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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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352 古き時代より

 広間に出てきた魔物の群れを片付けて小休止し、後方で団子になっていた檻の中のリビングアーマー達を解放しこちらも制圧にかかる。
 といっても、転げた時に下敷きになった鎧は核にダメージを受けてしまったのか既に動かなくなっているのもいたし、どの兜が自分の兜なのか分からずごっちゃになってしまったのか、兜の奪い合いをしていたりと、大混乱といった有様だ。

 それでも解放した途端にこちらに向かってきた鎧連中もいたのだが……結局制圧にはあまり時間もかからず、イグニスの戦鎚が最後に残ったヘビーアーマーを真っ向から叩き潰したところであっさりと戦闘も終了した。

「怪我は?」
「こちらは大丈夫です」
「ん。平気」
「同じく」

 いつも通りまず被害状況の確認から。マルレーンに視線を向けると笑みを浮かべて頷く。うむ。皆も問題なしと。
 包囲されることもなく広間の先の通路、一方向に集中して対応することができたので、相手方も数を活かせなかったようだ。俺が上から飛び越して逆に挟撃を仕掛けてしまったというのもあるし。

「さっきのあれ、楽しそうだった」

 と、シーラがバロールを見ながら言う。あれ、というのはバロールに乗って飛んだことだろうか。

「いやまあ……。あれはレビテーションやシールドで細かく制御できないと振り落されて怪我をするから真似しないように」

 バロールの軌道も俺が制御しているわけだしな。姿勢やら魔法やら、直接制御していないとできない芸当とも言える。ちょっと魔道具では再現できないだろう。

「ん。残念」

 シーラは割合あっさり引き下がった。そんなシーラを見ながらイルムヒルトはどこか楽しそうに笑みを浮かべる。

「それじゃあまず、剥ぎ取りを済ませてしまおう」
「分かりました」

 今回はかなりの量だ。それなりに時間はかかるが、時間的な余裕はあるので丁寧に行こう。

 エレファスソルジャーの蛮刀と象牙。ヘルハウンドの牙や毛皮、そのまま使えそうな鎧の部品、剣や槍、盾。それに抽出した魔石といったラインナップだ。ランクとしてはそこまで貴重なものはないが、量が量だけになかなかの値段になるだろう。
 一通り剥ぎ取り作業を済ませて、素材を纏めてクラウディアに転送してもらう。あれらは後で冒険者ギルドに持っていくとして……探索はまだ終わりではないのだ。更に広間の奥から続いている通路を進んでいく。

 やはり、通路の左右に魔物が待機するための隠し部屋があったようだ。リビングアーマーの待機していた部屋と同じような構造とスペースが見られる。隠し部屋に宝箱でもあれば良かったのだが。純然たる罠ということらしい。

 その間を抜けて進んでいくと、程無くして円形の開けた場所に出た。闘技場を連想させるような作りだ。周囲が堀のようになっていて、そこが溶岩で満たされている。
 円形広場の奥には長い登り階段。円形の場所にも階段にも、神殿のように太い柱が一定の間隔で林立している。柱の上に、ガーゴイル達。

 かなり広々とした階段で――左右の壁から溶岩が流れ落ち、隅にある溝を伝って堀へと流れ込んでいくような構造になっている。
 本来は白いはずの建材が赤々と照らされているという……中々に剣呑な場所だ。まあ、テフラの祝福もあるので熱に耐えられはするが……。そして――視線を上に上げていけば、階段を登り切った先に封印の扉が見えた。

「……あれか」

 他の区画の封印と比較しても巨大な扉だ。天体図の刻まれたそれは火の精霊殿に続く扉だが……未だ堅く閉ざされている。
 待機しているガーゴイル達――この連中は、襲ってくる気配がないようだ。視線が合ったが……手にしている刺又のような得物を向けてくるでもなく、文字通りの彫像のように視線を前に戻して静かにしている。

「ガーゴイル……。どうやら、襲ってこないようね」

 ローズマリーが柱の上に鎮座しているガーゴイルを見て眉根を寄せた。
 ガーゴイルか。まあ、ローズマリーにとっては北の塔にいる間、看守役になっていた連中ではあるし、何か思うところがあるのかも知れない。

「もしかするとイグナシウス配下のガーゴイルなのかもな」
「ああ。北の塔にもいたものね。あれも父様の命令に従うから……もしかして、七賢者の時代からあるものなのかしら?」
「かも知れないな」

 ……ここのガーゴイルが襲ってこないのは、イグナシウスから俺達を攻撃しないよう命令を受けているからだろうか。まあ……戦いにならないのならこちらも刺激する必要もないか。

