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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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368 草原の民

「この、ダールという男も元々は?」
「はい……。カハールの派閥に属する武官でした」

 エルハーム姫は残念そうというか恥ずかしそうというか、不本意そうな表情だった。

「心中お察しします。この後は遊牧民の拠点まで向かうのですか?」
「はい」
「では、僕達もそれに同道致しましょう」

 と、エルハーム姫に申し出る。
 別動隊がいないとも限らないし、護衛隊も頭数が減らされたり疲弊させられてしまっているからな。エルハーム姫も元々俺達に用があったわけだし、このまま別行動というわけにもいくまい。

「二度も助けていただき、その上に同行いただけるとは……。感謝の言葉もありません」

 エルハーム姫は表情を真剣な物に戻すと、竜車から降りて丁寧に一礼する。

「いえ。これからバハルザード王都へ向かうにあたり、少々緊張していたところなのです。これで両国の友好に繋がるのならと」
「そうでしたか。私としてもヴェルドガル王国との友好の一助となりたいと思っておりました。父上にも顔向けができるというものです」

 そんなふうに言葉をかわす。それから……さっきから気になっていたのだろう。俺の後方、上空へと視線を合わせて尋ねてくる。

「これが書状にあった空飛ぶ船……でしょうか」

 岩場の上にやってきたシリウス号を護衛隊は呆然とした面持ちで見上げている。

「はい。シリウス号と言います。捕虜については予備の船倉に閉じ込めておきますので、王都に着いたらお引き渡し致します」
「重ね重ねありがとうございます」
「ではまず、この曲者達を船に運び込んでしまうとしましょう」

 捕えた者達は死なない程度、戦闘はできない程度に最低限の手当をしてシリウス号の第2船倉の中へ。
 ここは最初から捕えた相手を閉じ込めておく、という用途を想定をしている部屋で、壁から床、天井に至るまで一際分厚い装甲板で作られている。要するに、魔法でも武技でもシリウス号の装甲を破壊できるだけのものでないと破ることはできないということだ。外から鍵が掛かり内側には鍵穴がないので技術的な方法での脱獄も難しい。
 水晶板による内部モニターを備え、伝声管により内部での会話ややり取りを把握することも可能。見張りを付けなくても監視ができる……と、中々至れり尽くせりと言えよう。

「起きろ」

 道を塞いでいる石をゴーレムに作り替えて整列させる。
 土魔法で身動きを封じた連中を、そのままゴーレムを使ってシリウス号の船倉へと運び込んでいく。途中で暴れて逃げ出そうとする者が出ないように作業の様子をカドケウスとバロールで監視。ゴーレムからゴーレムにバケツリレーのように手渡しして搬入していく。

「初めまして。私はヴェルドガル王国第1王女のステファニア=ヴェルドガルと申します」
「シルヴァトリア王国第1王女アドリアーナ=シルヴァトリアです」

 その作業の傍らでシリウス号から降りてきたステファニア姫、アドリアーナ姫がエルハーム姫に挨拶をする。

「エルハーム=バハルザードと申します。此度の助力、感謝いたします」

 と、エルハーム姫が応じた。それほど驚いた様子がないのは2人がやって来ることを聞かされていたからだろう。他の面々もエルハーム姫に自己紹介を行う。
 そうこうしている間に内通者、待ち伏せ組、捕虜になっていた教団信徒の全員を船の中へ運び込み終わった。扉を施錠し、開かないことを確認する。ではゴーレム達を呼び戻し、ここでやっておくべきことを済ませてしまおう。

「コルリス、穴は埋めていいかな?」

 ここは他国だし、こういった隘路は防衛上重要に成り得る場所だ。地形は極力そのまま残しておくほうが向こうの印象も良いだろう。折角掘削した穴なのだからというのも変だが、塞いでしまうほうが良さそうだ。

「ええと、私から伝えるわね」
「お願いします」
「それじゃあ……」

 ステファニア姫が使い魔への制御を使って俺の言いたいことを伝えると、コルリスはこくんと頷いた。特に自分の掘削した穴に思い入れなどがある、というわけでもないらしい。

 早速コルリスの作った隧道へとゴーレム達を進入させていく。セラフィナに意見を聞きながら構造強化で崩落しないよう補強し、更に穴を塞ぐ。入口と出口の分。それに途中を建材が無くなる分だけ埋めて、外側が自然なものになるよう体裁を整えてやればとりあえず現状回復といったところか。

