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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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315 原種の魔石

 ワーウルフ原種を倒したことを確認し、大きく息を吐く。戦闘が終わったところで、アシュレイ達も近付いてきた。

「テオドール様、治癒魔法を」
「ん……。ありがとう、アシュレイ」

 怪我は深くないと示すために笑みを返すと、アシュレイは少し安堵したように微笑みを返して頷く。
 奴の攻撃を避ける時に、頬などを少し切ったようだ。掌底を打ち込んだ時も被毛で軽い擦過傷を負ったか。軽傷と言えば軽傷なので、アシュレイの治癒魔法ならすぐ塞がる。傷痕も残らないだろう。治癒魔法の輝きが頬や掌に当てられる。

「大丈夫ですか、テオ」
「うん。傷はそれほどでもないと思う」
「あれと戦って軽傷というのは心強いのだけれど、やはり見ていて心臓に悪いところはあるわね」

 ローズマリーが羽扇で口元を隠しながら目を閉じる。あー。闘気の斬撃に突っ込んで行ったりしたからな。

「まあ、そのへんは悪いとは思うけど」

 と苦笑すると、ローズマリーはそっぽを向いた。
 さて。傷が治ったところで、剥ぎ取りを進めていこう。 
 まず人狼に手を翳してマジックサークルを展開。眩い輝きがその胸の上に集まっていき、その光がどんどん強くなっていく。――やがて魔石として結晶化した。
 あれ? ……抽出というか、ガーディアンの肉体ごと丸々魔石として変換されてしまったのだが……。

「……ガーディアンがテオドールの術式に乗ったということかしら。ワーウルフの原種は精霊に近いからできる芸当でしょうね」

 それを見たクラウディアが言う。

「ん? 何で術式に?」
「テオドールのことが気に入ったのではないかしら? ガーディアンはその性質上、普通の迷宮魔物より自由意識を強く持っているから……。まあ、ラストガーディアンは全く融通が利かないから、また少し違うようだけれど」

 ……なるほど。改めて出来上がった魔石を見てみるが……これは相当大きいな。
 金色の燐光を纏う水晶といった風情だ。魔石の性能は質と大きさで決まる。容量は指数関数的に上昇していくところがあるから、数を揃えれば良いものでもないのだ。
 だがこれなら飛行船建造にも十二分といったところか。

 戦果としてはバジリスクとコカトリス。それにインビジブルリッパーが多数。
 リッパーの腕は在庫過剰という気がするが……用途に困れば後からでも抽出すればいいだろう。

「バジリスクとコカトリスからの抽出もやっておくよ。邪眼の魔力は健在だから、作業の間はシェイドの闇で覆って置いてもらえると安心できる」

 マルレーンがこくんと頷くと、闇がバジリスクの周囲に集まって覆い尽くした。
 では……剥ぎ取りを進めていこう。



 必要としていただけの資材は集まった。満月の迷宮探索を程々で切り上げ、回収した品々で余剰な物が出てきたので冒険者ギルドに買い取ってもらいにいった。主にストームファングの牙と毛皮だ。

「ええと、これは……ストームファングの毛皮でしょうか? まさか……満月の迷宮ですか?」
「そうです。少し余ったので持ってきました。満月の迷宮に入る手段もありますので」

 表情を引き攣らせて小声になるヘザーに、そう返す。

「んん……。まあ、テオドールさん達のすることですからね……納得するしかないのでしょうが。これは一時預かり、満月の次の日にでも並べさせてもらいます」

 と、乾いた笑いを漏らした。色々突っ込みどころはあるのだろうが、ヘザーは諸々の事情を尋ねずに飲み込むことにしたらしい。かぶりを振ってから、少し真剣なものに表情を修正すると言う。

「ギルドとしては貴重な素材を供給していただけるのは有り難いのですが……怪我はしないようにしてくださいね」
「ありがとうございます。厄介な魔物が多いので気を付けます」

 そう答えるとヘザーは笑みを浮かべて頷いた。
 素材の換金待ちということで少し待つ必要があるが……視線を巡らしてみる。
 ギルド内部は何やら随分と人が多かった。理由は明白だ。専用のカウンターが出来て長蛇の列ができているのだ。劇場の入場券を買い求める人達らしい。

「劇場や温泉街ができて客が客を呼ぶという状態のようでして。入場券の販売もこっちで行っていたのですが通常の業務に支障が出てきたので、とりあえず窓口を分けたのです」

 と、ヘザーが苦笑する。

「そうなんですか。何だか忙しくしてしまっているようですみません」
「まさか。冒険者ギルドへの依頼も増えていますし、有能な新人も確保できているので有り難い限りですよ」
「それなら良いですけど」
「今のままだとやや手狭なので、増築する予定を立てて手配を進めています。そのあたりを広げて出入り口を作り、販売所を設けるというわけですね」

