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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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312 魔弾の舞踏

 そろそろ夏も終わり、秋に差し掛かろうという季節だ。過ごしやすい日が増えてきた気がする。俺達の姿は迷宮入口の石碑前にあった。

「準備は良いかしら?」

 石碑に触れるクラウディアが、こちらを向いて尋ねてくる。
 対策もそれなりに進んできたということもあり、満月の迷宮へと向かってみようという話になったのだ。満月の迷宮の魔物達から魔石を回収し、飛行船建造についても先に進めていかなければならない。

「ああ。行こう」

 クラウディアを真っ直ぐ見て頷くと、全員が光に包まれた。
 目を開けば――そこは白い石造りの広場だった。
 正面に広々とした回廊が続いており、右手と左手にも細い通路が続いている。金の装飾と壁を飾る石像。真っ白な柱。天井から吊り下げられた光り輝く結晶が照明として機能している。とても迷宮内部とは思えない壮麗さだ。
 それもそのはずというか。建築様式が王城セオレムと似ているのだ。しかし不気味なほど静まり返っていて、受ける印象はかなり異なる。

「ここが満月の迷宮……。確かに王城に似ているわね」

 満月の迷宮の話を多少は耳にしていたのだろう。ローズマリーが周囲を見渡して呟く。マルレーンも目を瞬かせて広間を見回していた。
 王城セオレムと迷宮に関係があると昔から言われてきた理由の1つとして、この建築様式の類似が挙げられる。

 さて。満月の迷宮を奥に進む前に、一応の説明だけしておこう。

「まず……。両脇から繋がっている細い通路は、構造変化する迷路が広がっている。比較的小型の魔物が多く、正面側と比べると明らかに難易度が低くなっているそうだ。普通なら正面に行く前に転界石を回収するべきなんだろうけど」

 誤って迷い込んだ場合も同様だ。正面には向かわず迷路側を進んで、広間にある石碑に戻って来て帰るというのが基本となるだろう。迷路側の難易度もそれなりに高いのだが、正面の大回廊側へ進むよりはかなりマシである。

「クラウディア様がいらっしゃる以上は、正面を進んでいける……というわけですね」
「そうなる。目的としては戦力の強化と魔石の回収だから、あまり深入りもしない」

 満月の迷宮の踏破は今後の目標ではあるけれど、そもそも迷宮で魔物と戦うこと自体が戦力増強に繋がるからな。では、進んでいくとしよう。

 広間から出ると広々とした回廊が、緩やかな曲線を描いて奥へ奥へと続いていた。回廊は緩やかな傾斜がついていて、螺旋状に下っていく構造になっている。左右に等間隔で巨大な柱が並んでいるが――遮蔽物はその程度のものだ。基本的には逃げ隠れできないし、迂回路もない。

 イグニスを先頭に。俺も前に出る。
 イグニスの後ろに隠れるようにシーラ、イルムヒルトとセラフィナ、グレイスが続く。
 ローズマリー、アシュレイ、マルレーンとデュラハン。クラウディア、エクレールという隊列。殿にはラヴィーネだ。挟撃はされないような地形ではあるが使い魔達には後衛側の防御役となってもらう。カドケウスは隊列の真ん中だ。

「……何か大きなのが来る」
「他にも来るけど……バジリスクやコカトリスではない、と思う」

 少し大回廊を進んだところで、シーラとイルムヒルトが足を止め、警戒を促す声を漏らした。
 緩やかなカーブの向こうから、大回廊の天井まで届くような巨大な人影が姿を現す。その数、1体……2体。
 片方はトロール。もう片方は鎧で武装したサイクロプス――単眼の巨人だ。金棒を手にこちらを見据えると、咆哮を上げる。空気がビリビリと振動した。
 大物2体に随伴しているのは多数のレッサーデーモンだ。いつぞや見たフレイムデーモンに比べると身体も細身で大分小型だ。下級とは言え、悪魔の一種。見た目以上に剣呑な連中ではある。回廊の天井付近を翼をはためかせ、各々が手には三又の槍を握っている。
 トロールとサイクロプスを追い抜いて足元を走って来るのはサーベルタイガーのような獣の群れだ。しかしその背中には翼がある。ストームファングと呼ばれる大型肉食獣である。

