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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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443 異界大使の温室作り

「んー……。やっぱりここが良いかな」

 早速儀式場に馬車を停め、温室の建設予定地の下見を始める。

「儀式場や火精温泉からも近いですし、日当たりも良いですね」

 グレイスが笑みを浮かべ、手で日除けを作りながら午後の陽ざしをやや眩しそうに眺める。
 うむ。諸々の条件に問題は無さそうだ。日当たりは特に重要だが、そのあたりもクリアしていると言えよう。

 メルヴィン王は、自分の代わりに裁可を下せる人物を後でこちらに寄越すと言っていた。温泉街と王城の間でどこそこにすると連絡に走って着工が遅れるのを防ぐためなのだろう。さて、誰が来るのやら。ジョサイア王子かステファニア姫あたりだろうか?

 そう思っていると東区に通じる道から馬車がやって来て、建設予定地の前に停まる。
 中から降りてきたのは……宰相のハワードだった。

「おお、大使殿、皆様方もお揃いで」
「これはハワード様」

 と、一礼する。ハワードは穏やかに頷くと言った。

「陛下より、温室建設予定地についての裁可を仰せつかっております」
「ハワード様自らお越しとは。お手数おかけします」
「いやいや。こちらに足を運ぶ予定がありましてな。いや、後々の食料生産に関わって来ることでもありますので、私も話を聞いて来たほうが良いとも言われておりますぞ」

 そう言って、ハワードは少しだけ誤魔化すように笑った。……なるほど。温泉に行くのならということか。

「建設予定地はお決まりでしょうか?」
「そうですね。この場所にしようかと見ておりました。問題が無ければここに決定したいと考えていましたが……」

 と答えると、ハワードは一通り周囲を見渡して頷く。 

「承知しました。陛下にはそのように報告しておきます。着工は大使殿の御都合の良い時になさって結構とのことです」
「ありがとうございます」

 ということは、このまま着工してしまって問題ないというわけだ。
 メルヴィン王によると、使用の予定が無い土地なら大丈夫とのことで。儀式場周辺は意図的に空白を作っているものの、それでも何らかの用途で使うことがないとも言えない。
 そういう意味で、現在の温泉街の状況に精通している人選となると宰相であるハワードが適任であったのだろう。

「しかし……ここに温室となると、中々風情があって良いですな。立地も実に良い。温泉に行く前、或いは温まった後に、のんびりと珍しい草木を愛でるというのは……うむ」

 ハワードは完成の青写真を脳内で描いたのか、静かに頷いている。

「温室に関してはやや作物や薬草に偏っているところもありますが、想定していた大きさより土地が広く使えそうなので、庭園を作って季節の花々を植えるというのも面白そうですね」

 まずはここで作物を育てて増やせる環境を整え、需要に応じて栽培可能な拠点を増やしていくというのが理想だが、庭園に関しては景観重視でも良いはずだ。
 まあ、並行して自宅でも小規模な温室を作り、家庭菜園として栽培させてもらう予定ではあるが。パイナップルだとか、気軽に楽しみたいしな。

「地下に新しい作物も植える予定と聞きましたが」
「はい。稲……白米のことですね。面積あたりの収穫量が多い点と、長期保存をしやすい点を鑑みると、食料として非常に優秀なのではないかと」

 というのが、日本などで米が主食として広まった理由である。麦であるとかコーンであるとか、主食になり得る作物はいくつかあるが……米もそれらと同じく、多くの人口を支える食料としては優秀な部類だ。
 ハワードは少し思案するような様子を見せているが、色々と理想的な未来予想図を思い描いているのか口元が若干緩んでいた。

「うむむ。実に楽しみですな。では……陛下には私から伝えておきます」
「はい。よろしくお伝えください」

 ハワードは政治的になるべく俺から距離を取ることを心がけているからか、少しだけ名残惜しそうではあるものの早めに話を切り上げ、馬車に乗ってその場を去っていった。

「それでは……私も動いても良いかしら?」

 ハワードとの話が終わったのを見計らって、クラウディアが尋ねて来る。

「うん。着工しても良いみたいだ。ええっと、そうだな。こっち側に温室を作るから、このへんを資材置き場にしようかな」

 立体模型を交えて説明すると、クラウディアは目を閉じて静かに頷く。

「分かったわ。資材を転移させるから、このあたりには立たないように気を付けてもらえるかしら?」
「ん。了解」

 クラウディアとのやり取りを聞いて、みんなも資材置き場の予定地から距離を開ける。
 その光景にクラウディアは頷くとマジックサークルを展開させた。

「では、行ってくるわ」

 そんな言葉を残してクラウディアの姿が消えた。
 ……日差しは穏やかだが、若干風が冷たいな。作業中に身体が冷えるのは良くないので、風魔法でフィールドを張って建設予定地付近を無風状態にすると……丁度心地のよい秋の日和といった体感温度になった。

 少しの間を置いて、光の柱が出現する。温室用の資材と共にクラウディアが戻って来た。流石に転移魔法で運んでしまうとあっという間だな。では、早速魔法建築を始めよう。

「起きろ」

 作業員製作を兼ねて土ゴーレムを動員。地下部分をある程度の目星を付けて掘り進め、それから基礎を作っていくことにしよう。

「水田の規模はどれぐらいにしましょうか? 後から広げることもできるので、大凡で大丈夫ですよ」

 動員したゴーレムの数を見て目を丸くしていたフォルセトであったが、声をかけると気を取り直すように小さくかぶりを振って答える。

「えっと。そうですね……。広さはこのぐらいで良いと思います。種籾は念のために一部残しておけばやり直しが利きますから。深さはもう少しあっても良いかも知れません。天井や壁に術式を仕込みますので」
「分かりました」

