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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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328 キノコ狩り

 明くる日。予定通りにみんなでキノコ狩りをすることになった。快晴。秋の涼しさと相まってなかなかいい日だ。
 グレイスもいつも通り。視線が合うと微笑みを向けられてしまった。うむ。

 近所の森の中ということなので迷ったりする心配は少ないが、もしもみんなとはぐれてしまった場合はシリウス号を目指して移動ということになっている。

「キノコ狩り……宵闇の森以来ですが、まともなキノコを採取するというのは初めてです」

 と、メルセディアが遠い目をしている。メルセディアは封印の門を探すのに迷宮に降りて、宵闇の森でウィスパーマッシュに囲まれて結構大変なことになっていたんだったか。

「ふむ。キノコ狩りが初めての人もいるみたいだし、それじゃあ注意点を幾つか。キノコは毒があるのも多いから、紛らわしいものは最初から取らない方針で行こう」

 と言って、土魔法で狙い目のキノコの模型を作る。シイタケ、トリュフ、マツタケ、ヤマドリタケ、マイタケ、シメジにキクラゲといったところか。

「種類にもよりますが木の根元や幹。湿度のある場所をキノコは好みます。落ち葉を除けて探してみて下さい。1本見つかると、その周りでも見つかることが多いですね。後は根本を少しだけ残しておくと来年もまたキノコが採りやすくなります」

 グレイスがキノコの探し方のコツを補足説明してくれる。

「ちなみに、こういうのが毒のあるキノコ」

 と、こちらも土魔法で模型を作ってみんなに見せておく。カエンタケにドクツルタケ、ドクササコといった特に凶悪な連中だ。

「食べると……どうなるんですか?」
「あー。このへんはクリアブラッド無しだとまず助からないと思っていい。解毒の魔道具もあるけど、食べないにこしたことはないし。死なないのもあるけど、数日置いてから激痛を与えてくるキノコや、何週間にも渡って激痛が続く毒キノコもあるから、食べられるキノコの見本以外には絶対に手を出さないように」

 具体的な事例を挙げて念を押すと、みんなは神妙な表情で頷いた。まあ、毒キノコが危険だと分かっていてくれればいいのだ。

「魔法薬の材料になるのもあるわね。このキノコは……素手で触れるのも危険、と書物にはあったから、もし見つけても教えてくれるだけで良いわ」

 というのがローズマリーの見解である。触れるのも危険というのはカエンタケだな。まあ、赤いし毒々しい形をしているのでカエンタケについては避けるのは簡単だろうが。
 混乱しないように食べられるキノコの見本だけ残して、毒キノコの見本は土塊に戻してしまう。

「まあ……説明になかったキノコなら、見つけても採らずに俺かグレイスかマリーに知らせてくれればいいよ」
「ん、分かった」
「頑張ります。キノコには借りがありますので」

 淡々と頷くシーラと、何やら拳を握って気合の入っているメルセディアである。



 ……というわけで、秋の森にてキノコ狩りである。森を歩きながらキノコを探して回る。

「見つけた」

 と、早速キノコを探し当てているのはシーラだ。五感が鋭いのもあるが、盗賊ギルドの下積み時代に釣りをしたりタームウィルズ近郊でキノコ狩りをしたりして場数を踏んでいるそうだ。
 見つけやすいキノコは他の面々に任せ、ラヴィーネやアルファと共にトリュフのような大物狙いらしい。まあ……香りから探せるというのは強いな。

「こっちにもありました!」

 健闘しているのがハロルドとシンシアの2人である。墓守として母さんの家や墓の周囲を手入れしているだけあって、森に入ることも多いからかキノコなどにも詳しいようである。シイタケを見つけて笑みを浮かべているシンシアと、山刀で小枝を手慣れた様子で払って山菜を摘んでいるハロルド。実に場数を踏んでいるのが窺える。

「2人は結構キノコを採り慣れている感じだね」
「元手もかからないですし、食費が浮くので助かっています」

 と、ハロルドが笑う。

「良いわね、ここの森は」

 上機嫌なのはローズマリーである。薬草に香草、キノコ等々取り放題といったところか。何やらベニテングダケを見つけたらしく、ご満悦な様子で魔法の鞄の中に突っ込んでいるようだが。

「これは鎮痛効果のある薬草。すり潰して傷口に塗ると予後が良くなるし、食べてもいいのよ」

 クラウディアはマルレーン、イルムヒルト、ユスティア、ドミニク、テフラと一緒に色々採取している。迷宮村の周辺でも野草やキノコは生えるそうなので、それで詳しいところがあるらしい。マルレーンはクラウディアの言葉に真剣な表情でこくこくと頷いていた。

