挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
364/1202

351 城砦奥にて

 炎熱城砦の内部を、封印の扉目指して進む。エレファスソルジャーのような、そこそこ大型の魔物が襲ってくる代わりに、数で攻めるというのが減っているが……まあ、どこかで温存しているんだろうな。
 こちらの戦力も上がっているとはいっても、炎熱城砦にしては魔物の襲撃が温く感じるからだ。こういう場合、油断させて引き込んでおいて罠にかけるというのが定石だろう。

 さて……。討魔騎士団の訓練に、コルリスの迷宮通い。それらについては割と順調に回っている。
 エリオット達は空中戦装備の扱いが日に日に習熟してきているし、コルリスについてはもう少しの間付き添いをしておくのが安心かなとは思うが、迷宮をかなりの高効率で回っているために巣穴の中に鉱石を備蓄し始めている。なので迷宮通いに間隔を空けられるほどだ。ということで……俺達も気兼ねなく炎熱城砦の攻略に取り掛かっている。

 シーラとイルムヒルト、それに俺も片眼鏡で探知を行いながら進んでいくと――正面と右手側の通路の別れ道に行き当たった。

「ん」

 シーラが右の通路を慎重に覗き込んで、足を止めた。僅かに眉を顰めたのは、直感的に嫌な気配を感じ取ったからだろう。
 その先は大きな広間になっていて――奥の壁に真っ直ぐ続く通路が見えた。片眼鏡を通して見れば、そこかしこにボムロックが配置されている。これは如何にも罠という感じだな。

「ボムロックがあちこちにいるな」
「罠部屋……ということかしらね」

 ローズマリーが眉を顰めるが……俺の意見としてはやや違う。 

「……どうかな。罠を仕掛ける大部屋なら、扉を開くと同時に仕掛けてくるだろうし。扉もなく奥の通路まで見えるっていうのは……先に行かせないためにここに戦力を集めているとも取れる」
「とすると……罠ではなく本命、ということでしょうか?」
「可能性はある。今までの傾向から考えるに」

 アシュレイの言葉に頷き、答える。
 炎熱城砦内部は広い通路を多くして、迷わない代わりに逃げも隠れもできない状態にして魔物に襲わせるという、実力の試される作りをしているようだ。
 絡め手は少ないが、逆に言うならこちらの創意工夫も活かしにくい。前半部分で罠を多目にして、後半は実力勝負。全体を通してみると、こちらの能力を万遍なく試すような構造だな。

「多分、中に進むと戦闘になるとは思う。……ここから見たところ、ボムロック以外に魔法の罠は仕掛けられてないな」
「来るとしたら、挟撃でしょうか?」
「となると――後ろからか」

 背後の壁を振り返る。何やら意味ありげなレリーフを施された壁面が見えた。

「これが開いて魔物が出てくるとか? 壁の向こうに体温は感じないけど――」
「臭いも音も……しない」

 イルムヒルトが眉を顰め、シーラが鼻をひくつかせた。

「鎧系の魔物なら動くまで感知できないからな。セラフィナには分かる?」
「調べてみるね」
「手伝うわ」

 イルムヒルトが弓弦の音を響かせる。音を操作したセラフィナはしばらく目を閉じていたが、やがて頷いた。

「うん。間違いないと思う。人型をしたのが、壁の向こうにいっぱいいて……音が響いてる感じ」

 となるとリビングアーマーやヘビーアーマーか。

「どうしますか?」
「先に戦ってもいいけど……大部屋の先で控えている魔物が呼応しないとは限らないし、作動する前に塞いでおくのがいいかな」

 挟撃用の出入り口となるであろうレリーフに、土魔法で蓋をしてやる感じだ。石を格子状に組んで檻を作り、レリーフ部分が開いても出てこれないようにきっちりと封印しておく。檻ができたら、ボムロック対策に移る。魔法の明かりを幾つか作り、感知できている床石の真上に待機。

「まず見えている範囲のボムロックを片付けていく。部屋の中央で防御陣地を作って、正面から来る敵に対処しよう」
「分かりました」
「不測の事態が起こったら合図をして。すぐに転移魔法を発動させるわ」
「うん。じゃあ、行こう」

 頷き合い、部屋の中へ踏み込む。ボムロックをソリッドハンマーで叩き潰しながら部屋の中央まで進んだところで――何か石の転がるような音が前方と後方から響いた。
 案の定というか、レリーフ部分が下にスライドしてアーマーの群れがその中の隠し部屋から姿を現す。後方からの伏兵は、そのまま大挙して突撃しようとしたが、岩の檻に進路を阻まれていた。
 おまけということで足元に石で輪を作り、スネアトラップも仕掛けておいたので――先頭集団が突撃しようとして転び、後方から押し寄せた集団と1つになってひしゃげ、けたたましい音を立てた。
 無事だった鎧も手にした武器を檻に叩きつけるが、それも無駄なこと。リビングアーマーやヘビーアーマーでは突破できない強度だ。

