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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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444 南国植物と花の妖精

「ふうむ。何やら楽しげな空気を感じて来て見れば」
「ああ、テフラ。今、温室に水を引こうとしているところなんだ」

 作業を続けていると儀式場にテフラが姿を見せた。俺が答えるとテフラは機嫌の良さそうな様子で頷く。こちらで作業している気配を察知してテフラ山からやって来たのだろうか。

「うむ。フローリアから聞いているぞ」

 ああ。精霊同士で割と交流があるみたいだしな。

「儀式場のすぐ近くに決まったの」
「ほほう。それは嬉しいな」

 と、喜び合っている精霊2人である。セラフィナもテフラがやって来たことに気付いて嬉しそうに彼女のところへと飛んでいった。精霊と妖精同士で仲が良いようで何よりだ。
 彼女達の様子に頷いて作業を続けていく。

「じゃあ、水を流すよ」

 最後の導水管と、ポンプ役になる魔道具を繋げ――魔道具を起動させると、源泉から湯が温室側に流れていく。これで貯水タンク側に水が蓄えられるという寸法だ。

 しかし、温泉の温度と含有する魔力は利用させてもらうが、そのまま源泉を引き込むと植物に適さない成分が含まれているため都合が悪い。
 そこで送り出す際に水魔法、土魔法を組み込んだ魔道具で成分を分離させ、水質を栽培に適するように調整を施す。
 これにより、温度と潤沢な魔力を活用しつつ植物栽培を行っていく、というわけだ。

 別の魔道具で温度調節をして温室側の水路に水を流せるし、夜間や冬季には温室内の熱を逃がさないためにも利用可能という寸法である。
 敷設した導水管が正常に作動していることを確認し、地面に埋め込まれた管を見えないように土魔法で埋めて隠しながら温室側へと向かう。

「貯水槽に水は来てる?」
「うん。確認した」

 温室側で作業していたアルフレッドが頷く。

「室温調節の魔道具も設置したから……次はガラスかな?」

 ガラスの壁と天井は二重構造にして間に層を作ることで断熱効果を高める。熱を逃がさず冷気を入れず、といった具合だ。
 珪砂を満たした樽を並べて――ここから一気に作っていく。
 マジックサークルを展開。温室の骨組みの間に白い光球が浮かぶと、そこに向かって珪砂が吸い上げられていく。

 光球の上部と下部から伸びるようにガラスの板が成長していった。
 同時に2枚のガラス壁が生成されて――枠にぴったりと収まるサイズで成長が止まった。

「……っと。こんな感じかな?」

 構造強化の魔法を用いながらがたつきが無いかを確認する。……うん。大丈夫のようだ。

「いやはや。分かってはいるけれど、これだけの大きさのガラスの壁が一気に作られていくのは見物だね」
「確かに。ガラスだから綺麗ですね」

 と、アルフレッドが笑い、シオンが感心するように頷いた。
 んー……。確かにアシュレイやエリオットの氷の魔法であるとか、コルリスの結晶生成は見栄えがするかも知れない。
 まあ、見ていて退屈しないというのは良いことだ。
 この調子で全部の枠を埋めてやれば外側は完成である。排気を行ったり外の空気を取り込むために開閉式になっている部分もあり、このへんはシルン男爵領で作った温室と同じではあるか。

 そして壁から天井まで枠を二重ガラスで埋めて、一枚一枚構造強化を施していけば――外側は出来上がった。よし……。後は内装だな。



 内部の足場、区画分け共々完成したところで温室内に水を通し、空調の魔道具も起動させると――湿度、温度共に高まり、南国のような空気になった。

「どうかな?」
「んー。迷いの森みたいな感じかな」
「この格好だと暑いかも知れません」
「……上着は脱いでも大丈夫かしら」

 ハルバロニス周辺の森に慣れているシオン達に意見を聞いてみるとそんな答えが返ってきた。

「あまり薄着にならなければ大丈夫だと思うよ。土を運び込むから、汚れないようなところ……あの中二階の手摺あたりに掛けてくると良いかも知れない」
「わかったわ……」

 シグリッタは頷くと、テラス席に上着を脱ぎに向かった。
 内部でまだ作業するから、植物を植えるまでは温度を下げる予定ではあるが……まあ、過ごしやすい程度に調整するので問題はあるまい。

 これで後は花壇周りと内装だな。水路関係は既に機能している。
 花壇内部や周辺を水が通っていて、導水管の魔道具と同様の仕組みでスプリンクラーのように水を散布したりもできる。入口から入って来た場所のホールにある噴水も、既に稼働していた。
 というわけで、後は花壇に土を入れてしまえば何時でも作付が可能という状態だ。肥料や土を運び込むと共に、少しばかり南国風になるように手を入れてやるとするか。

