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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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334 坑道内の捜索

 取り急ぎ、ロープに保存食、ランタンやらと、必要なものを用意して出発することとなった。

「飛ばしますので身体を椅子に固定して下さい」
「わ、分かりました」

 慌ただしく全員が席に着いて、ベルトを締める。頃合いを見計らって再度、確認を取ったところ、問題がなさそうだったのでシリウス号を浮上させる。

「ブロデリック侯爵、道案内をお願いしても良いでしょうか?」
「分かりました。ではまず――ここから見える、あの坑道の入口を目指して飛んでください。問題の場所は、古い鉱山でしてな。あの山の向こうに行けば……集落が見えるかと。その近くです」
「分かりました」

 水晶球に手を翳し、魔道具を操作。シリウス号が徐々に加速していく。空気を取り込んで後方に噴出。火魔法に点火――した瞬間に、加速により身体が座席に押し付けられるような感覚があった。景色が高速で後方へと流れていく。

「お、おお……?」

 マルコムが戸惑うような声を漏らした。急加速に不慣れだからだろう。空中機動になれているパーティーの面々は割と平然としているが。
 古い鉱山の調査か。侯爵領が農業にシフトして行くとは言え……未だに大事な収入源の1つではあるのだろうし、減産を補うためにも、これからの侯爵領の農業への転換のためにも必要なことなのだろう。
 そのまま最短距離を突っ切るように山を1つ越え、山間にある集落と、いくつかの鉱山入口を見つける。その入口の1つに人が集まっているのが見えた。

「あれです!」

 マルコムが水晶板を指差す。人の集まっている鉱山入口だ。1度通り過ぎて旋回。減速して直上に近い場所に位置し、緩やかな速度で垂直に降下する。程々の高さで停止する。

「お祖父さん。すみませんが船を任せても良いでしょうか?」
「うむ。留守は守ろう」

 ジークムント老が頷く。では行くとしよう。

「こ、侯爵!」

 船をジークムント老に任せ、マルコムを連れてレビテーションで降下する。鉱山の入口に集まっていた者達はシリウス号で乗り付けたので目を丸くしていたが、マルコムの姿を認めると集まってくる。

「事故が起きたとの報告を受けた。現在の状況は?」

 マルコムが尋ねると、集まっていた者達の中から、立派な眉毛と髭をたくわえた老ドワーフの男が一歩前に出て答えた。

「問題の場所にはまだ崩落の危険がありましてな。調査団は問題の場所から更に進んだ、その奥を調査しているはずですので巻き込まれてはいない……とは思われるのですが。崩落が起きる時というのは独特の揺れがありましてな。それが集落まで伝わってきたので確認を取ったところ、問題の場所が崩れていた、というわけです」

 なるほど。だから閉じ込められている、となるわけか。崩落事故が発覚して、すぐに侯爵領側まで馬を飛ばしたわけだ。
 直接巻き込まれたわけでないなら救助できる可能性は高い。となると救助は早ければ早いほど良いが、土砂を除けるのも時間がかかるからな。

「調査団のいる場所まで、坑道の道案内ができる方はいますか? 調査団の人数等、事情を把握しているほうが望ましいのですが」

 そう尋ねると、前に出てきていた老ドワーフが頷く。

「儂ならできますが……侯爵、こちらの御仁は?」
「異界大使のテオドール=ガートナー卿であらせられる。崩落事故が起きたと聞いて救助の手伝いを申し出て下さったのだ。そう……あの船の建造にも関わっておられるお方で、私の恩人でもいらっしゃる」
「それはまた……」

 と、ドワーフは片眉を上げてから俺に一礼する。

「どうかお力添えを、お若い魔術師殿。儂のような老骨の知識が役立つのなら、案内でもなんでも致しましょう」
「では、よろしくお願いします、テオドールと申します」

 一礼して応じる。

「エドガーと申す者です」

 老ドワーフはそう名乗ると、近くに突き立っていた大きなツルハシを肩に担ぐ。ミスリル銀のツルハシだ。小柄な体躯で軽々と扱っているあたり、やはりドワーフということだろう。腰にランタンを吊るし、もう片方の手に小鳥の入った鳥籠を持った。

