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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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316 建造と休暇

「さて、と。それじゃあ作業を始めるよ。術式の維持がきつくなってきたら早めに教えてくれると嬉しい」
「分かった。消耗してきたら声をかける」

 水筒に入れてきたお茶を一杯飲んでから、気合を入れて動き始めたアルフレッドの言葉に頷き、シリウス号の甲板上でマジックサークルを展開させる。術式に従い、シリウス号全体に燐光が広がっていった。

「では俺達も行ってくる」
「失礼します」

 と、タルコットとシンディーが言う。
 アルフレッドはまず右の主翼から作業を始めるらしい。タルコットとシンディー、それからローズマリーの人形が助手として作業を分担するそうだ。
 俺は、アルフレッドやジークムント老達が作業する間、加工可能なように装甲板の状態を変化させて固定しておくという役割を担う。

 作業の間中術式を制御するということもあり、長丁場になる予定なので今日は訓練には参加せずに飛行船建造に集中する形だ。甲板から広場を見ればエリオットの号令に従い、石柱に触れる訓練を行っているところである。

 パーティーメンバーのみんなは俺に合わせ、甲板で過ごす予定である。先日満月の迷宮に行ったばかりだし、普段から訓練もしているので休憩も兼ねてといったところだ。

「それじゃあ、こちらも準備してしまいましょうか」
「はい。それでは」

 ローズマリーの魔法の鞄の中から丸められた絨毯が取り出される。
 みんなで手分けして絨毯を広げ、甲板の上に敷いたり、ティーセットやら焼き菓子を入れた包みやら、サンドイッチなどを詰めた器やらが取り出されて並べられたりと、準備を進めていく。
 何やらピクニックじみた雰囲気だ。てきぱきとみんなが動き、やがて準備が整うとティーカップに茶が注がれた。

「テオ、準備が整いました。お茶も入りましたので、どうぞ」
「ああ、ありがとう」

 こうやって甲板の上に絨毯を敷いて、その上に腰を下ろして弁当や菓子を広げ、本を読んだりカードをしたりして過ごそうというわけである。
 ラヴィーネも絨毯の端に寝そべって欠伸などしている。その背中にバロールが乗っていたりする。目を閉じて気持ち良さそうにしているので、日向ぼっこということだろうか。エクレールは艦橋の上に留まっていたりする。

「では、儂らも設置してくるかのう」
「手分けして早めに今日の分の作業を終わらせてしまうわね」
「行って参ります」

 ジークムント老、ヴァレンティナ、シャルロッテ達も、お茶を飲んでから動き出す。荷物をレビテーションで浮かべて船の外殻の中へと入っていった。こちらにもローズマリーの簡易人形が助手として付く。船内の様子を見るためにカドケウスを同行させておこう。

 ジークムント老達の作業は心臓部となる魔道具の設置だ。飛行船を浮遊させるための機構は3つの魔道具からなる。3点で支えて出力を調整。上昇や下降を行い、船首、船尾、左舷、右舷との船の傾きも調整可能なようになっているわけだ。
 シリウス号は主翼そのものが揚力を発生させるので失速しても浮いていられる作りになっているが、シルヴァトリアで作られたこの機構も搭載させてもらう予定だ。これには効率化と安全対策という側面がある。
 失速、主翼の破壊、心臓部3点の破壊。これらが同時に起こらない限りは浮いていられるという寸法だ。空を飛ぶ物だけに、そのあたりはしっかりと作っておきたい。

 ジークムント老は竜骨の上に位置する心臓部設置予定の箇所で取り付けに着手したようだ。設置個所については模型での飛行テストを経て、どこで支えるのがバランスが良くなるかは調べてある。
 その作業をカドケウスで見ながら、外殻の状態を制御している術式について意識が行くと、ふと思ってしまうことがあった。

「というか……外殻の状態を固定するにしても、全体を覆っておく必要はないんだよな。作業する箇所に絞って術式を働かせておけばいいわけでさ」
「術式は、範囲の限定ができるようになっていないのですか?」

 アシュレイが首を傾げる。

「そうみたいだ。まあ、外殻と違って状態固定はそれほど多くの魔力を必要とはしないけど……」
「それは多分、これだけの規模を一度に固定して加工する必要が無かったということではないかしら?」