 満月の迷宮最初の洗礼というわけだ。知らずに踏み込んだ冒険者は、大概ああいった軍勢が迫って来るのを見せられて、大回廊を駆け上がることになるだろう。
 バジリスクとコカトリスは……紛れていないようだ。だがシーラとイルムヒルトには引き続き接近してくる敵に警戒を払ってもらう。

「上空は俺が引き受ける。シーラとイルムは石化能力を持つ魔物に最大限の警戒。攻撃より優先」
「ん。分かった」
「任せて!」

 大回廊上空に飛び上ってこちらに迫ってくるデーモン達を正面に捉える。

「あのサイクロプスは引き受けたわ。行きなさい、イグニス」
「では――もう片方は私が」

 グレイスが弾丸のような速度で隊列の前に飛び出していく。ローズマリーの指示を受けたイグニスも、それに続く。

「防御陣地を形成します!」

 アシュレイがディフェンスフィールドを構築する。
 ディフェンスフィールドが形成されるとアシュレイはラヴィーネに、マルレーンはデュラハンの馬に乗り、それぞれ機動力を確保した。ならばカドケウスはローズマリーの護衛役になってもらおう。

 咆哮を上げるトロールが鉄の棍棒を力任せに振り下ろす。体格では圧倒的に劣るはずのグレイスが、それを正面から迎え撃った。金属のぶつかり合う音が響き、両者の武器が後ろに弾ける。
 イグニスもだ。サイクロプスの攻撃に合わせるように戦鎚を叩きつけていく。グレイスもイグニスも、トロールとサイクロプス相手に一歩も引かずに凄まじい勢いで武器を叩き付け合う。互いの武器が激突、重い金属音が大回廊に響き渡る。クラウディアの言った通りだ。力押しの敵には力で。それで十分に対抗し得るとクラウディアは推察していたが、それは正しいことが実証されていた。

 大振りになった一撃をすり抜け、脇腹を斧が薙いでいく。斬撃がその体に刻まれるが――それはあっという間に塞がり、修復していった。

「再生能力――ですか」

 それを見たグレイスが眉を顰める。



 アシュレイの築いた防御陣地へは四方からストームファング達が殺到した。ディフェンスフィールドに阻まれるがお構いなしに鼻先をねじ込んでいく。全身に闘気が迸り、無理矢理にフィールドを突破しようと試みる。
 動きの鈍ったストームファングの爪の一撃をラヴィーネは悠々とかわし、アシュレイと共に氷弾をばら撒いていく。普通なら避けられないはずの一撃は、しかしストームファングの纏った風の鎧で何発かが弾き散らされた。

 嵐と共に現れる凶獣。故にストームファングと呼ばれている。しかしアシュレイを不用意に追ったところで下方からせり上がった氷の壁に上半身を飲み込まれて動きを固められてしまう。

「無駄です」

 動きを止めた翼虎を、一抱えほどもある氷の塊が叩き潰していく。ラヴィーネに乗ったアシュレイが、すれ違いざまに氷を纏わせたメイスを以って振り抜いたのだ。

 マルレーンへと向かったストームファングは――マルレーンに辿り着くことさえできない。攻撃を仕掛けてみればランタンの作り出した幻影。本物を追いかけようとしてもソーサーが右から左からと飛来し、距離を詰めることができない。
 エクレールがソーサーの陰に隠れるようにして接近。雷を受けて動きが止まったところを、下から掬い上げるようなデュラハンの大剣の一撃が薙ぎ払っていく。

 空中からローズマリーに飛び掛かったストームファングは、不自然な形のまま身動きが取れなくなっている。魔力の糸で展開されたトラップにまともに突っ込んで、身体を絡め取られてしまったのだ。
 ローズマリーはその顔面にスリープクラウドを浴びせて意識を奪い、薄く笑った。

「お前の背中を少し借りるわ」

 ローズマリーの左手からも魔力の糸が伸びる。空中で絡め取られたストームファングを操り糸で乗っ取ると、その背に跨った。
 左手で手綱を握るように操り糸を束ね、思う様ストームファングを駆る。右手には前回炎熱城砦で得たワンドが握られていた。
 別の翼虎へと打ち掛かる。飛び掛かられた虎はぎりぎりでローズマリーの駆る虎の一撃をかわすが、そこにローズマリーはワンドを振るった。
 斬撃の軌跡そのままに光の衝撃波のようなものが飛んでいく。直撃。爆発。食らった翼虎は大きく後ろに吹き飛ばされる。

