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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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422 夜の宴と真昼の宴

 公爵家の別邸は中央区にある。王城と似た石造りの建材でできているのだ。
 なので砕いた部分を埋めるようにゴーレムを形成し直し、壁や床、天井に作り変えていくというのは比較的容易である。
 埋め直した箇所と無事だった箇所。その接合部の色合いや形状をなるべく丁寧に継ぎ合わせ、違和感の無いように仕上げ直していく。

「俺、こんな数のゴーレム初めて見た」
「噂には聞いてたけど、こりゃ凄いな……」
「精霊までいらっしゃるとは……」

 ゴーレムが亀裂の隙間に身体を埋め、再形成で壁と一体化。その光景に公爵一家と警備兵や使用人達が目を見開いた。

「むう……。これはまた……一度壊れたとは思えませんな。どこからが継ぎ目なのか、直してしまった後では分からないほどとは……」

 直した箇所を見て公爵が唸る。公爵としては他にも目移りするらしく、フローリアやハーベスタを見て目を白黒させている。

「破損した部分はこの調子で直していこうと思います。その間に、散らかってしまった部分を他のゴーレム達に片付けさせますので」

 修復に必要なだけのゴーレムを手元に残し、余ったゴーレム達で部隊を作ってカドケウス班とバロール班に分けて並行作業を進めていく。各班の片付けの様子は五感リンクで把握、制御しながら更に俺自身は修復を進めていくという形だ。

 中庭に壊れた家具を並べ、破損の程度が酷い物と比較的軽い物に分類分けして行く。壊れた家具にしても木魔法である程度の破損なら修復が可能だろう。

「じゃあ……細かな破片を集めさせるわ……」

 と、シグリッタが本から小さな猿のような生物を模した獣を呼び出し、廊下に飛び散った皿の破片などを丁寧に拾い集めさせていく。細かな埃はラムリヤが砂を操り、集めて屋敷の外へ出していくような形で処理。
 その後でステファニア姫とアドリアーナ姫がゴーレムを用いて雑巾がけをしたりといった調子で修復が終わった箇所から掃除していく。

「茂みの奥に食器が散らばってる」
「手を切らないようにね」

 と、シーラがあちこちに散ったものを目ざとく見つけたり、ローズマリーがマルレーンの隣について怪我をしないように見守ったり。
 ローズマリーから注意を受けたマルレーンは嬉しそうにこくこくと頷き、ローズマリーは羽扇で口元を隠していた。それを見たクラウディアが穏やかな表情で目を細める。

「今日は風が弱くて良かったですね」
「そうですね。日差しも暖かいです」

 グレイスとアシュレイが笑みを向け合いながら庭に転がっていた机を運んでいった。こんな調子で暖かい日差しの中、作業は和やかに進んでいく。

 レビテーションを使える班はレビテーションを使える班で、ゴーレム達と同じようにあちこちに散乱している家具を集めたり、瓦礫を資材として一ヶ所に積んだりといった具合で作業を進めているわけだ。集めた瓦礫は崩れないようコルリスがブロックに形成し直して丁寧にピラミッド状に積んでいった。
 エルハーム姫はゴーレムに金槌を握らせて、凹んだ鍋やら置物の鎧やらといった金属関係を元通りに打ち直している。

「はい。みんな起きてー」

 フローリアが倒れた庭木に向かって手を打つと、庭木達が燐光を帯びて自らの身体を持ち上げる。夢魔の影響で動いた時と違ってあくまで樹木のままだが、根っこを足のように使って歩いて、元々埋まっていた場所に身体を落ち着けていく。
 フローリアの影響で強化を受けているのはハーベスタも同じらしい。フローリアに抱えられて燐光を帯びているハーベスタであったが、庭木の亀裂に近付いて葉っぱを近付ける……と、裂けていた個所が元通りに治っていく。

 意外な隠し技だが……木魔法版の治癒魔法のようなものだろうか。フローリアとハーベスタの合わせ技みたいなものかも知れない。庭に散乱した家具を拾っていた警備兵達がその光景に目を丸くしていた。

