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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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313 金色の餓狼

 魔物達を片付けたところで状況を確認する。

「怪我は?」
「こちらは大丈夫です」
「ん。問題ない」
「わたくしも大丈夫」

 マルレーンも視線が合うと笑みを浮かべる。うん。問題ないらしい。
 ストームファングはその獰猛さゆえに防御陣地もお構いなしで突撃していたが……動きは鈍っていたし上手く退けられたようだ。

 では……シーラとイルムヒルトには引き続き警戒を続けてもらいながら剥ぎ取りを始めよう。第一陣を退けてみれば、相当な量の資材になっていた。

「剥ぎ取り箇所は?」
「ストームファングは、牙と毛皮かな。風魔法と相性のいい素材で、結構高値になるんじゃないかと思うよ」

 レッサーデーモン達からはまあまあ質のいい魔石が大量に。トロールとサイクロプスからも魔石を抽出している。トロールとサイクロプスの使っていた武器も回収。その2匹からの魔石も中々の質だが……。

「今1つ……というところかしら」

 俺の手にしている魔石を見てローズマリーが言う。

「かな。まあ……フレイムデーモンほどの大物じゃないからな」

 音響砲に使えるレベルの魔石は手に入っているし、飛行船建造に関しては充分寄与しているのであまり贅沢は言うまい。

「この先はどうなっているんですか?」
「このまましばらくは螺旋状に下っていく形ね。戦闘の回避はできないけれど……大回廊の終点は門に辿り着く構造になっているわ」

 グレイスが尋ねると、クラウディアがそう答える。
 とりあえず戦利品は、外に送ってもらうとしよう。
 そうして手早く作業を進め……剥ぎ取りを終えて、下へ下へと進んでいくとシーラとイルムヒルトが足を止めた。

「敵?」
「多分、敵。柱の陰から出てきた。バジリスクやコカトリスでは、ない」
「人型……だわ。こっちにゆっくり向かってくる。これは――例の魔物ね」

 イルムヒルトが弓を構え、躊躇わず何もいないように見える空間に向けて矢を放つ。
 何かが床を蹴ったような足音が響いた。矢を避けたのだろう。
 しかしそれが地面に降り立つより早く、立て続けに放たれたイルムヒルトの2本目の矢が空中で捉えていた。何もない空間に光の矢が突き刺さり、甲高い悲鳴が上がる。
 不可視の魔物。喉に矢を受けたそれが姿を現し、大回廊の床に虹色の体液を撒き散らしながら転がる。しばらく悶えていたが、やがて動かなくなった。真珠のような奇妙な光沢の肌を持つ魔物だ。
 人型をしているが……腕の形が違う。肘から先が刀のようになっているのだ。

「インビジブルリッパー。不可視の魔物だな」

 満月の迷宮で注意を払うべき敵はバジリスクとコカトリスばかりではない。満月の迷宮対策ということで他の魔物も必要であると感じたものは対策を練って来ている。
 インビジブルリッパーはその活動中は目視できないという性質を持っている。透明なまま忍び寄って切りつけるという、中々性質の悪い魔物だ。空は飛べないが跳躍力はあり……上空にいても斬撃を見舞ってくるだろう。とはいえ、あまり耐久力は高くないし、竜鱗防具がある以上はこちらに大きな手傷を与えられないだろうが。

 まあ、イルムヒルトの温度感知は有効だし、シーラやラヴィーネの五感も騙せないようだ。他の誰かが相手をするの場合でも、霧を発生させるだとか広範囲に攻撃をするだとか対処方法はあるので、いることさえ分かってしまえばそこまで怖い相手でもあるまい。

「相手をしてみてどうかな。乱戦に混ざった場合は、対処できそう?」

 シーラとイルムヒルトにはインビジブルリッパーの探知も頼んでいるが。

「独特の臭いがある。混ざっても分かる」
「体温もあるのに姿が見えないから、違和感が目立つわ」

 ふむ。2人にかかれば問題ないようだ。

「問題が無ければ、私達が相手をする」
「分かった」

 インビジブルリッパーからの剥ぎ取り箇所はその腕だったか。魔力を通すと不可視になる刃を作れるとのことだが。あー。流通させると物騒だな。工房で加工してもらって、シーラに渡すのが良いかも知れない。


 襲ってくるレッサーデーモンやストームファング、インビジブルリッパーといった連中を蹴散らしながら下へと進んでいると、シーラとイルムヒルトがまた足を止める。
 そして横に手を広げて全員の動きを制すると、緊迫感を含んだ声で言った。

「……来る。大きな魔物が2体……!」
「体温の形は……恐らく鶏だわ。少し遅れて蜥蜴が来るわね」

 イルムヒルトの言葉通りに。
 大回廊の先から、巨大な雄鶏の鶏冠が姿を覗かせた。すぐさま高い箇所の視界を遮るようにマルレーンの召喚した闇の精霊シェイドが真っ黒な空間を広げていく。シェイドによる暗闇は、バジリスクに対する策の1つだ。反射など色々な手を考えたが、要するに視線を合わせられないようにすればいい。暗闇のカーテンが広がると巨大な鶏の足や蛇の尻尾のみが床付近に見えているという状態になった。
 やや遅れてカーブの向こうからバジリスクも姿を現したようだ。二足歩行の巨大蜥蜴の足と尻尾がコカトリスに続く。連中だけならこのまま突っ込んで叩き潰すが――。

