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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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319 シリウス浮上

「それじゃあ次、始めるわね」
「何時でもどうぞ」

 造船所施設の一室に描かれた魔法陣の中心に座り、イルムヒルトが大きく深呼吸をする。
 その手に握っているのはレッサーデーモンから抽出した魔石だ。ヴァレンティナがマジックサークルを展開すると連動して魔法陣が輝きを放ち、イルムヒルトの持っている魔石が明るい紫色の輝きに変わっていく。

「んー、んー、ふふー」

 俺の肩にはセラフィナがちょこんと座ったまま鼻歌を歌っている。前にイルムヒルトが弾いていた曲だな、これは。足をパタパタとさせてどこか楽しそうだが、別に遊んでいるというわけではなく……音を真っ直ぐに、遠距離に照射している真っ最中なわけだ。何か継続的に音を出すために鼻歌という手段を取っている。

 循環錬気で魔力の動きを感じ取り、それを術式にして記述しているという最中である。拡散させたり集束させたりと、色々なパターンを用意しているが。
 術式を書き付けた紙を見て、アルフレッドが頷く。

「うん。音の操作に関してはこれで充分だと思う」
「ありがとうセラフィナ」
「ううん。楽しかったよ」

 セラフィナは笑みを浮かべると俺の肩から離れ、部屋の中を飛び回る。

「それじゃあ、次はセラフィナちゃんの魔石を作りましょうか」
「うんっ」

 ヴァレンティナに呼ばれて、セラフィナが魔石を抱えて飛んでいく。

「じゃあ、次は私の呪曲になるかしら?」

 と、イルムヒルトがリュートを抱える。

「そうだね。呪曲を演奏しながら循環錬気を行って、魔力の流れを見ていくから」
「ええ。任せて」

 人化の術を解いているイルムヒルトは器用に身体をくねらせてリュートを手に取り、俺の前まで来る。

「じゃあよろしくね、テオドール君」
「了解」

 と、またいつぞやのようにイルムヒルトの尾に軽く巻き付かれる。少し滑らかな感触。触れている面積が多いほど魔力の流れが分かりやすいというところは確かにあるのだが。

 循環錬気を始めると、イルムヒルトがどこか楽しげに呪曲を奏で出す。目を閉じて魔力の動きを感知し。紙に書きつけていく。
 イルムヒルトの曲にしろセラフィナの鼻歌にしろ……音響砲の開発とは思えないぐらい和やかな雰囲気である。
 さて。術式の書き付けが終わったら飛行船の内装作りの続きといこう。



「このあたりにこの様式の装飾……というのはどうかな」
「良いと思う。格調も高く見えるわ」

 ローズマリーが静かに頷く。
 建築関係の書物を広げ、みんなと相談しながらシリウス号の内部を作っていく。木魔法を利用して木材を加工して内部構造を組み上げ、出来上がった部分に内装として細かな装飾などを作っていくといった具合だ。工程的には仕上げに近いところであろう。

「内装が入ってくると、ぐっとそれらしくなってきますね」

 アシュレイは出来上がりを見て微笑み、マルレーンは出来上がった装飾――壁のレリーフ部分を軽く撫でている。

「音響砲はもう少しだけど、結婚式には必要ないものね」

 クラウディアは明るい笑みを浮かべる。シルン男爵領行きについては飛行試験を行えば問題はないだろう。エリオットの結婚式の準備、討魔騎士団の訓練と並行して進めていた飛行船の建造も、大詰めというところだ。
 シリウス号の艦橋を除いた船体部分の内部構造は4階層構造になっている。最下部。船底の竜骨部にくっつくようにシルヴァトリア製の浮遊装置が3基。
 動力源となるワーウルフ原種の魔石を艦橋の直下、船の中心部に据える。
 バジリスクやコカトリスらの4つの大きな魔石は、ワーウルフ原種の魔石の四方に配置して術式を刻み、連動させている。

 中心部を基点に、船全体に回路を伸ばして内部構造も作り上げていった。直上にある艦橋に操船のための機能や外部モニターなども集中させている。艦橋からは伝声管を伸ばし、各所と声でのやり取りが可能になっている。

 船体内部は通路に船室、厨房、トイレと風呂、船倉、飛竜と地竜の居住スペース等々……。使える空間は限られているのでパズルを組み合わせるように試行錯誤し、機能性を優先しながらも可能な限り居住性も確保したつもりだ。
 まあ、立体的な機動を行うことを想定しているために、椅子やテーブル、寝台などが床や壁と一体となって固定されているのはやむを得ない部分ではあるが。

 船内あちこちの内装を仕上げながら艦橋へと移動する。広々とした空間を持つ艦橋内部である。大きな円卓。作戦会議や出撃準備などもここで出来るようになっている。左右の壁に、伝声管が何本か出ている。
 奥が一段高くなっていて、短い階段を登るとそこが操船や外部の監視を行うための場所だ。操船席の周りで、ジークムント老達が水晶板の点検をしていた。

