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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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446 温室会議

 水田の整備、フォルセト達の光源設置が終わったところで地下区画から地上に戻ってくると、丁度温室の近くに馬車がやってきたところであった。
 王家の馬車だ。誰がやって来たのかと思いながら温室の外まで出ていくと、馬車からメルヴィン王が降りて来た。

「これは陛下」
「うむ。ステファニアから温室が完成したと聞いてな。執務も一段落したので足を運んでみたのだが」

 そう言ってメルヴィン王は笑う。なるほど。忙しかったようなので温室の仕上がりを楽しみにしていたというわけだ。

「そうでしたか。地下部分も完成したところなのです。どうぞこちらへ」

 笑みを返して頷き、温室内へ案内する。
 扉から温室内に入ると、冬の空気から亜熱帯、或いは熱帯のそれへと変わる。

「温室と聞いていたが、それを差し引いても随分と外と空気が違うのだな」

 タームウィルズの冬から一気に南国の気候を再現したものだから、確かに落差は大きいとは思う。暖かいのは確かだが、湿度も高いので人にとって快適であるとは言えないし。

「南方の植物に適した温度と湿度にしているので、些か過ごしにくいかも知れません」
「ふむ。そなた達が赴いた場所がどのような場所だったか想像できようと言うものだ。まだ植物は育ってはおらぬが、内装も植物に合わせているのではないかな?」
「そう、ですね。例えば、椰子の木を植えた場所は砂漠の泉周辺を連想するようにと」
「また……思わぬところで異国情緒を味わえるものだ。妖精達もそこかしこを飛び回っているし、実に面白い」

 メルヴィン王は周囲を見回しながら楽しそうに頷く。温室内を一通り回ってから、地下区画へ。ここは米の生育に適した環境にしているので、また空気が違う。
 魔法の光が降り注ぐ水田を見て、メルヴィン王は興味深そうな面持ちで頷く。

「これが水田か。ふうむ。水の流れる音が中々心地良いな」
「ありがとうございます。稲に関しては苗が準備でき次第、植えていこうかと考えています」
「うむ。新しい作物には期待している」

 と、一通り見て回ったところで、地上部分では一番過ごしやすい温度に設定しているであろう中二階のテラス席へと案内する。
 アルフレッドは既に炭酸水やかき氷の魔道具などを設置していたようで……テーブルなども運び込まれて寛げるようになっているのだ。

「中々見晴らしが良い場所よな。温室の他の場所よりも涼しいように思えるが」
「そうですね。多少はここで歓談などできるようにと考えて作りました」
「ほう。では、少々ここで過ごして試してみるか。そなたの手が空いたらジークムント殿やフォルセト殿、イグナシウス殿を交えて儀式場で話を、と考えていたのだが……今はどうかな?」
「問題ありません。するべきことは終わっていますので」



 そして、連絡を受けてジークムント老やイグナシウスもやって来る。2人は温室を見て回り楽しげにしていたが、やがて一通り見終わるとテラス席へとやって来た。

「どうであったかな?」
「いやはや。先日まで何も無かったというのに、テオドールは相変わらずですな」
「うむ。相変わらず仕事が早いことよな」

 と、メルヴィン王の言葉に2人は笑い合う。テラスのテーブルに着くと、グレイスが炭酸飲料をカップに注いでくれた。

「ありがとう」
「はい」

 礼を言うと、グレイスは穏やかに笑みを浮かべて一礼して下がる。
 それからメルヴィン王に向かい合うと、表情を少し真剣なものにして口を開いた。

「さて……。まずは連絡からか。討魔騎士団達への防寒具が用意できたことを知らせておく」
「ありがとうございます。では、樹氷の森での訓練も行っていこうかと思います」
「うむ。ベリオンドーラの調査には万全を期したいところではあるからな」
「あの土地は冬場は氷に閉ざされますからな。訓練は無駄にはなりますまい」

 ベリオンドーラか。ジークムント老やイグナシウスにフォルセトを交えてということはそのへんの話になるだろうとは思っていたが。
 ベリオンドーラに存在している物や魔人の狙いに関しては今までに何度かその可能性をメルヴィン王達と話をしているが……盟主の能力を知って以来、また一つ考えていることがある。そのことについて話をしておくべきだろう。

