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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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311 魔法の根源

 討魔騎士団の訓練、飛行船の建造に満月の迷宮対策、そしてエリオットの新居の改造と中々細々(こまごま)とした仕事が多い。まあ、エリオットの新居に関しては仕事ではないのだが。

 他にするべき重要な仕事としてはシャルロッテへの封印術の継承と、王城セオレムや賢者の学連から預かっている資料及び古文書の研究や解読だろう。
 そんなわけでみんなと一緒に遊戯室で資料を広げて諸々進めていく。ローズマリーは引き続き王城から預かった古文書の解読。ジークムント老、ヴァレンティナは学連の資料の解読。アシュレイは治癒魔法の研究を進め、マルレーンとクラウディアは以前ローズマリーが引っかかった本の罠が発動しないように祝福を維持、といったところか。

 イルムヒルトは呪曲を奏でてみんなの疲労軽減に専念するそうだ。セラフィナもイルムヒルトの呪曲を増幅する係になる、とのことである。俺は……シャルロッテの封印術継承の手伝いだ。

「――基本術式の詠唱は、恐らくこの形かな」

 封印術の基本形であると推測される呪文を詠唱し終える。シャルロッテは真剣な眼差しで一言一句聞き逃すまいとしているようだ。
 恐らくと付けたのは、母さんの遺した特性封印や魔法封印といった術が既に応用系だからだ。そこから削ぎ落とせるだけ削ぎ落としていき、ごくごくシンプルな形にしたのが先程シャルロッテに伝えた詠唱である。
 何を封印するのか。そしてその方法は。そういった意味を全く持たせていない、術式の原型というべきものだ。

 何の意味があるのかと言えば、封印術における魔力の扱い方の基本を学ぶことができる。ここを押さえておけば、後の具体的な封印術の習得とその速度、精度にかなりの向上が見られるようになるだろう。
 いきなり応用の術式を習得しようとしても、魔力の動きを把握し切れない部分が出てくるから、最も単純な形が分かっていればその補助になるというわけだ。

「なるほど。ここから細部を変えて応用することで、様々なものを封印できるようになると」
「幾つかの確立した封印術の比較と、魔力の動きから推測する限りではね。グレイスの指輪もそうだし、魔法封印の術、他の派生もそうだ。基本系と共通する部分とそうでない部分を、分析して切り離した」
「――ありがとうございます、先生。まずはこの術式をマジックサークルとして展開できるところまで修練しようと思います」

 シャルロッテはきちんとその意義や意図を理解しているようで……目を閉じて何度も呪文を復唱していた。詠唱による魔力の動きを正確に感じ取ろうとしているのだろう。
 呪文の詠唱で魔力を動かすのが基本。その魔力の動きを呪文を介さず再現するのが無詠唱。そして最後に魔力で魔法陣を描いて術式を発動させるマジックサークルに至る。シャルロッテはその過程を忠実になぞって封印術を会得しようとしているわけだ。

「……ふむ。それをお主は基本術式とは言っておるが、一説には魔法の深淵に通ずる道とする考え方が学連にはあってな」
「そうなんですか?」

 そう聞き返すとジークムント老はどこか愉快そうに笑う。

「うむ。応用術式は他の魔法の魔力の動かし方を研究し、原型に肉付けしていったもの、と考えられておる」
「感覚的に分かるところはあります」
「そうですね。クリアブラッドとロトンブラッドは全く逆の効果ですが、裏と言うだけあって魔力の使い方や術式として見ると、色々なところが似ていたりします」

 アシュレイが頷く。
 確かに。ヴォルテクスドライブに対してのテンペストドライブであるとか、ソリッドハンマーに対してのメテオハンマーであるとか……明らかに同系統の術というのは存在しているからな。
 BFOなら上位互換の魔法と単純に考えてしまえるが、魔力の動きなどを見る限りでは肉付けされているのが解る。だからこそ分離して、応用して操っている部分もあるし。

