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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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439 収穫と報酬

「これはまた……すごいですね」

 ヘザーは冒険者ギルドの前に置かれたイエティ2体とマンモスソルジャーを見て感嘆の声を漏らした。
 大物ばかりのために集客効果は大した物で、お陰でギルド前には人が集まっている。

「そうですね。新区画は壁が無いので、この連中も多数のスノーゴーレムも同時に襲ってきました。イエティのほうは腕力だけでなく、氷のブレスなども用いていましたから……かなり厄介な魔物でしょうね。マンモスソルジャーもまあ、見た目通りに腕力などは相当なものかと」

 と、新区画への注意喚起としては丁度いいので、樹氷の森について大体のところを話しておく。区画全体が凍り付いて低温であること。足場の悪さ。そして間欠泉の罠等々。

「……新区画か。こりゃヤバいな」
「壁が無いってどういうことだ?」
「そりゃあれだ。開放型の区画って奴。大腐廃湖と同じだな」

 と、冒険者達の間でも噂している声が聞こえた。特に、大腐廃湖と同じというくだりでは何人かの冒険者があからさまに嫌そうな顔をした。あれは……大腐廃湖に突入した経験を持っている冒険者かも知れない。
 大腐廃湖と同じという点から言うと、遠方から敵がこちらを察知して増援が現れる可能性であるとか、足場が悪いだとかそういった注意点も同じなので、どういった場所であるのか、何に気を付けなければならないのかといった部分も伝わりやすくはなるだろう。

「あそこでヘザーさんと話してる魔術師って……炎熱城砦に行ったり、普通にガーディアンを倒してるんじゃなかったか?」
「ああ……。そういえば劇場を作ってた子供の魔術師よね」
「子供の姿をしてるが、実は古代から生きてる大魔術師って噂も聞いたぜ」
「マジかよ……」

 といった調子で冒険者達の噂話は続いているが……。
 冒険者達の噂話についてはあまり気にしないことにしよう。魔人殺し絡みに関しても色々と偽情報を流していたりするし、異界大使についても敢えて実態は広報してはいないので、当人である俺から何かを肯定したり否定したりするのは藪蛇な気がする。

「ギルドの中で話ができると助かるのですが」

 小さくかぶりを振って、苦笑しているヘザーに色々な事務手続きなどを済ませてもらうことにした。

「そうですね。色々話すことは多いと思いますし」

 冒険者ギルド内で新区画についての詳しい報告と、冒険者に対する諸注意のとりまとめ、それから素材の換金、受け取り等々、やることはそこそこ多い。
 ギルド内に入り、ヘザーやアウリアに連れられてみんなで奥の部屋へ移動する。ギルドの外に置いてある魔物の素材はあのままで良いだろう。
 新区画について、分かりやすい形で脅威度を指し示してくれる。どんな区画なのかなどは冒険者達が噂話として広めてくれるし、ギルドもその点については噂話を補う形で正しい情報を周知してくれるはずである。

 素材に関しても見張りがいるので衆人環視で悪さをする者もいないだろう。
 ギルドの入口脇に腰を降ろしているコルリスもそうだし、兵士達もコルリスに付き添うような形で周囲の警戒をしている。

「ああ――。帰ってきたか」
「お帰りなさい」
「無事で何よりだわ」

 冒険者ギルドの奥の部屋に通されると……ギルドの副長オズワルド、それから向かい合ってお茶を飲んでいたステファニア姫とアドリアーナ姫の3人が立ち上がって俺達を出迎えてくれる。
 マルレーンが屈託のない笑みを浮かべて姫達2人のところへ行くと、ステファニア姫とアドリアーナ姫から髪を撫でられたりしていた。

「それで、どうだったんだ? 現地に行ってみた者としては」

 と、その光景を微笑ましいものを見るように見やったオズワルドがアウリアに向き直って尋ねる。
 ステファニア姫とアドリアーナ姫の2人に関しては五感リンクで見ていたから状況を知っているので説明をする必要もないが、オズワルドとしては実力を知っているアウリアから話を聞いてみたい部分があるのだろう。

「うむ。テオドール達と一緒に行動しているとそれほどでもないように見えてしまうのが困りものじゃな。感覚が麻痺してしまうというか……」

 アウリアはそんなふうに言ってかぶりを振ると、俺達にテーブルに着くように促してくれた。各々が椅子に座ると、ヘザーがお茶を淹れてくれる。そうして落ち着いたところでアウリアが新区画についての話を進める。

