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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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381 城砦内部にて

 晴れた空を見上げて大きく息をつく。それで腹の奥で渦巻いていたような怒りの感情もようやく落ち着いてきた。

 そして……オーガストが滅びたことでカハールの手勢も完全に諦めがついたのか、続々と武器を捨てて降伏しているようだ。ファリード王の最初の呼びかけがここに来て効いてきているな。
 城砦内部の捜索や捕虜の転送など、まだここでやるべきことはいくつかあるが……一先ずは一件落着というところか。

「テオ!」
「テオドール様!」

 と、みんながこちらに飛んでくる。

「怪我は、大丈夫かしら? また無茶な魔法の使い方をしていたでしょう」

 ああ。それで心配させてしまったわけだ。

「いや、俺は大丈夫だけど……みんなの怪我は? グレイスも……怪我をしていたようだけど」
「私は大丈夫です。傷も塞がりました」

 と、グレイスは自分のことより、俺のほうが心配だという眼差しを向けてくる。

「わたくし達も大丈夫よ」

 ローズマリー、シーラにイルムヒルトと、直接吸血鬼の相手をしたが怪我はないようだ。一度消えたはずのデュラハンも戻って来ていた。

「マルレーン、吸血鬼が再生するようなことは?」

 念のために尋ねておこう。相手が高位吸血鬼ともなるとそのあたりの事はしっかりしておきたい。その点で言うならデュラハンなら感知できるだろうし、対処も可能だ。
 マルレーンがデュラハンに視線を向けると、デュラハンは手にしている首をゆっくりと横方向に振った。うん……。再生しない、と。大丈夫なようだ。
 上空にいたクラウディアに視線を向けると結界を解除して降りてくる。

「テオドールはまた無茶をしたようだけれど……大きな怪我が無くて何よりだわ」

 そんなふうに言って、少し困ったように微笑む。

「テオドール、大丈夫? 痛くない?」

 セラフィナも、そう言いながら俺の顔を覗き込んでくる。

「いや……。心配かけてごめん」

 みんなは問題無さそうだが……俺に関しては、確かにあちこち身体に軋むような痛みがある。ガルディニスの時と同じことをやったし……その後体調を一度崩しているからな。みんなが心配をするのも分かるが。
 戦い方も至近距離で大火球からの熱波に身を晒しながらオーガストの足止めをやったりと、割合無茶をした自覚はあるのだ。
 まあ……城砦の屋上に移動して一息つくとしよう。

 屋上に腰かけてから魔力循環を止めると、身体に重みが圧し掛かってくるような感覚があった。カドケウスを呼び戻し、グレイスの護衛に付けて呪具を発動させる。
 グレイスは胸に手を当てて大きく息をついてから……俺を見て微笑みを浮かべた。

 改めて、自分の身体を見てみれば……シールドでオーガストの攻撃を受け止めた時の衝撃で手足や脇腹の痛み。肉体を触媒にした魔法行使による身体全体の軋むような違和感。それから火傷のひりつくような痛みというところだ。
 ガルディニスなどの時に比べれば、まだ軽傷ではあるかな。というより……今回は主に自分の魔法の使い方のせいでダメージを受けている気がする。ああいう性質を持つ相手を後ろに下がらせ、怯ませて大技を当てることを考えると、ああいうやり方をする必要があったとは思うのだが。

 アシュレイはまず周囲に再生の魔法陣を展開し、俺の怪我をした箇所のあちこちに治癒魔法をかけてくれる。それから最後に火傷の痕が残らないようにとヒーリングシェルを貼りつけてくれた。

「これで、大丈夫だと思います。転移魔法の反動の痛みがあったり、具合が悪くなったらいつでも言って下さい」
「ん……。ありがとう」
「はい」

 アシュレイは頷いて、それからグレイスに目配せをしてから微笑み、一歩後ろに下がる。
 グレイスはみんなに見守られるような形で、少し戸惑いながらも前に出た。

「あー。心配かけた。ごめん」
「いえ……」

 ふわりと、抱き寄せられるように包まれた。グレイスに抱きしめられるように引き寄せられていた。

「……ありがとうございます、テオは私の両親のことで怒って……それであんな無茶までして下さいました」

 グレイスはそんなふうに言うが……。

「確かに、怒ったけど……それと無茶な魔法の使い方をしたのとは、また違う。俺が馬鹿をやっただけなんだから、グレイスが気にする必要はないよ」

 そう答えると、グレイスは首を横に振った。見れば、少しだけグレイスの目元が潤んでいる。彼女の髪に手を回して、指で梳くように撫でる。
 ……もう少しこちらのダメージを減らして勝つような立ち回り方もあったかも知れない。ただ何というか……あいつを一秒でも早く叩き潰したかったと言うか。
 うん……。まあ、自業自得だな。
 グレイスとしばらく抱き合って離れる。目に浮かんだ涙を指で掬うと、はにかんだように笑った。
 それからアシュレイとマルレーンが俺に寄り添ってくる。2人を抱き寄せて髪を撫でて。
 クラウディアに頭を抱えられて撫でられ、ローズマリーは隣に腰かけて手を握ってきた。

「ん。一件落着」
「ふふっ」

 そしてその光景を見たシーラが、目を閉じて頷きながらそんなことを言ってイルムヒルトが笑うのであった。
 まあ……城砦内部の確認や、今回の旅の目的である聖地の探索なんかも控えているんだけどな。



