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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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408 オリハルコンの行先

「こ、これが……」

 皆が目を皿のようにして机の上に置かれたオリハルコンを覗き込む。ビオラがそれをまじまじと見ながら言った

「そ、そういえば、親方達のところで聞いたことがあります。南の国では建国以来、不思議な金属の塊を保有していたけれど、何人たりともそれを鍛えることができなかったそうで……だから王様がそれを鍛えることのできる鍛冶師を広く求めて、その国では優れた鍛冶の技術が培われた、だとか……。確かに、バハルザードのことじゃないかって言われてましたけど、まさかオリハルコンだなんて……」

 ……なるほど。鍛冶師達の間でも伝説になっていたわけだ。

「本物であることは私が保証するわ」

 クラウディアが言うと、ビオラは生唾を飲み込んだ。

「生きている金属、と言われているわ。自らに求められる役割を理解し、性質を変える。だからこそ、鍛冶師は何を作るのかを明確に思い描き、オリハルコンと対話をしながらでなければ、加工することができない……ということだそうよ」
「生きている……。確かに、闘気みたいなオーラが出ているね」

 アルフレッドは真剣な面持ちでオリハルコンを覗き込んで、小さく頷く。

「私の鍛練法では実際に鎚を握るのはゴーレムなので……恐らくオリハルコンを鍛えることはできないでしょう。しかし、鍛冶炉の炎を魔法で練って、ビオラさんのお手伝いをすることはできると思います」

 エルハーム姫が自分の胸のあたりに手をやって言う。

「ふむ……。魔法炉で鍛えた刃物か。ゴーレムに鍛冶をさせるより、そちらのほうが重要なのではないかのう」

 ジークムント老が感心したように言う。
 魔法炉か……。BFOでも鍛冶系の生産職の中には後になって魔法技能を伸ばしていた者もいたっけな。
 炉そのものの素材であるとか温度の制御だとか……色々コツと知識と経験とがいるらしい。鍛冶はただ炉の温度を上げればいいというものでもないそうで。
 更に金属素材の配合比率の知識などが加わってエルハーム姫のダマスカス鋼は作られるのだろう。

「恐らく……どうやって加工するかよりも、何に加工するのか、何のためにそれを作るのかという、明確な目的を持つことが大事なのではないかしら?」
「そうね。それはマリーの言う通り。2人で鍛冶を行うにしても、その部分は前もって統一しておくのが良いと思うわ」

 ローズマリーが言うと、ステファニア姫が頷く。
 作る物とその目的か。確かにそうだ。

「この大きさだと、そう多くのものは作れそうにないわね」

 アドリアーナ姫が眉根を寄せる。
 武器にするのか、防具にするのか。それほど多くは無いから……使い道は慎重に考えないといけないだろう。

「まず何にするか、話し合って決めてからかな」
「だとすれば……テオドールさんの装備品の強化に使うのが良いのではないでしょうか?」
「……確かに。テオドール様に戦力を集中させるのが定石かと。オリハルコンを納得させるだけの理由にもなります」

 ビオラの言葉にフォルセトが頷くと、みんなの視線が俺に集まった。んー。俺の装備品は特殊なものが多いだけに強化というのはあまり考えていなかったが……。

「ウロボロスを……オリハルコンで強化するということはできませんか?」

 そう言ったのはグレイスだ。

「それは私も賛成ね。ウロボロスは謎が多いけれど……これを強化するとなると意図を汲んで性質を変えて合わせてくれる、オリハルコンの性質を利用するしかないでしょうから。みんなの意見はどうかしら?」

 クラウディアが視線を巡らすと、アシュレイが頷く。

「私は賛成です。これから先、今まで以上の激戦が予想されますし……」

 と、アシュレイは少し心配そうだ。

「最高位の魔人に対抗するとなると、テオドールしかいないものね」

 ローズマリーの言葉にマルレーンもこくこくと頷いた。

「ん。私も賛成」
「同じく」
「私もー」

 シーラとイルムヒルトが首肯し、セラフィナも楽しそうに手を挙げる。納得顔で頷くシオンとシグリッタ。笑みを浮かべて頷くマルセスカ。
 ジークムント老達、ステファニア姫とアドリアーナ姫……タルコットとシンディーも同意見らしい。