「イグニスは連れていけそうでしょうか?」

 エドガーに尋ねると首を横に振る。

「その体格では立ち入れない場所もありますな」

 ……仕方が無いか。外のみんなの護衛に回ってもらうことにしよう。

「では……外との連絡は通信機で、ということで」

 マルコムやステファニア姫、アドリアーナ姫に向き直って言う。留守番となるのはマルコム達とアルフレッド、ヴァレンティナ、シャルロッテ。テフラにフローリア。それから護衛である討魔騎士団の面々、ユスティアやドミニクといった非戦闘員もだ。

「私もアドリアーナも、多少だけど治癒魔法も使えるわ。もしもの時は……」
「はい。転移魔法で侯爵領に飛ぶことも考えられます。こちらの手だけで足りない時はシリウス号で侯爵領まで戻ることも視野に入れてもらえると助かります」
「分かったわ」
「では……行きましょう」

 グレイスの呪具を解放状態にし、エドガーを先頭に魔法の明かりを灯して坑道の奥へと進んでいく。木を組んでアーチ状に補強した入口を進むと、すぐに外の陽の光も届かなくなり、頼りは魔法の明かりだけになった。そこで一度暗視の魔法に切り替え、風の防壁を纏う。

「おお……。暗視の魔法ですか」
「はい。当分の間は効果が続きます。切れる前に余裕をもってかけ直しますので」
「この、風の魔法は?」

 イルムヒルトが尋ねてくる。

「迷宮と違って、坑道にはまた別の問題があってさ。空気が無いだとか、もっと悪い時は毒に満ちている場所っていうのがあるんだ。気付かずにそういう場所に行ったりすると、気を失ってそのまま死んでしまうなんてこともある。だからそれを防ぐ必要がある。エドガーさんの手にしている鳥籠の小鳥もそうだね。そういった変化に、人間より敏感だから」
「お詳しいのですな。風で防壁を作るとは、心強い限りです」

 エドガーが感心したように笑う。そのままみんなで連れ立って奥へと進んでいく。湿度の高い、ひんやりとした空気の坑内。響くのは俺達の足音だけだ。
 幾つも採掘した横穴があるが、エドガーの足取りには迷いがない。慣れ親しんだ場所を進むように先導してくれる。

「この坑道は、儂らの父が現役の頃に掘ったもので、儂らも働いた場所でしてな。どこをどう曲がれば目的の場所に通じているかは分かっておるのです。幸い、中には昔使っていた休憩所もありまして。そこに水や食料、道具を運び込んであるので、閉じ込められても数日はもつと思うのですが」

 ふむ。それは良い情報だ。だからこそ崩落の危険を抑えつつ土砂を除くことのできる人手が必要だったと。

「……なるほど。確かに生存の見込みは高いですね。古い鉱山とお聞きしましたが」
「採掘量が少なくなってきていたところに、隣の山から豊富な鉱脈が見つかりまして。採掘がそちらに移ったところで放棄されたのですが……近頃はどこも採掘量が減ってきておりましてな、この坑道も再利用すればまだ使えるのではないかと儂らが侯爵に提案して、冒険者を雇って調査していたという次第なのです」
「冒険者?」
「古い坑道には魔物が住み着くこともありますでな」
「魔物……ですか。戦うことも想定したほうが良いかも知れませんね」

 グレイスが言う。

「そうだな。救助者か魔物か。きちんと見定めてから行動すること」
「分かりました」

 アシュレイとマルレーンが頷く。

「こっちでも、異常を感知したらすぐ知らせる」

 と、シーラとイルムヒルト。魔物が出ると決まったわけではないが、慎重に行こう。
 曲がり角に来るたびにローズマリーが鞄からフラスコを取り出し、道に光り輝く塗料を垂らしている。暗視の魔法を使用していると結構明るく見えるな。

「それは……はぐれた場合の保険?」
「そうね。念のためよ。迷宮ではあまり使うことがないけれどね」
「便利なものですな」

 エドガーやクラウディアとはぐれた場合でも塗料を目印にすれば入口まで帰って来れると言うわけだ。光っているので暗視の魔法が切れたとしても目印が分かる。しかも曲がり角に行けば正しい順路なら目印があるのだから、戻るのも容易い。
 それぞれ通信機を持っているので、はぐれた場合でも即座に連絡を取り合うこともできるが……単独でも帰って来れる手段があるというのは大きいな。