 ローズマリーが小さく肩を震わせる。

「というと?」
「本来なら、装甲板1枚1枚がもっと小さいはずでしょう?」
「範囲を限定する必要も無かったわけか」
「つまり、テオドールが規格外だから問題が起こったと」
「有体に言うならそうかしらね」

 シーラの言葉にローズマリーが苦笑する。
 つまり、このサイズを加工するというのを想定していなかった、というわけだ。まあ……術式を少し調整してやれば作業箇所に効果範囲を限定することぐらいはできそうだ。術式の維持だけでは暇なので、術式の改良も同時に並行してやってみよう。飛行船に魔道具を取り付ける作業は、どうせ今日だけでは終わらないのだし。

「それにしても、テオドールの言う通り、絨毯を持ってきて良かったわね」
「甲板が真っ白だと、少し眩しいですからね」

 クラウディアの言葉にグレイスが同意する。甲板でのんびりしながら作業、というのは良いのだが、材質が白いので長時間過ごすのは些か目に良くない、ということで、絨毯を用意した。周囲も白いのだが、これはマルレーンがシェイドを召喚して周囲の照り返しを軽減しているという状態だ。

 クラウディアとマルレーン、シーラ、セラフィナはカードに興じている。イルムヒルトはいつも通りに楽しそうにリュートを奏でていて、まあ、中々まったりとした空気だ。

「甲板は後で塗装するか板を敷き詰めるかしないとな。照り返しがあって眩しいっていうのは、差支えが出る可能性もあるし」

 装甲の材質故に仕方が無い部分があるが、そこは何らかの形で覆うなどして補いたいところである。
 ……と、シリウス号に用いている術式の改変もできたので、効果範囲を絞って効率化していく。ふむ……。この程度の魔力消費なら一日中維持していても問題無さそうだな。



 やがて討魔騎士団の訓練も終わり、アルフレッドとジークムント老達の作業も一区切りついたところで、タラップを上がって甲板にエリオットが顔を覗かせた。

「お疲れ様です、皆さん」
「お疲れ様です、エリオットさん」

 と、挨拶をかわす。

「これからまた、皆で温泉街に出かけることになりました。その前に、カミラとの婚礼について決まったことがあるので、報告させて下さい」
「はい」

 エリオットにお茶を一杯注ぎ、お茶請けをすすめながら話を聞く。

「メルヴィン陛下に相談に乗っていただいた結果、シルン男爵領にて婚礼を行うことになりました。その際、ステファニア殿下とアドリアーナ殿下もご臨席賜り下さると」
「お2人がですか」
「シルン男爵領ではそれほどの賓客をお迎えするのは異例なことですが……婚礼を行うこと自体には問題ありません。今から連絡や招待状をあちこちに出さなければなりませんが」

 ……なるほど。王族が直々に足を運ぶことでメルヴィン王がエリオットの後ろ盾になっていること、シルヴァトリアとも強い結びつきがあることをシルン男爵領の面々にアピールしておくと言うわけだ。
 エリオットを後々領主として取り立てるという約束があるので、メルヴィン王側としてもステファニア姫にそのあたりをシルン男爵領で明言して貰おうということかも知れない。事前に詳らかにしておくことでトラブルを避ける策にもなっているし。

「では、私から爺やには連絡を取っておきますね」

 アシュレイが微笑む。

「ああ。ありがとう、アシュレイ」
「シリウス号の完成と試運転が間に合えばそれでシルン男爵領に向かうというのも良いかも知れませんね」
「それはまた、派手ですね。ステファニア殿下とアドリアーナ殿下の警護という意味ではこれ以上ないと思いますが」

 エリオットが苦笑いして頷く。
 時期的なことを考えるとシリウス号の完成が若干早くなるかも知れない。
 俺達も転移可能な拠点を増やすためにガートナー伯爵領やシルン男爵領に足を運んでおく必要がある。シリウス号が完成すればそれを用いて足を運べるわけだし。エリオットの言う通り、姫2人の身辺警護についてもそれで解決するだろう。

 加えて言うなら……男爵領に飛行船で乗り付けて婚礼の儀というのは討魔騎士団団長の婚礼の儀としては内外に名目も立つだろうし、試運転が婚礼の儀のためにというのも、まあ縁起も良くて良いのではないだろうか。
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