 とまあ……屋敷中でインクの獣であるとかゴーレムやら庭木やらが動き回って、非常に賑やかな片付け作業の風景となっていた。
 昨晩の夢魔の時も蜂の巣を突いたような騒ぎだったが、それとはまた違う、秩序だった賑やかさという感じで……なかなか悪くない。

 瓦礫などの運搬にしてもレビテーションなりゴーレムなりの魔法を使ってのものなので、警備兵達がぽかんと口を開けてしまうぐらいのインパクトはあるようだ。

 俺のほうはと言えば……壁、床、天井の破損個所を概ね修復し終わったので、ゴーレムの収集作業を続けながら窓の修復に取り掛かったところだ。割れた窓ガラスを集められるだけ集めて、魔法陣の中に置いてマジックサークルを展開する。
 シリウス号の外装を作った時のあれだな。魔法陣の中に積まれた窓ガラスが、宙に浮かんだ光球の中に溶けるように吸い込まれて一枚一枚元通りに形成され直して出てくる。

「凄い……」
「綺麗な魔法ね。兄様」

 と、オスカーやヴァネッサも上機嫌な様子だ。
 修復した窓ガラスは、無事な窓枠に嵌め直していけばいい。アクアゴーレム達を庭の噴水から生産し、窓枠に嵌めさせていく。
 窓枠が壊れているものに関しては、修復可能なら修復を。無理そうなら注文という形になるが……ガラスそのものは注文しなくていいので比較的安上がりになるだろう。

 窓ガラスを配置していく作業はゴーレムに任せ、続いて家具の修復に移っていく。これはミリアムや公爵を交えて相談しながらの作業となる。

「こっちに積んであるものは、修復するより買い替えたほうが早いかも知れないですね」
「なるほど。では、目録を作って大体の見積もりを出してみましょう」

 真っ二つにされたテーブルなどは、木魔法で元通りにくっつけたりできる。
 砕けたり、焦げたり、潰れたりといった……綺麗な修復が難しいものに関しては買い替えの必要が出てくるか。……まあ、極力直せるように手を加えてみよう。

「ふむ。思った以上に廃棄処分されるものが少なくて済みそうですな」
「破損の酷いものは端材にして再利用しましょうか」
「ほう……。徹底しておりますな」
「夢魔などに操られて壊すことになってしまいましたし……良い家具なのに勿体ないと言いますか」
「なるほど。……いや、確かにそうですな。うむ」

 公爵は何かを感じ入るように目を閉じて頷いている。
 後片付けを申し出た理由の1つはそこにもあったりするのだ。あんな夢魔などの被害は軽減できるだけ軽減してやりたいというか。
 破損部分を切り出し、木材の種類や色を合わせて分類分け。どの程度の家具が作れるのか大体のところを見ていく。ふむ……。ロッキングチェアなどはどうだろうか。椅子なら小さな部品を組み合わせて作れるしな。

「ほう。安楽椅子ですか。しかしこれはまた、随分背面や座面が複雑に湾曲しておりますな」
「そうですね。腰に負担がかからないように全体で体重を分散して受け止める、と言うのを目的とした形状です」

 座面と背面の形状を工夫して、椅子全体で身体を支えることで体重が分散されるような形に仕上げている。これによって座っている際の腰への負担などを軽減するというわけだ。
 人体工学に基づいた……と言うほどではないが、長時間座っていても身体の負担になりにくい椅子を目指したつもりだ。

「少し座ってみても?」
「どうぞ。試してみて下さい。構造強化もしているので滅多なことでは壊れないと思います」
「では、失礼いたしまして」

 と、公爵はロッキングチェアに腰かけて楽しそうに揺らす。

「おお……。これはいい具合ですな。背中や腰、太腿を後ろから包まれている感じと言いますか……」
「迷宮商会の商品に加えてみますか? 新しい設計思想の椅子ですよね」

 ミリアムは商品化に意欲を見せている。

「それも良いかも知れませんね。安楽椅子でなくても座面や背面の形状は応用が利きますし」
「うむ……。これは良い……。実に良い物ですぞ」

 公爵は絶賛してくれている。捨てるしかなかった家具が新しい品に生まれ変わってご満悦といった様子だ。まあ、試作品第1号ということで。

「後は……避難部屋でも増設しますか」

 というと、庭に散らばった破片を片付けていたステファニア姫とアドリアーナ姫がそれがいい、とばかり頷いていた。うん。2人が隠し部屋が好きなことは知っている。

「避難部屋、ですか?」
「ええ。ぱっと見では分からないように隠し扉などを設けて、そこから有事の際に避難できるように……という感じですね」
「ほほう。それは面白そうですな」

