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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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372 南方の宮殿で

 王としては中々型破りなようだが……街の様子やエルハーム姫の人柄などを鑑みるに、ファリード王は信用していい人物かも知れない。

「メルヴィン陛下より親書を預かってきております」 

 と、ステファニア姫が恭しい仕草で親書を取り出す。

「うむ」

 ファリード王は親書を受け取ると、それに目を通して頷く。

「魔人に関してはどの国も他人事ではいられんな。調査を行うというのであれば協力しよう。でなければ余は草原の民達にも顔向けができん」

 親書を懐に仕舞うとファリード王が言った。

「では……詳しい話はここではなく、もう少し落ち着ける場所でするとしようか。お前達は夜宴の準備を進めるように」
「はっ」

 居並ぶ諸侯が答えると、ファリード王は身を翻す。

「どうぞ、こちらへ」

 と、エルハーム姫が促してファリード王の後を追うように先導していく。このまま付いていって良いと言うことか。では、宮殿の奥へ移動することにしよう。
 エルハーム姫と共に謁見の間の奥からまた庭園へ抜け――それから別の棟に入った。青いタイル張りの通路を通り、絨毯の敷かれた一室に通される。ファリード王は窓の近くにある絨毯の上に胡坐をかくように腰を下ろした。

「まあ、適当に座ってくれ。本来ならば北方の建築様式を取り入れた別の迎賓館を使いたいところではあるのだが……諸事情あって客人を通せる状況ではなくてな」
「と、仰いますと……?」

 俺達も腰を下ろしたところでステファニア姫が尋ねると、ファリード王は苦笑して肩を竦めた。

「歴代の王に蓄財と散財を同時にやるのが好きな頭の痛い連中がいてな。俺の父もそうだが……。迎賓館として北方の建築様式や家財道具を取り入れたそうだ。その迎賓館の家財道具はこちらでは珍しく、良い値がついた。北からの客を迎えるのであれば、処分するべきでは無かったかも知れんな」

 うん……。謁見の間から部下の視線が無くなった途端に、一人称が余から俺に戻っているのは気にしないことにしよう。

「復興資金のために宝物庫からも色々出しているのです」
「出しているのではない。馬鹿共がむしり取った物を、形を変えて国内に戻しているだけだ」

 エルハーム姫の言葉にファリード王は首を横に振った。
 女官がやって来て、砂糖菓子や茶を用意してくれる。砂糖菓子も茶も――またヴェルドガルとは食感や風味が違う感じだな。

「父上。母上にもこの場に同席いただけないでしょうか?」
「シェリティにか?」
「はい。ヴェルドガルで暗躍する魔人達の首魁が無明の王なのではないかとテオドール様達は調べておいでなのです」

 怪訝そうな面持ちのファリード王に、エルハーム姫は俺達との会話で分かったことやその経緯を話して聞かせる。

「なるほどな……。では呼んで来させるとしよう」

 ファリード王は女官を呼ぶと、王妃をこの場に連れてくるように伝える。
 その間に自己紹介なり説明を、と思ったのだが、ファリード王によれば何度も自己紹介や説明をするのは手間なのでということで、シェリティ王妃がやって来るのを待ってから話をするということになった。

「シェリティ=バハルザードと申します」

 程無くしてやってきた王妃はヴェールを外して静かに一礼する。ファリード王と同年代ぐらいだろうか? やはり、エルハーム姫に似ているように思う。シェリティは静かにファリード王の隣に腰かけた。

「では、顔触れが揃ったところで改めて自己紹介と礼をしよう。ファリード=バハルザードだ。娘を助けてくれたこと、礼を言う」

 ファリード王とシェリティ王妃の自己紹介に合わせて、俺達も1人1人挨拶をする。

「――ふむ。つまりヴェルドガルとシルヴァトリアの王族と重鎮、というわけだ。これほどの顔触れが空飛ぶ船と共に動くとは……メルヴィン王とエベルバート王は相当本腰を入れておいでのようだ」

 自己紹介で名前と肩書きを把握したファリード王は腕を組んで頷いた。
 まず……こちらの事情や分かっていることで、話せることは話してしまうとしよう。
 王妃に事情を聞くにしても、彼女にとっては忌まわしい記憶でもあるだろうし。話をするとしても、納得が必要だ。ただ俺達に必要な情報だからというだけで話してもらえる内容でもないだろう。

 話す内容はかなり多いな。戦ってきた魔人集団やデュオベリス教団の話。教祖であったガルディニスに若造と呼ばれる魔人。無明の王が出現したのが教団の教祖が聖地と呼ぶ場所の近くであること。
 それから……魔人とは直接関係がないにせよ、南西にカハールらが潜伏していそうなことや、吸血鬼が教団と手を結んでいるのではないかということも話しておく必要があるだろう。

「……その若さで魔人殺しとは……大したものだな。しかし、魔人達の話もそうだが……吸血鬼達が徒党を組んで教団と組んでいた可能性があるとは……。もしそうなら我が国にとっては頭の痛い話だ」

