挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
414/1056

399 バハルザードへの帰還

 シリウス号で旧都へ赴き、月神殿の跡地にもクラウディアの術式を施したりと、ハルバロニスでするべきことを諸々済ませてから――そして、出立の日となった。

「では気を付けるのじゃぞ」
「はい。行ってきます」
「忘れ物はないな?」
「……大丈夫よ」
「行ってくるね!」

 古老達はシオン達3人に声を掛けて、心配そうにしているようだ。
 出発するフォルセトとシオン達の見送りに古老達が町中までやって来たのである。他の住人達も見送りに来てくれているようで、古老達との挨拶を終えたシオン達は町の子供達とも言葉を交わしているようだ。

「では、留守の間のことはお願いします」
「いってらっしゃいませ、フォルセト殿」

 フォルセトは不在の間に代理の長となる人物と言葉を交わしている。長の役割としては結界の維持の他にも、住人達の意見を纏めた上で古老達との合議の際に伝達する、というものがあるそうだ。
 件の代理の人物は髭を生やした穏やかそうな人物である。妻子を連れて見送りに来ているようだ。フォルセトの補佐役を長年務め、住人達から信頼もされているということなので後任としては適役なのだろう。

「それではテオドール様。クラウディア殿下やフォルセト達をお頼み申しますぞ」
「はい。タームウィルズで状況が落ち着いたらまた顔を見せに来ます」
「それは嬉しいですな」

 その際ビリヤードやダーツなども持ってくるとしよう。
 古老達と住人達に見送られて町を出ていく。手を振る人々に向かって一礼し、町の入口に向かって歩いていく。
 コルリスも手を振って別れの挨拶をしていたりして、それを見た子供達が更に大きく手を振り返していた。
 さっきはコルリスに抱き着いている子供もいたりしたからな……。滞在は数日ではあったが割と馴染んだものだと思う。
 入口から出て、討魔騎士団が停泊させていたシリウス号に皆で乗り込む。

「人員、総員揃っております」

 討魔騎士団達が人員の点呼といった出発前の確認を済ませると、メルセディアがエリオットに報告する。

「では、行きましょうか」

 艦橋側を見ながら頷くと、ジークムント老の操船によって船が浮上を始める。高度が上がっていくに従って、シオン達が甲板の端に行って眼下の光景を食い入るように見ていた。高所から見る景色が珍しいのだろう。
 フォルセトも静かに森の景色を眺めていたが、シオン達の様子を見て声をかける。

「レビテーションは使えると言っても、落ちないように気を付けるのですよ。誰かに気付かれなかったら船に置いていかれてしまいますからね」
「はい、フォルセト様」
「分かったわ」
「うんっ」

 シオン達の反応にフォルセトは微笑ましいものを見るように穏やかな笑みを浮かべた。それから視線を戻し、森をじっと眺めた後で、呟くように言う。

「もう森が、あんなに小さく……」

 自分が長年暮らしてきた森を後にするのは思うところがあるらしい。思わず漏らしてしまったという感じで、俺に向かってフォルセトは苦笑を向けてくる。

「あ、いえ。慣れ親しんだ町を出るというのは……何となく寂しい気持ちになるものですね。ここにこうしていれば何か分かるかと思いましたが……私にはヴァルロスや盟主達の気持ちというのが、理解できないようです」
「新しい生活と言うのは、確かに……不安もありますね。僕も父さんの家を自分から出た身ですが……彼らは故郷ではなく、枷のように思っていたのかも知れません」
「枷、ですか……」
「僕はそうだった、という話ですね。母さんの家を出た時は……また違った気がしますが」

 そう……。俺が故郷と聞いて思い浮かべるのは母さんの家だ。どちらの気持ちも分かるなどとは言わないが……町を後にすることを寂しく思うフォルセトは、きっとシオン達と一緒の穏やかな暮らしが好きだったのだろう。
 フォルセトは俺の言葉に僅かに目を細め、静かに頷くのであった。



 迷いの森を離れ――まずオアシスの街マスマドルに向かった。
 マスマドルの領主であるファティマに、無事に戻ったことを連絡したり、旧都の復興に関する話をしなければならないからだ。
 前回来た時と同じように、領主の館近くのオアシスにシリウス号を降ろすと、すぐに駱駝車で領主のファティマがやって来て、出迎えの挨拶をしてくれた。

