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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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431 西の海には

「んー……コツが掴めてきた」

 後ろから迫ってきたシーラが高速で水上を滑っていく。楽しそうに笑いながらマルセスカがそれを追いかけて行った。

「シーラさん早いですね」
「そうだな……。泳ぐ場合は浮かんで流されるのに何でなんだか……」

 隣を滑るグレイスに答える。
 水上歩行と水流操作の魔法の併用で、流水プールの水面を滑走しているのだ。水上を滑るので流水プール周辺を風魔法で防護して身体が冷えないように工夫もしていたりする。
 みんなと一緒に泳いだりしてある程度楽しんだので、一風変わったことをと思って始めたのだが……流水プールがスケートリンクになったようで中々楽しいかも知れない。

 俺はと言えば、みんなと手を繋いだりしながらゆったりとした速度で周回したりしているのだが、シーラとマルセスカは高速周回に情熱を燃やしているようで。

 シーラ達はともかくとして、アシュレイやマルレーンも楽しんでくれているようだ。アシュレイはグレイスと一緒に俺に手を引かれて。マルレーンは片足でバランスを取って、クラウディアに手を引かれて楽しそうにしている。

「そろそろ手を繋ぐ相手を交代しますか」
「いや、わたくしは別に……」

 と、ローズマリーは渋ったが……グレイスは笑みを浮かべると、小さく首を横に振って俺から離れた。それを見たローズマリーは一瞬目を閉じたが交代して俺と手を繋ぐ。
 それを見たアシュレイ達もそれぞれ手を離し、別のパートナ―と一緒に滑る形になった。
 俺とローズマリー、クラウディアの組み合わせ。グレイスが両手でアシュレイとマルレーンと手を繋いで楽しげに水上を滑走する。

「……これも、靴型の魔道具があれば再現できるかしらね?」

 と、ローズマリーが言う。

「転倒だとか、そういった危険を考えるともう少し設備側をそれ用に弄ってやる必要があるかも知れないな。縁に頭を打ったりしたら危険だし」

 それに水上滑走をしている時は普通に泳ぐのが難しくなるし。色々考える必要はあるかも知れない。

「テオドールー! あははっ!」

 と、今度は楽しそうなセラフィナの声。
 今度はステファニア姫達を乗せたコルリスが水上を滑って来たのだ。但し、足ではなくペンギンのように腹這いで。
 そして――触発されたのか、ラヴィーネが足元に氷のボードのようなものを形成してコルリスの後ろを滑っていった。ラヴィーネの頭の上にエクレールやラムリヤも乗っている。……あちらはあちらで楽しんでいるのかな。
 ふむ……。バロールとカドケウスも遊ばせてやるか。俺がプールサイドにいる間は大丈夫だろう。



 女性陣は水上滑走で少し汗をかいたので温泉に入ってくる、とのことだ。今回はみんなプール側を優先したので入浴はまだだったらしい。
 俺は一度入浴しているので、プールで普通に泳いだ後で休憩所へと向かった。
 メルヴィン王達も休憩所に移動していたようだ。俺と丁度同じぐらいのタイミングで大公と公爵一家、それからジョサイア王子も休憩所に戻って来たところのようだ。

「大丈夫ですか、あなた」
「いやはや。童心に返ってしまったよ」

 ドリスコル公爵はやや遊び疲れたといった印象でかぶりを振っている。風呂から上がった後で、オスカーやヴァネッサと共にスライダーを何度か滑っていたようだったからな。

「後学のために一度ぐらいはと思ったのですが……。若い頃に地竜を走らせたことを思い出しましたぞ」

 と、タオルで髪を拭いている大公。大公もスライダーを試してみたらしい。
 苦笑しているが不愉快そうには見えない。試してみたら案外楽しかったということだろうか。ジョサイア王子もそんな2人の様子に朗らかな笑みを浮かべていた。