 風や地の精霊殿にもガーゴイルやゴーレム達がいたし、王城セオレムの北の塔にも配置されていた。封印を築いた七賢者によって作られたとするなら北の塔や精霊殿との共通点があるのは寧ろ納得がいく部分ではあるな。
 いずれにせよ、これで最後の精霊殿に到達したということになる。肝心の宝珠については封印の解放と同時に回収に動くとしよう。



 冒険者ギルドで素材を売り払ってから王城へ向かった。精霊殿到達の報告など、メルヴィン王達と話をしに行く。
 城勤めの侍女によるとイグナシウス達は迎賓館に宿泊しているとのことなので、そちらに向かった。迎賓館の一室に通されると、そこにはイグナシウスとラザロがいて……イグナシウスは俺の姿を認めると相好を崩した。
 竜の口の端をにやりとさせて、どこか悪戯っぽく笑みを浮かべる。ラザロはいつも通りというか、静かにイグナシウスの隣に控えていた。

「こんにちは、お二方とも」
「テオドールか。無事で何よりだ」
「どうだったのだ? 炎熱城砦の探索は」
「封印の扉の前まで到達はしましたよ。ガーゴイル達の顔を見て帰ってきました」
「それは何よりだ」

 2人と挨拶を交わしてイグナシウスの向かいに座る。

「てっきり王の塔に滞在しているのかと」
「いや、最初はそう言われたのだがのう。色々と城の中を懐かしく見せてもらったり、街の様子も見せてもらったりしたが……この新しい迎賓館も気になってしまってな。昨日からここに泊まっておるのだ」
「なるほど。そういうわけでしたか」
「騎士や兵士達の訓練風景もここから見ることができるしな。空を飛ぶ装備の訓練は面白い」

 窓から見える練兵場では騎士達が訓練をしている様子が見える。隅のほうにある日陰にコルリスの巣穴があるが……そこから顔を覗かせてコルリスも訓練風景を見学しているようだ。空中戦装備の扱いについて学習していそうな雰囲気もあるが……。

 いやまあ、今はコルリスのことは一先ず置いておくとして。
 久しぶりに迷宮から出たイグナシウスとラザロにとっては見る物全てが新鮮なのだろう。王の塔に泊まるより新しい迎賓館のほうが好みに合っているのかも知れない。茶を飲みながら2人と会話する。

「そう言えば、封印の扉の前にいたガーゴイル達は、やはり七賢者の手によるものですか?」

 と、先程迷宮で気になったことを尋ねてみる。

「うむ。あれは城の警備役としても一部に配置されておったはず。炎熱城砦のガーゴイル達は扉を守っておるが、そなたらには手を出さぬよう命じておいた」
「ありがとうございます。しかし……やはり年代物ですか」
「何か問題でもあるのかな?」
「んー……。土の精霊殿の水晶ゴーレムを、魔人との戦いに巻き込んで壊したりしてしまったのですが」
「問題はあるまい。あのゴーレム達は時間をかければ欠片からでも再生するゆえ」

 ……そうなのか。それは何よりだ。
 ガーゴイルや水晶ゴーレム達は迷宮の魔物とはまた役割が少し違うし、来歴を知ってみれば動く文化遺産みたいなものだしな。自己再生というあたり、長期に渡る守護を担う役割を持たされている守護者としてはぴったりの性能かも知れない。

「まあ、有事にはあの者達も戦力として使えるであろう。魔人の相手は流石に難しいだろうが」

 イグナシウスの指示に従うわけか。まあ、戦力の一角として記憶に留めておくとしよう。

「そうそう。儂も聞いたぞ。何やら城の隠し通路を自力で発見した姫がいるだとか? 隠し通路も伝達がされていなかったので、案内していたらそう聞かされたのだが」
「ああ。マリーのことですね」

 そう答えるとイグナシウスは肩を震わせる。ローズマリーについてもメルヴィン王から話を聞かされているのかも知れない。
 と、そんな話をイグナシウスと交わしていると、そこにメルヴィン王がやって来た。

「おお、戻ったかテオドール」
「はい。炎熱城砦の扉まで到達しました。今後も迷宮に関しては炎熱城砦や満月の迷宮で訓練を続けていこうかと思います」
「大儀である。これでいつでも封印解放の日を迎えられるな。そなたも誕生日が近いのではなかったかな?」

 その言葉に苦笑する。

「そうですね。今年もタームウィルズの家で過ごそうかと思っています」
「うむ。差し迫った目標は片付けたから、まずは心置きなくといったところであるな」

 と、そんなふうにメルヴィン王は笑うのであった。
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