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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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414 イザベラとの再会

「――というわけで、潜入して護衛という方向で考えています」

 魔法審問を終え、ミルドレッドに連れられて迎賓館に戻ってきたオスカーとヴァネッサ、それから執事のクラークにこれからの方針と対策を伝えると、3人は静かに頷いた。
 3人が3人とも、素直に協力してくれて潔白であるとの審問官の伝言である。

「よろしくお願いします」
「僕は情報が入り次第、襲撃犯がタームウィルズで使っていた(ねぐら)に向かう予定なのですが……お2人は先に戻られたほうが良いかも知れませんね。あまり遅くなってしまうと公爵もご心配なさるかと。後から別邸へお伺いしますので、使い魔を連れて行ってください」

 と、猫の姿を取ったカドケウスを2人につける。

「よろしくね、カドケウス」

 と言われて首を縦に振るカドケウス。

「それから……魔道具を持っていって下さい。破邪の首飾りは魔法薬や呪いを退けます。この腕輪はクリアブラッド。そしてこれは治癒の魔道具ですね。首飾りについては肌身離さずに身に着けられますよう」
「では、お借りします」

 グレイス達の持って来てくれた魔道具を3人に手渡す。俺の護衛を知らせるということで公爵の身に着ける破邪の首飾りも持って来ている。

「2人は私が送って行こう。公爵と大公には私の口から説明をしなければならないからね」

 ジョサイア王子が言う。なるほど。ジョサイア王子が直接説明に行くことで公爵と大公の意向を確認し、和解の流れを途切れさせないための働きかけをしようというわけだ。
 まあ……理由が後継者争いにあるかもとあっては、和解するしないの選択は、今後の状況に対して大きく影響しないわけだが……。

「では、ミルドレッド。部隊を編制し、ジョサイアの護衛を」
「はっ」

 ミルドレッドは敬礼すると部隊編成のために部屋を出て行った。

「えっと、その……叔父の話なのですが……」
「はい」

 ヴァネッサは切り出したが、話すべきかどうか、迷っているような様子であった。
 レスリー=ドリスコルについて。それは後で別邸に着いてから聞こうと思っていたことだ。
 身内のことだけに悪く言うのも抵抗があるのかも知れないが、それでも何かの心当たりがあるのだろう。オスカーが促すように頷くと、ヴァネッサはおずおずと切り出した。

「叔父は、昔から物静かな人でした。話しかければ穏やかだし、父との仲も悪くなくて。ただ何年か前に、船旅から帰ってきた叔父が公爵領に訪ねてきた時……少しだけ気になることがあったんです」
「と仰いますと……?」
「実家の廊下を通りかかった時、中庭で父や兄と話をしていた叔父を見かけました。その時は3人とも楽しそうに笑いながら話をしていたのに……」

 公爵とオスカーが中庭から移動するために背を向けたその時、直前まで笑みを浮かべていたレスリーの表情が一変したと。そうヴァネッサは言った。

「……冷たくて険しい顔でした。もしかしたら叔父は本当は父が嫌いなのかなって……。父と叔父の間に何があったのかまでは分かりません。話をしてみると叔父は今まで通りで……。だから叔父は物静かで穏やかなのではなく、本当は……誰にも本音を見せていないだけなのではないかと」

 そう言ってヴァネッサは目を閉じるとかぶりを振った。

「……僕も、その話は初めて聞きました。あの時の会話は覚えていますが……叔父を怒らせるような内容は話していなかったと……僕は思います。久しぶりに会えて嬉しいとか、旅先での土産話を聞いたりとか、そう言った取るに足らない内容でした」

 と、オスカーは眉を顰める。
 ……確かに、身内であっても、時にちょっとした感情の縺れなどから衝突することもあるだろう。
 だから、そのまま何もなければただそれだけのことだ。ヴァネッサは今日に至るまで誰にも話さずに来たのだろうが……現実に襲撃を受け、跡目争いの可能性などに気付いてしまうとレスリーのその時の態度が、どうしても気になってしまうというわけだ。
 その時に問題のある会話をしていたわけではないのなら、それは腹に一物を抱えているということに他ならない。

「……なるほど。参考になりました」

 そして、それをしてレスリーが黒幕であるという証拠には勿論ならない。まだ確定的な材料は何もないのだし。さて、どうしたものか。
 ……黒幕は実行犯に指示を出していたわけだ。こうやって動いたことといい、自分に繋がるものは何もないと思っているのだろうが……それが想定外の方法であるなら、対処しようもない。

「……あー、みんなに用意して欲しいものがあるんだけど」
「何でしょうか?」

 ということでグレイス達に必要なものを伝えると、彼女達は目を瞬かせた。
 必要な材料は市場に行けばすぐに揃うだろう。後はローズマリーの持ち物から少しばかり拝借をさせてもらってだな。
 受け渡しなどの打ち合わせをしていると、シーラからの連絡が入った。ふむ。……どうやら、連中の塒も見つかったようだ。