「ベリオンドーラについて考えられる可能性の1つとして……迷宮に類似する月の遺産……或いは遺跡があるのではないかと」

 そう言うと、みんなの視線が集まる。俺は言葉を続けた。

「例えば――魔物を生成するような設備であるとか」
「魔力から魔物を作り出す、というものか」

 メルヴィン王は顎に手をやって思案するような仕草を見せる。

「……七賢者の出自からすると、有り得る話ね」

 その話を隣のテーブルで聞いていたクラウディアも、目を閉じて頷いた。
 そう。月の遺産であるなら有り得る話だ。
 俺は盟主の能力こそが魔物の支配であるとか大発生に関わるのではないかという可能性も考えていたが、フォルセト達の情報からすると、盟主の能力は厄介ではあるが、大発生そのものとは直接結びつかないように思える。

 勿論、盟主が以前戦争を起こした際に魔物を従えていたということならば、魔物達を御する手段もかつては間違いなくあったのだろう。瘴気も、魔物の生育に良い影響を及ぼすとは思えないし。

 だが、それでも。BFOにおける北方での魔物の大発生という情報を鑑みるに……ベリオンドーラにそういった物が眠っている可能性は論じておくべきだろう。盟主の封印とは関係無しに起こり得ることとして。

「月の遺産か。その封印を解くために魔人達が鍵を欲したとするなら辻褄は合うな」
「火の精霊殿の封印が解ける際に仕掛けてこなかったことも……戦力を温存している、と考えれば合致するでしょうか」

 ローズマリーは羽扇で口元を隠しながらも、眉を顰める。

「将としての魔人に、兵としての魔物か。厄介なものじゃな」

 イグナシウスも顎髭に手をやってかぶりを振った。

「けれど……迷宮程の生産能力はないはずだわ。それだけの魔力を集めるのは容易なことではないもの。迷宮は星々の動きに連動させてこの大地の魔力を集め、そして利用しやすいように整えてもいる。そこにもう1つ、魔力を集めるような存在が後から作られれば、迷宮にも大きな影響が出て察知できるはずよ」

 つまりは、魔物という兵力を補充できると仮定しても、ある程度時間が必要ということか。無尽蔵ではない、というのは良い情報だろう。

「……魔人襲撃の際の陽動に用いる可能性も有り得ますね」
「ああ……。生成した魔物であるなら、使い捨てることも可能というわけですか」

 俺の言葉に、フォルセトが相槌を打つ。

「となるとやはり、西方にも転移可能な拠点を作っておかねばならぬか」

 と、メルヴィン王。ある程度の数の魔物を使って前もって攻撃を仕掛け、そちらに目を向けさせておいてから本命の魔人がタームウィルズを襲撃。有り得る話だ。勿論、魔人と魔物の全戦力をタームウィルズにぶつけてくる可能性もあるわけだが。

 となるとやはり、こちらとしては転移魔法でヴェルドガル国内全域をカバーしておきたい。西方――つまりドリスコル公爵領への転移を可能にして、相手の想定する以上の速度での援軍と撤収を行えるようにしておく、というわけだ。

「公爵は近々領地に帰るそうだ。それに合わせるのが良いかも知れんな」
「では……シリウス号で送って行くというのが、無駄がなくて良いかも知れませんね」

 海岸線の領地と西の海と。どちらにも転移拠点を置ければ対応力が増してくるはずだ。
 他にもいくつかの可能性はここで話して、出来うる限りの対策案を出しておくべきだろうな。瘴珠をここに送り込んだ目的。盟主が復活してしまった際の対処法。ベリオンドーラについて。記録に残っている高位魔人。色々な状況を想定しておくのは決して無駄にはなるまい。

「――仮に、そういった設備がベリオンドーラにあるとして。いざという時にそれを破壊して停止させることは可能かな?」

 メルヴィン王がクラウディアに尋ねると、彼女は少し瞑目して思案した後に、金色の瞳を俺に向けてはっきりと言った。

「迷宮と同等の設備だと仮定しても、テオドールになら破壊可能ではないかしら。外部からの破壊に対しては対策もされているでしょうから、内部からの破壊のほうが確実ではあるわね」

 俺になら……ね。
 魔人も妨害してくるだろうから事はそう単純ではないのだろうが……まあ、中枢部に辿り着ければ不可能ではないと考えておこう。
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