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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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340 国王と王女の使い魔

 シリウス号は街道上空を進み、やがて小高い山を越えると王城セオレムが視界に入ってくる。緩やかな速度で、そのまま真っ直ぐタームウィルズへと向かう。
 シルン男爵領からタームウィルズに向かう場合、普通ならば山道を越える必要があるのだが、飛行船であるならそれを無視して直線的に進行できる。見る見る内にタームウィルズが近付いてきた。

 街の上空を飛ぶのを避けて、外壁を迂回するように造船所へ。今後もシリウス号に手を加えていくことを考えると、また台座の上に降ろしておくのが良いだろう。

 水晶板を確認しながらゆっくりと下降。位置を微調整。正確に台座の上に降ろしていく。僅かな振動と共に、シリウス号の動きが止まった。

「うむ。お見事」

 ジークムント老が笑みを浮かべ、こちらも少し笑って頷く。
 では、下船の準備をしよう。



「お帰りなさい、団長」
「この度はおめでとうございます」
「ありがとう」

 造船所に降りたったエリオットとカミラが討魔騎士団の面々から代わる代わる祝福を受け、エリオットは穏やかな表情で彼らに応対する。

 ステファニア姫達も降りてくる。レビテーションを用いて、甲板からコルリスと共に降りてくると、討魔騎士団の注目が集まった。

「あれは一体……」
「ステファニア殿下の使い魔です。ブロデリック侯爵領の鉱山で遭遇したベリルモールですね」
「コルリス。みんなに挨拶を」

 ステファニア姫の言葉を受けてコルリスは後足で立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。騎士団員は目を丸くしているが。

「コルリスはどうなさいますか?」
「一度、王城に連れて行くわ。父上に報告をしないといけないものね」
「分かりました」

 王城は厩舎もあるし……一先ずの環境は整えられるだろうが……異界大使として連れてきた側面もあるし、俺も説明のために同行するべきだな。

「では、僕も同行します。異界大使としての仕事でもありますので」
「それでは、私達は苗木を運んでおきますね」

 グレイスが無花果の苗木を馬車に積み込む。

「それじゃあまた後でね、テオドール」

 フローリアが俺に小さく手を振る。

「うん。王城から戻ったら苗木も植える場所を決めよう」
「ん。待ってるね」

 と、笑みを返して馬車に乗り込んでいった。ふと、馬車の窓からシリウス号を振り返ると、アルファも甲板の上から顔を覗かせていた。

「アルファも、また後でな。家に来るなら好きにして良いぞ」

 そう声をかけると、アルファは頷くように目を閉じて、踵を返して下からは見えない位置へ行ってしまったようだ。

「では、行きましょうか」

 俺は俺で、アルフレッドやステファニア姫、アドリアーナ姫と共に王城へと向かう。エリオットも王城へ向かい、まずメルヴィン王に報告という形を取るようだ。
 コルリスには馬車の後ろに付いて来てもらう形で共に王城へと向かう。注目は集めるが、まあ気にしても仕方が無いことだ。

 王城に到着したところで帰還の報告を行う。練兵場脇の迎賓館に通される形になるが、コルリスについても報告しなければならない。
 メルヴィン王にもシリウス号到着の報せは届いているはずだ。コルリスの紹介もしたいので、このまま広場の前で待たせてもらおうと思う。

「おお、テオドール。戻ったか」

 ややあって、護衛の騎士を連れたメルヴィン王が現れる。

「はい。ただいま戻りました」
「うむ。皆、息災なようで重畳である。エリオットも滞りなく婚礼の儀が進んだようで何よりだ。シルン男爵領の婚礼の噂は余の耳にも届いておるぞ」
「はっ。陛下と大使のお力添えあってこそのものと存じております」
「めでたきことであるな」

 メルヴィン王はエリオットの言葉に頷いて笑みを浮かべた。それから、視線を巡らし、ステファニア姫とコルリスに目を留める。メルヴィン王はしげしげとコルリスを眺めてから口を開く。