「私は……何時でも転移魔法を使えるようにしておくわ」
「うん、頼む。転移先は侯爵領で」

 二重遭難では話にならない。転移魔法さえ準備してあれば突然の崩落にも対処できる。
 坑道の中は結構複雑に入り組んでいるが、段々と脇道が少なくなってきた。どうやら、下へ下へと向かっているようだな。
 やがて……事故現場に辿り着く。天井から崩れたらしく、大きな岩が完全に道を塞いでいるのが見える。天井にも亀裂が走っていて――確かに崩落の危険がある。

「やはり……これでは儂らでは手のつけようがありません」

 エドガーが言う。

「魔法を使うので――少々下がっていてもらえますか?」
「分かりました」

 みんなに少し距離を取ってもらう。

「セラフィナは……家じゃないから強度は分からない?」
「家じゃないけど、少しは分かるかも」
「家妖精は家人に幸運を運び、不幸を知らせると言うものね」

 と、クラウディア。……ふむ。家主の危険を感じるから構造上危ない箇所、弱い箇所も分かるといったところか。

「そうか。じゃあ、特に危なそうな箇所を教えてもらえるかな?」
「うんっ。まず……あのへんが一番怖いかも」

 まずは手前の天井。頭上にシールドを展開して落石を防ぎながら、上方向に向かって無差別にレビテーションを用いる。

「このへんに、柱が欲しい」
「了解」

 転がっている石を材料にゴーレムを組み上げ、危なそうな箇所を下から支え、構造を土魔法で補強していく。1つの工程を終えるごとにセラフィナに確認を取って安全確認。
 順番に危ない場所を支えては補強。崩れた土砂を上からゴーレムに変えて、通路の奥へ奥へと向かって、安全な領域を広げていく。願わくば、土砂の下から調査団の面々が出てこないことを祈るが……。

 崩れた土砂を資材代わりに用い柱を建て、床、壁、天井の凹凸を覆うように補強していく。1ヶ所を支えると別の場所に圧力がかかるということもあるようで……セラフィナの勘に従い、そういった場所をどんどん潰していく。
 落ちてきそうな岩もまだあったりするので、そういう場合はレビテーションで静かに床に降ろし崩落による衝撃を起こさないようにする。

 次第にごつごつとした岩肌が作り変えられ、転がっていた石も消えて、滑らかな構造になっていく。通路の向こう側に、小さなトンネルが開通する。それを人が通れる程度の大きさに広げ、更に天井部分を補強していく。
 やがて……最後の土砂が除かれ、崩落部分も補強を終えたところで、息を吐いた。生き埋めにされた者もいない。セラフィナはまだ慎重に周囲を窺っていたようだが、やがて静かに頷いた。

「うん。大丈夫」
「よし」
「テオドール。見て」

 一息ついたところで、シーラが開通した通路を調べて言う。

「この、大きなものを勢いよく動かしたような跡」

 シーラが坑道の様子から状況を分析する。これは……。

「……こっちのほうから、何かが突っ込んできた……のか?」

 進行方向は壁。天井が重さに耐えられなくなって崩落するのは分かる。では壁に、何かが衝突したような亀裂が刻まれているのは? 衝突したと思われる場所をよく見ると、何かの爪痕が刻まれていた。

「エドガーさん。この爪痕、何か分かりますか?」
「ベ、ベリルモール……」

 エドガーが目を丸くする。

「何ですか、それは?」

 グレイスが首を傾げる。

「鉱物を食らう巨大モグラの化物でしてな。縄張り意識が強く……岩をも切り裂く爪を持つ危険な魔物です。まさかそんなものが出てくるとは」

 ベリルモール……。迷宮で出会ったことはないが……。

「人の足跡も発見。散開して、奥へ逃げてる」
「休憩所の方向ですな。頑丈な作りなのでそこに立て籠もったのでは?」
「モグラは?」
「足跡は追わずに、あっちの穴へ」

 ……なるほど。出血などの痕跡もないようだし、とりあえずモグラの巡回ルートから余所者がいなくなったので後は追わなかったと。調査団が無事である公算は高いが、面倒な奴がいたものだ。崩落事故も状況から見るに、そいつのせいだろうな。

「……またベリルモールが戻ってくると面倒です。遭遇する前に、調査団の方々を助け出してしまいましょうか。相当な瞬発力を持っているようですし、坑道内で戦うのは危険かと」

 方針を告げると、みんなは頷いた。
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