 ではもう少し深く。……このぐらいだろうか? フォルセトと相談しながら地下部分を整備していく。

「地下の強度は大丈夫かな?」
「壁は大丈夫だと思う。念のためにこのへんに柱があると安心かも」
「了解」

 地下部分を拡張し終えたらセラフィナと共に構造を補強。続いて地下区画の天井というか温室の基礎部分を作っていく。
 地上部分には実際に植物を植える花壇も作っていく予定だ。水路と土を盛る花壇部分も想定しながらゴーレムを石材に戻し、一気に形成していく。出来上がった端から構造強化で温室の基礎部分を作成、補強。

 地下をくり抜いた分、ゴーレムが余っているが、これらは温室周辺の塀を作成するために利用させてもらうというのが良いだろう。

 さて最終的に温室に水を引いてこなければならないが……先に温室の骨組み部分作成へ移るとしよう。

「私達にお手伝いできることはありますか?」

 と、アシュレイが尋ねて来る。

「んー。そうだな。じゃあ……資材置き場の中から鉄と魔石を俺のいるところに運んで来てもらえると助かる。怪我をしないようにね」
「分かりました」

 俺が言うと、みんなが動き出す。例によってレビテーションで俺のところまで運んでくるわけだ。
 温室建設部分の端付近に立ち、マジックサークルを展開して待機。最初に資材を持って来てくれたのはマルレーンだ。

「ありがとう」

 礼を言うとマルレーンはにこにこと笑みを浮かべてこくんと頷くと、次の資材を運ぶために小走りに駆けていった。
 すぐ後ろに羽扇で口元を隠したローズマリーが続く。マルレーンが怪我をしないか心配していたのかも知れない。
 続いてアシュレイ、フローリア、グレイス、シーラ、イルムヒルト、クラウディア、エルハーム姫、フォルセト、シオン達……と続く。

 みんなが持ってきた鉄のインゴットと魔石を光の球体の中で溶かして混ぜていく。
 加工に際して用いる魔法はシリウス号を作った時と同じものだ。鉄塊と魔石を光の中で溶かして融合させ、温室の骨組みとして形成し直していくというわけである。

 構造強化と状態保全の魔法でしっかりと折れないよう、錆びないように補強しつつ、基礎部分との設置部分、壁、天井のアーチとなる部分と、順繰りに作っていく。

 薬草エリア。椰子の木エリア。パイナップル畑……。細かな生育環境の違いで幾つかの区画ごとに分けてある。それぞれで温度管理などを行う必要があるからだ。
 縮小模型で予定していた通りに各種区画部分の骨組みを配置し、組み上げる。
 後は……中央部分に噴水を作ったり、日差しの邪魔をしない位置に中二階というか、温室全体を一望できるテラス席のようなものを作る予定だ。

 立体模型を再現するように作業を進めていくと……段々と全体像が見えてくる。骨組みだけでも見た目だけはかなり温室っぽくなってきた。

 後はガラス板を魔法で成型して構造強化を施しながら枠に嵌めて行けば温室そのものの構造体部分は出来上がりだ。だが、空調関係の魔道具が設置されていないのにガラス板を嵌めてしまうと、内部の温度が上昇してその後の作業がやりにくくなるところがある。なので珪砂からガラス板を錬成する作業は後回しである。

 ここいらで源泉から水を引いてくる工程に移る。温室への水の引き方だが源泉のままでは水温が高過ぎるので、一度貯水タンクに溜め、そこで水温を調整してから温室内の水路やら地下区画に水を流すという形になる。

 というわけで導水管と貯水タンクの設置に移るとしよう。共に魔道具であるが……先にタンクを設置して、温室側から儀式場に向かって導水管を敷設していくのが良さそうだ。
 源泉と繋いだ時に自動的に水がやって来て、そのまま蓄えることができるわけだし。

 と、その時、王城のほうからコルリスが飛んできた。背中にステファニア姫とアドリアーナ姫、それからフラミアが乗っている。

「これは殿下」
「ええ。こんにちは」
「もしかすると今日あたりから温室を作り始めるかもと聞いて……手伝えることはないかと様子を見に来たのだけれど」

 うん。人手が多いのは助かる。

「ありがとうございます。これから貯水槽を設置しようとしていたのですが……コルリスとイグニスが支えてくれると丁度良い高さになりそうですのでお願いできますか? レビテーションで浮かせて、支えてもらっている間に土台を作ってしまいますので」
「分かったわ」

 ステファニア姫がコルリスに視線を送って頷くと、コルリスも頷き返す。貯水タンクを浮かせてコルリスとイグニスに支えてもらう。土台を形成、設置して、構造強化で補強。セラフィナを見やると、笑みを浮かべて頷く。

「ゆっくり降ろしてもらって良いですか?」
「ええ」

 土台の上に降ろして、固定していけば……。よし。これで貯水タンクは設置完了だ。
 アルフレッドも骨組みが出来上がった時点で既に動いていて、空調設備を設置し始めているようだ。

 では、引き続き導水管の敷設などを行ってしまうとするか。
 水回りと空調設備の作業が終われば、ガラスの壁や天井も骨組みに嵌め込めるだろう。

 その後花壇部分や内装部分を弄ってやれば……温室部分に関しては概ね出来上がりといったところか。ふむ……。工程の進み具合からすると、このまま作物を植える段階まで進むことができるかも知れないな。
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