 やはり公爵もこういう話に食いつきが良いようだ。目を輝かせてロッキングチェアから立ち上がる。
 さてさて。隠し部屋への入口はどこにしたものか。公爵や、オスカー、ヴァネッサ達と共に屋敷の中を移動する。

「お屋敷のどの辺りに作りましょうか?」
「オスカーとヴァネッサの部屋の近くが安心ですな」
「なるほど」

 では……2人の部屋の壁と壁の間に空間を作って、そこから地下に避難できるような隠し通路を作ることにしよう。

「通路が新しく作られる分、部屋が若干狭まりますが」
「僕は問題ありません」
「私もです。1人で過ごすには十分な広さのある部屋ですから」

 と、オスカーもヴァネッサも乗り気なようである。では遠慮なく加工していこう。壁をゴーレムにして広げ、また固めて壁に戻すことで隠し通路となる空間を確保する。
 後は入口だな。やはり家具を利用するのが良いだろう。オスカーの部屋からは絵画をどんでん返しに。ヴァネッサの部屋からは衣装箪笥の奥をスライドさせる形で隠し通路の入口とする。
 どちらも留め金を外さないと隠し通路に入れない。内側からも、仕掛けを固定できるようにして、避難後に侵入できないような構造にする。
 通路から螺旋階段を下りて地下へ。土をどんどんとゴーレムに変えて除けていく。

「テオドール。ここに柱を立てて」
「了解」

 地下通路を作り、壁や床、天井を石化させて固め、セラフィナと相談しながら柱を立てたり構造強化して避難部屋の補強を行う。
 更にトイレとして使える小部屋などを設け、最後に、避難経路として屋敷の裏手から脱出できる通路を作ってやれば完成だ。脱出路に続く道は例によってどんでん返しで。両側から閂が掛けられるようにしておこう。警報装置などを備え付けてやれば、中央区という立地から考えても防犯体制は完璧だろう。

 というわけで避難部屋を作り終えて中庭に戻ってくる。

「避難部屋を作る際の土砂は煉瓦にでもしてしまいますか」
「うーむ。無駄がないですな。では、後で中庭に物置きでも作らせて貰いましょう」
「分かりました」

 土ゴーレム達を石化させて分割。煉瓦にして積み上げていく。さて。そろそろ昼食の時間だろうか。良い匂いが中庭の一角から漂ってきている。

「ここまでのことをしていただくと……何か私としてもお返しを考えねばなりますまいな」

 と、移動する途中で公爵は思案するような様子を見せていたが、やがて妙案を思いついたとばかりに顔を上げる。

「そう……。お礼は島などというのはどうですかな? 正式な話は大公との和解後になりますが。まあ……メルヴィン陛下が難色を示すようならまた別の物を考える必要があるかも知れませんが」
「……島、ですか?」
「ええ。公爵家の保有する領地の話ですな。南西部に手頃な大きさの無人島がありましてな。そこに館を建てて保養地にするという計画を考えていたのです。水源もあるし浜辺もある。深い入り江があってそこを船着き場として利用できそうという中々恵まれた地形で……港町と漁場、航路も元々近くにあるので、補給などの面から考えても悪くないと思われますぞ」

 ふむ。そこに別荘を建てて避寒地にしてはどうか、という話なわけだ。お礼というには……なかなかスケールの大きな話ではあるかな。行き来も飛行船と転移魔法があるわけだから、そう苦にはならないだろうしな。
 南西部は暖かくて海は透明度が高く、風光明媚という話だからな。魅力的な話ではある。
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