 なるほど。今の販売窓口はあくまで仮設というわけだ。販売所だけなら外に作ってもいいはずだが、ギルドのオフィスと一体にしておくことで、ついでにギルドに依頼を出したりしてもらえるという目的もあるわけだし。
 うん。冒険者ギルドも順調なようで何よりである。



 冒険者ギルドに持ち込んだ品々を換金し、ギルドオフィスを後にしてそのまま工房へ向かった。満月の迷宮探索の成果ということでアルフレッドやジークムント老達に戦利品を見せて、今回の探索で得た魔石の使い道や配分などを相談する必要があるからだ。

「おかえり、テオ君」
「ふむ。怪我はないようじゃな」
「おかえりなさい。お嬢さん方も無事なようね」
「ご無事で何よりです先生。皆さん」

 と、口々に帰還を喜んでくれる。

「ただいま戻りました」

 そう返して戦利品を机の上に並べていく。

「魔石を集めてきました。飛行船での使い方や配分について相談したいのですが」
「これは……!」

 それをローズマリーが鞄の中から取り出したところでみんなが目を見張る。
 ワーウルフ原種の魔石。魔法をかけたわけでもないのに机の上に浮かんで、ゆっくりと回転している。普通とは明らかに違う金色の輝きを纏った代物である。

「これはまた……。こんな魔石、見たこともないんだけど……一体何から得たものなんだい?」

 アルフレッドは呆気にとられたような表情だ。

「ワーウルフの原種。ガーディアンだね」
「深層のガーディアンか……。道理で」
「原種とは何ですか?」

 シャルロッテはワーウルフ原種を知らないのかジークムント老に質問を投げかける。

「人の世に人狼の呪いをもたらした人狼達の祖、という奴じゃな。伝説上の存在かと思っておったが、実在するとはのう」
「また……大物ですね」

 ジークムント老の返答にヴァレンティナとシャルロッテが目を丸くする。

「金色の人狼で、格闘技を使ってた」

 と、シーラが補足説明してくれる。

「そして、こっちが順にサイクロプス、トロール、バジリスクとコカトリスの魔石です。一回り小さいものがレッサーデーモンの魔石。ストームファングとインビジブルリッパーに関しては素材と魔石の両方があります」
「……大猟じゃな。その魔物どもの顔触れを見ると、どこの魔境かという感想しか出てこぬが……それにしても原種か。動いているところを一目見たかったが、そのような場所ではな」

 ジークムント老はやや残念そうに首を横に振る。

「ストームファングの牙と毛皮……それからリッパーの腕ね。これの使い道は決まっているのかな?」
「まだ決めあぐねているところもある。リッパーの腕は武器にするのが妥当なところかなって思う」
「分かった。それじゃあ魔石の使い道について相談していこうか」

 みんなで茶を飲みながら魔石の使い方について相談を進めていく。

「ではまず、お主の考えを聞こうかの」
「ワーウルフ原種の魔石を船の動力に使って、この4つの魔石を船の制御側に回すというのを考えています」
「最重要な部分にもっとも優れた魔石を使うか。まあ、当然の話であろうな」
「確かに……この金色の魔石なら装甲が変換する魔力もいくらでも溜めこめるだろうし。魔力の充填と、船の各設備への魔力の供給……その過負荷にも耐えられそうだ。無茶が利く分、色々捗りそうだね」

 そうだな。ワーウルフ原種の魔石に関しては色々規格外だ。おかげで無茶が利く部分が出てきたというか。

「レッサーデーモンの魔石に関してはどうかしら?」
「これは数が多いので特性を変えて音響砲に組み込もうかと」
「ふむ……。儂としては特に反対すべき材料は見当たらないのう。実際にこれらの魔石の容量で、どの程度のことができるかを見極めながら進めていけば良いのではないかな?」

 といった感じで、割とあっさり魔石の配分なども決まってしまった。まあ、あまり奇をてらわず、適材適所の配分という感じなので意見が割れるはずもないのだが。

「そう言えば、飛行船にも名前を付けてやらないとと思うのだけれど」

 ヴァレンティナが首を傾げると、みんなして俺を見てくる。

「僕が名付けて良いんですか?」
「テオ君が最重要な部分を作っているわけだし」

 そう言ってみんなは顔を見合わせて頷く。

「分かった。それじゃあ……」

 どうしたものか。少し迷ってから答える。

「シリウス号、というのはいかがでしょうか」

 ワーウルフ原種の魔石を中心部に組み込むことになるので。
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