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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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344 賢者と王家の縁

 ステファニア姫が預かっていた鉱石や素材といった旧坑道探索の戦利品をコルリスに渡す。コルリスはそれを冒険者ギルドのカウンターへと差し出した。

「ではお預かりします」

 ヘザーはコルリスの仕草に破顔してそれを受け取ると、戦利品を見て尋ねてくる。

「探索は中々順調だったようですね。コルリス君は旧坑道でやっていけそうですか?」
「元々地中で生活しているだけに、旧坑道は相性が良いみたいですね。本人も気に入ったようです」
「それは何よりです」
「それから……迷宮に潜る前にギルド側に顔を出すようにとコルリスには伝えたのですが、もし満月の時に顔を見せた場合、そのことを伝えてやってくれませんか?」
「分かりました。他の職員達にも通達しておきます」

 ヘザーと話をしている間に算定も終わり、代金を受け取る。
 ステファニア姫は早速、受け取った金でコルリスの好みの鉱石を購入していた。普段食べないはずのものが自分の好物に変わったとあって、コルリスも喜んでいる様子だ。

「コルリス。お金はこうやって、色々な物と交換できるの」

 と、コルリスにお金の使い方についてを言い聞かせる。首を縦に振るコルリス。
 貨幣という概念をどこまで理解できるかは未知数だが……まあ、ギルド職員の協力があればぼったくられるということもないだろう。



 ギルドでするべきことを済ませてから、ステファニア姫とアドリアーナ姫、コルリスと共に王城へ向かう。
 2人の護衛役として王城に送り届ける必要があり、コルリスについての報告や寝床についてなど、決まっていない部分も幾つかあったからだ。他にも、何点かメルヴィン王と話しておくべきこともあるしな。

「そう言えば、アドリアーナ殿下はどういった魔法を得意となさっているのですか?」

 メルヴィン王を待つ傍らで、茶を飲みながら話をする。

「得意な系統は火魔法ね。騎士や兵士達の受けは良かったけれど、そのせいでザディアスには警戒されてしまうし、水魔法や土魔法のように色々な分野に応用しにくいところもあって……できることなら他の系統の魔法が得意なら良かったとは思っていたわ」

 アドリアーナ姫はそう言ってティーカップを傾ける。不満を口にしてはいるが、割と明るい雰囲気だ。そのあたりも含めて受け入れているというところだろうか。

「まあ、不満があったのも昔のことよ。シルヴァトリアは魔法王国。けれど私の立場を考えると火魔法では活用する場面がないわ。悩んだこともあるけれど……結局は私が表に立って魔法を使うより、王族として全体の舵取りを間違えないことのほうが重要だと、ステフと話をしたり、ザディアスを見て思った……というわけね」
「私も魔法を活かして何かするという立場では無かったものね」
「そうそう。私が羨ましがったら、同じだよと言われてしまったのよね」

 そう言ってステファニア姫と一緒に笑う。2人とも魔法は結構な腕前のようだし、だからこそ意気投合して冒険に憧れたというところはあるのだろう。

 話をしながら迎賓館の貴賓室で待っているとメルヴィン王がやってくる。騎士団長のミルドレッドも連れている。炎熱城砦についても話しておくべきことの1つだな。ミルドレッドが一緒であるなら、今日中に予定を立ててしまえるだろう。

「おお、戻ったか」
「はい」

 2人と挨拶を交わし、メルヴィン王と向かい合う形で窓際のソファに座る。メルヴィン王は笑みを浮かべて窓から外を見る。そちらに視線をやると、練兵場の広場の隅で大人しく座っているコルリスの姿が見えた。

「して、どうだったかな。そなたの見たところでは」
「僕の所感では大きな問題は無さそうに見えました。使い魔だからという部分もあるとは思いますが、コルリスは十分に賢く、ギルド職員も協力してくれています。最初期に手助けをしてやれば迷宮通いができるかと」
「旧坑道での戦闘、探索面でも不安はないものと存じます」

 俺の言葉をアドリアーナ姫が補足する。

「ほう」
「テオドールの推測では魔力を匂いとして嗅ぎ分けるのではないかと。迷宮を出る段になって真っ直ぐ石碑へ向かうことができたりと、あの分では構造変化に迷うということもなさそうです」