 色々こちらのことを話して聞かせると、ファリード王は眉間に皺を寄せる。

「内通者の動きに、吸血鬼達の持つ魅了の術が関わっているということは有り得ませんか?」

 と、少し気になっていたことを聞いてみる。エルハーム姫もそうだったが、護衛の騎士を信用していたところがある。吸血鬼が関わっていればそういった工作も、不可能ではあるまい。特に……東国にいた吸血鬼達の主は、権力を隠れ蓑にして組織立って動くことを好む傾向がある。
 ガルディニスを失った教団を裏切ったか或いは見捨てたか。信徒を手土産にカハール達と接近したという可能性も考えておくべきだ。

「それは……」
「エルハーム殿下の護衛は、陛下としては信用のおける人選であったはず。情報を引き出したり、寝返らせたり……もし教団を吸血鬼達が見捨てて、新たにカハールと組んでいるようなことがあれば今回のような動きも可能なのではないかと」
「……確かにそうだ。理解のできない裏切りというのがそうであるなら、納得の行く事例もいくつか存在する。教団との戦いの中では、確かにあった」

 吸血鬼というカードは教団としても伏せておきたいものだろう。要所要所で使うことにより、対策を講じさせないまま状況を有利に運ぶことができる。

「……重要人物に吸血の痕が無いか、確認するべきでしょうね。これは治癒魔法でも癒えることのない傷です。傷が無くても高位の吸血鬼であれば魔眼で魅了することも可能ですから、要職にある人物には片っ端から解呪を試みるべきでしょう。そのための対策も講じてきました」

 吸血は血液の浄化で。魅了は破邪の首飾りによる解呪で元に戻すことが可能だ。
 南方に向かうにあたり吸血鬼対策をしてくる必要があったが、クリアブラッドの魔道具と破邪の首飾りは簡易な品ではあるものの、人員分以上に用意してきているのである。
 魔道具の準備があることを伝えると、ファリード王は目を見開き、それから愉快そうに肩を震わせる。

「また……用意周到なことだな」
「南方で吸血鬼事件の件数が増えていることも、ギルド長の人脈により、下調べしてきてあるのです。こちらにある冒険者ギルドも吸血鬼事件に対応することがあるでしょう。そのように通達して頂けますか」
「うむ。約束しよう」

 まずは潜伏しているかも知れない脅威からだ。吸血鬼対策としてバハルザード王国に協力してもらう内容としてはこんなところだが……もう少し補足が必要だな。

「吸血鬼達に関してはもう一点。もしダンピールやダンピーラがいた場合、ヴェルドガルに足を運んでもらえれば吸血衝動という体質を中和し、人と変わらない生活が送れるということを通達していただきたいのです」
「ほう」

 感心したような声を漏らすファリード王に、ヴェルドガルが友好的な魔物達を受け入れる方向で動いていることや、俺の――異界大使の役割についても説明していく。
 ダンピール達は極々希少という話だから、バハルザード国内にいるかどうかは分からないけれど。

 友好的な魔物達を保護するのであるから、吸血衝動を無くせる以上はダンピール達も保護対象ということになる。
 持て余すならヴェルドガルで受け入れるということで、メルヴィン王やジョサイア王子とも意見の一致を見ているのである。呪具を製作する必要はあるが、実現すれば彼らも追われて暮らすというようなことはなくなるはずだ。

「分かった。そのことについては請け負うとしよう。ダンピール達を見つけた場合は、保護する方向で動く」
「残る問題としては、他の勢力でしょうか。カハールの残党についてですが、現在の状況としてはどうなっているのですか?」

 と、ステファニア姫が尋ねる。

「奴らに関してはこちらが把握している規模としては大きめの盗賊団、というところだな。性質からしてもそう呼ぶのが妥当だろう。砂漠地帯か山岳地帯に潜伏するのではないかと言われていたが……」

 これはどうやら砂漠側に逃げたと判断して良いようだ。船の中での連中の会話ややり取りなどを話して聞かせると、ファリード王は己の膝を叩いて笑った。
 それが落ち着くのを待って、アドリアーナ姫が尋ねる。

「デュオベリス教団はどうなのでしょうか?」
「こちらは急速に弱体化している。元々バハルザードに不満を抱いていた民達が教祖に纏められていたわけだから、治世が進めば戦う理由を失い、教祖を失えば戦う手段を失う。信徒の中でも特に魔人に心酔する戦士階級の連中はまた別だが……そいつらも頭数が減っている」

 ……戦士階級ね。ガルディニスが連れてきたような連中か。
 そうでない信徒もいるということなのだろうが。

「末端の連中に関しては――内心での王家への不満や不信もあるだろう。しかしそれを払拭していくのが俺の仕事だと思っている」

 ファリード王が遠くを見るような目で言い、王妃はそんな王に、静かに寄り添うのであった。
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