「中々に危険度の高い区画じゃよ。外で冒険者達も言っておったが、大腐廃湖から毒を除いて凍り付かせたりしたらああなるのではないかな」
「壁の無い区画と殿下からお聞きしたが……危険度も大腐廃湖並、ということか」
「うむ。視界の明るさは確保できておるが障害物が多いので、見通しはとんとんじゃな。出現する魔物が正統派に強いのがいるというのも問題じゃ。小細工しにくいし、分岐点からして魔光水脈からというのも良くない。雨に打たれた後で厳冬の寒空に放り出されるようなものじゃ。罠の性質も厄介じゃし、予備知識無しで突入するのは自殺行為じゃな」
「まず魔光水脈をある程度探索できる実力が前提として必要になるというのはありますから、その点では注意喚起があれば迂闊な行動を取るとも思えませんが」

 と、俺から補足を入れるとオズワルドは頷く。

「それは確かにな」
「テオドールが情報を惜しげもなく公開してくれるから、儂らとしては助かっておるよ」
「昔、旧坑道が出来た時はこぞって突入して怪我人が相次いだという記録が残っているのです」

 アウリアが言うとオズワルドが頷き、ヘザーと三人で揃って頭を下げてくる。

「礼を言う。新区画というのは、得てして先んじた冒険者達が情報を独占したがると旧坑道の時の記録には残っていてな」
「ああ。一攫千金狙いというわけね」

 ローズマリーは羽扇の向こうで納得するように頷いていた。
 今まで無かった魔物の素材の希少性というものも鑑みると、やはり金になるのだろう。特にマンモスやイエティは個体が大きいだけに、一度の狩りで得られる金額も大きいだろうし。

「うむ。それにしたって冒険者達にも許容できる危険の限度というものはある。外に置いてある魔物を見れば、金になるとは分かっていても迂闊には踏み込めんじゃろうて」

 そうだな。炎熱城砦などは門番がいなくなっても危険度が高過ぎて相変わらず忌避されているし。

「そうなると、何組かが手を組んで、となりそうですが」

 グレイスが言うとアウリアが頷いて答える。

「そうさな。じゃから儂達がそこの見極めなり協力なりをしてやるというわけじゃ。そのあたりはこちらの仕事ゆえ、手間取らせはせんよ」
「差し当たっては、防寒具やら水濡れ対策を施した装備の準備でしょうか? 出現した魔物の性質を纏める必要もありそうですが」
「そうじゃな。そのあたりは新区画への突入を計画している冒険者達に準備がある旨を通達すると。当面は新区画の探索については届け出制になりそうじゃな」

 今後の態勢などについて、大まかなところは決まったようだ。ギルドには迷宮に関するノウハウも十分にあるし、このへんは任せておけばいいだろう。
 ベリオンドーラが北方であることを考えると、寒冷地での戦闘訓練にも使えそうな気もするが。討魔騎士団ならば問題なく戦える区画だろうし、後でエリオット達と検討してみるか。

「後は……そうですね。今回の戦利品についてですが、どうなさいますか?」
「僕としては、一部を貰い、残りはギルドに売却を、と考えています」

 ヘザーに問われて答える。装備品などとして見た場合、どうしても必要、というようなものはないし、後から何かが必要になったらまた樹氷の森へ探索に行けばいいのだ。
 イエティの片割れから毛皮を一部。もう一匹からは魔石抽出。マンモスソルジャーの肉を普通に消費し切れる分量だけ。スノーゴーレムの結晶板を実験や試作品製作に必要と思われる分量。それから宝箱から見つかった首飾り。残りはギルドに売却という感じだ。大体のこちらの取り分とギルドへの売却分を伝えるとヘザーは頷く。

「新区画からの魔物のように、今までに無かった素材の場合、類似の魔物と比較し、希少性を鑑みてそこに割増して支払うということになっています」
「過去に例があるのならそれと同じで良いですよ。新区画調査や情報への対価などは、僕の場合、報酬の二重取りになってしまうところがあるので」

 というわけで大体の値段を算定してもらうことになった。
 ヘザーから提示してもらった金額については……希少性を加味したものになっているのだろうが、それでもエレファスソルジャーなどを基準に考えるとかなり割高に感じる。
 ギルド側が色を付けてくれたとか、新区画で手に入った初の素材なのでご祝儀分が含まれているから、ということなのだろう。
 まあ……後は家に帰ってマンモス肉の味でも確かめさせてもらうとしようか。食材としては量が多いので、折角だし家に人を呼ぶというのもありかも知れない。
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