「インビジブルリッパーも来る。数は複数」
「私達が対処するわ!」

 やはり他の雑魚と共に来たか。2匹の大物との戦いには不確定要素は少ないほうが良い。まずは小物を片付けてからだ。

「暗闇の向こうには出ないように。処理し切れない数ならこっちに流してくれても大丈夫」
「ん」
「ええ!」
「ではバジリスクはイグニスに相手をさせるわ」

 ローズマリーからの命令を受けたイグニスが暗闇の向こうへと突っ込んでいく。マルレーンが儀式細剣を翳せば、コカトリスへはデュラハンが向かっていく。
 両者とも石化に対して耐性がある。イグニスは人形であるから石化の視線は通じないし、デュラハンに対して石化ブレスや石化嘴といった毒の類は通用しない。必要ならばここからバロールを飛ばしてサポートするとしよう。
 足の位置が見えていれば攻撃できるが、バロールに目を開かせるわけにはいかないので……射線上にイグニス達が入らないよう十分注意してやる必要がある。

「グレイスは後衛の防御、マリーもイグニスの援護には行かないこと」
「はい!」
「分かったわ。後ろで援護に専念する」

 マルレーンがランタンでイグニスとデュラハンの幻影を生み出して、バジリスクとコカトリスに向かって突貫させる。

 三度大回廊で戦端が開かれた。
 シーラとイルムヒルトが闇の中で踊る。2人にとってシェイドの闇は何の障害にもならない。シーラが地面すれすれを滑るように飛んでいって真珠剣を振るい、イルムヒルトが何もない空間へと光の矢を放てば、次々にインビジブルリッパーが倒れ伏していく。

「3体! 後ろに抜けた!」

 位置は掴んでいる。アシュレイが床に水を広げているからだ。水面にインビジブルリッパーが踏み込む。そこへ――。

「グラインドダスト!」

 風と土の複合魔法。硬質の砂が渦を巻いて戦輪となり、リッパー達のいるであろう大体の空間を薙ぎ払っていく。
 虹色の血液があたりに飛び散る。水辺にエクレールの雷撃が広がって、一匹が焼け焦げた。2体が跳躍してこちらへ迫って来ている。体中に細かな傷を負ったリッパー達は既に不可視の魔物ではない。

「そこですね」

 グレイスの斧が猛烈な勢いで放たれ、空中にいたリッパーを叩き割っていた。
 もう一匹はローズマリーの魔力糸によるトラップに自ら突っ込み、身体を切り裂かれたところをラヴィーネの放った氷の弾丸によって貫かれている。

 次――バジリスクとコカトリスだ。足の動きを見る限りではイグニスとバジリスクは戦鎚と爪で切り結んでいるようだ。鱗もかなり強固だからな。
 コカトリスとデュラハンは……翼をはためかせて空中に舞い上がっているようだ。空を駆ける蹄の音が聞こえるところを見るに、空中戦を行っている様子である。コカトリスの嘴もかなりの強度らしい。大剣と嘴をぶつけ合う音が聞こえてくる。

 バロールに魔力を充填させ、循環でその威力を高めていく。狙うべきは――コカトリスか。次に地面に降りたら、次にデュラハンと交差するより先に足をぶち抜く。

「待って。これは……!」

 そこでクラウディアが額に手をやり、眉を顰めた。

「下から――すごい勢いでガーディアンが登って来るわ!」

 ガーディアン……。ここで来るか。

「そいつは俺が相手をする」

 言って、構わずに魔弾を放つ。光弾と化したバロールが、コカトリスの足を一撃で粉砕した。もんどりうって倒れたコカトリスの、鶏の顔がこちらを向く。驚愕の顔。そこに大剣が振り下ろされて首が刎ねられた。バジリスクとイグニスの足の位置を確認。バロールが鋭角の軌道を描いて反射するようにバジリスクを横合いから撃つ。2撃目だが――貫通させる必要はない。一瞬バジリスクの気を逸らせればそれで良い。
 イグニスの踏み込み。バロールの一撃を受けたところにイグニスの戦鎚の一撃が叩き込まれた。何か砕けるような音が響き、バジリスクの足がたたらを踏む。

 バジリスクが倒れるのを見届けるより先に――風を巻いて闇の向こうから何かが飛び出してきた。

 金色に輝く体毛を持つ――それは二足歩行の狼だった。横目で動きを追えば、そいつと目が合う。すぐさまそいつに向かって突っかけていった。ウロボロスの一撃を闘気を纏った爪で受け止める。

「ワーウルフ原種(オリジン)――! マルレーン! 祝福を!」

 ガーディアンの種類を見て取ったクラウディアが少し切羽詰まった声で言った。マルレーンが祈りの仕草を見せると俺達の身体を祝福が包んでいった。

 ワーウルフ原種。生まれた時からそうであったもの。人狼の呪いを人の世に広げたとされる、太古の種族。
 BFOでは古文書を解読している学者のNPCから情報を聞いたことがあるが……こいつがそうか。
 祝福を用いたのは仮に咬まれても人狼の呪いを受けないようにだろう。なるほど。これなら、思う存分戦える。

 人狼は祝福など意に介さず、こちらを力尽くで押し潰そうとするような動きを見せる。
 力を抜き、受け流して転身。ウロボロスの逆端を顎先目掛けて跳ね上げると、人狼は大きく回転しながら後ろへ飛んで回避。空中を踏みしめるように宙に留まる。
 にやりと。そいつは牙を見せて獰猛な笑みを見せた。上等だ。相手にとって不足はない。
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