「使いやすいわね。これは」

 そのワンドの使い勝手に、ローズマリーは薄く笑う。魔術師の護身用として癖のない、扱いやすい道具だろう。光の球体をそのままそこに残して、迎撃用としても使うことができる。

「イルムヒルトの右手側」
「ええ!」

 イルムヒルトは互いの背をカバーし合うように浮かぶ。シーラからの注意に従い、弓を向けて矢を放つ。視線を向けることさえしないが、放たれた矢は寸分違わず虎の額を貫いていった。温度感知で敵の動きを完全に追っているからだろう。だから弓を向け、放てば当たる。ディフェンスフィールドで動きを鈍らされた魔物では、イルムヒルトの矢を避けられはしない。

 シーラとイルムヒルトは敵から一定の距離を置いていた。どちらかが戦えばどちらかは休み、探知に意識を配分する。
 戦場にやってくる新手に、バジリスクやコカトリスがいないかを警戒する役を負っているのだ。イルムヒルトの肩に乗ったセラフィナが笛の音を奏でると三人の周りに白い狼のような何かが踊る。守護の獣を召喚して操る笛だ。突っ込んでくるストームファングの手足に喰らい付き、そこをシーラかイルムヒルトのいずれかが止めを刺していく。

 俺は――空中で踊るようにレッサーデーモンの群れを相手していた。下から何匹かのストームファングもこちらへ突っ込んで来るが――多くの数を引きつけられるのは望むところだ。

「来い――!」

 背後から突き込まれた三又槍を側転するように回転しながら避ける。身体の陰から光弾となったバロールが飛び出し、レッサーデーモンの胴体をぶち抜いていく。そのままの勢いで青白い火花を散らすウロボロスを振るい、すれ違いざまにストームファングの顔面目掛けて振り抜く。その長い犬歯が砕け散った。

 多勢に無勢。俺本体は四方どこから来られても良いよう体勢を整えたままで――ネメアとカペラを用いて右に左に飛ぶ。その俺の身体のすぐ傍を、光の弾丸となったバロールが衛星のように回る。デーモンの吐く炎も、ストームファングの放つ空気の弾丸も置き去りにして回る、回る。

 打ち掛かってくるレッサーデーモンとストームファングを、ウロボロスで打ち砕き、衝撃打法で撃ち抜き、ネメアの爪で切り裂いて。叩き落したそこをバロールで撃ち抜く。
 誘蛾灯に群がる虫が焼かれて落ちるように、次々と魔物達が落ちていく。

 グレイス達の戦況にも変化があった。
 ことごとく攻撃を撃ち落とされるトロールは業を煮やしたのか、グレイスに素手で掴みかかったのだ。しかし、それは下策だろう。
 グレイスはそれを半身になって避けると全身から闘気を噴き上がらせた。逆にその手首を引っ掴んでそのまま脇へと抜ける。空中を駆け上がり、そのままの勢いでトロールの腕ごとへし折ると、手首を両手で掴んで裂帛の気合と共に振り回す。その先には――大回廊の石柱があった。

「これならっ!」

 遠心力を乗せてトロールの頭蓋を後ろから石柱に叩き付ける。砕けるような音は石柱のものかトロールのものか。瓦礫の山に沈んだトロールは立ち上がって来ない。
イグニスもだ。後方から翼虎に乗って駆けつけたローズマリーが、魔法の鞄から何かを放り投げると、サイクロプスの目の前で爆発が起こった。目玉にフラスコの破片が突き刺さったらしい。
 顔面を押さえて怯んだそこへ、飛び上がったイグニスがサイクロプスに鉤爪を引っ掛ける。爆風と共にパイルバンカーが炸裂した。サイクロプスの纏っている鎧を一撃で粉砕し、その胴体まで貫いたのだ。

 ふむ……。満月の迷宮の緒戦はまずまずというところか。俺もバロールを交えて動いてみたが、まあまあイメージ通りというところだ。
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