の準備が終わったのを見計らってマジックサークルをいくつか展開させた。地表付近、広範囲に細かな氷の粒を無数に生み出しつつ、風に乗せて周囲を舞わせる。
 密度を濃くしながら巻き上げた風を頭上を通してもう一度地上へと戻す。
 風のパイプを作るように周囲を覆い尽くしていけば――視界が一気にホワイトアウトしていく。数メートル先が見えないという状態だ。

「うわあ……。本当に何も見えなくなるんだ……」
「寒い……わ……」
「でも、きらきら光って綺麗かも」

 と、シオン達。3人は雪に慣れていない割に中々余裕があるというか……不真面目なのではなく、肝が据わっているところがあるからな。
 まあ……北国の悪天候というのは生死に直結するから、しっかりと対処できるようにしていきたいところだ。
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