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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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440 魔法料理と試食会

 さて。マンモスソルジャーの肉を受け取り、試食会――ということでその場にいる者に声をかけたり通信機で連絡を入れたりして、家に来てもらうということになった。

 味や各種料理との相性など未知数な部分があるので、色々と試す必要がある。味が良ければマンモス肉の流通する値段などにも関わって来るだろうし。
 というわけで市場で他の食材も買物をして早速家に持ち帰って、試食会までに煮たり焼いたり燻製にしたりといった準備を進めることになった。

 迷宮村の住人達や招待客を含めて食事をする人数が多いので、料理ごとに班を作って十分な量を作る態勢を取る。シチューにロースト肉、燻製、焼き肉と……各種料理班が分かれて作業をする形である。

「テオドール君は市場で色々買ってたみたいだけれど……何を作るの?」

 と、俺の班になったイルムヒルトが首を傾げて尋ねて来る。俺の班にはシーラとセラフィナもいる。

「んー。いや、少し試してみたいことがあってさ。手順を見せるから、その後に下準備を手伝って貰えると助かる」
「分かったわ」
「了解。テオドールの料理は楽しみ」
「はーい」

 と、三者三様に返事が返って来る。さてさて、上手く行くかどうか。
 マンモス肉は……何というか寒冷地に適応した生き物だけに脂がよく乗っていたりして、肉質も良さそうだ。試食会は相性の良い料理を探そうというコンセプトなので、俺としても一品ぐらいは今までに無かった物を作ってしまおうと考えたわけである。

 市場で買ってきたのはパンに小麦粉、卵……と。もう方向性的には定まっているな。
 パンから水魔法と風魔法で水分を奪ってボロボロに崩して、まずはパン粉を作る。トレイにパン粉を敷き詰め、ボウルに卵を溶いてやれば準備は完了だ。

「で、ここから肉に下拵えをする」

 マンモス肉に切れ目を入れ、それから両面を包丁の背で叩く。塩と香辛料で下味をつけて小麦粉をまぶし、卵にくぐらせ、パン粉をつける。

「ここまでの手順は良いかな?」
「ええと。下拵えしたお肉に小麦粉をまぶして……」
「溶いた卵にくぐらせてからパンの粉を付ける」
「うん。分かった」

 うむ。さて。ここからが問題なのだが……食用油が割と良い値段なので、景久の感覚で揚げ物料理を作ろうとすると、どうしても贅沢品になってしまうところがある。なので一工夫する必要があるだろう。

 パン粉のついた肉を小さなマジックシールドで支えた金網の上に乗せて固定。そして風魔法と火魔法を併用して、金網の周辺に熱を閉じ込め、限定された空間内に熱風を循環させていく。
 要するに……ノンフライヤーの原理を魔法で再現しているわけだ。脂が乗った肉なら肉側の脂で揚げられるだろうと踏んでのことである。

「おー……。魔法料理……」

 と、シーラが感嘆の声を漏らして目を丸くする。他の班の面々も作業の手を止めて、こちらに注目しているようだ。
 みんなが固唾を飲んで見守る中、下拵えされたマンモスカツを仕上げていく。

 宙で支えた金網の上で、揚げられていく過程が目に見えるので、リアルタイムで温度調整もしやすい、という部分はあるかも知れない。
 空気を閉じ込めているので匂いや音を感じられないが、見た目は段々と俺の知るカツに近い姿になっていく。脂が滴り落ちて……なんとも美味そうだ。

 キツネ色になったところで熱風を止めて魔法を解除すると同時に、閉じ込めていた匂いも解放された。カツ特有の香ばしさがあたりに広がる。揚げたての油の音が中々に心地良い。

「……このぐらいでどうかな?」

 上手く行っていると良いのだが。まな板の上にカツを降ろし、包丁を入れてみる。
 サクッとした手応え。火の通った肉に、じわりと滲む肉汁。
 おお。ノンフライヤーの魔法的再現なのでどこまでのものができるか不安もあったのだが……予想以上に良いのではなかろうか?
 衣といい、肉の断面といい……記憶の中そのままのカツの姿に満足感を覚える。まあ、トンカツやチキンカツではなくてマンモスカツなので未知数な部分はあるのだが。

「とりあえず試食してみようか。実験だし、上手くいってると良いんだけどね」

 シーラ達も大分期待を込めた目でこちらを見ているし。そう言うと、シーラは神妙な面持ちで頷いた。
 みんなに一切れずつ取り分け、早速口に運んでみる。
 ……ああ。これは懐かしい食感だ。サクッとした特有の歯応えが何とも言えない。食用油を使っていないので自然にカロリーオフになるところもあるしな。

「おお……?」

 そしてマンモス肉との相性も悪くない……というか、もっと臭みのある肉かと思っていたのだが。
 適度な柔らかさにたっぷりとした肉汁が口の中に広がる。繊細な味で案外癖がない。続いてタームウィルズの屋台などで使われているソースを上からかけての試食。これは……美味いな。俺の知っているソースとは若干味が違うが、カツには合うのではないかと思っていた。
 こうなってくると俺の食べ慣れたソースやら醤油やらの調味料と……後は白米が欲しくなるところだ。水田の開発も進めて行かねばなるまい。