「正面――象と犬。鎧の混成部隊」

 シーラが短く警告を飛ばす。正面側の通路脇にも同じような隠し部屋があるのだろう。先程まで誰もいなかったはずの通路に、隊列を組んだ魔物の集団が出現してた。

 アシュレイがディフェンスフィールドを構築、イグニスがその前に立ち塞がる。

「よし――行くぞ!」

 俺、シーラ、グレイス、デュラハンが前衛だ。ディフェンスフィールドの前に出てこちらに迫ってくる魔物の群れへと突っ込んでいく。

「あなたの相手は、そちらではありませんよ」

 闘気を帯びたグレイスの鎖が、前衛を無視して後衛に向かおうとしたエレファスソルジャーの太い首に絡みついた。勢いをつけて鎖を引けば、象兵の巨体が宙を舞う。
 床石を蹴り砕き、グレイスが飛ぶ。空中に投げ出された象目掛けて闘気の残光を残しながら交差。そのまま斧を一閃すれば、受けようとした蛮刀ごと断ち切って2つになったエレファスソルジャーが落下してきた。

 そのまま空中に留まり、2つの斧でヨーヨーでもするかのように眼下の魔物の集団目掛けてぶん投げては引き戻す。風を引き裂く音と共に着弾。その度に魔物が弾け飛ぶ。

「こっち――」

 もう一匹、後衛に突っ込もうとしていた象兵も――突如目の前に出現して即座に離脱していくシーラの動きに気を取られた瞬間、イルムヒルトの巨大矢に横合いから撃ち抜かれ、膝から崩れ落ちている。
 槍のような巨大矢は象兵を易々と貫通して通路の奥へと猛烈な勢いで進んでいった。少しの間を置いてから魔物の群れの上を飛び越して、巨大矢が緩やかな速度で戻ってくる。

 姿を消しながら動くシーラに突っかかっていったヘルハウンド。刹那の交差の後、すれ違いざまにシーラに切り裂かれていた。斬撃を脇腹にまともに受けて、理解ができないとばかりに振り向いたところを、頭上から落とされたエクレールの雷撃に焼かれて動かなくなる。

「んー、良い感じ」

 シーラが腕を曲げ伸ばし、肘に仕込んだ刃を出したり引っ込めたり、使用感を確かめている。新装備である不可視の刃を早速活用しているようだ。右に左に真珠剣を持ち換え、注意を逸らし、回避するように見せて斬撃を繰り出す、といった使い方をしているようである。

 デュラハンが勢いをつけて縦横無尽に駆け巡る。大剣を振り回して犬と鎧を蹴散らしていく。

 さて。後方に抜ける敵は彼女達に任せよう。俺も気合を入れていこう。できるだけ多くの魔物を叩き潰すには――そう。逆に挟撃を仕掛けてやろうじゃないか。魔物の群れの、頭上を一気に飛び越えて通路の奥側から大部屋に向かって突っ込んでいく。
 咆哮と足音を響かせながら蛮刀を振り上げてエレファスソルジャーが迫ってくる。

 斬り込まれる瞬間、マジックシールドで斜めに逸らすように受けた。転身しながらウロボロスを振り抜く。背後で蛮刀が地面を砕く音。腕に伝わってくるのは膝を砕く手応え。

 それだけではタフネスを誇るエレファスソルジャーを倒すことはできないが、膝を砕かれて倒れる動きに合わせるように、俺の身体の影からバロールが飛び出して額を撃ち抜いている。
 連携のタイミングは上々。突進の勢いと崩れ落ちる際の自重を利用し、カウンターの要領でバロールを命中させたのだ。消費魔力を最小限に留めながら、一撃を加えたバロールをそのまま回収。シールドを蹴って飛ぶ。ミラージュボディを発動。俺と分身とが左右に分かれた。

 そのまま、振り返ってこちらに対応しようとした混成部隊と激突。分身がまず接敵する。虚像に過ぎない分身に攻撃しても無駄なこと。剣を振り降ろすヘビーアーマーをすり抜けている。
 急制動をかけて方向転換。剣を振り切ったヘビーアーマーへと突っ込みながら、すれ違いざまに岩の塊を叩き込む。
 分身であることを察した別の鎧が俺本体を見定めるが――甘い。分身の中から光弾となって飛び出したバロールがヘビーアーマーを易々と背中から撃ち抜いていた。2体、3体と、軌跡を残しながら、光の糸が魔物の群れを縫う。

 放った魔弾は稲妻のような鋭角の軌道を描きながら戻ってくる。目を開けたバロールと、俺の視線が交差する。

「行くぞ」

 引き戻した魔弾の――その上に、乗る。シールドで身体と姿勢をバロールに固定。光弾と化したバロールと同じ速度で飛翔する。レビテーションで慣性を殺しながら、すれ違いざまに咆哮をあげるウロボロスでアーマーを吹き飛ばし、ネメアの爪とカペラの角でエレファスソルジャーを切り裂く。
 斬撃を食らわせ、動きを停止させた瞬間にレゾナンスマインを発動。背後から魔法の破砕音が追い縋って来て、内部から粉砕されたエレファスソルジャーが沈んでいく。隊列を組んだ魔物の群れを中央突破し、隊列を切り崩して部屋の中央へと飛び出す。

「中々楽しいな、これは」

 バロールを使った新しい戦闘方法を試しているが……いい具合だ。高速でかっ飛んでいく感覚も悪くないし、補充しながら飛んでいるのでエネルギー切れの心配もない。
 途中で分離して軌道を変えたり魔弾で攻撃したり、まだまだ応用できそうだ。新しい戦法の1つとして選択肢の中に加えておくとしよう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