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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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424 シオン達の迷宮探索

 ジョサイア王子が段取りを組んだデボニス大公とドリスコル公爵の和解の日程は明後日となる。家に王城から使者がやって来て、招待状も受け取ったので後は当日を待つばかりだ。
 温室建築に関しては……資材や魔道具を揃えたりと準備を整えている最中。討魔騎士団も日々の訓練を再開したりと、みんなそれぞれに動き出している。

 そして、俺達も先日打ち合わせした通り、ステファニア姫とアドリアーナ姫、それからコルリスを連れてフォルセト達と共に旧坑道へとやって来た。

「迷宮も久しぶりだわ」

 周囲を見渡してアドリアーナ姫が言うと、ステファニア姫が頷く。

「そうね。みんなと一緒でないと、父上は心配なようだし」
「迷宮に降りるのを自重しているというわけですか」
「一応ね。私達ももっと戦いの役に立てたらいいのだけれど」

 ステファニア姫はメルヴィン王の名代として諸外国に対する外交官としての役割を担っているからな。アドリアーナ姫の近くにいるのもそれが理由だし、当のアドリアーナ姫も立場的にはステファニア姫と同様である。シルヴァトリアの国王、エベルバート王の名代としてヴェルドガルにいるわけだから、2人とも前線に出て無理をするわけにもいかないということだろう。

 しかしその一方で、メルヴィン王としては迷宮に潜って魔物と戦うことは体力や魔力などを分かりやすく成長させてくれるので、魔人との戦いが控えている今の状況なら推奨しているところもある、というところか。旧坑道でこの面子なら安全マージンも十分だしな。

「もしよろしければ、使い魔召喚に協力しましょうか?」
「あら、本当?」

 と、アドリアーナ姫が嬉しそうな表情をする。そう。魔法具店を覗いたら召喚儀式用の青転界石もようやく新しいものが入荷していたのだ。
 とかく青転界石の製造には時間がかかる。相変わらず余り数は無いのだが、マルレーンの新しい召喚獣を増やしつつアドリアーナ姫の使い魔も、というのは効果的な使い方だろう。アドリアーナ姫自身の護衛にもなるしな。

「ええ。では、次の満月の晩に召喚儀式を行いましょうか」
「それは楽しみね」
「何が来るのかしらね」

 ということで……アドリアーナ姫と約束を交わす。アドリアーナ姫の得意な術は火魔法系統という話だったか。火に親和性の高い魔物ね。何が来るやら。

「――で、叩き付けると外に出られる。だけどこれを使うと迷宮で手に入れたものは無くなってしまう」
「なるほど……」

 と、シーラが脱出用の赤転界石の使い方をレクチャーしていた。確認を終えたところで、フォルセトが頷く。

「では参りましょうか。慎重に進むのですよ」
「はい、フォルセト様。よろしくね、コルリス」

 シオンが笑みを浮かべてコルリスに手を差し出すと、コルリスは大きな爪をそっと前に出して握手に応じる。まあ、握手と言うよりはシオンがコルリスの爪の先を握るような形だが。

「私もー! よろしくね、コルリス!」
「……よろしく」

 マルセスカとシグリッタとも同様に握手を交わす。といったやり取りを経た後で、いよいよ迷宮探索開始だ。

 俺達は付いていくが基本的に戦うのはシオン達である。それからステファニア姫とアドリアーナ姫、コルリスが援護として加わる形だ。
 前衛にシオンとマルセスカ。それに続いてフォルセト、シグリッタ。後衛としてステファニア姫とアドリアーナ姫が魔法で援護。殿をコルリスが務めるという形になる。

 シグリッタが本から出したネズミが斥候役となって先行、それに付いていくようにシオンとマルセスカが通路を奥へと進む。シオン達は地下都市に住んでいたということもあって、真剣な表情ではあるがそれほど気負ったところもないようだ。
 迷いの森には魔物が生息していたし、戦闘慣れもしている。後は迷宮ならではの部分に注意がいけばそうそう問題は起こらないだろう。

 通路を歩きながらシグリッタのインクの獣があちこちから転界石を拾い集めてくる。
 と、十字路に差し掛かるというところで先行していたネズミが小さく声をあげた。

「何か……来るわ。犬の頭をした魔物……。緑色の変なのが……沢山。みんな武器を持ってる」

 通路の奥からやって来るのはコボルトとホブゴブリンの群れのようだ。

「シグリッタ、左右からは?」
「……来るわ……。3方向からの待ち伏せ。右と左は正面より数が少ない」

 ……斥候に石の収集にと、シグリッタの術は迷宮探索でかなり有用だな。不意打ちを防ぎ、効率的な探索を可能にしている。

「マルセスカと正面の敵を押さえます」
「うんっ、行こうシオン」
「では、私とシグリッタで右を」
「なら、左は私達が」

 フォルセトとシグリッタが右。ステファニア姫とアドリアーナ姫が左からの通路を押さえると。背後はコルリスが守っているわけだから、後ろから敵がやって来るようなことになったら結晶の壁を作って封鎖してしまえば良いというわけだ。