「楽しんでいただけましたか?」
「それはもう。大浴場も遊泳場も堪能させていただきました」
「そうですな。領地ではこういったこともありませんからな」

 声をかけると公爵と大公が頷く。それは何よりだ。
 休憩所には何やら美味そうな匂いが漂っている。夜食としてつまめる物をと王宮の料理人が休憩所に詰めているそうだ。泳ぐも良し、風呂でのんびりするも良し、小腹を満たしながらゆっくり談笑するも良しと、至れり尽くせりな環境である。

 メルヴィン王とジークムント老、それからアルバートとテフラは揃って休憩所でビリヤードに興じていたらしい。
 俺達が近付くと、テフラが9番ボールをポケットに落として勝利するところであった。

「おお。やりますな、テフラ殿」
「お見事です。テフラ様」
「ふふ。何度もアルバートに勝たせるわけにもいかないのでな」

 中々白熱した試合だったようである。話を聞いている限り、アルバートがビリヤードの腕前を上達させているようだけれど、テフラも時々家の遊戯室で遊んでいたりするから侮れない腕前のはずだ。精霊がビリヤードの上達というのも不思議な感覚だが。

「丁度一段落したところであるし、皆で茶でも飲むとしようか」

 そこでメルヴィン王は顔をこちらに向けて言う。
 その前に……テフラに関しては大公や公爵一家は初対面なので俺から互いに紹介しておくとしよう。俺が互いの名を告げると、テフラが相好を崩して言った。

「テフラという。よろしく頼むぞ」
「これは……高位精霊とは。デボニス=バルトウィッスルと申します」
「オーウェン=ドリスコルです」

 2人は火精温泉の名の意味に納得したといった様子でテフラに挨拶をしていた。



 というわけで、皆で腰を落ち着けて炭酸飲料やら茶やらを飲みながら談笑することになった。

「――私の息子も公爵家との和解には賛成でしてな。今回は私の留守を守っていますが、次は公爵やオスカー殿やヴァネッサ殿に挨拶をしたいと言っておりましたぞ」
「ほう。では、是非お会いする機会を設けたいところですな」
「ええ。喜んで」

 大公と公爵は次の世代を見据えた話をしているようだ。
 大公家の長男夫妻も感じの良い人達だったからな。オスカーとの相性も悪くなさそうだ。
 何時、何処で会うのかなど話を纏めて、それから話題も変わっていく。テフラの話から俺の交友関係が広いという話題になって……そこで公爵が俺を見て言った。

「そう言えば……件の島の近くには人魚種が現れるという話がありましてな」

 件の島、というのは、公爵が俺に預けた島のことだろう。

「人魚種……。セイレーンですか? マーメイドですか?」
「私には区別はつきかねます。彼女らと実際にあったこともありませんし、私は残念ながらユスティア嬢以外に人化の術を解いた人魚種を見たことがありませんので」

 まあ……両者の違いは呪歌、呪曲が使えるかどうかかな。判別しにくいのは確かだ。それらを聞いた者がいればセイレーン、ということになる。

「確か、公爵領では人魚種との交易がありましたな」
「ええ。港町で水蜘蛛の糸で編んだ織物や衣服を交易する程度の付き合いはしております。距離は離れているのでその部族と同一かどうかは分かりませんが……。転覆した漁船の漁師を海岸に運んだりと……人間に対しては敵対的な部族でもないようですな」

 と、大公の質問に答える公爵。水蜘蛛の織物ね。つまり人魚達の衣服であり、俺達にとっては水着になるあれだ。公爵領で交易して手に入った織物がタームウィルズに入って来ている、というわけである。
 人魚種に関しては友好的な者が多い。公爵によれば公爵領内の各地区の領主や兵士、冒険者ギルドに対しては人魚達に危害を加えないよう通達を出したりしているらしい。島付近に出没した人魚達も同様の扱い、ということだそうだ。

 ……んー。もしかすると西の島に行った際に、その人魚達に会う可能性も無きにしも非ずといったところか。そこは気に留めておくとしよう。

 ともあれ……大公と公爵も大分打ち解けたようで、茶を飲みながら盛り上がっていた。今回の目的から考えると大成功と言っていいだろう。そんな風にして、大公と公爵の和解の日は穏やか且つ賑やかに更けていったのであった。
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