 植えるのはバナナ、椰子、パイナップルに各種薬草。それにサボテン。食用や薬用ではなく、純粋に鑑賞用の花を咲かせる植物も持ち帰っている。

 区画ごとにテーマ分けして植えるわけだが……サボテンエリアなどには自然石風のオブジェを作って砂漠の岩場の荒涼した雰囲気を醸し出せれば上々といったところだ。
 同様に鑑賞用のエリアは針金でアーチを作って蔓や葛などの植物を這わせたり、道の脇にある花壇内部に人工池を作ったりと色々やって、密林風に仕立て上げる予定である。

 椰子の木を植えるのは入口を入ってすぐのホール周り。根本に浜辺にあるような目の細かい砂を用意し、池と合わせてオアシス風に。

 それぞれの区画のテーマごとに従い、植物が育った際の完成予想図を思い描きながら内装を整えていく。並行して――用意した土からゴーレムを作り出し、花壇内部で土に戻すことでどんどんと環境を整備していく。

「そろそろ植物も植えられそうですね」
「そうだな……。植えないと環境整備も終わらないし……」

 アシュレイの言葉に頷いて答えると、クラウディアが言った。

「必要なら取って来るわ」
「んー。それじゃあ、そっちも始めるか。まだ地下水田の整備も控えてるし」

 と答えると、クラウディアは転移魔法で自宅へと飛んでいった。
 環境整備はフォルセト達の体感温度に合わせて、更にフローリアが植物達の感情を読み取ることで、南国の植物達にとって丁度良い温度や湿度で固定する、ということになっている。温室内部に設置された魔道具が、設定された温度と湿度に保つというわけだ。
 なので、家から植物を持ってこないと完了しないところはある。

「テオドール、事情を話したらあの子達も手伝ってくれるって」

 と、腕の中にハーヴェスタの鉢植えを抱えたフローリア。あの子達というのは、儀式場周辺に住み着いた花妖精達だ。見ればガラス窓越しに、俺達の作業を興味深そうに眺めていた。

「手伝うって言うと?」
「この透明な家だと虫が入れないから、代わりをしてくれるって言うの」

 ああ、受粉であるとかか。
 それは助かるな。ドライアドにノーブルリーフ、更に花妖精達と……植物に関係の深い者達が揃っているというのはこちらとしても安心である。

「なるほど……。じゃあ、妖精達が使いやすい大きさの出入口を作っておくかな」

 余った鉄などの資材を使えば蝶番やドアノブぐらいは作れるだろう。
 その前に……入口まで行って扉を開き、花妖精達を中に招き入れるような仕草をしてやると、花妖精達が温室内に入って来る。空を踊るように舞う、花妖精達。
 セラフィナが嬉しそうな表情を浮かべて、一緒になって温室内を楽しげに飛び回っていた。

 ふむ……。これで植物が植えられ、色とりどりの花が咲いたりしたら随分と浮世離れした光景になりそうだが……。まあ、別にいいか。

「フローリアは、暑いのは大丈夫?」
「ええ。本体がここにあるわけではないもの。ノーブルリーフも大丈夫だし、花妖精達も、さっき聞いてみたけど平気みたい」
「なるほどね」

 ノーブルリーフ……というか原種であるイビルウィードは迷いの森にも自生していたからな。寧ろ冬を温かな環境で過ごせるのでノーブルリーフ達にとっては良いのかも知れない。


「よし……こんなところかな」

 アクアゴーレムも動員してクラウディアが持ってきた植物を移し替えていけば……一先ず温室の完成というところだ。マルレーンが最後に残った苗を土に埋めて、丁寧に周りに土を掛けていくと、それで作業が一段落した。振り返って嬉しそうに笑うマルレーンに頷き返す。

 植物はまだ植えたばかりなので想定している完成予想図からすると些か花壇周りが寂しい気もするが、生育が進めばいい具合になるのではないだろうか。
 フローリアとフォルセト、アルフレッドも各区画ごとの温度と湿度の設定を終えて戻って来る。

「これで大丈夫だと思うわ。みんなも元気だし喜んでるみたい」

 みんな。つまり南国から運んできた植物達だ。区画ごとに土壌の質を変えて、相性の良いもの同士を植えたりと、色々と細かく調整している。その甲斐あってと言うところだ。

「よし……。地下部分はこれからだけど……地上部分はこれで完成かな。今日のところは暗くなってきたし、これぐらいにしておこうか」

 と言うと、みんなが笑顔を浮かべて頷いた。

「育つのが楽しみですね」

 と、グレイス。その言葉にローズマリーが頷く。

「薬草周りは楽しみね。色々研究が捗りそうだわ」
「ん。期待してる」

 と、シーラ。ローズマリーは薬草で、シーラの場合は椰子の木であるとかパイナップルやバナナであるとかだろう。イルムヒルトが隣でおかしそうに笑う。

「ああ。忘れてた。警報装置を設置しないと」

 アルフレッドが言う。

「ならわたくしも、人形をこっちに配備しておくわ」

 警備員代わりにというところか。儀式場にも警備兵はいるので防犯体制もばっちりだな。
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