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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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437 氷原の戦い

 まずは小手調べとばかりに、先頭にいた雪だるま達の口から氷の礫が混じった冷気がこちらに向かって浴びせられた。
 飛び道具としての威力はさほどでもない。しかし雑兵が飛び道具持ちというのは中々に厄介だ。対するはフラミア。空中に浮かぶ狐火の1つが別個の生物のように蠢き、大きく広がって氷の礫ごと巻き込む。

 水の蒸発するような音と蒸気が周囲に広がり、間髪入れずシーラとピエトロと分身達がその中へと突っ込んでいった。
 それぞれ地を這うような動き。蒸気を突き破って飛び出したシーラとピエトロに対し、再び雪だるまの口から冷気が吐き掛けられる。
 シーラは斜め上空に。ピエトロ率いる分身達は地上を左右に散開する。一瞬、雪だるま達の意識がそちらに向いたその瞬間に――!

「下がりなさい!」

 グレイスが左手にシールドを展開しながら、吹雪を突破した。スノーゴーレム達――いや、その後方に控えるイエティ目掛けて一直線に切り込む。闘気を纏う両手の斧が閃けばグレイスの進む方向にいた雪だるま達が輪切りにされて吹き飛ぶ。
 グレイスの動きに応じるように咆哮を上げて、真っ直ぐ棍棒を打ち下ろしたのはイエティの片割れだ。それをグレイスは真っ向から斧をぶつけて迎え撃つ。

 そして、隊列を切り崩すような突撃を敢行したのはグレイスだけではない。結晶を纏ったコルリスが砲弾のような速度でもう一体のイエティ目掛けて突っ込んでいた。
 その軌道上にいたスノーゴーレム達はコルリスの巨体に弾き飛ばされるか引き潰されるか、どちらかの末路を辿る。大質量と膂力、結晶の強固な硬度。そこから生み出されるのは分かりやすい破壊力だ。

 そんなコルリスの動きを阻んだのは、やはりもう一体のイエティであった。雄叫びを上げながら振るわれる棍棒をコルリスが結晶の盾で受け止める。間髪入れず、コルリスは巨大な爪を掬い上げるように振るった。
 雄のイエティは巨体の割に身軽なようで、後ろに回転しながらの跳躍を見せ、爪を回避すると凍り付いた木の上部に掴まる。
 そしてコルリスを見据えながら、口の端を歪ませると再び打ち掛かっていった。

 雪だるま達はと言えば――グレイスとコルリスに隊列を乱されて気を取られたところを、シーラとピエトロ、そしてフラミアに切り込まれていた。

「こっち――」

 姿を消したシーラが声と闘気の煌めきだけを残してスノーゴーレムとすれ違う。頭部をスライスされたスノーゴーレムは視界を失って、頭に手をやるなど混乱したような様子を見せるが、それも一瞬。尾から長く炎を引くフラミアによって身体を溶かされれば流石に行動不能といった様子だ。

 フラミアは魔道具無しでも空を飛べるようで――身体に炎を纏ったまま雪だるま達の間を縫うように飛ぶ。長い尾が炎の鞭となり、すれ違いざまにスノーゴーレムを薙ぎ払う。
 スノーゴーレム達にとってもやはり炎属性を持つフラミアは脅威のようで、どうしても他の者よりそちらに意識が行っているようだが……ピエトロとその分身達の動きも相当なものだ。分身が猫特有の身軽さで右に左に飛び交いながら突っ込んでいき、気を取られた瞬間、風のようにピエトロ本体が踏み込む。

「どこを見ているっ!」

 ピエトロの手にした剣が雷を纏う。あっさりとスノーゴーレムの首を刎ねる。近くにいたスノーゴーレムが両手から氷柱を生やして躍り掛かって来るが、切り裂いた次の瞬間には分身と入れ替わるように飛び退っていた。

 分身の戦闘能力も中々のもので、スノーゴーレム達の氷柱を綺麗に剣で受けると、空いている手の爪でスノーゴーレムの顔面を切り裂いていた。
 身軽さと瞬発力。分身に雷の魔法剣か。流石に腕力という面では劣るようだが、攻防両面でかなりのものを備えているらしいな。

 そして前衛に切り込んだグレイスとコルリスが大物を抑え、シーラ、ピエトロ、フラミアが雪だるまを掻きまわしている内に、後方での防御陣地構築も完了する。
 アシュレイがディフェンスフィールドを発動させながら、氷の壁を生み出し、敵から包囲されないよう、射撃を受けにくいように陣地を構築。