「満場一致だね。勿論、僕も賛成だ」
 アルフレッドはにやっと楽しそうに笑う。

「んー。ウロボロスの強化か……」

 ウロボロスを手に取って竜の像を見やる。小さく口の端を歪ませて、楽しそうに喉を鳴らしている。どうやら……ウロボロス自身も乗り気のように見える。

「――分かりました。では、よろしくお願いします」

 そう言うと、ビオラとエルハーム姫を始め、みんなも頷いた。後は……実際にどういった形に加工するかだな。そのへんも明確にしておいたほうが良いだろう。んー。

「……杖部分を補強し、竜の部分に外装を付けるように強化する、というのはどうでしょう?」
「鎧を着せるような感じかな?」
「そうなります」

 ウロボロスそのものには手を付けにくいところがあるからな。オリハルコンの性質上、それでも魔力の増幅を強化してくれるだろうし、ウロボロスそのものの耐久性能にも向上が見込めるはずだ。

「実際にオリハルコンを使って鍛冶をする前に、外装の形などを考えておきたいのですが」

 と、ビオラが言ってくる。イメージを明確にしておきたいということだろうか。
 それなら、土魔法でウロボロスの実物大の模型を作り、それに合わせる形で試作品を作ってもらうこととしよう。

「これでどうかな?」

 細部まで正確に再現した、実物大ウロボロスの石像模型を作って、ビオラに渡す。

「ありがとうございます。これならいけると思います」

 ビオラは楽しそうに模型の頭を撫でる。
 後は加工か。オリハルコンとの対話……ね。鍛冶を行う際に、ビオラとエルハーム姫、それにオリハルコンを含めて、循環錬気で強化を行いながら鍛冶をする、というのはどうだろうか。
 イメージや目的、理由をオリハルコンに伝えるには、循環錬気も上手く作用してくれる、と思うのだが……まあ、それについては実際にデザインが決まってから話をすればいいか。
 加工方法も、そこまでやって駄目ならまた他の手立てを考えるということで。

「では、早速とりかかろうと思います」
「オリハルコンと同じ程度の量の鉄で試作してみるのが良さそうですね」

 ビオラとエルハーム姫は早速ウロボロスの追加装甲についてデザインを纏めるつもりのようだ。

「そうだ。デボニス大公のことについて聞いておきたいんだけど」
「ん。僕に答えられることなら」

 オリハルコンについての話も一段落したので、アルフレッドにデボニス大公について質問をしてみることにした。

「バハルザード王国で動きやすいように、書状を書いてもらったんだ。こうやって帰ってきたし、お礼がてら挨拶に行きたいと思っていたんだけど、大公のタームウィルズの滞在場所や予定は知ってるかな?」
「ああ。そういうことか。うん。知ってるし、会ってきた。テオ君の帰還のことを伝えたら、デボニス大公のほうから連絡すると仰っていたよ。多分、今日明日にも使者が来るんじゃないかな?」

 と、アルフレッドは思案するような様子を見せながら言った。

「あー……。じゃあそれを待ってから動いたほうが良いかな」
「と思うよ。ジョサイア殿下はドリスコル公爵に会って……お2人が面会できるよう日程を整えているそうなんだ。だから、デボニス大公のタームウィルズでの用事というのはそれだね」

 なるほど。大公家と公爵家の当主同士が会って話をしようというわけだ。
 デボニス大公は公爵家と和解したいと言っていたし、ジョサイア王子も両家を取り持つために動いていたからな。ならば、デボニス大公の意志や日程をしっかりと確認してから動いたほうが良さそうだ。

 俺が不在の時に使者が尋ねてくるというのも想定して……セシリア達には通信機で、大公家から使者が来るかもしれないと連絡を取っておくとしよう。エルハーム姫も挨拶に行きたいと言っていたし、これも使者には伝えなければならない。

 後は今日の予定としてはフォルセトとシオン達の、冬服の準備だな。必要な事項をセシリアに伝えておけば大公家の使者に関しては大丈夫だろうから……予定通りこれから買物に出かけるとしよう。
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