「ん。美味しい」
「確かに……。香ばしくて、不思議な食感で」

 と、咀嚼してじっくり味わっている様子である。

「これは……美味しいですね。サクサクしていて」
「肉汁が外側のパン粉と卵で閉じ込められているわけですね」
「テオドールは不思議な料理を考えるわね……」
「でも美味しいわ。魔法の微調整が上手いからこそよね」

 グレイスとアシュレイ、ローズマリーとクラウディアがゆっくり味わった後に、それぞれ感想を述べる。マルレーンも一口サイズに切り分けたものを口に入れて真剣な表情で味わってから笑顔を向けてきた。

 ……ふむ。どうやら好評なようだな。うん。揚げたては確かに最高である。
 後は……肉を薄めに切って間にチーズを挟んで、それに衣をつけて揚げるというのはどうだろうか。このままでも好評ではあるようなので、普通のものとチーズを肉の間に挟んだものと、両方作っていくことにしよう。

「よし。それじゃあ、この調子でどんどん作っていこうか。最後の工程は俺がやるからさ」

 そう言うと、シーラ達は大分張り切った様子で頷くのであった。
 マンモス肉は食材としては上々だ。癖も少なく、これならシチューやローストとも合うのではなかろうか。他の料理の仕上がりも楽しみだ。



 そしてみんなの料理も進んで日も暮れて……香ばしい匂いが家中から漏れ出す頃になって……試食会ということで各所から人が集まって来た。
 冒険者ギルドからアウリア、オズワルドにヘザー、ユスティア、ドミニク。護衛のフォレストバード達。
 それにテフラも顔を見せている。テフラとの契約で生まれた新区画に俺達が向かったということで心配していたようだが、怪我がないと分かると喜んでくれた。

 王城からはジョサイア王子、ステファニア姫、アドリアーナ姫、エルハーム姫。コルリス、フラミア、ラムリヤも一緒だ。……今回はメルヴィン王は来られなかったようだな。まあ、後でマンモス料理を届けられるようにしたいところではある。
 それから大公と公爵家の面々。今日はレスリーも同行している。

 工房からアルフレッドとオフィーリア、ビオラ、タルコットとシンディー。それから、討魔騎士団周りということでエリオットとカミラにも声をかけてある。

 家にいる面々もパーティーメンバーに加えてジークムント老達、フローリア、フォルセト達、迷宮村の住人達と大人数なので……まあ随分賑やかなことになっている。
 ちなみにアルフレッドには実験が上手くいったということでノンフライヤーの魔道具について。エリオットには、討魔騎士団の迷宮訓練についての相談をしてみる予定である。

「――というわけで、迷宮に出現した新区画から新しい食材が手に入りました。今日は試食会ということで、皆様にも楽しんでいただけたら幸いです」

 料理が冷めても申し訳ない。挨拶もそこそこに切り上げると、みんなから拍手が起きた。テーブルに戻ってきたところで試食会の開始である。

 野菜と一緒に時間をかけて煮込まれた湯気を上げるスープ。外側をじっくりと焙って肉汁を閉じ込めて焼き上げたロースト肉。香辛料を振り掛けられて焼かれたステーキに俺の作ったカツ等々……肉料理尽くしではある。流石に肉料理ばかりでは重いのでサラダや果実などもふんだんに用意している。

 まずはスープから。これは……うん。野菜の甘味に肉の旨味が溶けて……香辛料で肉の臭みを感じさせず……肉もじっくりと時間をかけて非常に柔らかく煮込まれている。
 これはまた美味しいな。ローズマリーとクラウディア、マルレーン、セシリアが主導して作ったものだ。

 続いて骨付きのロースト肉。こちらはグレイス、アシュレイ、ミハエラ、フォルセト主導だ。やはり香辛料の使い方が上手い。臭みを感じさせず、口の中に肉汁と旨味がたっぷりと広がる。上品な仕上がりで、このへんの繊細さは流石というか、俺の料理にはないものだな。

「ああ……。これは……美味しいわね」
「宮廷料理人に勝るとも劣らずというか……」
「味付けが繊細で、素晴らしいですね。お肉がまた、絶品です」

 ステファニア姫達はそれぞれに舌鼓を打つ。

「ふうむ。これは見たことのない料理じゃが……。美味しいのう……」
「うむ。新しい料理ですな。外側がサクサクとしているのに、中に肉汁が詰まっていて……」
「こちらのものには肉と肉の間にチーズが挟まっているのですな。ふむ。これはまた……絶品ですな」

 アウリアと公爵、大公の感想だ。ステファニア姫達もそれに続いて、それぞれ表情を綻ばせていた。マンモスカツも好評なようで一安心である。

「これは、良いな」

 オズワルドとフォレストバード達はマンモスカツが気に入ったらしい。エリオットやシオン達三人も美味しそうにしている。

「これはもしかして、テオ君が?」

 一通り味わってからアルフレッドが尋ねてくる。

「うん。魔法で新しい料理法を試してみたんだけどさ。上手く行ったら魔道具化できないかって思ってね」
「いいね。後で実演してくれるかな?」
「了解」

 アルフレッドに魔道具化の話をしてみると……どうやらかなり乗り気なようだ。
 魔道具化するには形状なども考えなければならない。余興も兼ねてみんなの前で実演させてもらうとしよう。

 まあ、魔道具の費用は必要ではあるが、揚げ物が食用油無しで手軽に楽しめるというのは中々に良いのではなかろうか。
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