挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
345/1153

333 ドワーフ達と鉱山と

 月神殿への用事を済ませて馬車で城へと戻る。
 街中を連れ立って走っていく子供達……の中にはさっき見た子もいるな。何やら練兵場のほうへ走っていくようだ。
 つまり、シリウス号の見物に行くので友達を集めていたというところか。みんな一様に笑顔で、楽しそうで何よりである。

 城へ向かう大通りの脇から見える練兵場の周りに人だかりができており、シリウス号を遠巻きに眺めて盛り上がっている様子だった。

「人が多いので、ゆっくりと城まで向かってください。急ぎではないので」
「畏まりました」

 事故が起こらないよう御者に速度を落とすように伝える。ゆっくりとした速度で馬車が進むので、練兵場に集まった人々の様子がよく解る。大人も子供も詰めかけて盛り上がっている。

「すっげー!」

 さっきの子供達もみんなで押しかけてきたらしく、シリウス号を見上げて目を輝かせているようだ。
 その横ではドワーフの一団が腕組みしてああでもないこうでもないと議論を交わしている。

「姫様達が空飛ぶ船でこちらへいらっしゃるとは聞いとったが……こりゃ驚いたわい」
「何の金属でできとるんだ、ありゃ」
「装飾は施されとるが……どうやら船体は何かの魔法を使っておるのは間違いないな。シルヴァトリアとの交流で齎されたという話らしいぞ」
「魔法か。そうなると儂らの専門外かのう」

 そんなドワーフ達の会話が聞こえてきた。

「何にせよ、最近は良いことが続いていて結構なことよな。新しい領主様とも少し話をしたが、立派な方じゃったし」
「良いことと言えば……シルン男爵領の長男殿も結婚式があったという話だぞ」
「ほほう。そりゃめでたい。どうかな。これから空に浮かぶ船を肴に酒盛りでも」

 といった調子で、昼間から酒場に繰り出すらしいドワーフ達の豪快な笑い声を聞きながら城へと向かう。
 跳ね橋を越えて城門から中に入ると、馬車から降りたところで使用人達が出迎えてくれる。

「ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ」

 使用人達に城の中を案内してもらう。石造りの廊下を通り、広々とした貴賓室に通してもらうと、そこには先に通されていたステファニア姫達の姿があった。
 貴賓室は過度に飾り立てず、趣味の良い調度品が何点か置かれている。
 城内の調度品は少ないように感じられたが、貴賓室はそれなりといったところだ。
 いつぞや見た、タームウィルズのブロデリック侯爵邸はごてごてとしていたが……代替わりしたので不要不急の品は売却なりの処分をして、小ざっぱりさせたのかも知れない。貴賓室は流石に調度品を置かないというわけにもいかないのだろうが。

「街の様子はどうだったのかしら?」

 使用人達に茶を淹れてもらって、まずは一息つけたところでステファニア姫が尋ねてきた。

「お2人の来訪やシリウス号のこと、シルン男爵領の結婚式の話で盛り上がっていましたよ。ブロデリック侯爵を慕う声も聞けましたし、領民達はこれからに期待しているようですね」
「それは良いことね。ブロデリック侯爵領は色々あったから父上も気にかけていたの」

 街で見聞きしたことを掻い摘んで伝えると、ステファニア姫は相好を崩した。そこでノックの音が室内に響く。

「どうぞ」

 ステファニア姫が入室を促すと、身なりの良い女性が入ってくる。丁寧に一礼すると言った。

「ブロデリック侯爵の妻、ベルティーユと申します。主人もすぐこちらに来ると思いますが、その間に歓待に失礼があってはいけないとご挨拶に伺った次第でございます」
「ベルティーユ、久しぶりね」

 マルコムの奥さんか。年齢的にはステファニア姫よりかなり年上ではあるが、どうやら2人は知り合いらしい。

「はい。ご無沙汰しております殿下。私が王城にご奉公していた時以来でしょうか」
「そうなるわね」

 なるほど。王城のどこかで働いていて、同じく王城勤めのマルコムと知り合って結婚したと。
 先代侯爵と次男のノーマンが自爆しなければマルコムの後嗣の目は無くなっていたわけで……その間もマルコムを支えたということなら、夫人は信用の置ける人物なのだろう。
 ベルティーユはステファニア姫とアドリアーナ姫に挨拶をしてから、俺に向き直る。