「さて……。それが例のベリルモール……コルリスか。冒険者ギルドのアウリアから報告は受けておるぞ」

 アウリアには通信機で連絡をとり、ギルド側にもベリルモールの受け入れ準備をしてもらっている。

「はい、父上。私の現場での判断ではありますが、テオドール卿への協力のためベリルモールの主となり、引き受ける旨を承諾しました」

 メルヴィン王から視線を向けられたコルリスは上体を起こすとぺこりと頭を下げ、それを見たメルヴィン王は苦笑した。

「構わぬ。邪悪な者でなくば使い魔の選定に口出しをする気も無い。それに、ヴェルドガルの掲げている方針とも合致するものであるからな。異界大使の行う任務としても妥当なところであろうし、同調することに否やがあろうはずもない。何でも旧坑道を餌場と定め、迷宮に通わせることを希望していると聞くが」
「はい。そのことについて、父上に相談したきことがございます」
「ふむ。申すが良い」

 ステファニア姫は頷くと、深呼吸をしてから切り出す。

「コルリスが環境に慣れ、ある程度の範囲で学習を終えるまで、旧坑道への私の同行を許可していただきたいのです」

 その言葉を聞かされたメルヴィン王は少し目を丸くしたが、思案するような様子を見せた。

「ふむ。確かに……ラミアなどと違って人化以前の問題であるからな。魔物の迷宮通いには不測の事態も考えられる。主が同行して制御してやることで、細やかな状況への対応を学習させる。確かに、意味のあることではあるな」
「行く行くは旧坑道を餌場にするだけでなく、ギルドと素材を取引して金銭と交換し、それにより鉱石の購入に充てる他、旧坑道で出会うと思われる他の冒険者の救助などまで考えているのですが……」

 ……なるほど。それなら無駄がなくて良いかも知れない。
 使い魔であるなら不可能ではあるまい。冒険者ギルドからの協力も、アウリアに返事をもらっているので確定事項ではあるし。

「私からもお願いします。どうか殿下のご意向を汲んであげてはいただけないでしょうか」
「僕からもお願いしたく存じます」
「私からも。コルリスとは船の中で少し接触する機会を持ちましたが、邪悪であるとは感じませんでした」

 と、アドリアーナ姫とアルフレッド、それからエリオットも、ステファニア姫に同調する。

「その場合、僕も旧坑道に同行しましょう。コルリスとは一戦交えましたが、旧坑道の魔物ならば敵はいないものと存じます」

 俺が言うと、メルヴィン王は静かに頷いた。

「――よかろう。そなたが冒険に憧れを抱いているのは知っているが、私心によるものではないと信じよう」

 メルヴィン王がそう答えると、ステファニア姫とアドリアーナ姫の表情が明るくなった。

「はっ、公私の分別はつけるつもりです」
「うむ……。まあ……迷宮に降りる云々は、余としても自分の身に跳ね返ってくることでもあるのでな。それについてとやかくは言わぬが、そもそもタームウィルズを預かる王族として、迷宮に降りてあの地についての理解を深めておくことも無駄とは思わぬ。この国の根幹が何によって支えられ、誰のどんな行いの上に成り立っているのか、しかとその目で確かめてくるがよい」

 そう言ってメルヴィン王はにやっと笑った。
 境界迷宮と冒険者の実情を見てこいと。父さんがダリルへ行った教育方針に近い話だが……言葉の前半部分はメルヴィン王も、若い頃に迷宮に降りたことがあったんじゃないだろうかと窺わせる内容ではあるな。

「ともかく、長旅で疲れているであろう。まずはゆっくり旅の疲れを癒すが良い。コルリスについては……厩舎に留め置くか、或いは練兵場の端に巣穴を掘らせるか……まあ、時間もある。ゆるりと決めていけば良いか」

 とりあえず今日のところは厩舎へ泊まらせるということで話が纏まった。メルヴィン王はコルリスを見て小さく笑い、身を翻すと王の塔へと戻って行った。

「ありがとう、みんな」

 とステファニア姫がみんなに礼を言う。

「いえ。コルリスについては僕にも責任がありますし、上手く行って欲しいですから」

 コルリスについてはメルヴィン王としても方針の周知になるだろうし、目的は一致しているところもある。

「後でコルリスを工房に連れてきてほしいんだけど。魔道具を作るのに採寸をしたいから」
「分かったわ」

 それについては明日以降だろうか。
 今日のところはコルリスはステファニア姫やアルフレッドに任せ、メルヴィン王の言葉通り、帰って旅の疲れを取ることとしよう。フローリアの守護する苗木の場所を決めたりと、まだやることもあるからな。
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