 一息ついたところで城砦の上階からライフディテクションと片眼鏡を用いて内部に潜んでいる者がいないか、調べて回ることにした。吸血鬼達は生命反応がないのでライフディテクションで発見することはできないが、片眼鏡であれば魔力反応で探知することができる。

 ファリード王の将兵も階下から順繰りに調べ、やがて城砦の中程の階で合流する。うん。後は……地下だな。

「地下の隠し通路の入口は見つかっていないので……1階を見張ってもらって、地下部分を直接覗いてみることにしましょう」
「ふむ。俺達に任せてくれてもいいのだぞ? お前達は激戦を潜り抜けた後ではないか」
「仕事をやりかけにしてお任せしてしまうというのも何ですので」

 それに、戦ったのは俺達だけというわけでもないしな。
 答えると、ファリード王は少し目を見開いた後、小さく息をついて笑みを浮かべた。

「……そうか。では、皆で手分けして手早く終わらせ、早めに休めるようにするとしよう」

 ということで、俺達は一度外に出てから、城砦の地下通路部分をコルリスにもう一度穴を掘ってもらうことにした。

「コルリス。封鎖した地下通路の中を見たいんだけど」

 と、石畳を突き破って顔だけ出していたコルリスに言うと、コルリスは頷いて地下通路の上まで移動し、そこから穴を開けてくれた。

「ひっ!」
「な、何だ!? 巨大モグラ!?」

 すると……封鎖した地下通路の岩の前で、何やら文官らしき姿をした連中がこの世の終わりといった表情でこちらを見上げているのを発見した。ライフディテクションには反応あり。全員人間だ。

「ええと。この者達は?」

 ファリード王に尋ねると、その連中の顔触れを見て肩を竦める。

「カハールの腰巾着共だな。政を混乱させていた連中でもある」
「では、連行をということで」
「うむ。カハール共々メルンピオスに送らねばならん連中だ」
「ええと。カハールが生きているということなら、処置だけ先に済ませてしまいたいのですが」
「分かった。案内させよう」

 カハールに関しては峰打ちで意識を刈り取ったということらしい。あいつは魔術師だし、魔法封印と梱包だけは先にやってしまうとしよう。
 兵士に案内されて行って見れば、ロープでぐるぐる巻きにされて兵士達の見張りを付けられていたが……まだ白目をむいて伸びている。

 魔法封印を施し、ついでに土魔法で固めておく。そこにカハールの取り巻き達も兵士に拘束され、項垂れながら連行されてくる。魔力も保有していない連中だ。カハールの取り巻きに関しては、これで良いだろう。

 後は……地下通路側から城砦側へと探索しておくべきだな。
 コルリスの開けた穴まで戻り、カドケウスを先行させて索敵しながら石造りの通路を進んでいく。
 隠し通路を通って城砦直下部分まで来ると、あっさりと上階へと続く隠し扉を見つけた。当然だが、隠し通路側からは普通に分かりやすい作りになっている。
 扉を開いて城砦側に出てみれば、そこは食料貯蔵庫と思われる場所であった。棚が隠し扉代わりになっているというわけだ。

「テオドールの作った隠し通路のほうが凝ってる」
「いや……」

 シーラの言葉は反応に困るな。別に城砦を作った魔術師と張り合おうというつもりもないし。

「地下には他にも部屋があるみたいだわ」

 ローズマリーが扉を見つけて、そんなことを言ってきた。では、そちらも見ておくとしよう。
 中に生命反応はないが、魔力は感じる。慎重に扉を開いて中を窺うと……そこは何やら異様な光景の大部屋だった。
 床に蝋燭やらを立てて、砕いた魔石で線を描いたのだろう。床に魔法陣が構築してある。

 魔法陣の描かれた大部屋、本棚と机、椅子が置かれた書斎のような部屋、それから棺桶の陳列された部屋まで見つかる。……うん。棺桶の数も合っている。2つ並んだ、オーガストとイゾルデの棺桶。それから側近達の棺桶。
 棺桶の中身は当然というか、どれも空っぽではあるが……。これは念のために破壊しておくのが良いだろう。

「この部屋に魔法陣を描いて、オーガストが結界を維持していたようね」

 と、魔法陣の部屋を検分していたクラウディアが言った。

「となると、結界陣の隣にあるこの書斎は……」
「オーガストの書斎ではないかしら?」

 ということは、書斎にある物は証拠品の山だな。シリウス号に積み込まなければなるまい。

「あの真祖の私物というのなら、グレイス卿の家に繋がるものがあるのではないかな。俺達ではなく、お前達が預かると良い」

 ファリード王がそんなことを言う。

「良いのですか? 教団に関係する品もあるかも知れませんが……」
「構わん。教団に関わる物であれば、情報を共有させてもらえれば助かるがな」
「分かりました。では、僕達で調べて、教団に関わる物は後日お引渡しするということで」
「うむ」

 まあ、城砦内部の探索についてはこんなところだろうか。
 後は捕虜の拘束、梱包、転送を手早くやってしまうとしよう。俺も今日は割と疲れたし、吸血鬼達のことが片付いてもまだ聖地のことがあるからな。
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