挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

442/1237

427 和解の席にて

 デボニス大公と共に迎賓館の別の一室へと向かうと、そこには既にメルヴィン王とジョサイア王子、そしてドリスコル公爵の姿があった。大公に続いて、一礼して入室すると、3人とも立ち上がってこちらを出迎えてくれた。

「これは陛下。そして殿下、公爵もお揃いで。お待たせしてしまったようですな」
「いや、今日はめでたき日ゆえ。ゆっくりと茶を飲みながら談笑していたところなのだ」

 大公が挨拶するとメルヴィン王が穏やかに笑った。

「お待ちしておりました大公。今日という日、今この時を無事に迎えられたことを真に嬉しく思います」

 ジョサイア王子が立ち上がり、部屋に入ってきた大公を出迎える。デボニス大公はジョサイア王子に笑みを返す。

「このような老骨のために……殿下には随分とお手間を取らせてしまいましたな」
「いいえ。この会合が今後のヴェルドガル王国の……そして王家、大公家、公爵家の前途にとって、明るいものとなることを願っております」

 デボニス大公がその言葉に頷く。

「そして大使殿。今日、この席に立ち会っていただけたことを感謝します。大使殿の助力なくば今日という日は訪れなかったでしょう」
「こちらこそ、ありがとうございます。しかしジョサイア殿下の働きかけがあってこそのものかと」

 ジョサイア王子が大公家と公爵家の橋渡しをしようという気が無かったならば、他の様々な問題が解決していたとしても、こういう状況には中々ならなかっただろうからな。
 俺としては国内の安定が進めば進んだだけ魔人に対抗する態勢も整うということなので、異界大使としての仕事もやりやすくなるわけだし、感謝というなら俺からも言うべきだ。

「これは大公、お会いできて光栄です。しかし我が家の事情で最後まで気を揉ませてしまって、申し訳ないことをしてしまいました」

 ドリスコル公爵は大公に挨拶をしてから、タームウィルズに着いてから揉め事が起きてしまった不手際を謝罪する。

「いや、夢魔事件の事情ならばジョサイア殿下より聞き及んでおりますぞ。公爵は勿論のこと、レスリー殿にも非はありますまい」
「そう言って頂けると助かります。私も大使殿にはすっかりお世話になってしまいましてな」

 そう言って公爵は、俺に穏やかな笑みを向けてきた。こちらも一礼して応じる。
 そして再び――大公と公爵が向かい合う。僅かな緊張と沈黙があった。
 公爵が緊張した空気を和らげるかのように表情を崩して口を開き掛け、メルヴィン王も何事か言いかけたが、最初に行動を起こしたのは大公であった。
 静かに右手を前に出す。大公がしたことはそれだ。
 握手、というのは確かに……。和解や仲直りの形として分かりやすいものかも知れない。
 公爵は年長者である大公から握手を求めてきたことに些か驚いた様子だったが、再び笑みを浮かべると頷いて大公の手を取る。急速に張りつめていた空気が霧散していった。メルヴィン王も静かに目を閉じ、ジョサイア王子も安堵した様子だ。

「ここまで周囲の者にお膳立てして貰っておいて、年長である私が率先して動かないというのも、些か恰好がつかないものでしてな。この上、陛下や殿下のお手を煩わせるわけにもいきますまい」
「なるほど。確かに、仲直りの前にあれこれと言葉を重ねるのも無粋というものかも知れません」

 公爵は大公の言葉に頷いた。そしてメルヴィン王も2人に言う。

「王家は大公家や公爵家と殊更反目し合っているわけでは無かったが……関わり方に問題があったのは事実だ。両家が牽制し合うことを望んだ王が過去には確かにいたのだから。今日に至るまでの両家の不仲は、王家の不徳に端を発することでもある」

 二大貴族である大公家、公爵家の利害がぶつかっていがみ合えば、王家の影響力が大きくなることに繋がるというわけだ。
 金山の話に限らず、様々な利害に関するぶつかり合い全般も含めた話かも知れない。

「しかし王家はその後に調停を執り行い、見事今日まで火種を抑えたではありませんか」
「確かに。そもそも代々の当主達に責任が無かったということにはなりますまい。大きすぎる火は害にしかなりません。それに……私とて、王宮で起きたことには責任の一端がある。己の批判を正しいと信じて疑わず、それが自分の役目と信じた結果があれでは……」

 と、大公がかぶりを振る。……マルレーン暗殺未遂事件の話だな。

「それを言うのならば、大公に苦言を言わせてしまった私にも責任がありましょう。我等は他の貴族の模範となるべき立場。大公の仰った言葉は正しい。己のやり方で他の者を纏めることができると我を通した私もきっと、状況をこじらせて陛下が動くことを難しくしてしまった」

 暗殺未遂事件が起こってからの追及が難しかったのは、ロイが大公と公爵の対立を利用していたからだ。だから、自分が折れていればメルヴィン王も事件の後に身動きしやすく、ロイが事件を起こすことも無かった、ということだろうか。
 メルヴィン王は2人の悔恨の告白に目を閉じていたが、やがて静かに言った。

