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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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438 新区画の対策は

「む。そこじゃな?」

 アウリアの使役する火精霊が樹氷の陰に隠れて襲って来ようとしていた雪だるまの上半身を火炎に包んで焼き払ってしまう。
 広範囲に渡って索敵できるというのは精霊使いの強みだろう。使い魔と違って五感リンクがあるわけではないが完全に自律しているので乱戦でも役割分担ができるし、残党からの奇襲も受けにくい。
 精霊を防御陣地の周囲に配置して後衛の防御に回っていたアウリアではあるが、戦況が優位となると複数の精霊を使役して敵が物陰に隠れていないかなどを探っていたわけだ。

 そんな調子で残りの魔物――雪だるま達を一掃してしまうと、後は雪の降った場所特有の静けさが広がるばかりであった。
 迷宮内では明るい部類の区画だろう。白く霞む氷雪の森は中々に神秘的で綺麗だとは言えるかも知れない。

 さて。魔物達を倒せば後は剥ぎ取りに移るわけだが、初めて会う魔物が多くてそれなりに手間がかかりそうだ。

「まずは雪だるまからかな」
「倒したら普通の雪みたいになった。動いている時は結構堅かったのに」

 と、シーラが、動かなくなった雪だるまを指で突いて言う。
 倒された雪だるま達は、周囲が寒いので溶けているというわけではないが……結合が緩くなったように形が崩れていた。

 再生するゴーレム等々作りようはあるのだろうが、この連中の場合、どうやらある程度のダメージを受けるとゴーレムを維持するための術式の制御が失われてしまうようだ。
 各区画にいる雑兵の類に位置する魔物なのだろうから、耐久力が高くないというのは、面倒が無くて良いとは思うが……何が剥ぎ取れるやら。

「テオドール君、何か見つけたわ」

 イルムヒルトがフラミアの狐火で溶かされた雪だるまの中から何かを拾い上げる。何やら雪の結晶のようなものであった。

「……何だろう。雪の結晶を大きくしたような」

 イルムヒルトから受け取ってよく見てみる。掌ぐらいのサイズはあるだろう。雪の結晶を模したレプリカというのがぴったり来る形ではある。
 触るとひんやりと冷たく、片眼鏡を通してみると魔力を秘めている。手に取って軽くこちらから魔力を込めてみると、結晶の中央付近から冷気を放った。

「……魔石に繋いだりして魔力を供給してやれば、食べ物を冷やしたり室温を下げたりできるかな」
「なかなか使い勝手が良さそうね」

 それを見たローズマリーが羽扇で口元を隠しながらも楽しげに目を細める。

「そうだな。手間が省けるっていうか」

 魔道具で同じ物を作るなら術式を刻んだりとそれなりに工程があるし。
 耐久性は分からないが数を用意できるわけだし、例えば食料を冷凍して長距離運ぶだとか、氷室に取りつけて冷房効率を上げるだとか……使い道は色々考えられる。

 念のために結晶板を回収した雪だるまから魔石抽出を試みるが、ほんの小さな物しか得ることができなかった。結晶板からも魔石抽出が可能。こちらはそれなりのサイズのものが抽出できることから……これはスノーゴーレムの核として機能しているパーツでもあるのかも知れない。

 これを組み込んでスノーゴーレムを作ってみるというのも面白そうだな。その場合、クリエイトゴーレムによる即席型ではなく、きちんと魔石を組み込んでの永続型ゴーレムを作るということになるだろうが……まあ、結晶板の用途はどうあれ、スノーゴーレムからの剥ぎ取りについては大体の方針が決まった。

「魔石は他の場所でも集められるし、結晶板のまま持ち帰るのが良いかな」
「分かりました」

 アシュレイが頷き、雪だるま達を水魔法を駆使して割って行く。アウリアもアシュレイと同様、水精霊を操って雪だるま割りの作業に加わった。
 戦闘中に結晶板が壊れてしまっているものもあるが、そういうものからは魔石抽出をさせてもらうことにしよう。
 ピエトロはそんな剥ぎ取り作業を見て感心したように頷くと、すぐに分身共々素材の回収に加わる。

「イエティはどうしましょうか?」
「毛皮か……魔石の抽出かなとは思うけど、ギルドに持ち帰ってから考えよう。実物も見てもらいたいし」
「分かりました。ではそのままで」
「ん」

 グレイスの言葉に頷く。

「あれはどうするの?」

 セラフィナがマンモスソルジャーを見ながら尋ねて来る。
 うーん。魔石抽出は些か勿体ない気がする。

「牙と毛皮と……後は肉かな。あれもそのまま転送かな」

 毛皮に関しては焦げていないところもあるし、利用できる部分もある。そのまま転送して持ち帰るということで良いだろう。
 正直な話をするならマンモス肉というのは味が気になるところだし。あれだけの大きさならかなりの量の食糧となるだろう。

 マルレーンがマンモスソルジャーにレビテーションを用い、イグニスがそれを運ぶ。クラウディアの前にイエティやマンモスを並べると、クラウディアは影茨の杖で軽く地面を突いて、魔法陣を展開、そのまま物資として迷宮外に転送するのであった。



