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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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356 異界大使の歓待

「こんばんは、大使様」
「こんばんは、アニーさん」

 陽が傾き始めた頃になって、孤児院の子供達も職員に連れられてやってきた。王城から派遣されて孤児院で教鞭をとっている魔術師隊のアニーも一緒である。
 更にはアルファまで同行していたりする。馬車の上からカドケウス共々跳躍して降り立つと、堂々と玄関から中庭に向かって入って行った。

 西区からなので子供達の護衛役を頼まれてくれないかとアルファに話しかけてみたら、何やら頷き一声吠えて引き受けてくれたというわけだ。まあ、どこまで離れられるか分からないからカドケウスにも護衛を手伝ってもらったが、アルファは問題なく家まで来れるようである。というわけで、子供達を案内して中庭へ向かう。

「メルセディア卿。ジョサイア殿下やステファニア殿下の予定はまだ大丈夫でしょうか?」
「はい。もう少しの間は時間がおありかと」
「では……軽い催し物があるのでそれまで留まっていただけるようお伝えいただけますか?」
「承知しました。伝えて参ります」

 メルセディアは頷くとメルヴィン王のいる客室へと向かう。

 孤児院から子供達が来た一方で、メルヴィン王達はもう少ししたら王城へ帰るとのことで、先程伝言を受けている。どうやら執務や裁可で後回しにできるものは後回しにすることで自由になる時間を作ったらしいのだ。
 なので、この後は王城に戻ってジョサイア王子やステファニア姫と協力して一気に仕事を終わらせてしまうそうである。予定を作って、変装してまで顔を出しに来てくれたあたり、義理堅いことである。

 つまり招待客の全員が揃っているのは今のタイミングしかない。後からやって来た孤児院の子供達が料理を食べ、リンドブルムやコルリス、ノーブルリーフと触れ合ったりしてと多少落ち着いた頃合いを見計らって動く。
 ステージ上に立ち、みんなの視線が集まったところで一礼。

「今日はどうもありがとうございます。僕からも皆様に受けた祝いの言葉に対して、何かお返しをしたく思い、再び檀上に立たせていただきました。少しばかりではありますが、魔法を用いた座興を行いたいと思います」

 そう言うと、拍手が起こる。静まるのを待ってから、イルムヒルト達が静かな曲を奏で始めた。
 曲に合わせるようにして、マジックサークルを展開させる。右の掌に闇魔法で作った黒い球体、左の掌に光魔法で作った光球を、それぞれ作り出す。2つの球体が絡み合うようにゆっくりと上昇して行き――掲げた掌を握る動作に合わせて屋根付近で弾けた。
 周囲の景色が一変した。暗闇の天蓋で中庭全体を覆い、大小無数の光の粒が暗闇のドームの内側に煌めく。魔法を使った即席プラネタリウムだ。
 星座ごとに色分けをしたり、分かりやすくなるように工夫を凝らしている。

 孤児院の子供達だけでなく、宴会に来てくれたみんなが目を見張ったのが分かった。掴みは上々。状況の変化を理解する間を置いて、ゆっくりと星座を動かしていく。
 星と星を光の糸で繋ぎ――更に星座であることを強調する。

 と、そこでマルレーンから借りたランタンを用いて、星座を幻影として天体から浮き出るように作り出してやる。
 こちらの世界の星座も、やはり魚座であるとか身近な生物をモチーフにした物が多い。なので、まずは分かりやすく魚から。ぼんやりと光る魚が天体の中から降りてきてみんなの間を泳ぎ回ると、子供達が声をあげた。
 続いて猫、犬、馬、鳥――。竜にグリフォンなどもいる。様々な星座の幻影が会場内を駆け巡る。イルムヒルト達の奏でている音楽もそれに合わせて賑やかなものになっていく。
 触れられそうなところまで降りていかせたり、席と席の間をすり抜けさせることで変化をつけて、みんなにも楽しんでもらう。

 そして――曲の盛り上がりに合わせて列を成した動物達が1ヶ所に集まり光の球となった。
 それも一瞬のこと。俺が手を掲げると再び弾けて無数の流星となって中庭に降り注ぐ。光のシャワーだが、当たっても痛くも痒くもない安全なものだ。歓声が上がった。そうして光の雨が降り終わったところで手を握ると、頭上を覆っていた暗闇も1ヶ所に集まって、あっという間に空が晴れた。
 光と闇。それから幻術。魔法が解けてしまえば後には何も残らない。ただ夕暮れの迫るタームウィルズの空が広がっているだけだ。