「行けます」

 アシュレイの言葉を受けて、今まで後衛の防御に回っていた面々――デュラハンやイグニス、そしてラヴィーネも敵陣に切り込んでいく。

 デュラハンとイグニスが雪だるまの一団と激突する寸前――横から回り込んだイルムヒルトと、その肩に乗ったセラフィナが、スノーゴーレム達の頭上を横切らせるように矢を撃ち放っていた。甲高い音が響き渡る。
 呪曲を乗せた鏑矢をセラフィナが増幅したものだ。ゴーレムのような魔法生物に対しての阻害効果はすこぶる大きい。

 雪だるま達の動きが大きく乱れたところに、デュラハンとイグニスが突っ込む。文字通りに吹き飛ばされて雪だるまが宙に舞う。空は飛べないのか、慌てたように腕を振る連中をローズマリーの火球やアウリアの使役する火精霊、エクレールの雷撃が焼き払っていった。

 ラヴィーネは水を得た魚と言うか何というか――。何時も以上の速度で氷の上を疾駆し、氷の塊を放ちながら縦横無尽に駆け回る。スノーゴーレム達とは同属性ではあるのだろうが、氷を物理的な武器として用いれば関係ない、といったところか。
 斬撃や刺突ではなく、塊を叩きつけて破壊しているのは対処としても正しいところがある。前衛に関しては押しているな。数は少し多いが組織立った動きが出来ない以上はこのまま押し切れるだろう。

 埒が明かないと、後衛に向かおうとした雪だるま連中は、マルレーンのソーサーによる妨害や、ローズマリーの魔力糸、クラウディアの影茨に絡め取られて動けなくなったところを容赦なくイルムヒルトに撃ち抜かれている。

「あら。結構簡単なものね」

 更にマジックスレイブから操り糸を放ったローズマリーがスノーゴーレムを乗っ取り、同士討ちさせていく。

 俺はと言えば、前衛達の護衛としてカドケウスを前に出していざという時前衛の救援やフォローをできるようにしつつ、周囲の警戒をしていた。
 先程のイエティの雄叫びに、呼び寄せられている魔物がいる。これに対処しなければならない。陣地構築が終わるまでデュラハンとイグニスが前に出なかったのはそれが理由だ。

 遠くから、集まって来る雪だるま達の更なる増援。そして木立をへし折りながら現れたのは――エレファスソルジャーの亜種であった。毛むくじゃらの身体と、長い牙を持つ寒冷地仕様の象の魔物。つまり、二足歩行のマンモスであるが――エレファスソルジャーより一回りか二回りは体躯が大きい。

「これは――普通には中々手が出せない区画だな」

 雪だるまの数と言い、地形の性質と言い……危険度のかなり高い場所だ。イエティやマンモスソルジャーのような大物がいるのも危険度を高めている。
 どうしてもというのなら、広く空間が使えることを利用して複数の冒険者パーティーでレイドを組んで踏み込むような場所と言えよう。

「行けっ!」

 金色の光を纏うバロールを、集まってきた雪だるま目掛けて解き放つ。黄金の光弾と化したバロールの左右に、翼のように金色の光が広がる。
 本体で雪だるま達を易々とぶち抜きながら、左右に展開した金色の刃で数体を纏めて輪切りにしていく。一団を突き抜けたところで軌道を変え、縫うようにスノーゴーレム達を蹂躙。

 魔力循環と、増幅。ウロボロスに込められた魔力が膨れ上がる手応えを感じながら、マンモスソルジャーへ目掛けてキマイラコートの力を借りての突撃。
 大型ならば――もっと上を試せるか。

 遠慮のない魔力を込めて、新生ウロボロスによる打撃を放つ。手にした巨大な斧で受けようとしたマンモスソルジャーであったが――奴はこちらの初撃に対して闘気を用いなかった。

 それは見誤りであろうが――構わずに急速に膨れ上がった魔力の塊を叩き付けた。
 マンモスの頭部に匹敵する、巨大なメイスで殴りつけたようなものだ。斧をへし折り、牙をもへし折って、マンモスの頭部に直撃して巨体を吹き飛ばしていた。アイスバーンの上を巨体が滑る。
 位置は直上。殴打のために使った魔力を術式に変換。マジックサークルを展開。振り被った杖の先端の魔力を雷撃へと変えて叩き落とせば、マンモスの身体ごと飲み込んだ。
 第7階級の雷魔法だが――魔法自体の威力や発動までの速度も上がっているな。いい具合だ。
 黒焦げになったマンモスは白煙を上げて動かない。前衛に目をやる。