「そういった肉付けを排除し、原型の術式という垣根も越え――極限、究極まで遡ったところに全てに通ずる根源が眠っている、と考えた者がおったのじゃ」

 なるほど……。陽子や中性子であるとか、数字のゼロを発見するようなものだろうか。

「そもそもその原型の抽出というのが魔力の動きに対して相当高度な理解が必要なことではありますからね」

 と、ヴァレンティナは苦笑する。

「うむ。ゆえに応用の術式を分解してそこから基本形を抽出するというのは、お主が思っている以上に大きな意義がある」
「……面白いわね。その根源に至るという考え方は。わたくし達が今日使っている術式というのも、様々な原型を上手く組み合わせて改良を重ねていったものなのだし……原型を理解することは新しい魔法の創造にも繋がるわ」

 ローズマリーは解読の手を止めずに言う。マルレーンと並んで座って古文書の文字を追っているローズマリーは、妹に何かの話を読み聞かせているような風情もある。
 感覚的には確かにそうだな。現在ある術式はそういう視点で見るとかなり洗練されていて無駄がないし、今の形に至るまでに膨大な回数のトライアルアンドエラーがあったのだろうというのは、想像に難くない。

「そう考えると……私は最高の環境で封印の巫女としての修行を積むことができているというわけですね。先代様と、先生には感謝しなければいけません」
「うむ。頑張るのじゃぞ」
「はいっ」

 シャルロッテは明るい表情で頷いた。

「お待たせしました」

 と、そこでグレイスとシーラ、セシリアが焼き菓子を満載した皿を持って遊戯室に現れた。香ばしい匂いが遊戯室に漂う。綿菓子やかき氷などもあるが、やはり焼きたての菓子はお茶請けとして最高だろう。
 グレイスとシーラは魔法や古文書などには疎いということで、菓子を作ってくるからと席を外していたのだが……何故だかシーラは使用人の服を着ていた。

「貸してもらったの?」
「まず形から」

 イルムヒルトの質問に、シーラはそんなことを言っているが。

「その服可愛いよね」
「セラフィナちゃんに合わせて、同じの作ってあげようか?」
「本当?」
「うん。縫い物好きだもの」

 という会話を交わしているのはセラフィナとアルケニーのクレアである。

「それじゃあ、少し休憩しましょうか」

 クラウディアはそんなやり取りを見て嬉しそうに微笑みを浮かべる。ではしばし作業の手を止めて、お茶の時間ということで。



 休憩を挟み、英気を養ったところで作業再開だ。シャルロッテは封印術の反復練習をしているので、俺は俺で母さんの手記を片手に、以前から研究している環境魔力吸収の術式を完成に近付ける作業を進めていく。原型の話や飛行船の外殻作製の術式もヒントになるかも知れないな。掌にマジックサークルを浮かべて色々試行錯誤していると、ローズマリーが言った。

「南方の魔人……。これはどうかしらね」
「ん? どれ?」

 ローズマリーが広げていたのは古文書ではなく、近年の魔人被害についてまとめたものだった。アルフレッドに言って、幾つかの文献を王城の書庫から持って来てもらったとのことである。その中の一節と、地図を見比べている。

「無明の王……。名無しの魔人か」

 30年程昔の出来事、とある。名前ではなく通称。死睡と同じく、王と呼ばれるからには男の魔人なのだろうが。

「一国の城を暗黒の球体が呑み込み、そのまま抉り取った……とあるわ。生き延びた者の証言では、真っ黒な闇を操る高位魔人だったと」
「ガルディニスが自分に対抗し得ると認めるだけの魔人……となると強力な魔人であるのは間違いないな」
「そうね。私も、強さから見れば候補に入れてもいいと思う。……問題はその事件が起きた場所だわ」

 ローズマリーの指が地図をなぞり、同時に別の書物の付箋を挟んでおいた部分を開き、その記述を示す。

「ここが滅びた小国。そして――地図のこのあたりには深い森が広がっているそうよ」
「……この森……」

 ジョサイア王子の話にあった、デュオベリス教団の聖地がある……という森か。
 ……無明の王ね。30年前に出現――或いは覚醒した魔人であるなら、確かにガルディニスから見れば若造だ。
 過去の記録に類似の能力を持つ魔人がいなかったか、他の場所で無明の王が暴れたことはなかったか。このへんは調べる必要があるが……魔人集団の首魁としての有力候補は、まずこいつが挙がるだろうな。
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