 剣を抜いたシオンとマルセスカが構える。次の瞬間2人が超人的な瞬発力で踏み込んだ。床を蹴って、通路の壁を足場にし――ピンボールのように反射を繰り返しながら、正面から来る魔物の群れへと突っ込んでいく。

 最初に接敵したのはマルセスカだった。身体ごと風車のように剣を回転させて、当たるを幸い斬撃を見舞う。一瞬遅れてシオンが突っ込む。魔力の輝きを残しながらすれ違いざまにシオンの剣が振るわれれば通り過ぎた後にバタバタとコボルトとホブゴブリン達が倒れていく。

「来ますよ」

 フォルセトが短く言って錫杖を構えた。大上段にツルハシを振りかぶって力任せに打ち下ろしてくるホブゴブリンの一撃を――力の向きを逸らすように地面へ向かって受け流す。ぼんやりとした魔力の輝きを纏った錫杖が回転すると、ホブゴブリンの巨体も回転するように宙を舞う。何かの術式と言うのともまた違う。
 錫杖に帯びさせた魔力を直接操り、吸い付けるような性質を付加させているのだろうか。体勢が崩れて無防備になったホブゴブリンに、至近から雷撃の掌底を見舞えば、感電しながらホブゴブリンが吹き飛んでいく。

 ……何というか、フォルセトは特殊な魔力の操作と相手の力を利用するような体術を組み合わせ、魔法を叩き込むというような戦い方をするようだ。
 確かに以前戦ったガルディニスを彷彿とさせる戦法だな。

「邪魔――」

 と、シグリッタの本の頁が独りでに高速で捲られて突っ込んできたコボルトの集団に向かって巨大な拳が叩き込まれた。あれは……オーガの拳か?
 思いもしない攻撃をカウンターでもらったコボルトの一団が薙ぎ倒された――と思った瞬間にはシグリッタがシオン達にひけを取らない速度で地面を蹴って天井に貼り付く。
 倒れたコボルトの直上から――ベリルモールの上半身が姿を現して両手の爪でコボルト達へ左右から挟み込むような一撃を加えると、すぐに本の中へと引っ込んでいった。それを見たコルリスは丸い目玉を瞬かせている。

 なるほど……。オーガの拳のような、近距離戦用の隠し玉みたいなものまであるわけだ。シオン達と同様に超人的な身体能力も持っている。
 純粋な体術ではシオンやマルセスカに一歩劣るようだが、前衛ができないというわけではない。保有している特異な術の数々を考えると一概に優劣は付けられない気がするな。本の中には色々と奥の手がありそうだし。

「ステフ、右から抜けようとしているわ」
「ええ。任せて」

 そして――ステファニア姫とアドリアーナ姫の戦法はと言えば、やはり魔法による射撃が主体である。ステファニア姫が土魔法で壁を作って敵の動きを制限、アドリアーナ姫がそこから相手の動きを読んで、真っ赤な熱線を容赦なく叩き込んでいく。

 火魔法第5階級バーニングレイ。直線軌道の熱線を放つ魔法で、直撃すればコボルトやホブゴブリンなどではひとたまりもないだろう。
 中級魔法を余力を持って連発するあたり、魔法王国の王族の面目躍如といったところか。

 しかも2人とも息がぴったりで、相手の動きをきっちり読んで無駄のない魔法行使をしている。固定砲台と化したアドリアーナ姫の魔法攻撃に、たまらずコボルトが土壁に隠れようとするが、その遮蔽物はステファニア姫が作り出したものだ。遮蔽物に向かってアドリアーナ姫が熱線を放てば、命中する直前に土壁が左右に分かれて隠れていた魔物に直撃する。
 魔物が集団で突貫しようとするが、一塊になったところを四方から岩壁が囲み、上から爆発する火球がその中へと投げ込まれていた。

 盤上の駒の動きを読む、詰め将棋のような戦法。集団戦を念頭に置いた戦い方を想定しているように思えるのは、王族であるが故だろうか。嗜みとして身に付けたものかも知れない。
 まあ何にせよ、ステファニア姫達もフォルセト達も危なげが無いのは確かだ。

「この分なら、シオンさん達も安心ですね」

 と、それを見ていたアシュレイが嬉しそうに微笑む。

「……姉上達もね。あれはゴーレム相手に集団戦の戦闘訓練か何かをしている動きじゃないかしら。恐らく昔からやっていたのでしょうね。息が合いすぎているもの」

 ローズマリーが羽扇で口元を隠しながら目を閉じて呟くように言う。マルレーンはにこにことしていたが、グレイスとクラウディアはローズマリーの反応にやや苦笑していた。
 魔物を撃退したところでステファニア姫が俺達の隣にいるコルリスに向かって嬉しそうに手を振ると、コルリスは親指を立ててサムズアップで応じるのであった。
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