 結晶の弾幕。木から木へと、飛び移りながらそれを回避するイエティの雄。口から氷の弾丸を出して、樹上から地上のコルリスに対しての撃ち合いに応じる。
 結晶と氷がぶつかり合って、破砕音を響かせながら煌めく破片をあたりに撒き散らした。

 地表を滑るようにコルリスが進む。木にぶつかる寸前で身体を反転。蹴った樹木をなぎ倒しながらイエティに肉薄する。射撃戦からいきなり樹上への突撃を受けたイエティは一瞬目を剥いたが、それも一瞬のこと。コルリスの動きに合わせるように棍棒を叩きつけようとする。

 だが――イエティの射程に入るより前に、展開したシールドに爪を引っ掛けて身体を別方向へと回転させている。打ち下ろした棍棒の軌道を嘲笑うかのような動き。イエティの間合いの内側。至近距離だ。
 刹那、コルリスの纏う結晶の鎧から無数の槍が爆発的な速度で四方八方に飛び出した。

「ギッ――」

 避ける暇も悲鳴を上げる暇もない。上半身を結晶の槍に飲み込まれて、針玉のようになったコルリスと共に地面に落ちる。
 砕ける氷と結晶。その中からコルリスが悠然と立ち上がって来るが、イエティが起き上がって来ることは無かった。

 射撃戦に意識を向けさせ、樹上が有利だと錯覚させてから特殊な軌道で奇襲を仕掛けて、そのまま仕留め切ったというわけだ。……空中戦に研鑽が見られるな。普段騎士団の訓練を見ているせいだろうか?

 もう一体のイエティは、グレイスと交戦中だ。
 空中にシールドを用いて立つグレイス目掛けて氷の棍棒を打ち込むが――体格で遥かに勝るはずのグレイスにダメージを通せない。
 グレイスの手にしている斧を合わせられると、闘気と氷で強化しているはずの棍棒に亀裂が走るのだ。魔力で作り出した氷であるなら、それは通常の氷以上の強度を誇るはずだが、それすら及ばない威力をグレイスの一撃が秘めているということだろう。

 しかしイエティは、得物を氷で補修しながらグレイスと打ち合う。故にグレイスと切り結んでいられる、ということなのだろうが……破壊されていく武器の補強に魔力を消費していく分、時間が経てば経つほどイエティのほうが不利だろう。
 それを悟ったか、空いた手で凍り付いた樹木を引っこ抜いてグレイス目掛けて叩き付けてきた。

 だが、それも無駄なこと。
 闘気を纏ったグレイスの裏拳で木が砕け散る。破片を突破するようにグレイスが前に踏み込めば、イエティは牙を剥き出しにしながら後ろに下がり、それでも応戦するように棍棒を振るった。

 再び斧で受ける。踏み込みながら高速で右手の斧が幾度も振るわれた。氷の砕ける破砕音。闘気と闘気のぶつかり合う火花を散らして重い音が凍った森に響き渡る。
 氷に走る亀裂。武器の修復が間に合っていない。イエティがそのタイミングを作ろうと大きく息を吸い込んだ瞬間だった。
 闘気を纏った鎖が、大きく旋回してくる。鎖は先程砕いた木を巻き取っていて――そのまま横合いからイエティの側頭部目掛けて、破城鎚のように叩き付けた。

「ゴッ!?」

 氷の散弾が口から放たれる。しかしそれはグレイスのいる方向には放たれず、あらぬ方向に目掛けて吐きつけられていた。つまり、駆けつけてきた雪だるまの一団に。

「――捉えました」

 シールドを蹴って踏み込んだ、グレイスのすれ違いざまの一撃。
 イエティは棍棒で受けようとしたが、氷のブレスによる時間稼ぎができなかったということは修復が間に合っていないということだ。
 とうとう強度に限界が来たらしく、棍棒ごと砕かれ、イエティはグレイスの斬撃をまともに受けていた。
 斧を振り抜いた姿勢のグレイスの背後で、イエティの巨体がゆっくりと崩れ落ちて行くのであった。
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