「お疲れ様です。こちらはどうですか?」
「ふむ。儂は見やすいと思うがのう。ほとんど全ての柱が見えておるし……操船に慣れれば船体ぎりぎりの場所を通すという芸当もできるのではないかな?」
「あまり危なっかしいことはしたくないですけどね」

 ジークムント老の言葉に苦笑する。
 水晶板モニターには造船所の広場のあちこちに立てた柱が映っている。高さや距離を変えて船の周りに柱を生やし、船内からどこが見えて、どこが見えないのかを点検している最中というわけだ。

 艦橋の水晶板の数は前後左右に上下と、全部合せて12枚。感覚的に分かりやすい位置に立体的に配置して、操船用の席から全てに目を通すことができるという寸法である。俺以外の誰かにも見てもらって、客観的な意見が聞きたかったのだが……好印象というところか。

「では……少し動かしてみましょうか」

 心臓部と魔石部屋を組み込んだところである程度の動作確認はしているが……。まあ、内部に色々詰め込んだところでの飛行試験というのはこれが初となる。

「いよいよか……」
「みんなは一旦降りて、離れていてください。設計責任者として僕が安全を確かめますので」
「テオ、お気を付けて」

 と、やや心配そうなグレイス。いや、みんなもか。

「大丈夫。少し飛び回るだけだから」

 そう言って笑みを返す。
 造船場の周りを一通り飛行させてみるだけだ。こういう時、タームウィルズが海に面しているというのは素晴らしいと言うか、実験しやすい環境であると言えよう。万一のことがあっても下が海なら周辺に被害は出ないし、俺1人なら墜落してもいくらでも身を守れるしな。



「それでは動かします」

 外部伝声管を使って船の外にいる皆に連絡する。みんなが固唾を飲んで見守る中、操船用の水晶球に手を翳す。中枢部の魔石に連動する水晶球だ。
 こちらの指示に従い船体が垂直に上昇していく。外部モニターの景色も緩やかに垂直に動いていくのが見える。
 使っている魔石が大きなものであるため、全て1つの水晶球から指示を出すことが可能だ。ゆっくりと造船場の広場を横断し、外壁を越えて海を望む。

 微速前進。正面からの風を取り込み、後方へと流す機構が働き次第に速度を上げていく。
 海を見下ろし、下に船がいないことを確認してから旋回や上昇、下降などを試みる。飛行船が緩やかに傾き、左右に旋回する。

 速度が乗って来たところで浮遊炉3基を停止し、主翼によって揚力を得る。
 推進力は後方へ風を流す魔道具が生み出し、生み出した推進力で主翼の形状が揚力を生み出す。
 既に主翼に組み込んだ魔道具さえも使っていない。前方からの風を取り込み、後方へと噴射する道具だけを用いた、魔力消費を抑えての省エネ飛行だ。まだ全速ではないのだが、中々軽快な速度である。

 速度を落とし、主翼の魔道具のみで空中に静止。主翼の上部と下部で揚力を調整して上昇と下降のテストを行う。
 お次は浮遊炉のみを作動。3基の出力バランスと前方への推進を組み合わせて左右に旋回したり上昇下降を行ったり。うん。思ったように動いてくれる。操縦性は悪くないな。無茶な機動を行おうとしなければ、船内も実に安定している。

『外から見ていて異常は?』

 通信機でみんなに連絡を取る。問題無しとの返答。

「さて……」

 では……本番はここからだ。速度を上げて前進させていく。

「行くぞ、シリウス」

 水晶球に触れて指示を出す。水晶球を通して、何か、妙な魔力反応を感じた。この魔力は……ワーウルフ原種のものか? 何となくだが、あの金色の狼が歓喜しているような――……。

 予感というか、何とも形容しがたい気配は一瞬だけのこと。前方から取り込んでいる大量の空気に火の魔道具が点火。爆風が船尾から噴出。加速に従い、身体に正面からの圧力がかかる。今までとは比べ物にならない速度で景色が後方へと流れ出した。

 高速度での旋回、上昇、下降。船体にかかる圧力そのものを装甲板が魔力に変換。速度の割に消耗は少ない。外部モニターで外を見てみれば、金色の煌めきが見える。……なるほど。あのワーウルフ原種、しっかりとシリウス号の魔石に宿っているらしいな。

 実験を経て速度を緩め、造船所の上空に戻ってくる。元々鎮座していた土台の上に重ねて、ゆっくりと降ろしていく。
 地上にシリウス号が降りて停止したところで、艦橋前部の円卓の上に、何か金色の靄のようなものが映った。

「……お前か」

 円卓の上に金色の狼の姿。人狼ではなく、四足の狼だ。幽体と言えば良いのか、ぼんやりとしていて輪郭がはっきりしないが、俺と視線が合うとにやりと笑ったように見えた。俺から視線を外し、前方を向いた狼の姿が掻き消える。
 印象としては……やはり精霊に近いな、あれは。
 だが、嫌な印象は受けなかった。協力してくれているのは間違いない。

 若干想定外の部分はあったが、飛行試験は概ね成功だろう。ともあれシルン男爵領に向かう準備は整ったというところか。
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