「宝箱発見」

 先行するシーラが道の脇にある木立の中に宝箱を見つける。位置としては先程イエティ達に襲われた道を更に進んだ場所だ。
 ……うーん。だからあれほどの数が大挙していたということかな?
 剥ぎ取り中にアウリアが風の精霊を放って周囲の地形を探ったのだが、通路が宝箱を中心に巡回できるような構造になっているらしい。何かあるのかと思って探してみたら案の定だ。

 少人数ならリスクを承知で樹氷の陰に隠れながら宝箱を目指せば、雪だるまとイエティ達に見付からずに宝箱の中身を回収できるかも知れない。

「そこの樹氷の陰に、間欠泉があるわ。気を付けて」
「ん」

 間欠泉が見えにくい場所にある、と。中々性質が悪いな。イルムヒルトから見れば簡単に発見できてしまうが。

 不用意に近付けば間欠泉が噴き出す。そうなれば魔物に発見されてしまうし、潜んでいるワームの処理に失敗したり手間取ったりすれば、それも発見されてしまうリスクを高めることになる。

「ワームは私が」

 と、グレイスが胸のあたりに手をやって一歩前に出る。

「ん。よろしく。湯が噴出したら防御する」
「はい。では――」

 グレイスは斧に闘気を纏わせると、問答無用で岩に見せかけているワームに向かって投擲した。破砕音を響かせてワームの胴体が寸断。石の身体を一瞬もたげさせるが、すぐに力を失って崩れ落ちた。あっという間だ。
 湯だまりはできるが、間欠泉は噴出しない。高圧にしているのはワームの仕業ということになるか。

 そして……コルリスからの期待の眼差しを感じるわけだが。

「あれはコルリスに」

 許可を出すとコルリスが嬉しそうにこくこくと頷く。
 うむ。ワームの使い道はこれで決まりかな。他の使い道としては魔石抽出ぐらいしかなさそうだが、魔石に関してはあまり困っているわけではないし。

 シーラは早速宝箱を調べに向かう。

「罠は……ないと思う」

 どうやら罠は近くにある間欠泉だけのようで箱自体に罠は掛かっていないようだ。箱にも特別な魔力は見えないから魔法の罠もあるまい。開錠に取り掛かるとあっさりと蓋が開く。
 そして、シーラは箱の中から何やら緑色の宝石がついた首飾りのようなものを取り出した。

「これ」
「ん。ありがとう」

 ……魔力を感じるな。波長から察するに、治癒関係の魔道具のようだが……。
 活用できるかどうかは性能によりけりだが、感じる魔力の強さや、あの厳重な警備から察するに、性能が悪いものだとは思えない。これに関しては、持ち帰って少し詳しく調べる必要があるだろう。
 さて……。他に仕掛けや特筆すべき事項がないか。最低限石碑ぐらいまでは探索を続けてみることにしよう。



 そして――俺達は無事に石碑から迷宮入口に戻ってくる。
 屋内であるために樹氷の森よりはかなり暖かく感じるな。小さく息を吐く。

 やはり、イエティ率いる一団はトラップの一環だったらしく、他の通路で襲ってくる魔物は散発的であった。スノーゴーレムが、樹氷などの陰に隠れているというのが多かった。
 スノーゴーレムが動いていない場合、音以外の方法で感知しなければならないのだが、区画そのものと同様の素材なのでシーラやラヴィーネの嗅覚では感知できないし、温度差もないのでイルムヒルトにも温度探知は難しいようだ。

 しかし魔力を嗅ぎ分けるコルリスの鼻には感知できてしまうようだし、アウリアの精霊による探知も上手く機能していた。樹氷の森に向かう際はコルリスがいると楽だろうな。

「只今戻りました」
「お帰りなさいませ、大使殿」

 入口前には兵士やギルド職員が詰めていて、帰還の挨拶をすると俺達の帰還を喜んでくれる。ステファニア姫とアドリアーナ姫は冒険者ギルドでリアルタイムの報告をしているはずだ。

「あれは……準備がなければ探索するのは難しいのう。危険度としては炎熱城砦ほどではないが……。分岐点が魔光水脈というのもいただけん」

 と、螺旋階段を登る道すがら、アウリアが樹氷の森についての感想を述べる。

「ああ。途中で水に濡れたりしていると、そのまま突入した時に探索が辛くなるでしょうね」
「うむ……。突入前に衣服を着替えるか、乾かすかが必要じゃな」

 防水加工を施した袋か、或いは衣服を乾かすための魔道具か。水魔法で衣服を乾かすことのできるパーティーメンバーがいればそのあたりの心配もないのだろうが。
 ともあれ、まずは冒険者ギルドに行って新区画についての報告と対策、それから戦利品の処分などという流れになるだろうか。

 今話をしたことも含めて、冒険者達には十分な注意喚起をしてもらうとしよう。新しい区画ができたとなれば話題にはなるだろうが、難易度が高いということを周知すれば突入には慎重になるだろうからな。最低限、赤転界石は必須だろう。
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