「エルハーム殿下、それに皆様方も。ご無事で何よりです」
「ありがとうございます、ファティマ。その後、何か変わったことは?」
「ファリード陛下から、城砦跡にてカハール残党を捕らえたという、正式な連絡が来ています。メルンピオスで今後の話をしたいとも」

 なるほど。ファリード王としては今後南西部で状況の変化が起こると見越してのことかも知れない。

「でしたら、シリウス号に乗って行かれてはいかがでしょうか。僕達もメルンピオスに立ち寄る予定なのです」
「それは助かります。ありがとうございます」
「そうですね。ですが、まずは彼女達の紹介を」

 エルハーム姫の言葉を合図にフォルセト達が一歩前に出る。

「森の隠れ里ハルバロニスから参りました、フォルセトと申します。この子達はシオン、シグリッタ、マルセスカです」
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」

 マスマドルで一番偉い人、と聞かされていたシオン達が緊張した面持ちで挨拶をすると、ファティマも丁寧に一礼して自己紹介をした。

「では……どうしましょうか」
「私としてはマスマドルで皆様のお帰りを迎えたいとも考えていたのですが……メルンピオスでも陛下は歓待の準備をしておられるかも知れませんね」

 ふむ……。呼ばれたとあってはファリード王を待たせて歓待、というわけにもいかないか。ファリード王も俺達をメルンピオスで歓待すると言っているのだし、バハルザードの面々もフォルセト達も、話をすることは多いだろうからな。のんびりと歓待を受けるならメルンピオスで、としたほうがファティマの立場としても良いだろう。
 ステファニア姫もアドリアーナ姫もすぐ出発ということで異存はないようだ。俺を見ると頷いてきた。

「僕達は問題ありません。ハルバロニスでゆっくりさせて貰いましたので」

 俺が言うと、ファティマは一礼してくる。

「では……すぐに出立の準備をして参ります」
「道中、旧都と森での経緯を説明致します」
「はい」

 旧都の復興の話も出てきているし、そうなればマスマドル領主であるファティマの協力は不可欠だろう。エルハーム姫の言葉に頷き、ファティマは駱駝車に乗ると坂道を戻っていった。



 程無くして戻ってきたファティマはせめてのお土産として、焙ったヤシの実を持って来てくれた。
 森から回収してきたヤシの実はタームウィルズで育てるためのものだ。皮を剥いて焼いてあるヤシの実は、差し入れとして有り難い。既に冷やして用意してあったらしいので早速艦橋でみんなでいただくことにした。

「お待たせしました」

 と、グレイス達がお盆に乗せて2つ割りにしたヤシの実を持ってくる。それをシオン達が手伝ってみんなに配る。

「零さないように気を付けて……」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」

 シグリッタとマルセスカからヤシの実の乗った木皿を手渡されてアシュレイとマルレーン、シャルロッテが微笑む。うむ。年少組はシオン達と割と仲良くなっている印象があるな。

 その間にもシリウス号はバハルザード王都、メルンピオスを目指して飛んでいく。ファティマは空から見る景色に面食らっていたようだが、すぐに落ち着きを見せて、エルハーム姫とフォルセトから事情を聞いているようである。

「……なるほど。ナハルビア王家の高祖に連なる家系ですか」
「ハルバロニスには過去にナハルビアの貴族が嫁いできた記録もあります。ファティマ様の家名もハルバロニスの記録に残っていますよ。ですから……遠縁ではありますが、親戚ということになりましょう」
「そう……。そうでしたか。ではどうか、末永くよろしくお願いします」
「こちらこそ」

 そう言って、ファティマとフォルセトは笑顔で握手を交わす。

「旧都や迷いの森も、いつまでも暫定的な措置というわけにはいきません。バハルザードとしてもあの土地が復興するとなればそれは歓迎すべきことかと存じます」
「確かに、それは陛下も以前に仰っておりました。危険性がないのであれば復興に着手しやすくなりますね」

 エルハーム姫が言うと、ファティマが真剣な面持ちで答える。
 うん。南西部の再開発に関しては問題無さそうだな。元々ナハルビアとハルバロニスは一緒に歩んできたわけだし、バハルザードにとっても益がある、ファリード王も乗り気となればどんどん話も進展していくのではないだろうか。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