 みんなは呆気に取られていたようだったが、やがて誰からともなく拍手を始める。それが全体に広がっていき、割れんばかりの拍手となった。もう一度深々と一礼してステージ上から降りたのであった。



「王城に戻る前に、良いものを見せてもらえた」
「本当。お祝いに来たはずが、私達ばかり楽しんでしまった気がするわ」

 と、メルヴィン王とステファニア姫が上機嫌な様子で笑みを浮かべた。王族の面々が帰るということで、玄関先まで見送りに行った。

「いえ。執務の合間の息抜きになればと」
「あれでは逆に思い出してしまって仕事が手につかなくなってしまうね。いや、楽しませてもらった」
「確かに。前から思っていたけれど……ああいった魔法の使い方は、いいわね、うん」

 と、ジョサイア王子が笑い、アドリアーナ姫は自分の手の平の上に魔法で小さな光球を浮かべて転がすように遊んでいる。先程の光景を反芻しているのかも知れない。

「ではな。また後日、王城で会おう」
「はい。道中お気をつけて」
「うむ」

 そんなやり取りをかわし、メルヴィン王達は馬車に乗り込んで王城へと戻って行く。コルリスもステファニア姫と一緒に王城へ。こちらに向かって最後に振り返って手を振ってきたので俺も振り返す。そうしてコルリスは緩やかに進む馬車の後ろについて帰っていった。

「ああ、テオドール様。先程の魔法は素敵でした」

 メルヴィン王を見送り、中庭に戻ってくると巫女頭のペネロープに話しかけられた。サンドラ院長も一緒だ。

「ありがとうございます。天文に関わる方にお見せするのは少し勇気のいる内容ではあったのですが」

 月神殿は天文学に詳しいからな。封印の扉の解放時期も特定させてくれたのは月神殿の巫女達だし。

「いえ。見事な内容でしたよ。子供達もあれで星空に対する興味を深めてくれそうです」
「そうですね、ペネロープ様。将来は月神殿にと希望する子も増えたのではないでしょうか?」
「それは素敵ですね、サンドラ院長」

 と、ペネロープは胸の前で手を合わせて、屈託なく微笑んだ。

「そうなると嬉しいですね」

 視線を巡らして孤児院の子供達を見やる。まだ先程の出し物の興奮冷めやらぬという感じで、身振り手振りで盛り上がっている子供達。孤児院の子供達だけでなく、迷宮村の子供達もいる。同じようなリアクションでギルド長がフォレストバードに話しかけているのはまあ、いいとして。

「部屋に行って、カードで遊ばない?」
「うん」

 中には迷宮村の子供達と孤児院の子供達で、連れ立って客室に向かうグループもあるようだ。前にも顔を合わせているので割と仲が良くなってきているのである。
 そんな子供達の後姿を、ペネロープが穏やかな笑みで見送った。
 続いて楽士役を務めてくれたイルムヒルト達に声を掛ける。

「みんなお疲れ様。今日はありがとう」
「ううん。テオドール君こそお疲れ様」
「んー。劇場とはまた違った雰囲気で楽しかった」
「ね。さっきのも面白かったわ」

 ドミニクとユスティアは楽しそうに笑う。

「うん。後はのんびりと、羽を伸ばしていってくれると嬉しい」
「ええ、ありがとう」
「ん。まだ食べ足りない」

 シーラも頷いてテーブルのほうへと向かう。……うむ。今日の料理は魚介類多めだからな。交代休憩の合間では食事を堪能したりなかったというところか。
 さて……。宿泊していくのは父さん達、アルフレッドとオフィーリア、エリオットとカミラ、アウリア達冒険者ギルドの面々、神殿と孤児院関係者、ミリアムにロミーナとドロシー、テフラ、アルファという顔触れだ。

 いつになく宿泊客も多いが、使用人達も交代で休憩を取れる体制を取って負担を減らす方向で考えている。夜間の警備や見回りはローズマリーの人形などを活用していく予定だ。
 後は遊戯室やカードなどを活用してもらい、使用人も含めてみんなでのんびりと過ごしてもらうことにしよう。

 例年になく賑やかな誕生日も日が暮れて、そして過ぎていこうとしている。
 今日1日が過ぎればまた封印の解放や魔人対策が焦点となっていくわけだ。そういう意味では明日からの諸々に備えて十分な英気を養うことができたと言えよう。このウェストコートも嬉しいしな。
 というわけで、俺達もゆっくりとさせてもらおう。俺は軽く伸びをしてみんなのところへと向かうのであった。
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