「テオドール。こっち」

 西区の大通りに向かうと、そこにはシーラとシーラの護衛をしているラヴィーネがいた。俺の姿を認めると軽く右手を上げて自分の居場所を知らせてくる。

「ああ、お待たせ」
「ん。道案内する」

 シーラは頷くとラヴィーネと共に裏路地を歩いていく。
 連中はどうやら、西区の宿を利用していたようだ。
 官憲の目を避けるという観点からは正解だが、盗賊ギルドから見ると西区は庭のようなものである。割とすぐに連中の潜伏場所が判明したあたり、そのへんが原因だろう。

「ここか……」

 入り組んだ通りを進み、宿の前に到着する。宿の周辺を固めている人員がいるようだが……。シーラが気にしていないところを見るに、これは盗賊ギルドの人員だろう。

 確かに……俺の記憶違いでなければ前に一度会ったことのある者もいるな。
 俺と視線が合うと、周囲からはあまり目立たないように目礼してきた。確か……ギルド幹部のイザベラと一緒に盗賊ギルドの構成員として行動していたはずだ。
 まあ、向こうも気を遣ってくれているわけだし、こちらも目礼を返すだけに留めておくことにしよう。

「情報屋に話をしに行ったら、私からの依頼はイザベラに持っていくようにって言われた」
「だからこんなに早かったわけだ」
「ん」

 シーラの依頼はVIP待遇で最優先というわけだ。
 宿の扉を開いて中に入る。1階が酒場で2階が宿屋という、いかにも冒険者が好みそうな宿だ。
 そして……カウンターの席には見知った顔があった。黒装束を纏ったイザベラだ。娼館の女主人ではなく、盗賊ギルド幹部として動く際の仕事着である。

「こんにちは、大使様。ご無沙汰しておりますね」

 煙管の煙を燻らせていたイザベラであったが、俺を見るなりにんまりとした笑みを浮かべた。
 ここは往来ではないから人目に付かない。普通に話しかけて問題無い、といったところか。見てみれば酒場にいる客もイザベラ同様、盗賊ギルドの構成員のようである。

「お久しぶりです。ドロシーさんはお元気ですか?」
「ええ。あの子も元気にやっておりますよ。少し騒動もありましたが、お陰様で私共の身の周りもすっかり落ち着きまして。昔ながらの方法でやってますが、順調に回っておりますねぇ、ええ」

 身の周りと言うのは……盗賊ギルドの近況についての暗喩だな。
 前ギルド長を暗殺したランドルフ率いる派閥が瓦解し、盗賊ギルドの方針も元通りになり、タームウィルズの裏社会にも秩序が戻ってきた、といったところだろう。

「それは何よりです」

 答えるとイザベラは笑みを深くして頷く。

「それで、ですね。たまには気分を変えようと近場の酒場に足を延ばして、こうやって寛いでたんですが……宿の主人と話をしてたら、どうやら昼間、西区で騒ぎを起こした余所者がこの宿に泊まってたって話じゃないですか。本当ならこれは大変だと主人と話をしていたところに、大使様がやって来たというわけなんです」
「……なるほど」

 盗賊ギルドは関係ない。あくまで偶然こうなったということで、と言いたいわけだ。しれっと言ってのけるイザベラの後を引き継ぐように、宿の主人が頷く。

「もしお上の耳にでも入ったら、当然連中の泊まっていた部屋を調べに来るわけでしょう? 加減の分からん連中に大挙されて宿の中を荒らされるのもウチとしちゃ困ると思っていたんですが……。いや、他ならない大使殿自らが手入れをしてくれるってんなら、そいつは大歓迎なんですがね」

 と、髭面の宿の主人がにやりと笑う。
 ……いやはや。こちらの顔にも苦笑が浮かんでしまう。
 まあ……確かに。宿を突き止めて、主人に説明して客の使っている部屋の調査をさせてもらうというのは、向こうも客商売である以上はそれなりに説得や説明に骨が折れるが、イザベラがお膳立てを全て整えてくれていたというわけだ。

 白々しいことを除けば、話の筋に道理が通っているというのがまた何とも言えないというか。恐らく宿の主人の語った言葉は、そのまま本音だろうし、イザベラは盗賊ギルドの仕事をこなす傍らで宿の主人にも便宜を図ってやっているわけだな。

「そう、ですね。僕も彼らがここに宿泊してたという噂を聞いてやってきたので。調査させて頂けるなら有り難い話ではありますね」
「勿論でさ。こういった時にはお上に快く協力するのが正しい商売人ってもんです」

 と、いう流れになるわけだ。円滑に事が運びそうで何よりではあるかな、うん。
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