「では竜車も甲板に運び込んでしまいましょう。護衛隊の皆さんもどうぞ」

 エルハーム姫の護衛隊にそう言うと、彼らは目を瞬かせるのであった。



 甲板に竜車を固定し、護衛隊も乗せてゆっくりとした速度でシリウス号を高原側へと進ませる。エルハーム姫には艦橋で遊牧民の拠点までの道案内をしてもらう。

「あの尖った山の峰を正面に捉えて、道なりに真っ直ぐ進んでいけばこの季節の遊牧民達の拠点に辿り着きます」

 エルハーム姫の道案内は明快で分かりやすいものだった。草原に作られた細い道に沿って飛ぶだけで、迷う要素もない。指示に従って船を進ませていく。

「遊牧民と言えば……昔、冒険者仲間と旅をしておった頃に、依頼を解決したついでに集落で歓迎してもらったこともあるのう」

 と、アウリアが懐かしそうに言う。

「そんなことがあったんですか」
「うむ。山羊の乳を固めて発酵させたものやら羊料理やら……色々馳走になったな。親切な者達じゃったよ」
「遊牧民は義理堅いですよ。交易もしているので信用を重んじていますから」
「なるほど……」

 やがて、遠くに遊牧民の拠点が見えてくる。都市部と違って立派な外壁があるというわけでもなく家々も移動させやすい天幕ではあるが、拠点中央部に祭壇があり、精霊王の力を借りた結界を構築してあるそうだ。
 物見櫓に狼煙を上げる設備まである。結界も櫓も狼煙も、主に魔人対策としてのものだ。魔人が出現した場合は草原のあちこちで放牧している者達を拠点に避難させたり、或いは拠点の近くに魔人がいるから帰って来ないようになどと指示を出したり、事細かく合図できるようにしているらしい。

「遊牧民の飼っている動物を驚かせてもいけません。少し離れた場所に船を停泊させることにしましょう」
「確かにそうですね。私達も竜車は拠点の外に置いておりますし」

 ということで、道の往来の邪魔にならないよう、少し外れた場所にシリウス号を停泊させる。

「となると、ラヴィーネも連れて行かないほうが良いかも知れませんね」

 と、アシュレイがラヴィーネの頭を撫でながら言う。

「そうだな……。羊を怯えさせてしまいそうな面子は留守番してもらうか……」

 俺もラヴィーネの頭を軽く撫でると、静かに尻尾を振るのであった。



「よろしければ皆様もご一緒しませんか? テオドール様や皆様は遊牧民の冤罪を防いでくれた方です。族長も挨拶をしたがるかと」

 族長に渡す品が積んである竜車を、甲板から草原の上に降ろしたところでエルハーム姫が言った。

「分かりました」

 これは断るとエルハーム姫の面目が立たないだろう。

「では、私達が船の護りと見張りをしておきます」

 エリオットが静かに言う。討魔騎士団はラヴィーネやリンドブルム、サフィール、コルリス、アルファ達と共に居残り、ということらしい。ステファニア姫達、ジークムント老達とアウリアは同行することになるか。

「ありがとうございます。カドケウスは監視に残しておきますので、何かあれば連絡を。折角遊牧民と知り合いになれるわけですし、後で人員を交代しましょうか」
「はい。楽しみにしています」

 俺の言葉に、エリオットは静かに笑みを浮かべた。
 カドケウスは第2船倉の監視部屋に詰めさせておこう。船倉内で何か動きがあれば分かるはずだ。
 護衛隊と共に拠点へ向かって移動する。拠点が近付いてきたところで竜車を停めて、兵士達が贈り物の品々を荷車へと移し替えた。

 と、そこに拠点から数人の男達が近付いてくる。全員が遊牧民だ。ゆったりとした衣服は結構色彩豊かで細かな刺繍がしてある。中々に趣深い。

「おお。これはエルハーム殿下。ようこそいらっしゃいました」

 初老の男が相好を崩して愛想良く挨拶をしてきた。

「ユーミット様。ご無沙汰しております」

 エルハーム姫も笑顔でそれに応じる。

「ささやかではありますが、これは友好の品です。どうぞお納め下さい。長らく王宮の事情でご心配をおかけしました。王家を信じ、支えて下さった皆様への返礼であると父より言伝を預かっております」
「これは、かたじけない。このような素晴らしい品々をいただけるとは……。これは何か返礼の品を考えなければなりますまいな」

 ユーミットは荷車に積まれた品々を見て感嘆の声を上げる。

「それからもう一点。ユーミット様にお伝えしなければならないことがあります」
「なんでしょうか?」
「ここに来るまでに、カハールの手の者から襲撃を受けました」
「何と……!」

 エルハームが言うと、ユーミット達は表情を曇らせた。

「こちらにいらっしゃる、ヴェルドガル王国のお客人からご助力を頂いたことで事無きを得たのですが……。どうやら、カハールらは卑劣にも草原の民の衣服をデュオベリスの信徒に着せて、下手人に仕立て上げようとしていたようなのです」
「それはまた……。カハールの考えそうなことですな。しかしそうなると、ヴェルドガルのお客人は我らにとって大恩のあるお方ということになる」

 それからユーミットは俺達に目を向け、人懐っこい笑みを浮かべた。

「これは一族を挙げて持て成さねばブルト族の名折れというものですな。お客人方、お時間さえ許すのであれば、どうか我らの集落に立ち寄っていって下され」
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