「異界大使、テオドール様でいらっしゃいますか?」
「はい」
「その節は主人が大変お世話になりました。お陰様であの方も最近は胃の痛みを訴えることもなく、健康でおります。私からもお礼を言わせて下さい」
「それは何よりです」

 俺も一礼を返す。ベルティーユはそれから他の皆にも丁寧に挨拶して回っていた。テフラやセラフィナ、フローリアという特異な面々もいて、やや驚いたような様子を見せたが彼女達にも歓迎の挨拶を述べる。

「侯爵領の家臣達の様子についての現状はどうでしょうか? 何か不都合はありますか?」

 一通りの挨拶回りが終わってから、ステファニア姫が再びベルティーユに話しかけた。

「中央から派遣されてきた方々が実務を行っておりますので、それで円滑に進んでおりますよ」
「侯爵とは、王城で共に働いていた方々ですね」

 ふむ。侯爵領の調査に、マルコムと一緒に派遣された者達だろうか。侯爵領が落ち着くまでこちらで仕事をするのだろう。

「はい。ノーマン達と共に不正に関与した者達は職を追われ、悪質な場合は捕えられています。ガートナー伯爵や冒険者ギルドとも連携しておりますので、領地内については安定しているものと」
「そのようですね。先程領内の様子も耳にしました。父上もお喜びになると思います」

 ステファニア姫のブロデリック侯爵領までの同行には、そういった理由もあったのかもしれないな。
 確かに実際に足を運ばないと分からないこともあるし、メルヴィン王としては侯爵領のその後は気になるところだろう。それがステファニア姫の報告となれば情報源として信頼のできるところではある。神殿に向かったことで街中も直に見てこれたし、領内が明るい雰囲気であるのなら良い傾向と言えよう。
 やがてマルコムも貴賓室にやって来る。領地に戻ったばかりで報告を受けたり指示をしたり宴席の準備を確認したりと、色々な仕事に追われていたのだろう。

「お待たせしました。宴席は夕刻に行いますので、それまではどうぞごゆるりとお寛ぎ下さい。ご入り用のものがありましたら、何なりと」
「感謝します、侯爵」

 ふむ。夕方までは時間があると。イルムヒルト達が楽士役を買って出てくれて、貴賓室の片隅でリュートやハープを代わる代わる奏でてくれる。
 その中でマルコムは夫人から先程の話を聞き、実際に帳簿を持って来てステファニア姫に細かな説明をすることになったようだ。
 ステファニア姫は真剣な表情で帳簿を見ながらマルコムの話に耳を傾けていた。

 と、そこで部屋の扉がノックされる。入室を促され、扉の向こうに姿を現したのは兵士であった。

「何事か」
「報告があります。お客人の前では……」

 兵士が畏まった態度で言う。

「私のことは気になさらず」
「申し訳ありません」

 ステファニア姫への報告を一度切り上げ、マルコムは部屋の外へ出ていく。
 何事があったのかと顔を見合わせていたら、ややあってマルコムが戻ってきた。

「申し訳ありません。少々問題が起こったようです」
「何があったのですか? 差し支えなければ……」

 ステファニア姫が尋ねると、マルコムは少し沈んだ口調で答える。

「古い鉱山の調査をしていた一団がいたのですが、坑道の一部が崩落してしまって閉じ込められていると」
「それは……一大事ではありませんか……!」
「誠に申し訳ありません。お許しいただけるなら現場の指揮に向かいたいのですが」
「無論です。他に優先されるべきことなどありません」

 ステファニア姫とアドリアーナ姫が頷く。

「飛行船で現場まで向かいましょう。必要ならば僕も協力します」

 と俺からも申し出る。急行するにも怪我人が出た場合でも、飛行船があったほうが良いのは言うまでもない。みんなと視線を合わせると、彼女達も頷いた。
 アシュレイの治癒魔法、シーラやイルムヒルトの探知能力にクラウディアの転移魔法。捜索にも救助にも心強い。

 閉じ込められているということは……道が塞がれてしまった状態で調査団の安否は分かっているのかも知れないな。だが救助しようにも二重遭難が起こらないとも限らない。事故現場を見ないと断言はできないが、土魔法で土砂を除けたり、構造強化して二次災害が起こらないよう坑道を補強するだとか、色々やれることはあるだろう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