 ステファニア姫が見立てを伝えるとメルヴィン王は頷く。

「となれば、配慮すべきは予期せぬ揉め事ぐらいか」
「かも知れません」

 コルリスに問題がなくても、という部分はある。ヴェルドガル王家の威光もあるが、事情を知らない者との突発的な遭遇で揉め事が起こらないとは断言できない。

「……コルリスの迷宮通いを訓練に組み込む、というのはどうかな」
「訓練ですか?」
「うむ。以前、封印の扉を探索させた者達の成長が目覚ましいという報告があってな。迷宮での訓練を兵士や騎士達に課そうと考えていたが……旧坑道においてのコルリスが十分な戦力であるならば、迷宮探索の経験を最初に積ませるのに丁度良いとも言える。コルリスに加え、信頼できる者を1名。新米を4名つけて旧坑道で訓練を行う」
「なるほど。良いお考えです」

 確かにコルリスがいれば仮に迷宮内ではぐれても合流は容易になる。旧坑道では過剰な戦力であるために、兵士達と魔物の戦闘で形勢が不利になった場合、戦闘をコルリスの力技で解決してしまえるしな。
 迷宮に慣れてもらうというのもそうだが、騎士、兵士達に魔物への理解を深めてもらうという点でも効果がある。勿論、突発的な揉め事の予防策としても有効だ。

「では、その案で話を進めよう。テオドールにはもうしばらく、迷宮通いの付き添えを頼みたいところではあるが」
「はい。それについてはお任せ下さい」
「コルリスの(ねぐら)については、練兵場の隅に作らせることにした。まあ、あまり巣穴を広げられても困るので最小限に留めてもらう予定ではあるが」

 と、メルヴィン王は苦笑する。

「入口に(ひさし)があると良いかも知れませんね。やはり、陽光は不得手だと思いますので」
「では温室の資材と共に手配させることにしよう」

 温室。シルン男爵領とノーブルリーフ農法の件だな。

「温室についても話をしておくべきか。必要な量の資材については、それほどかからずに準備できるだろう」
「ありがとうございます」
「余としてもノーブルリーフには期待しているところがあるのでな」

 そう言ってメルヴィン王は笑う。
 ノーブルリーフ農法か。こちらも上手く行けばメルヴィン王にとっては一石二鳥の政策でもあるからな。

「ありがとうございます。上手くいくよう尽力します。もう一点。炎熱城砦とミルドレッド卿についてですが」

 炎熱城砦についてもこの場で色々と予定を立ててしまおう。ミルドレッドをこの場に同行させたということは、つまりその話もするつもりだと思う。

「炎熱城砦か。ミルドレッドは、個人的な事情であるから休暇を利用すると聞かんのだよ」

 と、メルヴィン王は小さく苦笑した。そう言われたミルドレッドは静かに頭を下げる。

「どう言い繕ってみたところで私的な用事となってしまうものと存じております」

 なるほど……。義理堅いことだ。

「ラザロ卿の大剣については修復が済んでいますので、炎熱城砦には何時でも向かえます。炎熱対策の魔道具に関しても準備はできております」
「では、3日後ということでどうか」
「こちらは問題ありません」
「畏まりました」

 3日後か。それに合わせて炎熱城砦に向かう準備をしておこう。恐らく、ラザロとミルドレッドの面会だけではなく、封印の扉までの攻略を進めることにもなるだろうし。

「余としてはラザロの仕える主というのが気になるところではあるな。ラザロの仕えた当時のヴェルドガル王は異国の魔法技師を妃に迎えたとある」
「……異国の魔法技師ですか」
「うむ。王家に直接関わることだけにそのあたりの記録は公的なものとして残っておったぞ。変化の指輪は、その魔法技師の王妃が後に作り上げることとなる。以来、ヴェルドガル王家に伝わる秘伝の魔道具と言うわけだ。タームウィルズにやってきた魔術師の中に、或いはその魔法技師もいたかも知れんな」
「時期的に異国の魔法技師となるとその可能性は高いですね」

 魔法技師と魔術師は同種の人材でもある。アルフレッドとて魔法技師を専門としているが、魔法的な知識も勿論あるし、本人はあまり追求していないし得意ではないと言ってるが魔法を使うこともできるのだし。母さんもそうだ。魔術師でもあるし、魔道具を作ったりもしていた。まあ、本職は封印の巫女だけれど。

 ともかく当時の王妃が七賢者の関係者だとするなら、技術的な高さから考えても納得できる話ではあるな。
 そうなると、ヴェルドガル王家とシルヴァトリア王家は遠い昔に共通の祖先を持つということになるか。とは言っても、何度か互いの国で婚姻関係は有ったから、今までと何かが変わるというわけでもないのだが。
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