「これは食べられるキノコかしら?」
「はい。それはホンシメジですね。少し似た毒キノコがあるので先程、テオは説明を省いていましたが」

 グレイスにステファニア姫、アドリアーナ姫がキノコについて早速質問をしている。
 アシュレイも2人の姫と一緒にキノコ探しをしているようだ。

「いやあ、こういうのも楽しいね。最近は魔道具作りばっかりだったからな」
「そうさな。飛行船作りも中々大変じゃったからのう」

 アルフレッドは楽しそうに落ち葉を風魔法で舞い上げてキノコを探している。ジークムント老とヴァレンティナ、シャルロッテもアルフレッドと一緒に風魔法を用いていた。工房と造船所で一緒に作業しているだけあって打ち解けているように思う。
 うん。みんな色々やっているようだが。俺はカドケウスに命じて地面を広範囲に渡ってなぞり、採り過ぎない程度にキノコを集めていくことにしよう。



 ……といった調子でキノコ狩りを続け、昼が近くなってきたところで切り上げて、湖畔に戻ることにした。湖を高所から見ることができて眺めが良いので、シリウス号の甲板で昼食を取る予定なのだ。ハロルドとシンシアの2人に、シリウス号の中を案内すると約束もしているしな。

「頑張った」

 シーラはいつも通りだが、心無しか一仕事こなした誇らしさが見える気がする。
 母さんの家から採取用に持ってきた籠は、見事にキノコと山菜で山盛りになっていた。
 タームウィルズから持ってきた食材もあるしトリュフも結構集まっている。イルムヒルトも猪を一匹仕留めていたりして……今日の昼は中々豪勢なことになりそうである。
 一応調理前に毒キノコが紛れていないかをチェックしておくとしよう。その際土汚れなどを取り除いて行くのが良さそうだ。
 木魔法で調理台、土魔法で竈などを即席で作って、みんなで手分けして料理していく。

「ふむ。こういう外での調理というのは楽しいものですな」
「そうですね。ヴェルドガル騎士団でも訓練と魔物退治を兼ねて森で野営をしたりしていましたから、それを思い出します」

 と、野菜を切りながらエルマーとメルセディアが言葉を交わす。エルマーは……何やら包丁を持つのが様になっているな。討魔騎士団の2人は野外での料理に慣れているという印象を受ける。

「トリュフが結構ありますね。香り付けになりますから、ソースにして鶏肉を炒めたものにかけてみましょう」
「ふむ。猪肉は香草で臭みを消して、キノコ汁に入れるというのが良さそうね」

 毒キノコが混ざっていないことを確認し、洗ってから石突きの残っている部分を取り除いたりと、下処理の終わったものを次々料理班に流していく。料理する側も毒キノコが混ざっていないかチェックしているので安心であろう。



 食欲をそそる香ばしい匂いがあたりに漂う。シリウス号の甲板にテーブルと椅子を並べ、鏡のように風景を映し出す湖と、紅葉し始めた森、青い空という何とも美しい風景を眺めながらの食事となった。
 白パン、鶏肉のソテー、キノコ汁。それに各種キノコのソテーもある。青空の下での食事は何とも開放感があって気分が良い。

「これは美味しいわね……。王城の料理人に引けを取らないわ」
「本当。シルヴァトリアの王城に迎えたいぐらい」

 鶏肉のソテーを口にしたステファニア姫とアドリアーナ姫は相好を崩した。
 うん。グレイスの料理の腕は王城の料理人の技術も取り入れているようだからな。鶏肉を口に入れるとトリュフの香りが広がる。適度な塩気と肉汁が食欲をそそる。
 ……美味いな、これ。

「キノコ汁は温まりますね」
「マリーと一緒に何種類か作ったからおかわりもあるわ」

 クラウディアが微笑むと、ローズマリーは目を閉じて羽扇で口元を覆った。
 香辛料を使ったスパイシーなものと、ホワイトシチューのようなクリーミーなものと。香辛料を使ったものはローズマリーが味付けしたらしい。こういう複雑な配合をするのは得意分野なのだろう。よく研究しているようだ。

「美味しい……。こんなに美味しいもの初めて食べた」
「この泡の出る飲み物も……甘くて美味しいよ、ハロルド」

 ハロルドとシンシアは一口ごとに目を丸くしている。うん。キノコ料理も炭酸飲料も、2人には好評なようで何よりだ。食後に少し休憩したら船内を案内してやらないとな。
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