「後悔や責任は……余にもある。父親なのだ。責任が、ないはずがない。だからこそ……今度こそ手を取り合いながら国を安定と平穏に導くことはできぬだろうか。いや、それさえできなければ、余は誰にも顔向けできぬ。余に力を貸してくれぬか」
「是非もありませぬ。我等の腹の探り合いで誰かが犠牲になるなど馬鹿げている」
「同じく。否やがあろうはずもありません」

 メルヴィン王と大公と公爵の3人は頷いて両手を差し出し、しかと手を結びあった。

「……座って、これからのことをゆっくりと話をするとしようか。三家の長が顔を突き合わせ、こうして腹を割って話をするというのも今まで無かったことではあるのだし」
「そうですな」

 メルヴィン王の言葉に大公と公爵は揃って頷き、それぞれが椅子に座る。女官がすぐにやってきてお茶を淹れてくれた。
 3人は深く腰掛けて、ゆっくりと茶を飲み干して一息つく。それから気持ちを切り替えるように表情を引き締めて、今後のことについての話を続ける。

「とは言え……今の方針さえ定まってしまえば、殊更取り決めることもありませんな。情勢が安定している今、現状を無理に変えようとは思いません。大公は如何ですかな?」
「私にも現状維持に異存はありませんな。貴族である故に……互いの陣営には、より多くを望む者もいるでしょうが……彼らを上手く宥めすかすのも我等の仕事の内。しかしそれは、今までもやって来たこと」
「うむ……。余等が互いの友誼を深めるならば手綱も握りやすくなろう」

 和解は行われ、国内の状況や今までの取り決めは現状維持。つまり……三家の力で国内の貴族を纏めていくという従来の方針に変わりはないが、根本にある理念が違うというわけだ。
 何が違ってくるのかと言えば……例えば互いの陣営への不満を抱く者がいたとしても、主人の定めた方針に逆らってまで対立を煽ろうとするのは難しいということになる。
 強硬路線を堅持しようとすれば、それこそ三家を敵に回して国内では完全に孤立無援になってしまうということだし。

 ジョサイア王子は話の流れを見て取ると、俺に視線を向けて静かに頷くのだった。

「――ああ。そうでした」

 と、そこで公爵が何かを思い出したようにはた、と手を打つ。

「どうなさいましたか?」
「いや、現状維持で良いと言った手前、何なのですが……実は大使殿に夢魔事件で助けていただいたお礼として、西方にある無人島に別荘などを建ててもらい、好きに使って頂きたいと考えておりましてな。しかし大使殿は今や我が国にとって重要人物。三家の均衡を考えると、お二方にも話をお通ししてからにしたほうが良いだろうと思っていたのです」
「ほう」
「ふむ」

 公爵の言葉に、2人は目を見開く。

「領地の割譲、という名目でなければ問題はないのではないですかな。……そう、きっとマルレーン殿下も喜ぶでしょう」

 と、あっさりと大公が言う。少し公爵は驚いたようだったが、大公は苦笑する。

「私のやり方は古い。公爵は若くして爵位を継ぎ、私のやり方とは全く違う方法でありながら、充分な成果を残しておいでですからな。きっと、悪い方向に行ってしまうということはありますまい」

 大公の言葉に、公爵は何か思うところがあるらしく目を閉じる。
 領地経営を行う上で色々苦労もした、ということだろうか。方法論で衝突もあった相手からそう言われるというのは、色々と感慨深いものがあるのかも知れない。

「では……島の管理者をテオドールという形にすればよいかな」

 メルヴィン王の言葉に2人が頷く。島に関しては俺に関わることでもあるし、何か言っておくか。

「折角ですので……今回の和解に組み込んでしまうというのはどうでしょうか? 島1ついただいても全ては使い切れませんし、勿体ないかと。僕の別荘だけでなく、三家の方々に利用していただけるような施設を作ってしまおうかと考えているのですが」

 俺が言うと、3人は少し驚いたような表情をした後、思案してから頷いた。

「余に異存はない。公爵からの礼であるというのに、そう言ってくれるというのは頭が下がるところではあるな」
「確かに。大使殿の厚意を無駄にはしますまい。となると……大使殿に使って頂く資材の調達などは折半でということでどうでしょうか」
「名目上それが良いでしょうが……しかし、公爵は島を出した分、多く出費することになってしまうのでは?」
「島は大使殿へのお礼です。折半の内には入りますまい」
「なるほど……」

 ということで、島の扱いだとか細々としたことも決まったようだ。
 ジョサイア王子はそんな3人を見た後、穏やかな笑みを浮かべて俺に言った。

「これで祝いの席も無事に迎えられそうだ。私としても安心した」

 確かに。島の話に限らず、色々纏めるべきところも纏まり、落ち着くところに落ち着いたという印象ではあるかな。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